【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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皆さんこんばんは。Survivorです。
一昨日はクリスマスでしたね。すいません、執筆スピードと本文文字数の関係、あとはリアルが忙しくてクリスマス当日の更新、間に合いませんでした………。
それでは2日遅れではありますが、Survivorサンタからのクリスマスプレゼント【初・番外編】を受け取ってください。
今回は思った以上に長編となりました。


番外編.ブルームーン(完全なる愛・叶わぬ恋)

 今でも忘れない。

 ふと思い返せば、鮮明に甦る―――私が初めて『彼』のこと好きになったあの日の出来事を。

 

 ボーバトン魔法アカデミー。

 フランスのピレネー山脈に所在するヨーロッパの三大魔法学校の一つだ。

 著名な錬金術師で唯一『賢者の石』の製造に成功した人物としても有名なニコラス・フラメルとその妻ペレネルの出身校でもある。

 紋章は金色の杖が交差した図柄で、それぞれの杖からは3個の星が飛んでいる。制服は淡い青色の薄手の絹のローブだ。

 校舎は豪華な建物で、クリスマスの時期になると解けない氷で作られた彫刻が食堂を囲むように飾られ、ダイヤモンドのようにキラキラ照らす。

 クリスマスには素晴らしいご馳走が出され、食事の間森のニンフの聖歌隊が歌を奏でてくれる。

 イギリスに所在する世界一安全と評される古代魔法の牙城・ホグワーツ魔法魔術学校に在校する5年生が学年末に受けるOWL(ふくろう)試験のような重大性が高いテストは無論あるが、ボーバトンの場合は6年間魔法に関する勉強をしてから実施される形式だ。

 

 校長はオリンペ・マダム・マクシーム。

 小麦粉色の滑らかな肌にキリッとした顔付き、大きな黒い潤んだ瞳に、鼻はツンと尖っている。

 何よりの特徴は、その高過ぎる背丈だろう。

 デカい、としか言い様がない彼女の身長は、パッと見でも2m以上だというのがわかる。

 気性の激しい性格ではあるが、生徒思いの温厚な人柄でボーバトン生から好かれている半巨人の女校長だ。

 

 由緒正しいその魔法学校に、見る者全ての視線を釘付けにする絶世の美女が在学していた。

 彼女の名は、フラー・デラクール。

 本名はフラー・イザベル・デラクール。

 スラリとした長身で非の打ち所がない美貌を誇り、真っ白で綺麗な歯並び、腰まで伸びた銀色が掛かったブロンドのロングヘアに大きな深いブルーの瞳を持つ。

 お祖母さんがヴィーラ―――男を虜にする魔性の魔法生物。髪はシルバーブロンドで肌は月のように輝き、怒った時に見せる真の姿は半鳥人みたいな形貌で、炎を投げ付ける―――であるフラーは、ヴィーラ特有の何もしなくても男を誘惑出来る魅惑能力と言う名の特質を持って生まれた。

 元々の端麗な容姿とも相まって、どんな男性をも虜にする妖しい魅力を身に纏うフラーはボーバトン内でモテモテで人気者だ。加えて成績も優秀なことから、尊敬の眼差しを送られる。

 そんなフラーには、好きな人がいた。

 

 ルーク・ベルンカステル。

 自分より1歳年下のナイスガイだ。

 ルークと、彼の双子の妹・シレンはボーバトンに入学した当初から注目を浴びていた。

 なんと言っても、魔法界において『ベルンカステル』と言う名の家はハリー・ポッター並みに名高く知られているからだ。

 闇の帝王・ヴォルデモート卿に恐れることなく反発の意志を掲げ、戦意の咆哮を上げ続けたエルシー・ベルンカステル。

 

 彼女が事実上、ベルンカステル家出身の者で闇の道から逸した最初の魔女だ。

 

 それまでベルンカステル家は『高貴で由緒正しい』純血の名門・ブラック家同様に、ホグワーツの創設者の一人、サラザール・スリザリンが提唱した純血主義やマグル差別に色濃く染まっていた最古の純血一族の一つとして、そしてイギリス屈指の名門の旧家・マルフォイ家とすら並び立つほどの数世紀の歴史を誇る家系として、世間からは悪名高い家柄だった。

 代々深い闇の魔術にどっぷり浸かり、技量を極限まで高め、加えて好戦的な一面も持ち合わせてたが故に全員が非常に能力と技術に長けた、所謂『戦闘一族』でもあるベルンカステル家。

 

 必要とあらば魔法使い同士の白刃戦さえも厭わないその血脈は、子孫達の体内に並外れた魔力と殺人鬼の魂と共に強く相承された。

 そういう意味合いだけで言うなれば、ヴォルデモートに反抗したエルシーもベルンカステル家出身の魔女だろう。

 彼女はヴォルデモートの思想に賛同し、相対する立場になった両親を自らの手で殺害した。

 

 ―――全ては自分が護りたい人達の為。

 

 だからこそ、エルシーはたとえ自分の手を血で汚してでも最期まで戦い抜く覚悟を決め―――最終的にヴォルデモートに殺された。

 同族を手に掛けてでもかつての同僚同輩から死守してくれた彼女の勇気ある行為は、魔法界の住人から多大なる敬意を払われている。

 

 偉大なる魔女としてその名を轟かせた彼女の血縁者となれば、否応なしにスポットライトを浴びるのは当然と言えば当然である。

 仮にそうでなかったとしても、ルークとシレンは衆目を集めていたに違いない。

 フランス人の母親とイギリス人の父親の間に生まれたがための左右で虹彩が異なる、所謂『オッドアイ』の二人は、現実離れした美形兄妹であった。

 

 母親譲りの暖かな色合いで優しさと快活を表現する金髪に非常に整った面立ち、左側のセルリアンブルーの瞳。父親譲りの長身で情熱的な性格に右側のゴールドの瞳。

 

 それぞれ男子首席女子首席を務めるが、お堅いイメージは全く無く、誰に対しても平等にフレンドリーに接する二人に皆は親しんでいる。

 ベルンカステルツインズが何処に居ようともファンの男女は必ず周辺に居て、自分のいいところをアピールしてお近づきになりたいのが本能と言わんばかりに熱烈にアプローチを続けるが―――二人は誰に対しても、恋愛的な意味で好きになった素振りは一切見せなかった。

 数多くの男子女子にはモテるけどデレデレしないし、遊び歩く訳でもない。精悍な顔付きの父親と違って母親似の顔付きをしているのとは裏腹に硬派なルークとシレン。

 そこがまたいい、とファン達はキャッキャッ騒ぐのだが―――。

 

「お姉ちゃん、またルークを見てるね。そんなに好きなら、『好き』って伝えればいいじゃん」

 

 遠距離からルークを見ているフラーに、銀色の豊かな髪を持つ妹―――ガブリエルが肘を小突きながらそう言った。

 妹からの直球過ぎる物言いに、フラーは恥ずかしそうな表情を浮かべる。

 

「そんなことが簡単に出来るなら、今頃はこんな苦労しないわよ。あのね、ガブリエル。好きな人に告白するのは、とても勇気がいることなの。勇気を振り絞って好きな人に想いを伝えられるほど、私は強い女ではないのよ」

「でもさー………お姉ちゃんほどの美人なんて、世の中そんなに居ないよ? お姉ちゃんならルークとお似合いだと私は思うよ」

「ありがとう。貴女は優しい娘ね」

 

 目元を和らげ、フラーは微笑んだ。

 ニコッと笑いながら、ガブリエルは甘えるように姉の胸に頬を寄せた。

 フラーは妹の頭を、優しい手付きで撫でる。

 顔だけを動かし、フラーは遠くから見る。

 深い青色の瞳に映るのは、双子の妹と笑い合いながら歩く―――初恋の男性(ひと)

 恋心を抱いてる男子の後ろ姿をどこか遠い眼で見つめながら、フラーは過去の出来事を思い浮かべ、ズキリと胸が痛んだ。

 

♦️

 

 (ルーク)を好きになったのは、至極単純な理由だ。

 

 ある日の放課後。

 授業を終えたフラーは屋上に姿を現した。

 片手には1枚の紙が握られている。

 差出人は不明だが、ちょっと目を離した隙に誰かがカバンの中にメモを入れたらしく、開いてみたら、

 

『放課後、屋上まで来てください』

 

 と言うメッセージが書かれていたのだ。

 フラーはメモ用紙に視線を落とす。

 この文章から察するに、定番ではあるが、誰も居ない場所に呼び出して告白しようと、男子が手紙に書いて伝えてきたんだろうが―――

 

(その割りには、随分と字が綺麗なのよね)

 

 男子を装っているが、間違いなく女子の字だ。

 大抵の男子にありがちな文字の汚さは無く、むしろ几帳面に整っている。

 何度もこういう手で告白されてきたフラーだからこそ、一発で見抜けたのだ。

 そして、男子だと装ってまでこんな所に呼び出したってことは………。

 

「―――そこに隠れてるのはわかってるのよ。出てきなさい」

 

 さっきから陰でこちらを覗く気配を感じ取っていたフラーは、声を張り上げる。

 すると、女子が五人、ゾロゾロとやって来た。

 名前は覚えてないが、見覚えのある顔だった。

 確か全員同い年の女の子だった気がする。

 

「なんだ、わかってたのね」

「カッコいい男子じゃなくて残念だったわね」

 

 女子達はケラケラ笑う。

 フラーは不快に眉根を寄せ、

 

「用があるならさっさと言ってくれない? 私、早く宿題終わらせてのんびりしたいんだけど」

 

 と、肩を竦めながら、本音をぶちまけた。

 イラッ、ときた女子達はたちまち笑いを引っ込め、険しい顔になる。

 

「前々から言おうと思ってたんだけどさ………アンタ、最近、調子に乗ってないかしら?」

「男子にモテるからって、いい気にならないでよね!」

「難癖つけてくる理由がそれ? 幼稚ね。わざわざ屋上に呼び出してまでそんな文句を言ってくる暇も余裕もあるなら、今すぐにでも自分磨きの時間に回せば断然有意義だと私は思うわ」

 

 誰が聞いても正論な発言を女子達に突き付けたフラーはメモを捨て、余計な時間を食ったなと、今更ながらわざと引っ掛かってやった自分の行動に後悔しながら校舎に戻ろうとすると、

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 真ん中に居た女子が大声で呼び止めた。

 フラーは呆れ顔になり、後ろに振り返る。

 

「今度は何よ? 私は貴女達のおふざけに付き合ってる暇はな―――」

 

 が、フラーが言い切る前に。

 

「あんまり口答えすんじゃないわよ! ヴィーラだかなんだか知らないけど、身内に男を虜にするって意味不明な体質受け継いで皆からちやほやされるような、卑怯者が!」

 

 逆ギレした女子がドンッと突き飛ばしてきた。

 前方からの強い衝撃にバランスを崩したフラーは後方に倒れそうになった、その時。

 

 後ろから、『誰か』が抱き留めてくれた。

 

「………っ!」

「大丈夫か?」

 

 頭上から、声が振り下ろされる。

 声の主は男だ。

 フラーはハッと見上げ―――背の高いオッドアイの少年・ルークが、こちらを心配そうに見下ろしていた。

 

「え、ええ………大丈夫よ」

 

 ルークの逞しい腕の中に収まっているフラーは小さく頷く。彼は「そうか」と小声で呟き、女子のグループを鋭い目付きで見据えた。

 

「る、ルーク………!」

「気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえよ。おい、お前ら。なんで、この人を突き飛ばしたりなんかしたんだ?」

 

 ルークの低く、それでいて透き通る冷たい声に女子達はさっきまでの勢いは何処へやら、肩を縮めて身を寄せ合いながらたじたじになる。

 今まで、彼の怒った顔は見たことない。

 友達や妹と笑い合う時に見せるルークの爽やかな笑顔は、ロクに話したことのないフラーでも印象的だったのでよく知っていた。

 

「理由は何なのか、来たばかりの俺は知らねえけどよ………寄って集って一人を虐めるとか、ガキみてえなカッコ悪いことすんなよ」

 

 年下とは思えない、低音で威厳あるトーン。

 彼女らは気になる異性であるルークからそうバッサリと指摘され、

 

「う、煩い………!」

 

 と、顔を真っ赤にしながら、苦し紛れの捨て台詞を吐き捨ててバタバタと走り去っていった。

 彼女らが屋上から去っていくと、ルークは全身の緊張を解く。

 

「ふぅ………行ったか」

「あ、ありがとう………」

「気にすんな。俺は当たり前のことをしただけだし」

 

 フラーは体勢を立て直し、礼を言う。

 ルークは微笑し、そのまま踵を返した。

 

「え、あ、ちょっ―――」

 

 反射的にフラーはルークの腕を掴む。

 ルークは「なんだ?」と首を捻る。

 

「その………何か礼をさせてちょうだい」

「は? なんでだ?」

「だって、助けて貰ったのに御礼しないのは、失礼でしょう?」

 

 フラーがそう言うと、ルークは肩を竦めた。

 そして、目元を和らげて柔らかく微笑む。

 

「言っただろ。俺は当たり前のことをしただけだってな。そんなもん、別にいらねえよ。お前が何ともないってなら、それでいい」

 

 そう言って、ルークは屋上から姿を消した。

 ポカーン、とその後ろ姿を見届けていたフラーはしばらく突っ立ち―――口元を右手で覆い隠した。顔だけでなく、全身が熱くなる。

 ………初めてだった。

 他人に………男の人に、ただ純粋な気持ちで窮地から助けて貰ったのは。

 今までのメンズは、好感度アップが目的で困っていたら手を差し伸べてくれただけで………そんなもの関係無しに自分を救ってくれたのは、これが初めてだった。

 

(ヤバッ………何なの、これ………)

 

 止まらない。

 甘酸っぱい感情が胸いっぱいに広がるのを。

 胸の奥底から込み上げてくる情動を鎮めようと胸に手を当てるが、心臓の鼓動は早鐘を打つように早まり、高鳴るだけであった。

 

(………………ウソでしょ………?)

 

 よく考えてみれば、彼と話したのは今日が初なのに。

 なんで………こんな気持ちになるのだろう?

 もっと彼と話したい、もっと彼のことを知りたい、もっと気に掛けて欲しい………と。

 

(一目惚れじゃないけど………私は―――)

 

 フラーは自分の気持ちの正体を悟り―――胸が熱くなるのと同時に、強く締め付けられた。

 

♦️

 

(あの時は最初、ルークに恋心を抱いたなんて、自分でも有り得なかったけど………)

 

 時間が経過した今、それはどうでもよかった。

 ―――自分はルークを『男』として好き。

 その気持ちに、今は嘘をつきたくない。

 己の本心に従うのと共に、フラーはまたまた心が痛む。

 

(ルークにはきっと、好きな人がいる………)

 

 直接本人に訊いた訳ではないので、実際のところは定かではないが………。

 大勢の可愛い女の子や綺麗な女性に好意を寄せられても、ルークはデレッとしなければ、不特定多数の関係を持ったりもしない。

 そんな選びたい放題の現状に置かれたら、普通の人であれば、言い寄ってくる相手とちょっと関係を持って気が済んだら終わりというのが十中八九一般的だろう。

 だが、ルークはそんな軽率な真似をしない。

 ただ単に女には恋愛的興味がない(無論変な意味ではなく)のかもしれないが………。

 

 それとは別に、もっと大きな理由があった。

 だから、心が………胸が痛い。

 頭では、理解しているはずなのだ。

 彼が自分には振り向いてくれるチャンスは、これっぽっちもないことに。自分じゃない別の誰かのことで頭も心もいっぱいなのに。

 でも………やはり、諦められない。

 好きな人を想う気持ちは、膨らむ一方で―――そう簡単に消えるものでも消せるものでもない。

 フラーはフリーハンドの左手を握り締める。

 

 恋の悩みでくよくよと思い悩む自分なんて、ルークと出会うまでは想像も出来なかった。

 いつの間に。

 なんで、こんなに好きになってしまったのか。

 あの日、彼と出会って以降は必要なこと以外あまりロクに話していないと言うのに、ルークがこれまでの人生の中で、最も愛しい人になってしまっている。

 

(この気持ちは………もう、なかったことになんか出来ない…………)

 

 以前のフラーは、恋のトラブルの一つや二つは簡単に乗り越えられると思っていた。

 なのに実際に経験してみると、ショックの大きさに打ちのめされている自分に驚く。

 

「―――お姉ちゃん………?」

 

 姉を見上げたガブリエルは眼を見開く。

 何かが頭上に滴り落ちたのを感じ、なんだろうかと顔を上げてみたら………フラーの泣き顔が視界に飛び込んできたのだ。

 いつも勝ち気で情が深く面倒見のいい姉の泣いた顔を初めて見たガブリエルは、驚きを隠せない。

 妹の驚愕に染まった声が耳を打ったフラーはそこでようやく自分が泣いているのに気が付く。

 

「あ………ごめんなさい、ガブリエル。急に泣いて………………」

「お姉ちゃん」

 

 ガブリエルは背伸びし、姉の涙で溢れた目尻を指先で拭う。

 

「私はまだ、誰かを好きになったことはないから恋愛ってのはよくわからないけどさ………お姉ちゃんの心が痛くて堪らないことだけは、ちゃんとわかるよ。だから―――」

 

 熱い雫で濡れた両頬を、小さな手で包み込む。

 

「―――ちゃんと伝えよう? ルークにお姉ちゃんの『好き』って気持ちを。叶わないってわかっていても、好きな人に自分の気持ちを伝えなかったら、その分苦しい思いをするだけだよ。私はお姉ちゃんの味方。お姉ちゃんがルークのことを本気で好きなの、私はちゃんと知ってるからね」

 

 たった一人の妹からの優しい言葉に。

 フラーは涙腺がどっと緩み………気付いた時には、ガブリエルの豊かな銀色の髪に顔を埋め、堰を切ったように、感情の赴くままに泣き出してしまった。

 ガブリエルは敢えて何も言わず、姉の背中に腕を回し、彼女が泣き止むまで、小さな白い手で優しく撫でた。

 

♦️

 

 1994年10月30日ハロウィーン前日。

 ボーバトン魔法アカデミーの代表団は、数百年前に中断されて以来、今年遂に封印が解かれた親善試合・三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)の記念すべき開催地、ホグワーツ魔法魔術学校に颯爽と来校した。

 フランスと違って此処はとても寒く、何か羽織る物を持ってこなかった準備不足のボーバトン生は場所の外に出た瞬間、冷たい風が肌を突き刺して今更ながら後悔した。前もって知ってたらしいルークとシレンは暖かいコートを着込み、寒さを凌いでいる。

 フラーも他の生徒同様、ブルブルと身を震わせながら、チラッと二人の方に視線を走らせた。

 何やら二人はさっきからキョロキョロと、ホグワーツの集団を見回している。

 ………あの二人は誰を探しているのだろう?

 少ししょんぼりしたベルンカステルツインズにフラーは首を傾げつつ、マダム・マクシームが城内へ入場したのを皮切りに、ボーバトンの集団の波に乗って校長の後に続いた。

 

 ホグワーツの大広間に入り、幾分かはマシになったボーバトンの代表団はホッと息を吐き、4つある長テーブルの内、『レイブンクロー』と言う名の青とブロンドがシンボルカラーらしい寮の生徒が集うテーブルを選んで座る。

 皆はむっつりした表情で大広間を四望した。

 三人はまだ、頭にスカーフやショールを巻き付け、しっかり押さえている。

 テーブルの椅子に腰掛けてから数分後―――ダームストラング専門学校の代表団と校長のイゴール・カルカロフ、そして最後まで城外で待機してくれたホグワーツ生がやって来るのが遠目から確認出来た。

 

 毛皮の外套に毛皮の帽子、深紅のローブを羽織ったダームストラングの生徒達と銀色のコートを身に纏った校長のカルカロフの内、前者は入り口付近でピタリと足を止めた。

 どうやら、彼等は何処に座ればいいのかわからないみたいだ。校長のカルカロフはどうしたのかと疑問に思い、ふと教職員が座っている上座のテーブルに眼を向けると、彼は既に追加された席に腰を下ろしていた。どうやら引率の仕事は放棄らしい。

 なら適当に選んで座ればいいのに、とフラーが心の中で突っ込んだ時―――硬直してる彼等を見かねた一人の女学生が、恐れることなくダームストラングの代表団に近寄った。

 

 4年生くらいだろうか。長い黒髪に蒼い瞳を持つ女の子が、背の高い彼等を見上げて声を掛けていた。見下ろす彼等は彼女より年上で尚且つ長身なので一見するとわかりづらいが、14歳の女子の平均身長を上回る背丈で、整った顔立ちをしているせいか、年齢の割りには大人びて見える。

 ………そして、何故だろう?

 彼女の横顔には、なんとなく見覚えがある。

 初見のはずなのに、何処と無く、ワイルドなイメージを受けるのは―――。

 

(………どうして………?)

 

 髪が長いので気付きにくいが、もしもバッサリ切ったら、どこか精悍な顔付きでもある彼女は『あの人』とそっくりなこと間違いないと、フラーは僅かに眼を見張った。

 そう………彼女の横顔は、前に何度か会ったことのあるルークとシレンの父親・ライアンの面影を強く感じるのだ。

 ルークとライアンは父子なのに面差しはあまり似てなくてインパクトが強かったのを、フラーはよく覚えている。

 だからこそ、尚更驚かずにはいられない。

 ―――何故あの黒髪の少女は………ルークとシレンの父親と似ているのか、と。

 

 その後、歓迎会パーティーを終えた大広間はホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアが立ち上がったことでシンと静まり返る。

 彼は三大魔法学校対抗試合の簡単な補足説明を順に語っていき―――途中、ある一定の条件を満たした生徒のみ、17歳以下の生徒の立候補も特別に許可すると言う『一部の例外』に仰天しつつも、最後の説明をし終えるのと同時に歓迎会はこれにて終了となった。

 フラーは馬車に戻ろうとしたが、如何せん帰宅しようとする生徒が多いために、これはしばらく戻れそうにないなと、少し大広間で待機することにしたのだが………数分くらい経っても中々人は減らず、さてどうしようかと悩んだ。

 

(困ったわね………そういえば、ルークはもう帰ったのかしら?)

 

 フラーは辺りを見渡し―――一際目立つ背の高い金髪の少年を見付けた。こういう時、相手が高身長だと何分助かるので、フラーは人混みの中を掻き分けていき、話し掛けようとした、その時。

 

「フィール!」

「見つけた!」

 

 ルークとシレンはその場から弾け飛ぶようにその場から飛び出し、やっとのことで発見した従妹―――フィールに満面の笑顔で抱きついた。

 フラーは「え………?」と言葉が詰まる。

 フィール、と言うその少女は、先程ダームストラングの一団を自分が所属する寮のテーブルに案内した張本人であったからだ。

 知り合い? とフラーが眼を丸くしてると。

 

「―――時間も無いし、もうおやすみ」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 黒髪の少女から離れたルークとシレンは、彼女の右頬と左頬にそれぞれ口付けを落とした。

 そうして立ち去っていく二人の背中を、唖然としたフラーは見えなくなるまで見届ける。

 

(え………? ………え?)

 

 なんで、二人はあの少女にチークキスを?

 その訳がわからないフラーは、困惑の表情で空間と少女を見たり来たりする。

 

 ―――まさか、彼女がルークの………?

 

 フラーの脳裏を掠めるのは、前に自分が渡したカクテルに込められたメッセージをルークに伝えた際―――彼からあるカクテルで返事を返された時のこと。

 

 以前、フラーはアプリコットフィズを硬派なルークに渡した。

 カクテル言葉は、『振り向いてください』。

 だから―――これを渡せば、少しは自分のことを見てくれるのではないかと思い、秘密の恋心をカクテルに託してみた。

 

 けれど、彼が返してきたカクテルは―――ギムレット。

 カクテル言葉は、『遠い人を想う』。

 

 後に調べてわかったのだが………このカクテル言葉を持つギムレットを返されたフラーは、ルークには好きな人、もしくは付き合っている人が何処か遠くに居ると、察しざるを得なかった。

 が、どうしても諦めきれないフラーは、何度もアプリコットフィズをルークに送った。

 そして何度もギムレットを送られた。

 自分でもしつこい女だとは自覚してる。

 でも………好きな人に振り向いて欲しい気持ちは、そう簡単には断ち切れなくて。

 だから、めげずにフラーは想い続けた。

 たとえ、彼に好きな人がいても………。

 

「―――どうした?」

「―――いやいやいやいや! フィー! あの人達と知り合い!? てか誰!? 普通に頬にキスしてたんだけど!?」

 

 フリーズしていた連中の中、真っ先に思考が再起動した茶髪翠眼のボーイッシュな女の子、クシェル・ベイカーが激しく問い詰めたのを契機に、大広間に残っていた生徒は一斉に爆発して凄まじい形相になりながら詮索した。

 

「ベイカーの言う通りだ! おい、ベルンカステル! さっきのは一体どういうことだ!?」

 

 ………ベルンカステル?

 今、彼はそう言った?

 少なくとも、これが幻聴でも無い限りは決して聞き間違えてはいないはずだ。

 フラーは美しい顔に驚愕が滲む。

 『ベルンカステル』と言う名の魔法族は、魔法界には一つしかない。

 つまり………黒髪の彼女は―――

 

「あの二人とはどんな関係なんだよ!?」

「他校の先輩なの!? それとも親戚なの!?」

 

 と、皆からの勢いに気圧されつつ、黒髪の彼女は自分と美形兄妹の関係を伝えた。

 

「あー、えっと………あの二人は、私の母方の従兄と従姉」

「「「「「「「「ええーっ!?」」」」」」」」

 

 ホグワーツ生達の絶叫が、シンと静まり返っていた夜の城内に馬鹿デカく響き渡る。

 城の隅々まで大反響したその大声にフラーは顔をしかめたが―――彼女とあの二人の人間関係が明らかになり、人知れず険しい顔付きになった。

 

♦️

 

 翌朝のホグワーツ。

 フィール・ベルンカステルは否応なしに生徒からの注目の的を浴びる羽目になった。

 金髪オッドアイの超美形兄妹、ルークとシレンの母方の従妹と言う衝撃的な事実はホグワーツ全体だけでなく、ボーバトン、ダームストラングの代表団の間でも瞬く間に広がった。

 

「アイツら、ホグワーツに従妹居たんだな」

「そんな話、今まで聞いてこなかったよね」

「つーか、従妹ちゃんはクールなヤツだな」

 

 ヒソヒソと噂話するボーバトンのグループの目線の先には、ルークとシレンが従妹のフィールを実の妹同然に可愛がっている、何とも微笑ましい光景。

 見た者をその場で蕩けさせてしまいそうなキラキラスマイルで黒髪の美少女を両サイドからハグサンドしチークキスする金髪の美男美女に、大勢のホグワーツ生は早くも二人のファンになった。

 

 そのファンはフィールを羨ましそうに睨む。

 血縁者なので、愛情を示すのに何の躊躇いも感じる必要は無い。それは逆もまた然りで、愛情を受け取ることに抵抗する必要は無い。

 現にフィールは人前でも普通にスキンシップしてくる従兄と従姉にやや疲れ気味な様子ではあるが、満更でもない表情だ。

 

「………そろそろ離れてくれないか?」

「ん、もう少しこうさせてちょうだい」

「右に同じ」

 

 シレンの言葉にルークが賛成する。

 フィールは少し考え込む表情になった後、二人にこう提案した。

 

「と言っても、此処には何も私にだけスキンシップする相手が居ない訳ではないだろ?」

 

 クリミアの所に行ってスキンシップしてこい。

 大勢の生徒の手前と場所柄、こういう言い回しをして言外にそう含みを持たせたフィールの言葉に、

 

「それもそうだな」

「それもそうね」

 

 と、ルークとシレンはあっさり頷き、ようやくフィールから離れた。

 フィールは半ば強引に義姉を巻き込んだことにちょっぴり罪悪感は持ちつつ、一瞬だけ、悪戯っ子の笑みを浮かべて苦笑いした。

 

「じゃ、フィール、また後でな」

「今度、ホグワーツを案内してね」

「ああ、時間があったらな」

 

 そうして、ルークとシレンは立ち去った。

 二人が居なくなった途端、野次馬は何かを思い出したようにゾロゾロと群れを成しながら、一斉に同じ方向へ向かう。

 大方、炎のゴブレットがある場所だろう。

 ベルンカステル一家の詳細を知りたいのは山々だが、まずはそっちの方が第一優先事項で気になることだ。

 

「ふぅ………」

 

 一人になったフィールはフッと一息つく。

 そんな彼女を、遠くから眺めている人影が物陰に映っていた。

 フラーである。

 彼女はフィール以外の生徒が居なくなるタイミングを、陰からずっと窺っていた。

 そして、今が絶好のチャンスだ。

 フラーはグッと拳を握り締め、フィールに、ルークとは『従兄妹』以外の関係を持っているかを訊こうと、足を一歩踏み出した、次の瞬間。

 

「―――フィーのイトコのお兄さんとお姉さん、滅茶苦茶目立つね」

 

 ベルンカステル従兄妹の邪魔にならぬよう離れた場所に居たフィールの友人―――クシェルがフラーが居る位置からは死角の所から出てきて、フィールの側に寄った。

 フラーは忌々しそうに内心で舌打ちする。

 昨夜、一人の男子が『ベイカー』と言ってたことから姓はわかるが、下の名前は知らない。

 が、そんなもの、今のフラーにとってはどうでもよかった。せっかくのチャンスを踏みにじられてイライラが溜まっただけである。

 そんなフラーの胸中など露知らずの二人は、普通に会話を重ねる。

 

「見た目もそうだけど………人前であんなことされたら流石に人目につくだろ」

「ってか、初耳だよ、母方にイトコいたって。しかも、あの二人の父親ってライアンさんなんでしょ? 若くない?」

「まあな………」

「と言うか、母方の従兄妹の割りにはあまり顔立ちが似てないのがビックリなんだけど」

「ああ………二人はどちらかと言えば、父親のライアン叔父さんより母親のセシリア叔母さん似だからな。情熱的な性格は、父親似だけど」

 

 茶髪の少女の口振りから、どうやら彼女もルークとシレンの父親と会ったことがあるらしい。母親のセシリアとはまだ会ったことがないらしく、「へえ」と興味深そうな面持ちになる。

 同じ緑と銀のレジメンタルのネクタイを締めた少女二人を息を殺して観察していたフラーは、遠目にルークがやって来たのをいち早く捉え慌てて首を引っ込める。

 さっき、チラッとしか見えなかったが………ルークの手には羊皮紙が握られていた。

 今から立候補しに向かうのだろう。

 隣にシレンは居なかったので、もしかしたら先にゴブレットの所に行ったのかもしれない。

 フラーは深くため息を吐き、現状ではフィールに聞き出せないと一旦諦め、踵を返す。

 かなり早い時間帯から気になるのか、ゴブレットの周辺は人だかりであった。

 フラーは一人キョロキョロする。

 案の定、シレンが居たので、近寄る。

 

「あ、フラー。貴女も見に来たんだね」

「ええ、まあ………ねえ、シレン」

「なに?」

「一つ訊きたいことがあるんだけど………いいかしら?」

「? 別に構わないわよ?」

「………ルークは―――」

 

 ―――フィールって娘と付き合ってるの?

 と、覚悟して訊こうとした、その時。

 

「あ、ルーク来たわね。それにフィールも」

 

 と、シレンがフラーの背後に眼をやりながらそう呟いた。

 フラーは肩越しに振り返り―――フィールがルークの背中を押し、彼がゴブレットに自分を示す羊皮紙を入れたのを見た。次にルークはフィールの背中を押し、彼女は紙片を入れる。

 辺りからは拍手喝采が沸き起こった。

 これが初の17歳以下の生徒の提出らしい。

 従兄と従妹が互いに不敵な笑みを向け合いながらハイタッチするシーンに、フラーは鬱屈そうに眼を細めた。

 

「………………」

「流石だわ、二人共。スゴい人気ぶりねえ………それでフラー。私に訊きたいことって何?」

「………………」

「………フラー?」

 

 二度目の呼び掛けでフラーはハッとする。

 シレンは小首を傾げた。

 

「どうかしたの?」

「いえ、なんでもないわ………ごめんなさい、今度直接本人に訊いてみるから、さっきの質問はなかったことにしてちょうだい」

「え………?」

 

 なんで? とシレンが訊き返す前に、フラーは早足に立ち去った。

 とにかく、今は何も考えたくない。

 いつまでも此処に居たら、きっと………。

 フラーは未だ興奮冷めぬ熱気から逃れるよう背を向け、ホールを後にするのであった。

 

 夜のパーティー後の選手選定まで、まだまだ時間が余っている。

 一度馬車に戻り、頭を冷やしたフラーは再びホグワーツの城内に入場した。

 

(しっかし、此処は無駄に広いわね………)

 

 広大な敷地を誇る他、校内構造もバラエティー満載で、ホグワーツ生は毎日大変だなと、少しばかり憐れみの情を抱く。

 さてどうしようかと思い、前髪を掻き上げてくしゃりとやる。

 とりあえず、1年間此処に留まる以上は早めにホグワーツのギミックに慣れておこうと、行く当ても無くブラブラと散歩することにした。

 既にフラーはゴブレットに紙片を提出してる。

 その時皆は笑顔で拍手してくれたが………きっと、ルークかシレンがボーバトンの代表選手になるだろうと、フラーは予想していた。

 

(あの二人は私より1歳年下だけど………魔法の実力はあちらが断然上よね。しかも、運動神経だって―――)

 

 抜群だし、と思った直後。

 次の曲がり角にて、フラーはピタッと歩みを進めていた足を止め、眼を大きく見開かせた。

 目線の先には………ルークとシレンが、フィールとは全く別の女性にギュッとハグしてる場景であったのだ。

 自分と同い年だろうか。雲一つない晴れ空を凝縮させたような水色の髪が特徴的な大人びた女性は、出会って早々に抱き締めてきた二人にちょっと困った笑みを浮かべている。

 

(これは………一体………?)

 

 開いた口が塞がらないフラーは混乱する。

 ルーク、シレン………その人は誰なの?

 なんで、従妹でもなんでもない女の人にスキンシップを………?

 

「もう、二人共………急にどうしたのよ?」

「え? いいじゃない、私達家族なんだし」

「そうそう。それに、クリミアにハグしてこいって言ったのはフィールだしな。ま、直接そうは言ってないけど」

「やっぱりそうだろうと思ったわ………全く、後でフィールに文句言ってやるわ」

「お姉ちゃん、私達にハグされるの嫌なの?」

 

 シレンは潤んだ瞳で紫眼の女性を見上げた。

 嫌なの? と問われ、女性―――クリミア・メモリアルはうっとき、姉心も刺激される。

 

「………ズルいわ、そんな表情(かお)するなんて」

 

 好きにしなさい、とクリミアは肩を竦める。

 途端に二人はパアッと瞳を輝かせ、「~♪」と抱き締める両腕に更に力を込めた。

 クリミアはやれやれとしつつ、フィールと同じでどこか満更でない表情だ。二人に身を任せ、抱かれたままでいる。

 

(お姉ちゃん? 家族? ………あのクリミアって人、ベルンカステル家の関係者なの?)

 

 幼い頃、孤児のクリミアをフィールの両親が引き取ったベルンカステル家の『養女』なのを知らないフラーは益々混乱の渦に陥る。

 その場で思わずフリーズしてると―――。

 

「―――そこに居るのはボーバトン生か?」

 

 と、後ろから声がして、ビクッと身体を震わせたフラーはバッと勢いよく振り返った。

 そこに立っていたのは、フィールであった。

 フィールはフラーの背後に眼をやり、「………ちょっと此方に来い」と自分以外の家族の団欒を今は邪魔したくない気持ちから、まだ名を知らぬ他校の生徒を手招きする。

 そうして二人は静かに移動し―――やがて、誰も居ない場所までやって来て、一息つく。

 

『………此処まで来れば、問題無いだろ』

 

 フラーは一驚してフィールを見下ろした。

 まさかフランス語を話せるとは、思いもしなかったからだ。

 

『………貴女、フランス語話せたのね』

『親戚にフランス人がいるからな。その人に教えて貰った―――って、その親戚が誰なのかは、言わなくてもわかるだろ』

『ええ、まあね。………私、フラー・デラクールよ。貴女のイトコのルークとシレンの1歳年上。貴女は―――』

『フィール・ベルンカステル。スリザリン所属の4年だ。と言っても、知ってるだろうけど』

『まあね。貴女とあの二人は既に噂が広まってるし。………それはそうと、私、貴女に訊きたいことがあったのよ』

『訊きたいこと? なんだ?』

 

 これが初対面なのにいきなり質問をぶつけてくるのか、とフィールが軽く喫驚すると、今がチャンスだとフラーは思い切って尋ねる。

 

『―――貴女、ルークと付き合ってるの?』

『………………は?』

 

 突拍子もない意外なクエスチョンに、フィールは大きく眼を見開かせ、すぐに首を横に振って真っ向から否定した。

 

『私が? ルークと? そんな訳ないだろうが。私とルークは血の繋がった従兄妹だ。それ以外の関係は持ってない』

『本当に?』

『ああ、本当だ。ってか、嘘つく意味がどこにもないだろ』

『………そう、ね。そうよね。貴女とルークが付き合ってる訳、ないわよね。………もう一つ、貴女に質問があるわ』

『今度は何だ?』

『―――あのクリミアって言う女性は、貴女達とどんな関係なの?』

 

 その問いに、フィールは困った顔になる。

 フラーは答えにくい表情のフィールを睨んだ。

 フィールは口を噤んでいたが、程無くして、固く閉ざしていた口を開く。

 

『………クリミアは私達の家族だ』

『ふーん………家族って言う割りには、顔が全く似てなければ髪の色も全然違うわよね』

『それを言うなら、私だってルークとシレンとは顔も似てないし、髪の色も違―――』

『―――確かにそうだけど、貴女はあの二人の父親とは似てるじゃない』

『………二人の父親のこと、知ってるのか』

『何度か会ってるから、知ってるわよ』

『ああ、そうか。………初耳のアンタからするとビックリかもしれないけどよ。他人が何を言おうが、クリミアは私達の家族だ。たとえ血が繋がってなくてもな』

 

 だから、と。

 フィールはフラーの脇を通り過ぎる際、

 

 

 

『―――クリミアを傷付けるような真似は、絶対すんなよ。もしそんな真似したら、私はアンタをブッ飛ばすからな』

 

 

 

 と強い語気で言い放ち、その場を後にした。

 一人取り残されたフラーは考えを巡らせる。

 フィールとルークは交際してない。

 これだけは唯一確定事項となり、ホッと胸を撫で下ろす。

 けれど、それも束の間。

 安心感に満ちた顔は一瞬で険しくなる。

 

(………クリミア、ね)

 

 その名を頭に刻み込み、フラーは踵を返す。

 どうやら、クリミアが怪しい女みたいだ。

 未だにクリミアとベルンカステル一家の詳細は皆目見当もつかないが………彼女らが『血の繋がっていない家族』と言う関係だと、フィールが言った言葉は、決して偽りではないのだろうと思い―――自分が想う男が他の女を抱いている光景が脳裏を掠め、奥歯をギリッと噛み締めた。

 

♦️

 

 本格的に事が動き始めたのは、迫力満点の第一の課題が終了し、クリスマス・ダンスパーティーのパートナーについて話題が持ちきりになった時期だ。

 

 ある日フラーは、ホグワーツのあちこちである人物を探索していた。

 探している人物とは言わずともわかる、ルークのことだ。

 フラーの予想通り、ルークは晴れてボーバトン魔法アカデミーの代表選手に選定された。自分が選ばれなかったのに少しばかり悔しい気持ちはあるが、今となってはそんなに気にしてない。

 現在フラーは別のことでスゴく気にしている事柄があった。それがダンスパーティーのパートナーの件についてである。

 

 フラーはルークと踊りたかった。

 ボーバトンの選手だから、彼のパートナーになれば注目を集められるとかの不純な動機では断じてなく、心の底から彼と共にダンスパーティーを踊りたい気持ちであった。

 なのに―――運命と言うものは酷く残酷で。

 フラーはルーク探索中に、信じられない………いや、信じたくない場面に直面した。

 

(………………え…………?)

 

 フラーが目撃した衝撃的なシーン。

 それは―――ルークとクリミアが、互いに顔を寄せ合い、そっと唇を重ねた瞬間だった。

 自分の意中の人が、違う女とキスしてる。

 その光景を眼に焼き付けられたフラーは―――足場がグラリと崩れ落ちていく錯覚と、心にポッカリと穴が空いていく気分に激しく見舞われ、後退り………強引に顔を逸らし、淡い青色のローブを翻して走り去った。

 余計な思考は一切頭に入れず、頭の中を空っぽにさせて疾走したフラーは馬車に転がり込むように勢いそのままに入り、荒く息をついた。

 

(さっきの………あの光景は………)

 

 見違えなんかではない。

 自分が見たものは、紛れもなく現実だ。

 そして、絶望感に打ちのめされた。

 そして、これで確信してしまった。

 アプリコットフィズを渡した自分に対し、ギムレットで返事したルークの『遠い人を想う』が、一体誰なのかを。

 

 バッチリ目の当たりにしてしまったフラーは、わからざるを得なかった。

 

♦️

 

 それから数日後。

 フラーはホグワーツの廊下で桃色髪青眼の少女―――ソフィア・アクロイドと歩いていたクリミアを発見した。

 クリミアの姿を捉えた瞬間、腸が煮えくり返るほどの激情に駆られつつ、努めて貴女とは初対面ですを演出しながら声を掛ける。

 

「あなーたが、()グワーツ生ですか?」

 

 最初に対面した時のフィールの言葉と然程変わらないと思いつつ、そんな感じにクリミアを睨みながら彼女に話し掛けると。

 

『何か私に用があるの?』

 

 と、こちらからすれば母国語のフランス語でクリミアが冷静に切り返してきた。

 

『貴女………、フランス語話せたのね』

 

 危なかった。

 危うく「貴女も」と言い掛けたフラーは、慌てて言い直す。

 クリミアは自分がフィールと既に対面し、彼女からベルンカステル家の人間とは事実上家族なのを断片的に知っていることを、まだ聞いていないはずだ。

 ここで「~も」と添加の言い方をしたら、事態がややこしくなるのは目に見えるし、わざわざ恋敵に親切に説明してやる気も殊更無い。

 そんなフラーの胸中を露知らずのクリミアは至って普通に返答する。

 

『家族にフランス人がいるからその関係でね。それで、私に何か用あるの?』

『ええ、あるわ』

 

 貴女は本気でルークのことが好きなの?

 と、ストレートに問おうとした、その矢先。

 

『と言うか、まだ自己紹介してないじゃない』

 

 と、フラーの名前を知らないクリミアに見事遮られてしまった。

 フラーは内心忌々しそうに舌打ちしたが、平静を装って自身の名を名乗る。

 

『………そうだったわね。私、フラー・デラクールよ』

『フラーね。私はクリミア・メモリアルよ。クリミアでいいわ』

(この女………馴れ馴れしく私の名前を呼ばないで欲しいわ。………と言うか、名字、メモリアルだったのね)

『そう。なら、クリミア。私は貴女に一つ訊きたいことがあるわ』

『訊きたいこと?』

 

 クリミアは小首を傾げる。

 皮肉な話だが、非の打ち所がない美貌を誇るが故にその仕草一つ一つが絵になるので、フラーはクリミアに対する嫉妬やらストレスやらが溜まっていくのを感じながら、静かに言った。

 

『ルーク・ベルンカステルは知ってるわよね? 貴女の学校の代表選手となった、フィール・ベルンカステルの従兄の』

 

 クリミアは紫眼を丸くする。

 まさか他校の自分から知人の名前が出てくるとは予想外だったのだろう。

 

『………ええ、知ってるわよ。それが何か?』

 

 カチン、と思わずフラーはきた。

 クリミアは悪気あって言った訳ではないだろうけれど、フラーからするとその言い草は、

 ―――そうだけど、他人である貴女には別に関係無いでしょ?

 に聞こえてしまい、堪らず青筋を立てた。

 

『惚けないでちょうだい。貴女、彼がダンスパーティーで踊る時のパートナーの女性でしょう?』

 

 どうしてもクリミアへ対するジェラシーを抑えきれず、つい、苛立ちを含んだ声で呟いてしまった。

 クリミアはそこでようやくフラーの現在の心情を察したのか、鬱屈そうに長い睫毛に縁取られた紫瞳を伏せ………真っ直ぐに深いブルーの瞳を見据えてきた。

 

『………ええ。私はルークのパートナーよ。それが何?』

 

 それが何?

 そんなもの、決まってるじゃない。

 

『―――貴女、ルークのことが好きなの?』

 

 クリミアに一番確かめたいこと。

 それは、ルークを本気で好きなのか否かだ。

 あのキスは互いに両想いとわかったからしたんだろうが………どちらかが軽い気持ちで相手にキスしたってのも、一応は考えられる。

 とは言え、それは極めて少ない確率だ。

 ルークとクリミアに限り、ほぼ有り得ない。

 故に彼女の返答は―――わかりきっていた。

 

 

 

『―――好きよりも、愛してる、と言えばいいのかしら?』

 

 

 

 「好き」と言う気持ちでは全然物足りない。

 そして本当は「愛してる」と言う表現では言い足りないほど、クリミアがルークを心の底から愛してるのを―――同じ男性(ひと)を好きになってる者として、フラーには直接聞かなくても容易に理解出来た。

 フラーはクリミアの本心を見極めるように曇り無き瞳を見つめ―――達観したような、この世界に諦めを抱いたような、納得したような、色んな感情がごちゃ混ぜになった笑みを浮かべた。

 

『………ルークが想いを寄せるだけあって、貴女は彼に相応しい女ね』

『………?』

『………前に私、彼にアプリコットフィズを渡してみたことがあるわ。そしたら、ルーク、私にカクテルで返事したのよ。―――ギムレットを渡してきたわ。最初はギムレットのカクテル言葉を知らなかったから、彼が何の返事をしているのかわからなかったけど………後でわかったわ』

 

 思えば、あれを最初に渡された時から、自分に突き付けられたルークからの不動の回答だったかもしれない。

 

『何度やっても、返ってくるのはいつもそれ。遠い人を想う………一体どんな人のことを想っているのか、ずっと気になっていた。そして、此処に来てやっと知れた。………潔く諦めたいところだけど、私、負けず嫌いなのよ。だから―――』

 

 ドンッ、とフラーはクリミアの肩にわざとぶつかり、

 

『―――逃げるんじゃないわよ』

 

 シルバーブロンドの髪をたなびかせて、優雅に歩き去った。

 

 クリミアと別れたフラーは不意に立ち止まり、乾いた笑み浮かべた。

 逃げるんじゃないわよ、と言った先程の自分に馬鹿馬鹿しさを感じてしまう。

 あんな場面を見せ付けられたと言うのに………憎たらしいくらいに立派な返答をされたのに、心の何処かで、未だに混在している。

 自分にもチャンスはまだある―――と。

 

(自分でも、本当に馬鹿馬鹿しいわよね………)

 

 どうやら胸の奥では、信じたいと言う想い、少しばかり実在してるらしい。

 ルークが己を好きになってくれるチャンスなんて、一ミリたりともないのに………。

 硬派なタイプの人間はその分、一途に想い人を想い続けるだろう。

 

 ならば、他の女に目移りはきっとしない。

 ただひたすら、一人の女性(ひと)だけを愛する。

 長年ルークを見てきただけあって、フラーにはそれが痛いくらいわかっていた。

 

 けど、諦められない。諦めたくない。

 恋心を注ぎ続けてきた彼を、何としてでも手に入れたい。

 たとえどんな手段を用いてでも―――。

 ルークを己の彼氏にしてみせたかった。

 

(ハァ………私、いつからこんなに重い女になってしまったのかしら………)

 

 彼には彼女(おんな)がいるってわかっていながら、奪い取ってまで彼を手に入れたいなんて。

 最低な人間だなと、自分でも嘲笑(わら)ってしまう。

 

 ………だけど、それでも。

 これが記念すべき初恋なのだ。

 初めて人を恋愛的な意味合いで好きになったのを………何もしないまま、終わりを迎えたくはない。

 

 ならば、勝負だ。

 正々堂々とか聖戦とか、そんなもの、知ったことではないし、最早どうでもいい。

 

 好きな男をどちらが先に手に入れるか。

 どちらが最高の男(ルーク)に相応しい最高の女か。

 

 此処でハッキリと、あの女(クリミア)に示してやる。

 

♦️

 

 フラーと言う絶世の美女が恋敵と発覚したクリミアはそれからと言うものの、当て付けのように彼女がルークにアプローチする場面を目撃するようになってから、不安に駆られていた。

 ルークが浮気するとは考えられないが………フラーはヴィーラのクォーターだ。本人の意思とは関係無しに虜にされる可能性が少なからずともある。

 けれど、クリミアにはフラーに言い寄る勇気がなかった。元々の争い事や勝負事は好まない控えめな性格なのもあるが………。

 自分がルークを好きなように。

 彼女も彼のことが好きなのを、クリミアには責めることが出来なかった。

 

「クリミア。まさかとは思うけど、あの女に、彼氏を譲るなんて考えてはないでしょうね?」

 

 ハッ、とクリミアは顔を上げ、振り返る。

 6階のバルコニーにて思考の海に沈んでいたクリミアの眼に飛び込んできたのは、いつの間に居たのか、微かに怒気を含んだ顔付きの他寮の友人アリア・ヴァイオレットが立っていた。

 クリミアはアリアの言葉に首を横に振る。

 

「………そんな訳ないでしょ。ルークは私の……恋人なんだから」

「なら、いいんだけど。………クリミアは自分そっちのけに他人を優先するクセがあるわ。勿論、それは決して悪いことではない。でも………そのせいで自分の気持ちが何処かに行ってしまったこと、これまで沢山あったでしょう?」

 

 返事をする代わりに、クリミアは項垂れる。

 アリアは一つため息をつき、クリミアの両肩に両手を置いた。

 

「確かに貴女は『お姉ちゃん』よ。生まれつきの性格かもしれないけど、クリミアは年下だらけの姉妹を持ってる関係で無意識の内に遠慮や我慢、他人への譲り渡しが身に付いてる。でもね………貴女は『女』なのよ。愛する男性(ひと)を想う気持ちだけは、絶対に他の女へ譲らないでちょうだい」

 

 姓と同じ青紫色の瞳を細め、アリアは続ける。

 

「私の場合は、好きな男子(セドリック)が違う女の子を好きだったから、その恋を応援しようと私自身がそうすることを決めて、自分の気持ちを封じ込めることにしたわ。だけど、貴女の場合は思い思われてるのよ。私とは違う。もし、貴女が誰かに『ルークを譲って』って言われたり、周りからの『譲ってあげてくれ』って押しに怯んで『いいわよ』と答えたら、貴女はこの世界で一番の最低な女だわ」

 

 両肩に置く手に自然と力がグッと込められる。

 掌から伝わってくる力に現実味を感じる。

 

「ルークが貴女を大切に想ってくれてるなら、貴女はその彼を信じなさい。そしてどんなことが起きても、恐れず立ち向かいなさい。貴女は見掛けによらず芯は強いんだから」

 

 長らく苦楽を共にしてきた親友からの言葉に。

 思わずクリミアは涙ぐみ、こくんと頷いた。

 

♦️

 

「クリミア」

 

 クリスマス・ダンスパーティーを終え、第二の課題も選手全員がクリアし―――特派員のリータ・スキーターとか言うインチキ記者によるデタラメ記事で一悶着が起きたりと、毎年必ずトラブルが発生するホグワーツ伝統のアクシデントを挟みつつ、約2ヶ月が経過し、4月に突入したある日。

 湖の畔をのんびり散歩していたクリミアは、聞き慣れた少女の声がした方向に顔を向け、軽く眼を見張った。

 声を掛けてきたのはフィールだが、その隣にはハーマイオニー・グレンジャーが居たのだ。

 

「あら、フィールとハーマイオニーじゃない。珍しいわね、二人で居るなんて」

「ああ………昼食お腹いっぱい食べたクシェルは部屋で昼寝してるから、邪魔するのもアレだと思ってブラブラと歩いてたら、偶然、一人だったハーマイオニーと会ったんだ。で、今は二人で散歩中」

「そう。友達同士、仲良くていいわね」

 

 クリミアは柔らかく微笑む。

 ハーマイオニーは笑い返したが、隣に居るフィールはいつになく真顔で見ていた。

 

「………フィール? どうしたの?」

「………なあ、クリミア。明日の誕生日は、ルークと過ごす予定か?」

 

 いきなりそう問われ、クリミアは戸惑う。

 が、「ええ」と首肯した。

 そう、明日の4月18日はクリミアの誕生日なのだ。

 明日を迎えたら、クリミアは18歳になる。

 初耳のハーマイオニーはそれを聞いた途端、パアッと明るい笑顔になる。

 

「そうだったの? なら、お祝いしなきゃね。クリミア。まだ早いけど、誕生日おめでとう」

「ええ、ありがとう。でもフィール。なんで、そんなことを―――?」

「いや………なんとなく、聞いてみただけだ」

 

 言って、フィールはフッと息を吐く。

 

「………ところで、あの女とはどうしてんだ?」

 

 あの女―――。

 その単語に、クリミアは顔を曇らせる。

 誰なのかは言わずともわかる、フラーだ。

 

「デラクールがルークに好意を寄せてるのを知っていながら、何も言わないクリミアを何度も見てきて思ったんだけどさ………クリミアは、少し嫉妬心や独占欲を持たなすぎじゃないか? 相手を思いやり、自分の気持ちを過剰に押し付けないのは、個人的に偉いと思う。でも、クリミアは逆に自分の気持ちを封じ込め過ぎだ」

 

 フィールの厳しい言葉が、クリミアの胸の、一番柔らかくて傷付きやすい場所に鋭く突き刺さった。

 

「私やシレンにとってルークは『兄』と言う存在だけど、クリミアにとっては『最高の男』なんだろ? ルークだってクリミアのことを『最高の女』と大切に想っていて、二人は相思相愛の仲で結ばれてんだ。たとえ世界中の女共が文句を言ってこようが、他の女こそが相応しいとかふざけたこと抜かそうが、そんなもんどうでもいいだろ」

「………似たようなこと、前にアリアにも言われたわ。『ルークが大切に想ってくれてるなら、どんなことが起きても立ち向かいなさい』って。………フィール、大丈夫よ。私はもう、充分幸せよ。ルークと恋人でいられるだけで。彼が私の隣に居てくれるだけで。だから………」

 

 クリミアはフィールを見下ろした。

 年齢の関係上クリミアの方がフィールよりも身長は高いが、幼い頃に比べれば断然違うため、クリミアは成長の早さを実感する。

 

「ったく、仕方ないな」

 

 と舌打ちし、フィールは内側ポケットから何かを取り出す。

 

「クリミア、後ろ向け」

「え………?」

「いいから早く」

 

 クリミアは言われた通り、後ろを向く。

 そうして動かないでじっと待ってると―――首元で、チャリン、と小さな音がした。

 

「………え?」

 

 クリミアは視線を落とす。

 キラキラに輝いたアメジストのネックレスが、首元で鮮やかな光を放っていた。

 驚いて、首につけられたネックレスを触る。

 

「1日早いけど、私からの誕生日プレゼントだ」

 

 振り向いたクリミアに、フィールは言う。

 

「それ、肌身離さずつけておけ。もし、心が苦しさや不安に飲み込まれそうになったら、私達がついてるって、それを見て思い出せ」

「フィール、今日はなんだかいい人みたいよ?」

「いい人みたいよ、は余計だ。普段から、私はクリミアのことを家族として姉として、常に気に掛けてるいい妹だっつーの」

「それなら、あまり危険な事に首を突っ込みすぎないで欲しいのだけれどね」

 

 いつも通りの他愛ないやり取りに、心が和んだクリミアは微笑みを浮かべる。

 ようやくフィールは「よかった………」と内心ホッとした。

 が、それは敢えて口には出さず、背を向ける。

 

「それじゃ、私は先に行く」

 

 そうして、フィールは立ち去った。

 それまで黙って事の成り行きを見守っていたハーマイオニーは「姉思いなのね」とクールなフィールの意外な一面を見た気分に笑みつつ、クリミアと向き合う。

 

「クリミア、私からも一つアドバイスよ。―――クリミアは周りの人間に気を遣い過ぎ。もっと言いたいことを言ったっていいじゃない。恋敵なんて憎い相手にイヤな顔一つしないのは、クリミアの優しい所だけど………時には思い切って、自分の愛の強さを示しなさい。恋敵にも、愛する人にもよ」

 

 アドバイスしたハーマイオニーは、フィールの後を追い掛けていった。

 残ったクリミアは胸に手を当てる。

 

「私の………愛の強さ………」

 

 ハーマイオニーからのその言葉は、何故か心にグッときたものであった。

 

♦️

 

 4月18日、クリミアの誕生日。

 その日の放課後、フィールはクシェルと共に8階に在る必要の部屋へ向かっているのだが、二人の顔には緊張と険しさが走っていた。

 

「なあ、クシェル」

「なに? フィー」

「さっきから妙だなって思わないか?」

「奇遇だね。私もだよ」

 

 フィールとクシェルは顔を見合わせた。

 何故だか知らないが、さっきからボーバトンの代表団の生徒が、自分達が目的としてる場所がある階へと駆け足で向かってる。

 まるで大物芸人のスキャンダルが発覚し記者会見に詰め寄せるマスコミみたいな勢いに、フィールとクシェルは驚きを隠せない。

 そんな二人の耳に、ボーバトン生の声が入る。

 

『おい聞いたか? フラー・デラクールが、ルーク・ベルンカステルに告白するって噂だぜ』

『は? そうなのか!?』

『ああ。それで皆は彼女がアイツに告白するのを応援するために向かってんだぜ。ま、半分は好奇心からだろうけどな。美女の恋はギャラリーからすると美味しいネタだし』

 

 フランス語がわかるフィールは信じられない発言に眼を剥き、すぐさま駆け出した。慌ててクシェルも追い掛ける。

 8階の廊下を疾走していた二人はやがて次々と野次馬が押し掛け何重にも取り巻いてる場面を発見し、加速した。ざわざわとざわめきの波紋が周囲に広がりつつ、全員の視線は一点に向けられている。

 

「悪い、通してくれ!」

 

 野次馬を押し退けて前へ出ると―――大勢の観衆に包囲されて戸惑うルークと、決然とした態度でキリッと表情を引き締めるフラーの姿がバッチリ見えた。野次馬の中には、騒ぎを聞き付けたソフィアやアリア、ハリー達一行、シレンの姿もある。

 当然ながら、クリミアも居た。

 授業を終えて残りの時間を彼氏と過ごそうとしていたクリミアは、予想だにしなかった展開に困惑と当惑を隠しきれていない。

 

「ちょっ、どういうことなの………?」

 

 クシェルは訳がわからない顔で見回す。

 フィールさえも、この状況を上手く理解出来ていなかった。

 しかし、これだけはわかる。

 本来であればとっくの昔に迎えてたはずのルークとクリミアの幸せな時間を、フラーが奪い取ったのだ。

 フィールの顔に憤怒が滲む。

 そうして、一歩足を踏み出そうとした、次の瞬間―――。

 

『フラー………俺に話ってなんなんだ?』

『あら、聞かなくてもわかるクセに、わざわざ確認するのね』

『………………』

『まあ、それは置いといて。私、決心したのよ。貴方にこの気持ちを伝えようって。―――ルーク、好きよ。貴方のことを好きになってから、ずっとね』

 

 フラーの愛の告白に、ルークに彼女がいるのを知らないボーバトン生はにまにま笑って「付き合っちゃえよー!」と叫び、中には指笛を吹く人間でさえ居た。

 

『………サンキュ、フラー。スゴい嬉しい………だけど、フラーは綺麗なんだから、俺なんかじゃもったいないぞ』

 

 苦悩の末、ルークはやんわりと、なるべくは丸く収めようと努めてそう断ったのだが。

 

『いいえ』

 

 頭を振ったフラーはルークを絡め取り―――

 

 

 

『―――ルークがいいのよ』

 

 

 

 ルークの唇を奪った。

 大勢の人が見ている前で。

 

 クリミアの目の前で。

 

「………―――ッッ!!」

 

 クリミアは紫の両眼を剥く。

 恋人の唇を他の女が自分の目の前で奪った光景にハッと息を呑み―――胸が焼けるように熱くなり、息苦しくなった。

 ルークはフラーに突然キスされて戸惑う。

 それと同時に頬も少し紅くなり―――フラーはようやく顔を離し、ルークを見つめた。

 

『フラー………』

『ルーク………私と付き合って………?』

 

 すると―――ボルテージが最高潮にまで達したボーバトンの男女が、ワーワーと一斉に騒ぎ立てた。

 

『おいルーク! お前、フラーの勇気に応えてやれよー!』

『二人ならお似合いだって~!』

『つーか、フラーにあんなキスされて落ちない男なんていね~だろ~』

 

 彼等の心無い言葉に、クリミアは更に苦しそうな顔になった。

 だが………首を大きく振り、腹の底から自分が出せる限りの最大限の声を出す。

 

『ルーク………!!』

 

 クリミアは大声で、ルークの名を叫んだ。

 普段は大人しいクリミアの叫び声に、全員の視線がそちらに向けられる。

 クリミアはそれをモロともせず―――ルークの側へ駆け寄り、彼を抱き締めてキスした。

 

 ―――嫌だ………フラーの所へ行って欲しくない………!

 

 心の中で、彼女は何度もそう叫んだ。

 しかし、ルークとクリミアが付き合ってるのを知らないボーバトン生の瞳には、クリミアがフラーの勇気を踏みにじった光景に映り―――ギッと鋭い目付きで罵声を浴びせた。

 

『なんなの誰よアンタ!?』

『フラーの邪魔をするなよ!』

『無関係だろ! さっさと離れろ!』

 

 ただでさえボロボロに傷付いた精神に追い打ちを掛けてくるボーバトン生の非難の言葉に、クリミアは固く眼を瞑る。

 すると―――ルークが背中に腕を回し、ギュッと力強く抱き締め返してくれた。

 ボーバトン生は「あれ………?」と驚愕する。

 

『なになにどういうこと!?』

『なんでその女は優しく受け入れるの!?』

 

 二人がカレカノ関係なのを一切知らないボーバトン生の間に混乱が渦巻かれる。

 そんな観衆へ向かって、唇を離したルークが大声で叫んだ。

 

『悪い、皆。今まで、騒ぎになると思ってお前らには内緒にしてたけど………俺には数ヶ月前から付き合ってる愛する彼女がいるんだ!』

 

 えええ~ッ!!?

 初耳のボーバトン生はビックリ仰天する。

 その絶叫はホグワーツ城内に大反響した。

 

『―――皆、静かにしてちょうだい………!』

 

 そこへ、フラーのよく透き通った声が割り込んでくる。場はシンと静まり返り、目尻に涙を溜めたフラーはガクッとその場に両膝をついた。

 

『クリミア……こんな、卑怯なマネしてごめんなさい。だけど……私、本気でルークのことが好きなのよ………っ。私の初恋の相手がルークで……彼を好きになった時から、ずっと。この数年間、どんな男にコクられたって、全部断ってきた。彼女がいるからって………諦めきれないわ!』

 

 フラーの涙にボーバトン生は「そんなにルークのことが………」と口を噤む。

 フラーはスッ………と冷たい床に土下座した。

 クリミアは「………ッ!?」と眼を見張る。

 

『お願い、クリミア………私にルークを譲ってちょうだい………!』

『フラー………』

『クリミアお願い………ッ』

 

 すると、土下座してまで懇願したフラーの側に妹のガブリエルが寄り添い………クリミアに向かって深々と頭を下げた。

 

『クリミアさん。貴女がルークの彼女さんなのは知ってます。………けど、お姉ちゃんはずっとルークのことが好きだったんです! だから、どうか………どうかお姉ちゃんに、ルークを譲ってあげてください!』

 

 妹のガブリエルまでもがそう哀願すると―――ボーバトンの代表団が総員で拝み倒そうとこんな発言が飛び交ってきた。

 

『フラー頑張れー!』

『フラーがこんなに真剣なんだから、ルークのこと譲ってあげてくれ~!』

『君にはもっと相応しい男子がいるって~!』

『ルークの理想の彼女はフラーだよ~!』

 

 無思慮なボーバトン生の酷い言葉の数々に、容赦なく浴びせられるクリミアは綺麗な顔を苦痛に歪める。

 フラーがルークを本気で好きに思ってるのは、今の言動で嫌なくらい見せ付けられた。

 

 それだけでは飽き足らずの、この現状。

 クリミアの心は、徐々に押され始めた。

 フラー本人も言ってたが、これはあまりにも卑怯過ぎる手段であり姑息なマネだ。

 公衆の面前にて告白することでその場でめっちゃ断りにくい雰囲気を作り出し、公開告白キスすることで告白成功必至の状況を生み出す。

 

 女の涙は武器と言う言葉があるが、今がまさにそうだ。

 彼等はフラーの涙に同調し、味方してる。

 ルークの彼女である自分を真っ向から全面否定し、同じ学校に通う仲間であり人気者のフラーを支援してる。

 三大魔法学校対抗試合では自分が敵対する学校の生徒だと言うのも、勝機を掴むための一つの要素として取り入れてきたに違いない。

 

 クリミアは外界の音を全て遮断し、二者択一の選択の結果を出すべく、ただ自分の思考をフル回転させることにのみ意識を集中させる。

 

 ―――早く譲ってあげてくれ~!

 ―――なんで彼女なのこの女~!?

 

 ダメだ………どうしても、周りの人間の責めてくる言葉が邪魔してきて、集中力が途切れる。

 淀まなくルークが好きだと言った、溢れ返った涙の中に隠されていたフラーの強い瞳が、脳裏に浮かび上がる

 ギリギリと胸が鎖に縛られるような痛みに精神的にもがき苦しみ………心が耐えきれない苦しさに覆われそうになった、その時―――。

 

 

 ―――あんなにもカッコよくて明るい人が彼氏になったのよ。もっと幸せを感じなさい。だって、自分の好きな人と両想いになれたのよ? そんな奇跡を自分から手放すなんて真似は、絶対にしないでね。

 

 ―――確かに貴女は『お姉ちゃん』よ。生まれつきの性格かもしれないけど、クリミアは年下だらけの姉妹を持ってる関係で無意識の内に遠慮や我慢、他人への譲り渡しが身に付いてる。でもね………貴女は『女』なのよ。愛する男性(ひと)を想う気持ちだけは、絶対に他の女へ譲らないでちょうだい。

 

 ―――クリミアは周りの人間に気を遣い過ぎ。もっと言いたいことを言ったっていいじゃない。恋敵なんて憎い相手にイヤな顔一つしないのは、クリミアの優しい所だけど………時には思い切って、自分の愛の強さを示しなさい。恋敵にも、愛する人にもよ。

 

 ―――私やシレンにとってルークは『兄』と言う存在だけど、クリミアにとっては『最高の男』なんだろ? ルークだってクリミアのことを『最高の女』と大切に想っていて、二人は相思相愛の仲で結ばれてんだ。たとえ世界中の女共が文句を言ってこようが、他の女こそが相応しいとかふざけたこと抜かそうが、そんなもんどうでもいいだろ。

 

 

 皆から言われた言葉が、危うく窮地に追い込まれそうになった自分に救いの手を差し伸べてくれ―――クリミアは服の下に下げているネックレスを制服越しから掴み、ゆっくりと重い瞼を開く。

 

『…………わた………し………私は―――』

 

 そしてフラーの瞳を真っ直ぐ見据え、クリミアは静かに口を開いた。

 

 

 

『フラーに―――ルークを譲る気はないわ』

 

 

 

『っな………!?』

 

 クリミアの返答にフラーは眼を剥く。

 騒いでいた皆も途端に無言になり、決然とした顔でフラーを見下ろすクリミアを見つめた。

 

『たとえ………世界中の女の人が、私を「ルークの彼女には釣り合わない」って否定したとしても―――私は絶対に、自分からルークの傍を離れないわ………!』

 

 ルークが私のことを女として愛してくれてる。

 そんな奇跡を、私は絶対に自分から手放したりなんかしない。

 

『クリミア………』

 

 クリミアの本当の気持ちを聞けたルークは彼女の肩に手を置き、隣に並ぶ。

 

『フラー。俺も………クリミアのことが大切で、離れる気はない。ましてや、クリミア以外の女を「女」として好きになる気は、これっぽっちもない。周りのヤツらが何を言おうが、俺にとっての愛する女はこの世界でただ一人―――クリミア・メモリアルだけだ』

 

 クリミアの揺るぎない決意を宿した紫の瞳と、ルークからの完全なる拒絶の発言にフラーはしばし無言となり………数秒後、彼女はスッと立ち上がって何事もなかったかのような普通の顔を取り繕い、微笑んだ。

 

『………そう、よね。貴方達、ホントお互いに夢中だものね。ごめんなさい、強引に私の気持ちを一方的にぶつけてしまって』

『フラー………』

『皆、お騒がせしたわ。今後は二人の仲を悪く言おうとはしないでちょうだいね』

 

 フラーがキッパリとそう言うと―――一気に熱が冷めて興味を失ったボーバトン生はゾロゾロと群れを成し、ヒソヒソ話しながら階段を下りていった。

 フラーは顔を背け、何処かへ行く。

 終始憤怒の表情でフラーを睨み付けていたフィールは、狙い定めた獲物が逃げていくのを食って掛かるような鋭い双眸で彼女の後を追い掛けようとしたが、

 

『あの………待ってください』

 

 ガブリエルに腕を掴まれ、引き留められた。

 

 

 先程までの喧騒は何処へ行ったのかと思うほどの奇妙な静寂が訪れたホグワーツ最上階。

 クリミアはボーバトンの代表団の姿が見えなくなった途端、全身に張り詰めていた緊張が一気に解け………精神的な問題の疲労で限界を迎え、フッと眼を閉じると、膝から崩れ落ちるように身体をフラッと傾かせた。

 

「クリミア!」

 

 危うく倒れそうになったクリミアを、咄嗟にルークが抱き止める。その声に、黙って突っ立っていたシレンやソフィア達はハッとし、クリミアの側に慌てて駆け寄った。

 

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

「クリミア、しっかりしなさい!」

 

 シレンとソフィアは悲鳴に近い声で、ぐったりとルークの腕の中で気を失っているクリミアへ呼び掛ける。

 一同に不安と心配が駆け抜ける中、癒者(ヒーラー)の娘であるクシェルは冷静な対応でクリミアの首筋や手首に指を当てて脈拍を取った。

 

「呼吸脈拍共に正常だから大丈夫。精神的疲労のピークを迎えたのが原因で倒れただけだと思うから、安静にして静養すれば問題無いよ」

 

 クシェルの言葉に皆はホッと胸を撫で下ろす。

 そうとなれば、すぐに医務室へ運ぶべきだ。

 ルークはクリミアを横抱きで抱え上げる。

 安らかな彼女の寝顔に、彼は笑みを溢してポツリと呟いた。

 

「クリミアの言葉、本当に嬉しかったぜ。お前は最高の女だ」

 

 そして、そっと唇を寄せ、口付けを落とす。

 シレンは「私達すぐ近くに居るんだけど」と人目も憚らずにキスシーンを見せ付けてきた兄に肩を竦めたが、その顔はどこか柔らかい。

 ソフィアとアリアはクリミアの白い手を取り、目元を和らげて優しく微笑んだ。

 

「クリミア………やれば出来るじゃない」

「今までで一番カッコいい姿だったわよ」

 

 7年間一緒に学校生活を過ごしてきた二人は、今ほどクリミアと言う最高の親友を誇りに思ったことはないと、全く同じことを考えてた。

 そうして、彼等は医務室へと向かう。

 フィールが何処にも居ないのに、誰も気付かないで。

 

♦️

 

 人前でフラれて恥をかいたフラーは、一人誰も居ない場所に来て深いため息を吐いていた。

 城壁に手をつけ、弱々しく項垂れる。

 

(ハァ………あんな人前でフラれて恥かくとか、一生の汚点よね………)

 

 自分からしたとはいえ、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 フラーが一人後悔の念に駆られていると―――不意に背後の方で声がした。

 

『こんな所に居たんだな、デラクール』

 

 冷たくて低い、それでもって心に響く声。

 振り向かずともわかる―――フィールだ。

 フラーはわざと皮肉めいた口調で背中越しにフィールへ話し掛ける。

 

『………なによ。私を笑いに来たのかしら?』

『アンタを笑い者にすんなら、今頃私はホグワーツ全体に言い触らしてるっつーの。私は、アンタに別の用件があって来たんだ』

『別の用件? ………ああ、わかったわ。貴女、私をブン殴りに来たんでしょう? 初対面の時、そう言ったわよね。「クリミアを傷付けるような真似したら、ブッ飛ばしてやる」って』

『………確かに、本来だったら有言実行でそうしてただろうな。クリミアを傷付け、そして彼女の笑顔を奪ったアンタを、私の気が済むまで延々とな』

 

 だけど、と。

 若干不満顔ではあるが、フィールは言った。

 

『今回は特別に見逃してやるよ。勿論、この次にクリミアの幸せを奪ったら、今度こそ私はアンタをボコボコに殴り飛ばしてやるけどな』

『………どうして、今回は特別に許してくれるのかしら?』

 

 フラーは微かに驚きを含んだトーンで問い掛ける。

 フィールは肩を竦めながら説明した。

 

『アンタの妹………確かガブリエルだっけか。ガブリエルに言われたんだよ。「好きな人に告白するのはとても勇気がいることだって、お姉ちゃんが言ってた。だから………勇気を振り絞ってルークに『好き』って気持ちを伝えたお姉ちゃんを責めないであげて」ってな。………だから今回だけは特別に許してやる。同じ大好きな姉を持つ者同士のあの娘の頼みに免じてな。後でガブリエルに感謝しろよ。あの娘のおかけで、アンタは命拾いしたようなもんだからな』

 

 言って、フィールは踵を返す。

 フラーは未だに黙ったままであった。

 そんな彼女へ、フィールは続ける。

 

『私は今でもアンタのこと気に食わないけど……実際は情が深くて優しい女性(ヤツ)だって、シレンやガブリエルはそう言ってたぞ。それが本当ならアンタは運命の男をいつか必ず見つけられるだろう。だから………新しい恋を探してまた誰かを心から好きになれ。今度はきっと上手くいくと私は思うぞ。―――フラー』

 

 フィールは初めてフラーを下の名前で呼んだ。

 ハッとフラーは肩越しにフィールを振り返る。

 凛とした佇まいで、フィールは静かに告げた。

 

 

 

『私の大切な従兄(あに)、好きになってくれてありがとな』

 

 

 

 フィールは、恐らくはフラーに対する最初で最後の礼を述べ―――その場から歩き去った。

 フラーは呆然と立ち竦む。

 フィールの言葉の意味を上手く飲み込めなくてポカーンとその後ろ姿を見つめていたが………。

 ようやく理解出来たフラーは、前髪をくしゃりとやってフッと笑みを溢し―――自分は完全に完敗したなと、ルークのことは潔く諦める決意をしこちらも踵を返すと、霧のようにその場を優雅に立ち去った。




【屋上へ呼び出し】
これまたどっかの#でのデジャブを感じますが、それはおいといて。屋上へ呼び出し、なんて今時あるんでしょうかね? 定番、とはありましたが、どちらかと言えば漫画やドラマの中では、ですよね。

【ジェントルマン・ルーク】
女の集団に恐れることなく指摘したルーク。
ルークみたいなカッコいいジェントルマン、クラスに一人は居て欲しい存在かも。

【デラクールシスターズ】
本編ではほぼ出てこなかったこの姉妹。
と言うか、ガブリエルにおいては一度も登場しなかったような………。

【涙を流す姉、背中を擦る妹】
思わず妹の前で泣いてしまった姉(フラー)を慰める健気な妹(ガブリエル)のやり取り、書いてる私もちょっと切ない気持ちになりました。

【従妹をルークの好きな人と勘違いするフラー】
法律上、一応イトコ同士の交際・結婚はOK。
ま、この二人に限ってそれは絶対有り得ませんけどね!

【「~」と『~』の会話】
序盤のフラーとガブリエルの会話や、ホグワーツ来校して翌日のボーバトングループの会話は、その時フィール達イギリス人が居ない場合でのフランス語会話だったので普通に「~」ですが、フィールやクリミアが母国語の英語ではなくフランス語でフラー達に話し掛けた場合は『~』に変更となります。
本文読めば違いがわかるので大丈夫だとは思いますが、まあ念のためです。

【番外編ならではの大集合☆】
1話にオリで現役スチューデントズがオール登場したの、何気にこれが初では?

【追い打ち掛けられるクリミア】
涙は女の武器と言いますが、今回はマジでそうでしたね。フラーの涙とガブリエルの哀願にボーバトン生総勢がクリミアに「フラーにルークを譲ってやってくれ」とルークのガールフレンドを全面否定。

【ですが最後はキッパリと断固拒否】
ソフィア、アリア、ハーマイオニー、フィールの言葉、そしてクリミアの愛の気持ちが最終的にバシッと譲り渡しを拒否。クリミア、成長しましたね。

【ブルームーン:完全なる愛・叶わぬ恋・出来ない相談・奇跡の予感】
①ドライ・ジン(30ml)
②バイオレットリキュール(15ml)
③レモンジュース(15ml)

作り方:①~③をシェイクしてグラスに注ぐ。
タイプ:ショート
ベース:ジン
アルコール度数:26.60度
テイスト:中甘辛口
色:青系

【初・番外編、無事終了】
本文文字数過去最大だった4章ラストを上回る本文文字数になった番外編、終了です。本編ではフラーさん出番が死んだため、代わりに番外編の主役とさせました。これでどうか許してくださいm(_ _)m。
今回の番外編は、フラーやクラムがホグワーツに来校以後(4章途中からの本編)と照らし合わせながら読んでいただくと、よりわかりやすく、また違った見方が出来るのではないかと思います。

本編では至って普通に見えたフィールとクシェルのトークシーン、実はあの場面の裏側ではフィールに質問しようとしていたフラーが死角に隠れていて、人知れずクシェルへの苛立ちを覚えてた辺りなんかが、まさにそうですね。きっとあの時クシェルは何処からか漂う不穏なムードに背筋が寒くなっていたでしょう。

そして………まあ、はい。
フラーの恋の行方は見ての通り、失恋という形で幕を閉じました。『好きな人に告白して結果フラれる』を執筆してた最中、なんかスゴい懐かしい気持ちになりました笑。
ま、作者の恋愛はどうでもいいとして。
今後フラーは新しい恋を探して欲しいですね。
少々ナルシストな一面はありますが、根は優しい人柄なので今度はきっと上手くいくでしょう。
それでは番外編を読んでくださった読者の皆様。
2日遅れで申し訳ございませんが、メリークリスマス!
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