【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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原作展開をぶっ壊しますの先陣切り回。
匂い消しチョーカーが演出したんだ。此処等で活用させなければこれから先登場することは無い。


#67.アクシデント

 翌日の8月2日、真夏日の午後。

 白いワイシャツに黒のネクタイを締め、黒のスカートに白い脚を覆い隠すための黒のニーハイソックス、そしてキャンバスシューズを履いた黒髪蒼眼の美少女は、マグル界に在る目的地を目指して歩いていた。

 彼女が向かう先は、プリベット通り4番地。

 ホグワーツが夏季休暇中、ハリー・ポッターが帰宅する親戚のダーズリー家の住まいだ。

 ダーズリー家の人達が『普通』を好み、魔法という非常識な力を毛嫌いしている偏見マグルだと知っているフィールは、万が一彼らと出会した際を見据えて、マグル界の服装に合わせて私服を着込んでいた。

 そうでなくとも、そもそも今居る区域全体がマグル界なので、マグルに見られても怪しまれない格好にするのは至極当然のことなのだが。

 

(………………)

 

 フィールは、今日ハリーの監視任務に就いてるマンダンガスがダーズリー家に居るハリーを近くで見張っているのは、聞き及んでいる。

 ハリーを子供の頃から見守ってきたというスクイブの騎士団団員、アラベラ・フィッグが予めマンダンガスに仕事をサボらないよう釘を刺したみたいだが、やはりアイツに対する信用度は皆無に等しいみたいだ。

 不安要素を拭えないフィッグも現在監視員役として働いているらしいが彼女はスクイブだ。魔法で対処する能力は残念ながら持っていない。なのでフィールがこうしてハリーの様子見に向かっているのだ。

 

 無論、すぐにプロの魔法使いである大人を呼び出せるよう、スカートのポケットにはある物が入っている。

 『両面鏡』と言う、2つの鏡がペアになっていてこれを持っている者同士でテレビ電話のように交信出来る品物だ。

 対で持っているのはクリミアで、彼女はブラック邸で待機している。他メンバーもそうで、最初にフィールがハリーの様子を見に行くと意見した際には大反対されたが、

 

「無責任なマンダンガスがちゃんと仕事をこなすとは思えない」

「何か起きたらすぐに連絡する」

 

 とフィールが頭を深く下げたら、渋々といった感じで、

 

「もしもポッターと接触したら、絶対に騎士団の情報だけはバラすな」

 

 と強く念を押して、彼女を送り出したのだ。

 今のフィールは匂い消しチョーカーを着用しているので魔法は何ら問題無く使えるが、それは緊急を要する場合のみだ。アクシデントが発生したら自分達に即伝えろ、とムーディからは言われている。

 任務には就かないはずのフィールが騎士団の仕事の一つである『ハリー・ポッターの監視』に当たることへ異を唱えたものの、最終的には彼女にも警護を任せるあたり、なんだかんだで彼らは認めてくれた証拠だと思えた。

 

 まあ、比較的フィールの方が適役だろう。

 ハリーと同い年で尚且つマグルが見ても魔法使いとは思わないルックスだ。義眼や義足をした厳つい大人や奇抜な髪色をした女性が一軒家の付近を彷徨いていたら、それこそ不審に思われて本末転倒な展開になりうる。そういうのも危惧して、ムーディ達はマンタンガスとは正反対の責任感が強いフィールに託したに違いない。

 

(………居た)

 

 4番地の庭の花壇で仰向けで寝転がる、痩せた黒髪のメガネを掛けた少年―――ハリー・ポッターを発見した。

 窓は開け放っており、居間からは微かにニュース番組とダーズリー夫妻の声が聞こえてくる。

 フィールは遠く離れた場所から、そっと彼を見守った。

 しばらくは何事も起きなかったのだが―――ハリーが寝返りを打った後、矢継ぎ早に色々な出来事が起こった。

 鉄砲でも撃ったようなバシッという大木な音が眠たげな静寂を破って鳴り響いた。ダーズリー家の居間から、悲鳴と喚き声と陶器の割れる音が聞こえた。

 ハリーはその合図を待っていたかのように飛び起き、同時にジーンズのベルトから細い杖を引き抜いた。

 

(何してるんだ!?)

 

 フィールは眼を剥き、慌てて早足に接近する。

 此処で彼が魔法を使ってしまえば面倒な事になると、彼女は一気に焦燥に駆られた。

 女の悲鳴が一段と高くなり、よく眼を凝らしてみると………男が赤紫の巨大な手でハリーの首をがっちり締めている。

 男はなにやら凄んでいて、二人は数秒間揉み合ったが、突然男が電気ショックを受けたかのように叫び、ハリーの首から手を離した。

 ホッとしたのも束の間、フィールはダーズリー家の近所のあちこちの窓から顔が覗いているのに気付き、サッと隠れて気配を殺した。

 

 身を潜めながら、そこから見入る。

 ハリーは体勢を立て直して何食わぬ顔で杖をジーンズに仕舞い、男は大声で手を振りながら上手い言い訳をして誤魔化し、詮索好きのご近所さんの顔が全員引っ込むまで狂気染みた恐ろしい顔でニッコリ笑い続けた。

 それから、笑顔が激怒のしかめっ面に変わり、ハリーを手招きする。ハリーはさっきみたいな出来事はゴメンなのか、距離を保って立ち止まり、少ししてから馬面の女がでっかい赤ら顔の男の隣に現れた。フィールはポーチから単眼鏡を取り出し、高倍率にしてダーズリー夫妻とハリーを観察する。

 

(………アイツらがバーノンとペチュニアとか言うヤツか…………)

 

 ダーズリー夫妻―――バーノンとペチュニア、その二人の息子・ダドリーに関する情報は前もって聞き及んでいる。どうやらダドリーは居ないそうだ。

 一応は、聞いて知ってたとはいえ………想像を絶するほどの偏見マグルだと、現実味に突き付けられた。魔法界で言う純血主義者をそのまま置き換えたみたいだ。

 フィールはしかめっ面になり、口論している三人を見送っていたが、不意にハリーがクルリと背を向けて前庭の芝生を横切り、庭の低い塀を跨いで大股で通りを歩き出した。

 彼が後ろに振り向いた瞬間、光の速さで身を隠したフィールはそこで『目くらましの術』を自分に掛け、ハリーの後を追う。

 ………が、その前に。

 

(アイツ………!)

 

 ダーズリー家の周辺を見て回ったが、マンダンガスの姿が何処にも見当たらない。

 どうやらあの馬鹿、持ち場を離れたそうだ。

 フィールは舌打ちし、あの大きな音の正体はマンダンガスが『姿くらまし』をしたからだと謎を解き、彼女はスカートのポケットから両面鏡を取り出す。

 

 これは見過ごせぬ事態だ。

 騎士団に知らせなければ。

 一旦フィールは自分の身の周りに魔法を張って『目くらましの術』を解き、両面鏡を見て呼び掛けると、ほどなくして、鏡の表面にクリミアの顔が映った。

 

『どうしたの? 何かトラブル?』

「私の思った通り、あの男、何処かに行って任務放棄したぞ」

『なんですって? それは本当なの?』

「ああ。さっき、馬鹿デカイ音が鳴り響いた。恐らく『姿くらまし』を使用する際の音だ」

 

 それからハリーが何処かへ向かっていると伝えると、今度はムーディの厳つい顔が映った。

 

『話は聞いたぞ。あの馬鹿者、我々の計画を台無しにする気か! ベルンカステル、お前は引き続きポッターを追え! 何かトラブルが起きたらわしらにまた連絡しろ!』

「了解!」

 

 フィールは両面鏡をポケットに仕舞い、再び『目くらましの術』を掛けると、全速力でハリーを追跡した。

 ハリーはそこまで遠くには行ってなかった。

 彼は数歩歩く度に背後を振り返るため、多分彼も先程の音の正体を感付いてるのだろう。

 間隔を置きながら、フィールはハリーに気付かれないようチェイスする。なんと言うか、行く当てもなく歩いてるようだと思った。

 

 やがてハリーはマグノリア通りへと曲がり、人気がない鍵の掛かった公園の入り口を飛び越えて乾ききった芝生の上を歩き、ブランコに座った。

 フィールはさてどうしようかと考え―――かなりの時間が経過したところで、公園の向こうから笑い声が聞こえてきてそちらを見てみると、こちらへやって来る数人の人影を浮かび上がらせた。

 

(こんな時間まで何処行ってたんだ?)

 

 そう思ってるフィールも割りと人のことは言えないのだが、それはさておき。

 ハリーがブランコから立ち上がった。

 マグノリア・クレセント通りの入り口で互いにサヨナラを言っているあの連中には気付かれないよう、リラの大木の陰に身を寄せる。

 一方フィールは、連中の一人がダードリー夫妻の息子のダドリーがいると察した。なんとなくバーノンと似ているヤツがいたからだ。

 

「いい右フックだったぜ、ビッグD」

「また明日、同じ時間だな?」

「俺んとこでな。親父達は出掛けるし」

「じゃ、またな」

「バイバイ、ダッド!」

「じゃあな、ビッグD!」

 

 そうして、ダドリー以外の連中が全員居なくなったのを見計らったハリーが急ぎ足で鼻歌を歌いながらブラブラ歩く従兄へ声が届く範囲内に追い付くと、声を張り上げた。

 

「おい、ビッグD!」

「なんだ。………お前か」

「ところで、いつから『ビッグD』になったんだい?」

「黙れ」

「カッコいい名前だ。だけど、僕にとっては、君はいつまで経っても『ちっちゃなダドリー坊や』だな」

「黙れって言ってるんだ!」

 

 ハリーとダドリーは言葉を交わし合う。

 フィールはやれやれと肩を竦め、その後も言い争う二人が角を曲がって狭い路地に入ったのを確認すると、術を解いた。

 周りには誰も居ないので大丈夫だろう。

 此処等一角は人影がなければ街灯もない。

 なのでこうして姿を露にしているのだが、フィールは注意深く周囲を見回す。

 ふと、一呼吸置いてダドリーがこう言った。

 

「アレを持ってるから、自分は偉いと思ってるんだろ?」

「アレって?」

「お前が隠しているアレだよ」

 

 つまり、魔法の杖のことだ。

 

「ダド、見掛けほどバカじゃないんだな? 歩きながら同時に話すなんて芸当は、君みたいなバカ面じゃ出来ないと思ったけど」

 

 ハリーが杖を引っ張り出すのと同じくして、フィールも杖をヒップホルスターから抜き出した。

 ハッキリ言ってしまえば『武装解除呪文』を唱えようかとも思ったが、状況が状況なだけに、タイミングが見つからない。

 

「許されてないだろ? 知ってるぞ。お前の通ってるあのへんちくりんな学校から追い出されるんだ」

「学校が校則を変えたかもしれないだろ?」

「変えてないさ。お前なんか、そいつがなけりゃ、オレに掛かってくる度胸もないんだ。そうだろ?」

「君の方は仲間に護衛して貰わなきゃ、10歳の子供を打ちのめすことも出来ないんだ。ほら、君が散々宣伝してるボクシングのタイトルだっけ? 相手は何歳だったんだい? 7歳? 8歳?」

「16歳だ。しかもお前より2倍も重い。お前が杖を取り出したってパパに言ってやるから覚えてろ―――」

「今度はパパに言い付けるのかい? パパの可愛いボクシング・チャンピオンちゃんはハリーのスゴい杖が怖いのかい?」

「夜はそんなに度胸がないクセに。そうだろ?」

「もう夜だよ。こんな風に辺りが暗くなると夜って呼ぶんだよ」

「お前がベッドに入った時のことさ!」

 

 ダドリーが凄んだ。その顔からは奇妙に勝ち誇っているのが微かに読み取れる。

 ハリーにはさっぱりで、陰でフィールも首を傾げた。

 

「昨日の夜、お前の寝言を聞いた。呻いてたぞ」

「何を言ってるんだ?」

 

 するとダドリーは吠えるような耳障りな笑い声を上げ、甲高い声で口真似をした。

 

「『アイツが帰ってきた! 助けて、父さん! アイツがフィールを殺そうとしてる!』。フィールって誰だ? お前のガールフレンドか?」

「き、君は嘘をついてる」

 

 ハリーは反射的に言い返すが、声が震えていたので図星なんだろう。

 フィールは前髪をくしゃりとやる。

 ………そういえば、自分も夏休み中、ヴォルデモートを目前にして次々と仲間が殺されていく夢を見て魘されたなと、イヤな思い出を振り返された。

 

「『父さん、母さん、助けに来て! アイツはフィールを殺す気なんだ! だから早く助けて!』」

「黙れ! 黙れ、ダドリー。さもないと!」

 

 ダドリーは路地の壁際まで後退りした。

 ハリーの杖が真っ直ぐにダドリーの心臓を指している。

 

「そのことは二度と口にするな。わかったか?」

「そいつをどっか他の所に向けろ!」

「聞こえないのか? 『わかったか?』って言ってるんだ」

「そいつを他の所に向けろ!」

「わかったのか?」

「そいつをボクから―――」

 

 と、その時だ。

 ゾクリ、と身体が凍り付く感覚に襲われた。

 フィールはハッとする。

 周囲が真っ暗だった。夜空を彩っていた月や星が見えなくなるくらいだ。

 そしてこの真夏日の時期でこんなにも悪寒がするなんて、絶対有り得ない。

 

(嘘だろ!? なんでアイツらが此処に!?)

 

 フィールは謎の寒気の正体をすぐに悟った。

 路地に―――吸魂鬼(ディメンター)が居る。それも2体。

 吸魂鬼はガラガラと恐ろしい音を立てて息を吸い込んでいた。途端に全身が冷水に浴びたような冷たさに包まれ、心臓がハンマーで叩かれたみたいに激しく波打つ。

 フィールは頭の中にある光景が浮かび上がったのだが………ダドリーの恐怖に駆られた悲鳴で情景は崩れ去った。

 首を振り、杖を握り締め、声を上げる。

 

「エクスペクト―――」

「ハリー! 大丈夫か!?」

「え………フィール?」

 

 突然何も見えなくなって混乱していたハリーは『守護霊の呪文』を唱えようとしたが、ついさっき話題だった人物の鋭い声が耳を打ったため、そちらに意識が移った。

 

「早く伏せろ!」

 

 ハリーは未だにパニックしていたが、すぐにギャーギャー喚くダドリーを渾身の力で無理矢理にでも床に押さえ付け、顔を下に向ける。

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」

 

 フィールの杖先から巨大な銀色の狼が力強く飛び出す。白銀の狼は怒涛の如く吸魂鬼2体に襲い掛かり、遥か彼方へと吹き飛ばす。狼は路地の向こう端まで駆け抜け、完全に吸魂鬼が追い払われると銀色の靄となって消えた。

 再び戻る、色のある世界の音。

 光輝く月や星、街灯がリバイバルし、生温い夜風が路地を吹き抜ける。

 

「…………もう、心配ないだろ………」

 

 冷や汗を拭い、ハリーとダーズリーに近寄る。

 

「フィール、なんで此処に………?」

「説明は後だ。それより、魔法使ってないな?」

「う、うん………って、フィールは魔法を使ったじゃないか」

「私の場合は大丈夫だ、匂いを消してるから」

 

 フィールは杖を出したまま、しゃがみこむ。

 腕時計を見てみると、午後9時23分だ。

 ハリーは上質なワイシャツに黒のネクタイを締める大人びた格好をした友人に問い掛けた。

 

「さっきのは―――」

「吸魂鬼だ。それも2体。………此処はアズカバンから遠く離れたマグル界のリトル・ウィンジングだぞ。きっと裏で誰かが操ったんだな」

 

 忌々しそうに舌打ちしながら、震えて泣きながら身体を丸めて地べたに転がるダドリーの巨大な腕の片方を白くて艶かしい両手で掴み、自身の肩に担ぐ。ハリーは杖を仕舞い、手伝った。

 

「ダーズリー家に行くぞ。それと、ダーズリー家に戻ったら、それからは絶対家から出るな」

「え………な、なんで?」

「また吸魂鬼と遭遇したらどうするんだ?」

 

 フィールは冷たく言い放つ。

 

「悪いけど、詳しいことはまだ話せない。だけど決して皆はアンタをほったらかしにしてる訳ではない。そのことはわかってくれ」

「……………うん」

 

 ハリーは少し不満げに返事する。

 そんな彼の心境を悟り………フィールは騎士団本部から出る前にダンブルドアから言われた伝言を伝えた。

 

「ダンブルドアからの伝言だ。『あと数日が経ったらハリーをダーズリー家から連れ出すから、もう少し待っていてくれ』って」

「え………ほ、本当に?」

 

 ハリーはそれを聞き、これまでのストレスがちょっとだけ軽くなった気がした。

 

「ああ。だから、あと数日ダーズリー家で大人しく待ってろ。いいな?」

「うん………わかったよ」

 

 ハリーは小さく頷き、フィールはとりあえず彼が大人しくダーズリー家で待機してくれるそうなのでホッと安堵の息を吐いた。

 そうして二人掛かりでダーズリー家までダドリーを玄関口まで運び終えた。フィールは一旦ダドリーをハリーに託すと、離れた所で騎士団へ緊急報告をした。

 

「午後9時23分、アクシデントが発生した」

『アクシデント? 何が起きたの?』

「吸魂鬼が2体リトル・ウィンジングに現れた」

『吸魂鬼が? それも2体も!?』

 

 クリミアが驚愕の声を上げると、校長のダンブルドアの顔が映り、フィールに問い掛けた。

 

『それで、今はどうしたのじゃ?』

「守護霊で吸魂鬼を撃退。現在ダーズリー家に精神的ショックを受けたダドリーをハリーと共に運び終えたところです。すいません、報告が遅れてしまって………」

『なに、気にせんでいい。君の行動が二つの命を救ったのじゃ。感謝するぞ』

「………ありがとうございます。ところで、ダーズリー夫妻にこのことは―――」

『………真実は伝えるべきじゃ。君ならハリーを救えるじゃろう。一段落したら、騎士団本部に戻ってきなさい。他のメンバーにはわしから伝えておこう』

「よろしくお願いします」

 

 フィールは両面鏡を仕舞い、施錠を解除してハリーの親戚の家にお邪魔した。玄関マットいっぱいに嘔吐物が広がっていたのでそれを踏まないようにしながら、階段を上がろうとしていたハリーに眼を向ける。

 

「………あの二人に状況説明する」

「え………だけど…………」

「ダンブルドアからの指令だ。任せろ」

 

 キッチンから聞こえる喚き声に顔をしかめ、

 

「小僧! こっちへ来い!」

 

 バーノンの怒鳴り声が二人の耳を貫き、ハリーはフィールと一緒にキッチンに来る。バーノンとペチュニアはハリーの隣に居る、現実離れした美貌を誇る少女に眼を見張った。

 

「お前は誰だ?」

「こんばんは。ハリー・ポッター君の同級生、フィール・ベルンカステルです」

 

 ハリーの同級生と聞いて、二人は固まった。

 それに構わず、フィールは続ける。

 

「突然の訪問してすいません。………ですが、時間がないので率直に言います」

「………なんだ?」

「お宅の息子さんは『吸魂鬼』と呼ばれる魔法界の監獄・アズカバンの看守に襲われました」

 

 バーノンは意味がわからず唖然としたが、ペチュニアは何やら知っているようで、ビクッと身体を震わせた。

 

「な、何だ、そのキューコンなんとかは?」

「………もっとわかりやすく言えば、真夏であろうと凍り付くほどの冷気を放ち、近くに居る人間に絶望と凋落を与え、幸福感を吸い取りそれを糧にして生きる闇の生物。最終的に吸魂鬼は『吸魂鬼の接吻』と呼ばれる行為で、獲物の魂を喰らいます」

 

 フィールは淡々と口にし、ペチュニアは椅子に座らせた息子がもぬけの殻になっていないかを確認してるのか、揺り動かした。

 

「ああ、安心してください。廃人になったら、見ればすぐにわかるので。精神的ショックを受けてるだけですよ」

 

 これまた冷淡な態度で言葉を掛けるフィールにハリーはどこか不思議な満足感が満たされる。

 

「………お前がそのキューコンバーとかいうヤツを追っ払ったんだな?」

「ええ、撃退したのでもう大丈夫ですよ」

 

 フィールは背を向け、肩越しに言った。

 

「と言うことで、事実も伝えたので帰ります。ハリー、約束は守れよ」

「うん………」

「ああ、それと―――」

 

 フィールはハリーの肩に手を置き、ダーズリー一家に低い声で発言した。

 

「ハリーをこの家から追い出すような真似をしたり、彼を傷付けるような行為をしたら………どうなるか、覚悟してくださいね?」

 

 人間離れした美少女の低音で威厳ある声にダーズリー夫妻は背筋に悪寒が走り、その場に立ち竦んだ。今度こそフィールは背を向けて廊下を進み歩き、玄関を出た瞬間『姿くらまし』をして騎士団の本拠地へ帰還する。

 本来『姿現し』を使用する場合は、17歳以上と言う年齢制限と魔法運営部が実施する『姿現しテスト』に合格し、免許を取得しなければならない。無免許で『姿現し』した魔法使いには罰金が科せられるので、今さらっとちょっとした犯罪をフィールは犯したのだが、まあバレなければ犯罪じゃないだろう。

 騎士団関係の仕事で帰還する場合は『姿現し』しても魔法省に通報はしないし、そもそも敵対する立場になった魔法省に根っから通報する気は無いと、秘密裏に組織活動している上の連中からはあっさり許可が下りている。

 本来は玄関から中に入るのだが、ダルいのでフィールはダイレクトにブラック家の会議室に『姿現し』した。ちょうどメンバー全員がそこに居たらしく、突然現れた彼女へ一斉に杖先が向けられる。

 

「ん? フィールじゃないか」

 

 シリウスが杖を振り下ろしながらそう言うと、他の人達はバツの悪そうな顔になった。

 

「すまない。君が急に此処に現れたんだから、ビックリしたんだ」

「なんて呑気なことは言ってられるか。ダンブルドアから話は聞いてるだろ?」

 

 そうだった、と全員の視線が強くなる。

 

「フィール、吸魂鬼が現れたんだよな?」

「ああ。リトル・ウィンジングにだ」

「ハリーは魔法を使っていないよな?」

「大丈夫。焦ったハリーが『守護霊の呪文』を唱えようとしたけど、安否確認で呼び掛けて阻止した後、私が守護霊で追い払った」

「そうか………君のおかげで助かった。本当にありがとう」

 

 シリウスだけでなく、他団員達もフィールに感謝の言葉を述べた。フィールは軽く頷くと、「マンダンガスは?」と任務放棄した馬鹿者をキョロキョロ探し、ムーディに従われている彼を発見した。

 フィールはマンダンガスを捉えるが否や、彼の前に来てこれまで我慢してきた怒りを思い切りぶつけた。

 

「おい………重大な任務中に何ほったらかしにしてたんだ? 私が追いかけなかったら、今頃ハリーは魔法省からの不当な扱いをされてたぞ。こんな現状の中で自分の仕事をサボるなんて真似は二度とするな。わかったな?」

 

 無意識の内に、フィールは杖の切っ先をマンダンガスに向けていた。それだけ彼女は、仕事を放置していたマンタンガスへ怒っていた。

 

「ベルンカステル、コイツにはわしらからキツく言っておいた。まずは杖を仕舞え」

 

 ムーディはフィールの腕を掴み、窘める。

 けどそう言うムーディも、本当はフィールと同じ気持ちなのが渋顔から読み取れた。

 フィールは小さく舌打ちし、杖を仕舞う。

 後ろに振り返ると、モリーと一緒に夕食を作っていたクリミア達が居た。

 

「おかえりなさい。………大丈夫?」

「私は大丈夫」

 

 その後リーダーのダンブルドアも此処にやって来たので、フィールは現場に居た自分自身の口で改めて騎士団全員にアクシデントが発生した時の出来事を報告すると、厨房の扉から聞き耳を立てようとする気配を察知したので、大きくため息をついてガチャリと開けてみれば、ドミノ倒しみたいな感じに、騎士団の一員じゃないハーマイオニー達が雪崩れ込んできた。

 

「おい。そこで何してたんだ」

「何って………その………」

「なあ、一体何があったんだ!? ハリーがどうかしたのか!?」

 

 ロンが大声で叫び、フレッド達もあれこれ訊いてきた。フィールはシリウスに目配せし、頷くのを見たら、彼らに説明した。

 

「リトル・ウィンジングでハリーが吸魂鬼に襲われた。勿論、私が有体守護霊で撃退した。危うくハリーが魔法使おうとしたからギリギリだったけど」

「マジかよフィール! と言うか、フィールも学校外で魔法使っちゃアウトじゃなかったか?」

 

 三大魔法学校対抗試合の優勝金を譲ったのがきっかけで、すっかりウィーズリーツインズは敵意を無くした。むしろ下の名前で呼び合うほどの関係になったくらいだ。

 

「その点は大丈夫。匂い消しチョーカーのおかげでセーフだから。ライアン叔父さん、本当に助かった。ありがと」

 

 フィールは超便利な品物をくれた叔父へ、心底感謝した。ライアンがこれを作ってくれなかったら、今頃自分が魔法省に弱味を握られているところだった。

 

「「ワーオ………スゲー………」」

 

 赤毛の双子は揃って黒髪の男を見る。

 その瞳はキラキラしていた。

 大方、悪戯アイテム関係だろう。

 もしもこの二人が匂いを消す道具を製作して売り捌けば立派な犯罪が成立してしまう。

 ………もしかしたら、とんでもない物をライアンは生み出してしまったのかもしれない。

 後でウィーズリーツインズを説得しなければ。

 

「それはさておき………貴方達は早く部屋に戻りなさい。ここから先は騎士団員以外聞いてはいけないわ」

 

 エミリーが子供達へ厨房を出るよう促すが、はいそうですかと素直に戻るほど、彼らは従順じゃない。

 

「そりゃないぜ!」

「そうさ! こんなヤバいこと聞いて大人しく寝られるか!」

「ハリーが吸魂鬼に襲われたんだろ!?」

「黙っていられる訳ないじゃない!」

 

 フレッド、ジョージ、ロン、ジニーのウィーズリーブラザーズが次々に吠え、続いてハーマイオニーやクシェル達も言い募る。

 するとそれに我慢の限界を迎えたのか、突如としてスネイプが杖を電光石火のスピードで懐から抜き、無差別に威力のない閃光を乱射した。

 騎士団の団員は咄嗟にサッと避けたり魔法で撃ち落としたりして対処し、ダンブルドアやフィールなんかは杖無しで魔力を手に込め閃光を握り潰した。

 しかし、ウィーズリーブラザーズやハーマイオニー達は反応出来ず、顔スレスレに強烈な光を放つ閃光をじっと見ることしか出来なかった。

 

「これでわかっただろう? 我々は皆手練れの魔法使いだ。そこいらに居るような連中とは桁違いにな。ベルンカステルを見ろ。貴様らと何ら変わらない学生の身分で杖無しの対応だ。そのような技能が貴様らにはあるか? え?」

 

 スネイプの恐ろしいくらい低い声に、彼らは沈黙を持って打ちのめされる。彼が杖を一振りすると閃光は瞬く間に消え去った。

 

「わかったのならばさっさと部屋に戻れ。今、すぐにだ」

 

 その一声で彼らは屈辱と恐怖で拳を震わせながらトボトボ階段を上がっていった。

 

「セブルス、やり過ぎじゃないかい?」

「これくらいでもしなければ戻らぬだろう。我輩としてはまだ軽い方だと思うのだがね」

 

 ルーピンの言葉をさらりと言い返すスネイプは懐に杖を仕舞う。そんなスネイプのおかげで、ようやく本題に入ることが出来た。

 ハリーの護送は4日後に行うとのことで、その護送手段や進行についてを説明されたら、今夜はここで解散となった。




【正式な騎士団員と認められたオリ主】
ルックス、スキルどちらも完璧なんだ。これで認められなかったら「ふざけるなぁ!」になる。

【両面鏡】
原作では全然使われなかった品物。
最初はマグルに見られても大丈夫なようにケータイ(今となっては懐かしいガラケー)を使わせようかとも考えたが、便利なこれがあったので活用した。

【任務放棄するマンダンガス】
フィールさん、早速無責任なマンダンガスへの信用度が0になる。ムーディとのあの対話はもうプロ同士のやり取りも同然。

【守護霊の呪文】
ハリーが使おうとしたので超ギリストップ。
これで懲戒尋問というフラグはへし折られた。

【ベリベリアングリーなフィール】
あの馬鹿野郎は大事な役割をほったらかしにしたんだ。彼女からすれば「何やってんだゴラァ!」は無理もない。

【無理矢理抑圧させるスネイプ】
騎士団メンバーと一般人の実力比べを現実的に突き付けて黙らせた。

【まとめ】
今回は原作物語の歯車を変えた回。
次回はハリーを騎士団本部に連れてきてようやくオールミッションクリアの回。
懲戒尋問はやらなくともなんら影響はないでしょう。どうせあのガマガエル女とはホグワーツで対面するし魔法省で尋問される時間帯も短いので。
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