【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#70.波乱の予感

「アルバス………この状況をどう見ます?」

 

 9月1日、新学期当日の早朝。

 校長室には、副校長のマクゴナガルと校長のダンブルドアが居た。

 マクゴナガルは何かを耐えている表情で、ダンブルドアに問い掛ける。

 ダンブルドアは何を考えているかよくわからない無表情だった。

 

「魔法省………それも魔法大臣付上級次官の者がホグワーツの授業に干渉するのですよ。どう考えても、貴方達を追い出そうとするため、監視するのが目的でしょう」

 

 貴方達、とは―――ダンブルドア以外の者も指しているのを意味する。

 そしてその者は言わずともわかる、ハリー・ポッターとフィール・ベルンカステルだ。

 

「それに―――」

 

 マクゴナガルは感情を圧し殺した声で、喉から絞り出すように言った。

 

「8年前に起きたあの出来事を、ミス・ベルンカステルがあの女を見て思い出したらどうするのですか? あの女はショックのあまり、当時の記憶が吹き飛んでいるようですが……8月2日に吸魂鬼に襲われたミスター・ポッターを救出する際、少なからずとも接触したのでしょう?」

 

 吸魂鬼(ディメンター)は近くに居る人間に絶望と凋落をもたらし、魂を吸い取る他、最悪な経験や記憶を無理矢理甦らせる性質がある。

 そのため、2年前にホグワーツ城周辺を警護していた吸魂鬼がクィディッチ初戦で乱入してきた際に悲惨な過去の持ち主のハリーとフィールは影響を受けて箒から滑り落ちてしまった。

 辛い経験や記憶を持つ人ほど、彼らの攻撃には一般人よりも脆弱なのだ。

 

「そうじゃな。フィールが8年前に起きた悲劇を思い出すのも時間の問題じゃ。今の彼女には、仲間が傍に居る。彼らが彼女を勇気づける存在となれば、彼女は奥底に眠っている衝動に駆られたとしても、抑え込めるじゃろう。………全ての記憶を取り戻しても尚、自分自身を見失わなければの話じゃがな」

 

 そう、フィールは一部の記憶を失くしている。

 その記憶が戻った時、明かされる衝撃の事実にフィールは果たして耐えられるのだろうか。

 ダンブルドアは机の上の資料に眼を通す。

 その沢山の資料には、1991年にホグワーツ入学した生徒達の入学前の情報が個別にズラリと載せられている。

 

 中でも一番眼を引くのは―――殺人歴。

 当然ながら、まだまだ10代の少年少女には決して有り得ない情報だ。

 ………しかし、一人だけ。

 たった一人だけ、入学前に犯罪者となってしまった人物がいる。

 現場を見た者達によれば、あれは不慮の事故で仕方なかったことだとか。

 マクゴナガルも、その資料に眼を落とす。

 そこに書かれている人物名は―――

 

♦️

 

 今年、ホグワーツ特急に乗り込んだ少年少女達はなんだか暗い表情で空いていたコンパートメントに座り、気分転換になればと、お菓子を食べながら車窓を見るとはなしに眺めた。だがそれも、ある黒髪の男女が通路を歩いているのを捉えれば視線は自然とそちらに向かう。

 黒髪の男女―――ハリーとフィールのことだ。

 二人は魔法界から叩かれまくり、魔法省からは異端児扱いされている。それ故に注目を浴びてしまうのは無理もない。

 ハーマイオニー、ロン、クシェルは今年栄誉ある監督生に選ばれ、現在特別車両にて上級生からの説明を受けているところだろう。

 フィールはハリーとジニーと共にコンパートメントを探索し、運良く最後尾の場所で空の席を見つけたので、すかさずそこを押さえるべく扉をサッと開けてサッと閉める。荷物を荷物棚に押し上げ、椅子に深く腰掛けた。

 

「はぁ………疲れるな」

「うん………疲れるよ」

 

 フィールとハリーは周囲からの眼に精神的な疲労が蓄積し、ややぐったりとした。

 暗い気分を変えようと、フィールは甘いチョコレートを取り出し、ハリーとジニーにも渡す。三人はバリボリチョコを齧り、飲み込んだ。

 

「………フィール、君はこれからどうする?」

「さあ、な。とりあえず、ホグワーツに通う生徒全員がヴォルデモートの存在を信じてくれればそれでいい」

「うん………僕もそう思う」

 

 まずは、全員が完全に信じて欲しい。

 闇の帝王が復活を遂げ、再び惨劇を生み出そうと暗躍しているのを。

 だが、一体何人の生徒が現時点で信じてくれているだろうか。

 理屈ではわかっている。これは事実だし、紛れもない真実だ。

 けど、心では納得出来ず、恐怖心からヴォルデモートの蘇生を認めたくなくて現実から眼を逸らし、背を向ける。

 そうする人が大半だろうと、今年のホグワーツ生活は気が滅入りそうだった。

 

「………ダンブルドアは団結しろって言ってたけど―――」

「無理だな。ホグワーツに何人死喰い人(デスイーター)の子供が居ると思う? どれだけヴォルデモートの息が掛かった保護者を持っていると思う? もう、結束なんてことはほとんど不可能だ。こんな状況で結束したところで裏切られるのは明白だな」

 

 辛辣だが、尤もな意見であり現状を表した発言だった。フィールが言った通り、現実は土台を固めるにおいてその土台には亀裂が入り込んでいるのも同然。その上から重量級の物がのし掛かってくれば呆気なく崩れ去っていく。

 

 まさにこれが酷すぎる状勢。

 腐敗し停滞していく魔法界。

 一言で言えば、終わりに近いだろう。

 今、この間にも、ヴォルデモートは着々と陰謀が進行しているのだから。

 

「ただいま………」

 

 約1時間後、コンパートメントの扉が開き、酷く疲れた様子でハーマイオニー達三人が帰ってきた。三人は今までのことを話し、三人はそれを黙って聞く。

 

 グリフィンドールの監督生はハーマイオニーとロン。

 ハッフルパフの監督生はアーニー・マクラミンとハンナ・アボット。

 レイブンクローの監督生はアンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル。

 スリザリンの監督生はクシェルとドラコ・マルフォイ。

 

 今年からの新しい監督生はそんな感じだ。

 ハリー達はスリザリンの男子監督生がマルフォイと知り、心なしか嫌そうな顔になった。

 

 しばらくは他愛もない話で場を和ませていたのだが、それは唐突に終わりを告げられる。コンパートメントの扉が開き、全員がそちらを見てみるといつもの取り巻き二人を連れたマルフォイが立っていた。

 

「何か用かい?」

「挨拶は礼儀正しくだぞ、ポッター。さもないと罰則を与えるぞ?」

 

 ハリーがマルフォイに突っ掛かり、マルフォイはそんなハリーに薄ら笑いを浮かべる。

 くだらないな、と誰もが思った。

 

「気を付けることだな、ポッター。僕は君が規則を破らないか、犬のように追い掛け回すだろうからね。―――そうそう、ベルンカステル。君にも一つ言うことがあった」

 

 マルフォイはフィールの前に来て、言った。

 

「父上からの伝言だ。『もう一度チャンスを与えてやる。次に交渉決裂となれば、それはお前の命の糸が切れた瞬間だ』とな」

 

 それだけ言うと、マルフォイとゴリラ二人は今度こそ立ち去った。

 マルフォイからの伝言。

 父親のルシウス・マルフォイからと言うよりはヴォルデモートからの伝言と捉えるのがこの場合は正しいかもしれない。

 しかし、もう一度チャンスを与えてやるとは。

 アイツは意外と強欲なヤツだな、と思った。

 

「フィール、今のって―――」

 

 ハーマイオニーが困惑したように恐る恐る話し掛けてくる。彼女達も、ヴォルデモートがフィールを狙っているのは知っている。そして、一度ヴォルデモートは、自分の腹心にならないかと死喰い人勧誘してきたのも聞いている。

 

「即行で断るな。アイツらの恐怖政治開幕の手伝いなんて、誰がやるかっての」

 

 私を誰だと思っている?

 あの闇の帝王に真っ先に反発したエルシー・ベルンカステルの孫なんだぞ。

 そう言ったフィールに、皆は安心したような笑みを浮かべた。

 

「そうよね………貴女が私達を裏切るなんてことはしないわよね」

 

 ハーマイオニーは微笑む。

 皆も微笑みを向けている。

 その時フィールは、心に何かが突っ掛かり、笑みを浮かべられなくなった。

 

 ―――自分は何かを忘れていないだろうか?

 

 何故かそう………思ってしまったのだ。

 どうにも覚えてないのを、一つ確かに覚えている………そんな感覚に陥り、フィールはこめかみに手を当てた。

 

♦️

 

 大広間では例年通り、新入生の組分けが行われたのだが、今年のそれは、去年までとはまるで違った。年々歌詞は微妙に違うのを皆は知っているが、今まで警告染みた歌などは一度たりとない。

 1年生はこの異常事態に気付いていない。

 が、在校生は騒然とし、隣同士で意見交流を交わしている。

 フィールとクシェルも例外ではなく、グリーングラス姉妹も交えて険しい顔付きで先程の歌詞の警告について話し合った。

 

「お姉ちゃん、今のは………」

「ええ………どう見ても呼び掛けね。『例のあの人』に対する」

 

 グリーングラス姉妹―――ダフネとアステリアはスリザリンに所属する生徒でも数少ない反純血主義者だ。二人の両親は死喰い人ではないことから、まともな名家だと言える。

 

「フィール、貴女はどう思う?」

「どう思うって、そのままだろ。―――危機が迫っている、だから内部で団結し合え。………私としては、そんなの無意味に等しいけどな」

「そうね………所詮はムダな行為だけど、そうでもしないと、本当に崩れ落ちていくのよね。既に陥落してるようなものだけど」

「親の中には、今年ホグワーツに行かせたくないって考えてた人もいたみたいだよ。汽車の中でそう言ってたのを聞いた」

「ダフネとアステリアの両親はどうしたの?」

「………うちの親も最初は反対したわ。それに、フィールとも関わろうとするなって」

「でも、フィールさんが嘘を言うような人じゃないって口喧嘩になったんだよね、お姉ちゃん」

「まあね。フィールが冗談で闇の帝王が復活したなんて言う性格じゃないのは知ってるし。それに新聞も新聞で怪しいわよ。読んでみた感想としてはフィール達が言っていることを信じさせないように圧力掛けて報道してるっていう感じが駄々漏れだわ。………まあ、それをどうやら真に受ける馬鹿がいるようだけど」

 

 フィールと視線が合うと慌てて顔を背ける人達を横目に、ダフネは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに深くため息をつく。グリフィンドールのテーブルに眼を向けてみると、ハリーも似たような体験をしている。お互い大変になりそうだと、同情の眼差しを送った。

 その後は歓迎会パーティーとなり、生徒達は一斉にご馳走にかぶりつく。食事中の時だけが警戒心を緩ませるのを許して貰えるが、フィールの胸中はギリギリと鎖に締め付けられている気分で手が動かせなかった。何か食べないと、と思ってもまるで『凍結呪文』が掛けられたみたいに、意識や思考は残りつつ、身体が一切動かせなかった。

 

「フィー? どしたの?」

 

 さっきからフリーズしている友人に、クシェルは肩に手を置きながら声を掛けた。

 

「………食欲沸かない」

「でも、何か食べて。貧血になって倒れるよ」

 

 クシェルにそう言われ、ようやくフィールは料理に手を伸ばして口にした。が、相変わらず鬱屈とした気持ちは晴れなかった。

 

 食事の時間も終わり、ある意味恒例の新任教師の紹介が行われた。恒例というのは、毎年『闇の魔術に対する防衛術』の担任が変化するからなのだが………。

 今年新しく入ったのは、二人。

 一人は騎士団の任務で長期不在のハグリッドに成り代わって前任の『魔法生物飼育学』の教師グラブリー・プランク。

 空席の『闇の魔術に対する防衛術』の担当はドローレス・アンブリッジという、魔法省勤務の魔女だった。

 ピンクのカーディガンを羽織り、女の子のように甘ったるい甲高い声で話す、ガマガエルみたいな顔をしたブサイクなババアだ。耳障りな声と咳払い、そして彼女が語った内容に、大広間からはせっかくの一時的に払拭された雰囲気が逆戻りされた。

 

 途中から聞く価値ないなと私はそれを右から左に受け流す的に聞いてはいなかったのだが、まあ簡単かつ簡潔に言えば、無能で馬鹿な魔法省がホグワーツの教育や運営に干渉してくる、とのことだ。

 それを聞いたホグワーツ生大半と教師。

 一言で言おう。さっさと出ていけ、だ。

 何が悲しくて、これ以上魔法省から邪魔をされなければいけないのだろうか。最早コイツらは散々蹴散らした方が手っ取り早い話ではないかと思っても問題ないくらいだ。

 

「…………………………」

 

 アンブリッジの顔がよく見えた瞬間。

 フィールの頭の中で、ナニカが弾け飛んだ。

 高ぶる感情に、頭が、心が、魂が、飲み込まれていく。

 そう………その感情は、『殺意』。

 今すぐにでも息の根を止めたくなるほど―――胸が焼けるように熱くなる。

 脳裏の片隅に………あの夜、吸魂鬼によって吸い寄せられた同じ場景が浮かび上がった。

 

 

 

「………………フィー、ル…………」

「………………………………………」

 

 降り注ぐ冷たい雨が、視界を歪める。

 クリミアの、絶望に染まった声を無視して、自分は震える足を何処かへ進める。

 目の前には………魂を喰らう生物によって死よりも酷い姿に変えられた―――廃人へと変わり果ててしまった、銀髪の小さな少女。

 母親と同じ神秘的な光を宿していた紫瞳からは生気を全く感じられず、その白い肌に触れてみれば恐ろしいくらい………体温が全くないのを否が応でも現実味に突き付けられた。

 自分の腕の中には、自分と瓜二つの少女。

 治る見込みは最早皆無の、魂を喰われた者の末路を辿ってしまった女の子だ。

 頭がガンガン痛くなり、喉がカラカラになる。

 自分のことでさえ、わからなくなった。

 

 

 

 アンブリッジの演説後は例年通りのクィディッチについての説明等が施され、今夜はお開きになった。

 1年生の引率係も監督生の仕事の一つなのでクシェルは一足先に席を立ち、マルフォイと共に案内しに行った。他の在校生は後から寮に戻るので少し遅れてから大広間を出ていく。

 クシェルが居なくなった後はダフネとアステリアがフィールの傍に居てくれた。

 周りからの一層強くなった視線に今のフィールは居心地が悪いだろうと、自分達も自然と注目される事を厭わずに支えてくれた2人には感謝しかない。

 フィールは最後まで無表情を貫き通し、寮に帰ってくるとグリーングラス姉妹に「ありがとう」と礼を述べたら談話室に居た生徒達の疑惑と困惑に満ちた眼差しから逃れるべく、真っ先に自室に向かう。

 

「………ッ!」

 

 バタンッとドアを閉め、フィールはヨロヨロと歩んでいくが………壁に激突し、ふらついた。

 壁に手をつくが、ずり落ち………また手をついてはずり落ちてを繰り返していく内に、フィールは堪えていたどす黒い感情が溢れ反った。

 

 

 監督生の仕事を終えてきたクシェルはすぐに部屋に戻った。扉を開けて中に入ってみると、フィールが床で寝転がり、頭を抱えていた。

 

「フィー、大丈夫!?」

 

 クシェルは駆け寄り、肩を軽く叩いた。

 意識はあるようだが………なにやら、フィールはさっきからずっと呟いている。

 

「……………やる………アイツを…………」

「え………?」

「殺してやる………この手で、私の手で!」

 

 物騒な譫言にクシェルは戸惑ったが、

 

「フィー? フィー? しっかりして!」

 

 これは尋常ではないと判断し、肩を激しく揺さぶった。フィールは何かに耐えているようで、その額や首筋には嫌な汗が滲み、敵意を剥き出しにした犬歯が見えるくらいだ。

 

「そうだ……私………私が………あの人を………だけど……それ以上に………アイツらが憎い!」

「フィー! 私のこと、わかる!?」

 

 クシェルが声を張り上げると―――ハッとフィールは挙動停止し、荒く息をついた。朧気な瞳で上から見下ろすクシェルを見上げる。

 

「はぁ………ぁぁ………クシェ………ル……?」

 

 苦痛に歪んだ顔で疑問符を浮かべるフィールにクシェルは混乱した。

 

(一体何だったの………? 殺してやる? 私があの人を? アイツら? ………さっきみたいなフィーは………初めて見た………)

 

 なのに、今のフィールは―――普段と変わらない様子で、こちらを見ている。

 先程チラッと見えた鬼神のような形相の面影は何処にもなく、疲れ果ててぐったりとした女の子の表情になっていた。

 

「私………なんて………言ってたんだ……?」

「え………?」

「……何を喋っていたか……わからない……」

 

 半身を起こし、額に手を当てて息をつく。

 その様子からして、嘘をついてるようには見えなかった。

 

(まさか、記憶が吹き飛んでいる………?)

 

 状況から見て、それしか有り得ない。

 物覚えがいいフィールがそんなになるなんて、かなりの異常事態だ。

 

「えっと………その………なんて言うか、フィーが言うような言葉じゃなくて、私も初めて見た姿だった………」

 

 しどろもどろになりながらそう伝えると、

 

「………そうか」

 

 と、フィールはふらふらと立ち上がった。

 

「………ごめんな」

「いや………そんな、謝らないでよ。フィーは悪くないんだから」

「………………もう、寝る」

 

 フィールは自分のベッドに向かおうとしたが、そこで慌ててクシェルが腕を掴む。

 

「………なんだよ?」

「あ、その………あのさ、フィー。今日は一緒に寝ない?」

「は? いきなりなんだ?」

「だって……なんとなくだけど、一人で寝たら、貴女はきっと嫌な夢を見そうだなって。だから二人なら、大丈夫かなって」

 

 フィールはちょっと訝しい眼差しでクシェルの瞳を見つめていたが………彼女の言う通りになるかもしれないと、これまでの出来事を重ねて一つの結論を出す。

 額に滲み出た汗を拭い、ローブとカーディガンを脱いでネクタイを解くと、自分のベッドに放り投げた。

 それはイコール、了承と言う意味だ。

 

「………いいのか?」

「うん………いいよ」

 

 グッと、腕を掴む力を込めるクシェル。

 フィールはどこかクシェルにすがりたくなる気持ちに駆られ………気付いた時には、彼女の背中に腕を回していた。

 

「え、ちょっ………?」

 

 クシェルはまさかフィールの方からハグしてくるとは思わなかったので、ビックリしてしまった。明るい翠眼を見張っていると、

 

「…………クシェル………」

 

 消え入りそうな声でフィールが呟いた。

 

「私は………貴女達がいなくなったら、生きていけない………貴女達がいないと、私は―――」

「フィー………?」

 

 フィールの腕の中にいるクシェルは、そっと声を掛ける。あのフィールがこんなことを言ってくるなんて、余程の理由があるのだろうか。

 どう返答すればいいかわからず、そのまま抱かれた状態でいると、フィールが身体を離してじっと顔を見てきた。

 

「………あのさ、クシェル」

「え、なに?」

「………一つだけ、約束してくれない?」

「約束?」

「………私、多分これからも、こういうことが起きると思う。なんとなく、そう感じる」

 

 こういうこと。つまりは、先程記憶が吹き飛んだ事態を指しているのだろう。

 

「………私はね、何か大きな記憶を忘れているんだと思う。………それを思い出した時、私は私でいられるかわからない。もしかしたら、貴女達を傷付けるかもしれない。………その時は、私を突き放して。じゃなかったら、私は貴女達を永遠に傷付けてしまう」

 

 フィールの語った内容に、クシェルは一瞬思考が停止した。が、彼女の言った意味を理解すると怒った顔で睨み付けた。

 

「ごめん。悪いけどそれは約束出来ないよ。過去の貴女に一体何があったのか、私には分からないけどこれだけはハッキリ言える。貴女がどれだけ私を冷たく突き放しても、私が貴女を突き放すなんて真似は、死んでもやらない」

 

 クシェルはフィールの頬に手を当てた。

 

「疲れとストレスが溜まりすぎて、精神的にイライラしてるんじゃない? だから、そんなことを言っちゃうんだよ。ほら、早く寝よ?」

 

 ………フィールにはわかっていた。

 今のはわざとはぐらかすために言ったその場しのぎの言葉なんだと。

 だけど、敢えて蒸し返すことはしなかった。

 

「………そう、かもな。………早く寝るか」

 

 フィールはクシェルの手に自分のそれを重ねて力無く笑う。

 クシェルは冷たい手の感触に笑みが何処かに消え去り、心配そうな表情になった。

 

♦️

 

 静まり返ってる、スリザリン女子部屋。

 正確な時刻は不明だが、暗さと静けさから、まだ夜中であるとは辛うじてわかる。

 静かな寝息だけが聞こえるこの部屋の中で、ある物から、人の魂らしき気配が生まれる。

 

《………フィール》

 

 その者は、ぼんやりとシルエットが浮かび上がる二人の少女の内、黒髪の彼女に思い入れがあるようで、闇の空間から境界線に存在した。

 

 

 

《どうやら、記憶を取り戻す時が来たようだわ。貴女が全てを思い出した日、わたしは貴女に会いに行く。………だからその日まで、どうか辛い学校生活を耐え凌いで。貴女は独りじゃないんだから》

 

 

 




【校長と副校長の会議】
なにやら物騒な話題。
詳細は後程。

【寝坊はしませんでした】
そりゃ沢山大人が居たので爆睡の皆さんはそれぞれ保護者に叩き起こされました。

【監督生】
スリザリンの女子監督生がクシェルになった以外変化はありません。本来だったらフィールが監督生になっただろうけどそうじゃないのはハリーと同じ。

【ネビルナはどした?】
さあ? 多分どっか別のコンパートメントに居て仲良くなっているんじゃないでしょうか? だって流石にあの大人数はコンパートメント一室じゃ収まらないし入りきらないでしょう。

【マルフォイからの伝言】
なんだかんだで強者のフィールを自分の陣営に取り入れて腹心にしたいヴォルデモート氏。当然だがオリ主が闇の陣営に行ったら物語は終わってしまう。

【ブサイクなババア】
アンブリッジのこと。
実際ハーマイオニーもババアと言ってたし問題ない。

【大雨の場景】
久々にあの人の話題が登場。

【物騒な譫言を呟くフィール】
なんだか爆発寸前の爆弾。

【いよいよあの人も始動?】
あの人の正体がハッキリするのは、フィールが全ての記憶を取り戻した時。

【まとめ】
今回は学校へレッツゴーの回。
次回、いよいよセドリックへの告白の返事回。
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