【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
※7/1、SSの意味変更。どうしてもこれの上手い軍名が決まらないのが辛い………。
5年生になったフィール達は学年末に
そして今から2年後にはホグワーツが授与する最高の資格テスト
………その中でも、特にこれはないと思う授業はあるものだ。
それは、ドローレス・アンブリッジが担当する『闇の魔術に対する防衛術』だ。
実践を不要とし、理論だけで十分だと言うアンブリッジの言い分はさっぱり意味がわからない。
一言で言えば、『論外』が相応しい。
防衛術は、基本的に実技がメインの教科だ。
根本的な理論を知るためには座学も確かに大切だろうが、何よりも必要なのは、実際に動いて経験を積み重ねることだ。
本を読んで沢山の知識を得たところで、結局は覚えたそれらを魔法という形にしてどんどん活用していかなければ、いつまで経っても宝の持ち腐れなのだから。
しかし、スリザリン生の大半はアンブリッジが実践を教えないことを大歓迎していた。死喰い人で尚且つ闇の帝王の部下の保護者を持っているからだろう。
自分達に対抗する力を教えないのだから、今後は闇の陣営側が有利な状況になりやすい。これはもう、間接的に魔法省は闇の陣営に協力しているのも同然だ。
本当に、何故コーネリウス・ファッジが魔法大臣という最高地位に君臨しているのか、疑惑の眼を向けてもおかしくない。純血思想と権力欲に取り憑かれた者は、さっさと引退してくれればどれだけいいだろうかと強く思った。
この数日間、ハリーとフィールは散々な学校生活を送っていた。前者はヴォルデモート復活を信じないアンブリッジに反発して書き取りという罰則を受け、後者は何を言われてもガン無視していたのだが、逆にその嫌味な態度が彼女の逆鱗に触れたらしく、結局は彼と同じ罰則を受ける羽目になり、解放された後で互いに愚痴や痛みを共有した。
しかもハリーは罰を貰ったせいでクィディッチメンバーの選抜に出られず、キャプテンになったアンジェリーナ・ジョンソンがカンカンに怒ってガミガミ叱られてしまい、更にブルーな気分になった。
書き取り罰則は毎晩、アンブリッジの部屋で行われた。加えて、それが普通じゃない。拷問道具と言っても過言ではない羽ペンで羊皮紙に文字を書くと、その書いた文字が手の甲に刻まれて浮かび上がるのだ。最初は刻まれたら治る程度だったものが、日を重ねていく度に傷痕となって手の甲に残存するようになった。
痛みは人の心を病む。
大量の宿題が出されるこの時期に夜中に呼び出されて数時間も居座らるよう命じられ、帰ってきら課題消化に追われるという、身体的にも精神的にも蝕まれる日々に、ハリーとフィールはストレスのボルテージが最高潮にまで達した。
「もう………限界だ………」
アンブリッジの罰則がようやく終わり、スリザリン女子部屋に帰ってきたフィールはふらふらな状態で壁にズルズルともたれ掛かり、ペタンと座り込んだ。
「……大丈夫?」
「………………」
弛く首を振るだけで、何も答えなかった。
顔を上げる気すらなくて、フィールは押し寄せてきた眠気に傷だらけの精神が飲み込まれ、フッと瞼をおろして気を失ってしまった。
「………よく耐えたね、偉い偉い」
規則的な寝息を立てて深い眠りに落ちたフィールを誉めながら黒髪を撫で、彼女を抱き上げてベッドまで運ぶ。体格差は然程変わらないのに軽々と持ち上げられるのだから、フィールは身長と体重が比例していない。
ベッドの上にそっと寝かせ、夢の世界に居るのに険しい顔付きのフィールの寝顔を見て、クシェルは頬に掛かる髪を指先で払い除けながら眼を細めていると―――コンコン、とドアをノックする音が静かな室内に響いた。
ビクッとクシェルは反射的に顔を向け、一瞬で強い警戒心を抱く。なんとなく、杖を片手に持ちながらゆっくりと歩いていき―――軽くドアを開けてみると、
「クシェル、私よ私」
同級生のダフネだった。
杞憂に終わったクシェルはホッと安堵の表情を浮かべる。
「なぁんだダフネか………」
「なによ失礼ね。アンブリッジじゃないわよ」
口を尖らせるダフネは肩を竦めつつ、ドアの隙間からベッドで横たわるフィールを認め、そっと尋ねた。
「………フィール、今、どうしてる?」
「疲れて寝ちゃったよ。明日から休みだし、ゆっくり休ませようと思う」
「………そう。なら、明日の夜にするわ」
「え? フィーに何か用あったの?」
「ええ、大真面目な用よ。それには、フィールが絶対必要なのよ。詳しい話は明日話すわ。おやすみなさい」
「え、あ、うん、おやすみ」
ドアをパタンと閉め、クシェルは首を傾げる。
フィールに大真面目な用とはなんだろうか。
クシェルは具体的な用事が思い付かず、疑問符を浮かべて首を捻るが、明日になれば教えて貰えるのでそれまで待とうと、踵を返した。
♦️
翌日、夕食を食べ終えた後。
フィールとクシェルは、7階にある空き部屋までダフネに連れてこられた。そこには何故か男女問わずスリザリン生が既に数十人近く居て、椅子に座って此処で待っていた様子だ。よく見てみれば、3年前、ハロウィーンの日に純血じゃないとカミングアウトしたスリザリンでは少数の混血の生徒達だった。
「ダフネ、どういうことだ?」
疲労が蓄積して夕刻近くまで爆睡していたフィールは訳がわからず、怪訝な顔でダフネやスリザリン生数十人を見たり来たりする。
「勿論、それを今から説明するわよ」
ダフネはフィールを皆の前まで連れていき、部屋全体に『遮音呪文』等を掛けたら、こちらを見る人達を見回した。
「それじゃ、早速本題に入るんだけど。此処に居る人で、ドローレス・アンブリッジ否定派は手を挙げてちょうだい」
ダフネの問いに、全員がスッと挙手する。
勿論、ダフネ本人もだ。
「そうよね。じゃなかったら、此処に居る訳がないから。あの女は教師になんて向いてない。それはもう、わかってるわよね?」
「うん、あのガマガエルババアは居るだけムダなヤツだし、鬱陶しいだけだ」
「右に同じ。早くホグワーツから出て欲しいって思うわ。じゃないとストレスだけがどんどん溜まる」
ダフネの言葉に賛同する人達は口々に我慢してきた愚痴を溢す。
つい最近、魔法省はホグワーツに新たな職務を取り入れてきた。
『ホグワーツ高等尋問官』………ホグワーツの教師を検察し、場合によっては停職・解雇する権利を持つ役職だ。そしてその初代高等尋問官に選ばれたのが、かのアンブリッジである。
ちょっと騒がしくなったのでダフネが片手を上げて制し、冷静さを取り戻させると、
「アンブリッジが教師である以上、私達は本当の意味で防衛術を学べない。このままじゃ、いざ『例のあの人』が動いた時、手も足も出ないで殺されてしまうわ」
『例のあの人』………つまりは、ヴォルデモートを指している。遠回しの言い方で闇の帝王を話題にしたことから恐怖で震える人が何人も見られた。だが、そのような反応をするということは、復活したのを心底信じている者だからこそだと、フィールは鋭く見抜いた。
「だからね、私、思ったのよ。授業で学べないっていうなら、自主的に学んだ方がベストだって」
名案とばかりにダフネは言い切り、スリザリン男女全員が「確かにそれが一番だ」と大きく頷いて賛成する。
「でもさ………ダフネ、私達にそんな難しいことが出来るの?」
一人の生徒が質問し、他の皆も注目する。
「勿論、出来るわよ。要は私達にちゃんとした技術を教えてくれる人がいればいいんだから」
「え、でも、誰が?」
「決まってるじゃない。学年首席を務め、去年は上級生を凌いで三大魔法学校対抗試合で最年少の選手となり、尚且つ『例のあの人』と対戦して生還したっていう―――」
その言葉に、全員の視線が「まさか………」と驚愕しながらダフネを見る黒髪蒼眼の少女に向けられた。
「フィール、貴女に先生役を頼みたいのよ」
ダフネの爆弾発言にフィールは眼を見張る。
「私が? 先生役?」
「ええ、貴女ほど適役はいないわ。だって、そうでしょ? 私とクシェルに実技を教えてくれて、私達を『守護霊の呪文』が有体で呼び出せるくらい強くさせてくれたのよ?」
高位魔法の『守護霊の呪文』をクシェルとダフネに教えたのは、他でもないフィールだ。彼女の教え甲斐もあり、二人は各自実体化の守護霊を創り出せるほどに成長した。
「え、ダフネ、そうなの?」
「マジ? あのスッゴい難しい魔法を?!」
初耳の生徒はより一層フィールに注目する。
プロですら創出出来るのはほんの一握りしかいないのに、学生の身分で―――それも二人を有体化の守護霊を呼び出せる一人前の魔女として輩出させたのが目の前に立っている学年首席様であるならば、キラキラした瞳で見つめるのも無理はない。
「じゃあもう、ベルンカステル以外適任なヤツいないじゃん!」
「うんうん、私もそう思う!」
次々とフィールを教師として推す人続出。
フィールは困惑した表情で、期待の眼差しを向けてくる彼ら彼女らを見渡した。
「お姉ちゃんがいつもフィールさんのことをスゴいって言ってたけど………話に聞いてた通り、本当にスゴいね!」
アステリアがさらっとグリーングラス邸に帰宅したら姉がいつも同僚同輩の話を家族にしてるってバラすと、
「リア! お口チャックしなさい!」
ダフネはそれまでのキリッとしてた表情が一瞬で消え失せ、アステリアを小突いて頬を紅く染めた。
他の皆も、ダフネの変わり様に場が和んで微笑みに包まれる。
「ってことでフィールさん、これからもお姉ちゃんをよろしくお願いね」
「え? まあ、うん、わかった」
「そこは『わかった』って言わなくていいわよ!」
ダフネはアステリアの口元を押さえるが、ジタバタ抵抗した妹はサッと姉から離れてフィールの後ろに隠れる。
「あれ? お姉ちゃん、言ってなかったっけ? 最初は無愛想な同級生だなって思ってたけど、関わっていく内にフィールさんの意外な一面見られて―――」
「それ以上余計なことは言わないでちょうだい!」
ダフネは妹を怒鳴る。
何故そこまでして遮るのかがよくわからず、皆は不思議そうな顔で首を傾げた。
さて、それはさておき―――。
味方は多いに越したことはない。
反アンブリッジ派でヴォルデモートの存在を信じ、かつ死喰い人の保護者を持たぬスリザリン生を信頼し受け入れなければ、待っているのは内側からの崩壊のみ。
それを差し引いてでも、彼ら彼女らは恐怖心を少なからず抱きつつ来るべき時に備えようと自分なりに奮闘している。
ならば、防衛術を教えよう。
その資格がこの人達にはある。
そして、だからこそ。
「これから話す約束を守る人のみ、私は身を護るための技術を教える」
よく透き通るが、その声にはこれまでにない重みが滲み出ている。皆は一斉に座り直し、彼女は静かに語り始めた。
「皆もわかっているはずだ。私達がこれから行おうとするのが、一体何なのかを。魔法省に勤める人間の眼を掻い潜って内密に活動する、いわば反逆者の集いだ。故に、この場に居る全員にハッキリ伝える。―――心底戦う意志のある者にしか、私は教える気はない。面白半分で活動したところで、それは無駄になるだけだからな」
そして、とフィールは鋭い眼差しを向ける。
「このことを密告した者は………どうなるか、わかっているな?」
冷たくて低い、それでいて、恐ろしいくらいに威厳ある声音。それを、15歳の若い女の子が発しているとは信じがたく、一部の生徒は冷や汗を流した。
「裏切り者ほど、その後そいつのことを信頼することは出来ない。闇の陣営がいつ動くかわからない現状の中、本来ならばそれに対抗するための技能や対処法を教えるはずの教師は頑なにヴォルデモートの復活を信じず、挙げ句の果てに座学オンリーの無意味な授業を押し通す。だから自分達で自主的に活動するんだろ? もしも邪魔をする気が少しでもあるっていうなら、今すぐ出ていけ。そんなヤツが居たってただの足枷になるだけだ」
シン………と静閑に覆われる空き部屋。
フィールの言葉の一語一語に、重すぎるほどの圧力が掛かっている。
団体でアクティビティーをするというのは、すなわち連帯責任が付き物だ。大なり小なり、団員には責任という荷物を抱えることになる。
それを最後まで貫き通す覚悟はあるか?
フィールはそれを尋ねているのだ。
ちょっとでも途中辞退出来ると考えているヤツになど、自分の身を護れるはずがない。
だから、フィールはストレートに伝える。
辛辣で、あんまりで、それでいて、共に立ち向かう覚悟と勇気がある者には、最後まで付き添うと。
自分と、自分が護りたい人のために戦う強さを手に入れたい。
その想いを、どれだけ繋げられるか。
その決意に、どれだけ賭けられるか。
スリザリン生は、深く思案する。
ここが、自分達の人生の分岐点になると。
勝つか負けるか。そんなレベルではない。
生きるか死ぬか。最早、そういうことだ。
何もしないでただ終わりを迎えるのか。
抗い続けた末に命が果てるのが本望か。
「既に戦いはジリジリ迫ってきてる。今はまだ、停戦期間中に過ぎない。近い将来には、血みどろな血戦の日を迎えるだろう。そこで私達に与えられるのは『死』か『生』の二択だ。………相手は私達を殺す気で掛かってくる。躊躇なんてしてたら、自分や仲間が殺されていくだけ。戦う意志のないヤツが引き金に指を掛けても、迷いを振り切れずに撃てなくてその隙に敵に撃ち殺されるという意味だ。戦場に立ったら、その瞬間から殺す気で掛かれ」
想像してみろ、とフィールは続ける。
「自分の目の前で、家族や友達が死喰い人達に拷問され、殺されかけている。助けるには、お前らがそいつらを討伐していくしか方法はないぞ」
そう、もう迷っている暇などないのだ。
相手が殺戮する気なら、こちらも同様、殺戮し返す気で返り討ちにしなければならない。
決断を迫られる少年少女達は、ある一つの結論を出した。
「………最後に問うぞ」
フィールは、自分を見るスリザリン生全員に向かって最終チェックをする。
「―――戦意喪失したヤツは、さっさと此処から出ていけ」
しかし―――誰も出ていかない。
それはイコール、リタイアしないとのことだ。
「………本気か?」
「ああ………本気だ。ベルンカステル、俺達に防衛術を教えてくれ」
「ちょっとまだ怖いけど………でも、逃げてる時間なんてないから」
恐怖の色はまだ完全に拭えていないが、離脱する気配は感じ取られない。フィールはそれまでの表情を変えて、深く息を吐いた。
「………意外と皆度胸あるんだな。見直したよ」
「お前ほど肝の据わったヤツはいないだろうけどな」
一人の男子生徒がそう言い、皆も頷く。
とにかくこれで、一つの蛇寮の団体が組み上げられた。ここから先は、既に予定を立てていたらしいダフネが進行する。
念のため、リーダーは誰にするかとの問い掛けには、満場一致でフィールを推したのでこれで正式な総司令官は決定事項となった。
「それじゃ、今度は会合の名前を発表するわ」
「え? もう決めてたのか?」
「当たり前じゃない。で、会合名は―――」
ダフネは口角を上げ、高らかに発表した。
「―――スリザリン戦隊の頭文字を抜き取って『SS』なんてどうかしら?」
♦️
それから数週間が経過した。
『闇の魔術に対する防衛術』を自習するために結成された学生組織、ハリー率いる『DA』とフィール率いる『SS』は危うい橋を渡っている状態ながらも上手く行っていた。
アンブリッジにそういう集会をしていること自体はとっくにバレている―――ハリー達の組織のみ―――が、今のところは決定的な証拠を握られていないので、そのまま続行している。
最初、ハリー達がフィール達と同じく水面下の組織を結成した暁には、フィールやクシェルにも一員となって欲しいと言われたのだが、今回ばかりは流石に断った。いくらハリー達がフィールやクシェルがアンブリッジ否定派の人間だとわかっていても、他のメンバーからすればスパイと疑惑を掛けられるのは明らかなので、それを危惧して拒否したのだ。彼らは少し残念がっていたが、どこか仕方ないという感じで大人しく身を引いて諦めた。その代わり、フィールとクシェル以外のスリザリン生でもアンブリッジを毛嫌いしそして防衛術を自分達で身に付けていると知ると、驚きと同時に彼女達が信じたスリザリン生なら大丈夫だろうと思い、エールを送った。
ちなみに自分達が秘密同盟を設立したのは、校長のダンブルドアにフィールが伝えてある。彼に事情を話すと、快く承諾された。今の時勢、生徒が団結して一つのことに取り組むのはいいことらしい。活動は無理のないよう、安全を第一にするなら後は自由にやるようにと言われたので、ホッと胸を撫で下ろした。
そうして、校長からの了承も得ている状況下でリーダーのフィールとハリーがそれぞれの組織の諸事情を伝え合って訓練日を計画しながら、8階にある『必要の部屋』で防衛術のレッスンをどんどん積み重ねていった。
しかし、何も問題がなかった訳ではない。
クィディッチ戦のグリフィンドールVSスリザリンでいつも通り前者のチームが勝利し、後者のチームのシーカー・マルフォイはまたもや宿敵に惨敗し屈辱を味わった。
ここまでは毎度のことなので別段いい。
事件が起きたのはハリーが金のスニッチを手にした後だ。
スリザリンのビーターとして今年からチームに加わったクラッブが試合終了後、ハリーにブラッジャーを狙い打ちし―――そこからマルフォイが挑発を畳み掛けて、ハリーとウィーズリーツインズがマルフォイへ暴行。
結果、罰則を与えようとしたマクゴナガルの処置にこれまたアンブリッジが新たな教育令を携えて介入し、三人から選手資格を剥奪。
ハリーとウィーズリーツインズは以後試合に出場出来なくなったため、スリザリン側としては大成功だ。尤も、そんな卑劣な行為を嫌うスリザリン生も何人かはいて「とんだ恥曝しだ」と辱しめを受けた。
また、ハグリッドが久方ぶりに不死鳥の騎士団の任務から帰還してきたことで更にホグワーツを騒然とさせた。というのも、ハグリッドが全身に重度の深手を負っていたからだ。
騎士団員のフィールはハグリッドが任務で巨人族の集落に赴いていたことを知っているため、ある程度その理由はわかっているが、何も知らないホグワーツ生達はずっと姿を現していなかったハグリッドが戻ってきたと思えば、何故か謎の深手を負って現れたことに驚愕や困惑を隠しきれないでいた。
♦️
その日、夕食を食べ終えたフィールは真っ直ぐスリザリン寮に帰るのではなく、天文台の塔へと赴いていた。というのも、朝のフクロウ便の手紙で夕食後に此処に来るよう呼び出されたからだ。
「こうして話すのは久し振りだね。元気にしていたかい?」
天文台の壁に寄り掛かるフィールの向かい側の壁に、相変わらずの爽やかフェイスで同じように寄り掛かるハンサムな青年―――ハッフルパフ7年のセドリック・ディゴリーは、スリザリン5年のフィール・ベルンカステルに微笑みかけた。
「まあ、元気にしてたと言えば元気にしてる」
新学期が始まってからフィールはOWL試験、セドリックはNEWT試験のために大量に出される課題を消化させるのと、アンブリッジの存在と前者の夜中の罰則も伴って、中々会うチャンスが作れなかった。そのため、セドリックは夜にフィールを授業以外では基本的に立ち寄ることのない天文台の塔に、不審がられないようフクロウ便を利用してこうして呼び出したのだ。
「その、大丈夫かい? スリザリンでは色々言われてるんじゃないかな」
「………まあ、居心地の悪さで言えば以前よりも格段に上がったな。中には死喰い人の親を持つ同級生から、恐らくアイツからだと思われる伝言を言い渡してくるし」
伝言の内容は、闇の陣営側への勧誘だ。
ヴォルデモートは、出来れば高い戦闘能力とカリスマ性を兼ね備えたフィールを自分の腹心に従えたいと考えているため、部下の息子に伝言を親からという建前上の言葉で伝達してくる。
無論、祖母と祖父を殺したヤツの部下になる気など彼女には当然ながらこれっぽっちもないし、あちらは恥じらいを持たないのかと疑問だが。
「そっか………大変だね」
「ああ、全くだ。アンブリッジも負けず劣らずで厄介者だし」
「あー………それは否定しない。早くホグワーツから出ていって欲しいって、僕も思うよ」
珍しくセドリックは深いため息をつく。
フィールも肩を竦め、話題を変えようと、セドリックに問い掛けた。
「そういえば、セドリックはホグワーツ卒業後、どうするんだ?」
「僕? 僕はプロのクィディッチ選手を目指すよ。ハッフルパフのクィディッチチームでキャプテンとシーカーを務めてきたし、本格的にプロの道を進みたいと思うから」
「そうか。………セドリックなら、プロの一流選手になれると思う。頑張れよ」
「ありがとう。フィールも頑張ってね」
セドリックとフィールは笑い合う。
しかし唐突に、沈黙が訪れる。
「………………」
「………………」
………先にそれを破ったのは、フィールだ。
「………セドリック」
いつになく真剣な面持ちになり、フィールはセドリックの前まで来ると、彼を見上げた。
「………そろそろ、あの日の答えを返すよ」
フィールとセドリックは至って普通に会話していたが―――その実、後者は前者に先学期に告白していた。いい加減ほったらかしにするのも勇気を出して想いを打ち明けた彼に失礼だと、フィールは告白の返事も兼ねてやって来た。
「………うん」
セドリックも視線を外すことなく、見上げてくるフィールの蒼い瞳を見下ろした。
「―――ごめんなさい」
言うと同時に頭を下げる。
告白されたあの日から、何度も考え直しては考察し、再考してみたが、結論は変わらず―――返事は、NOだ。
「………ッ」
フィールはゆっくりと頭を上げ、セドリックの端正な顔を見上げる。普段の寡黙な雰囲気はそこまで変わっていない。が、見てわかるほど落ち込んでいるのに、彼女は気付いている。
「ごめん。私はセドリックのことが嫌いと言う訳じゃない。寧ろ嬉しかった。誰かに告白されたのも、男で私を一人の女として真剣に好きになってくれたのも、セドリックが初めてだったから。
………だけど、今は誰かと恋仲になる気にはなれない」
理由は、それだけじゃない。
フィールは、魔法省からも闇の陣営からも狙われている対象だ。
もしも誰かと交際し、そのことがアイツらの耳に行き渡れば、まず間違いなくその人にも危害が及ぶだろう。親しくなればなるほど、深い関係になればなるほど、人質にされやすくなるし冗談抜きで命の危機に晒されることを仕向けてくることだって、十分考えられる。
そうなれば、辛い気持ちになるのは自分自身だし、その人の友人も悲しくなる。加えて、非難の集中放火を浴びる羽目になるだろう。これ以上責め立てられるのは、もうゴメンだ。
最後の方は自分でもアレだと思うが、残念ながらこれが現実だ。都合の悪いことに眼を背けている暇など、最早ないのだ。ならばいっそのこと、清々しいぐらいに本心に従うのが、この場合は正しいかもしれない。
結局のことを言ってしまえば、どちらを選んでも苦しむのには変わらないから。
「やっぱり、か。僕、なんとなくわかっていた。フィールが、僕のことを一人の男として好きになってくれるチャンスは一ミリたりともないって」
その言葉とは裏腹に、セドリックはどこか晴れ晴れとした笑顔だった。
「だけど、後悔はしてない。僕はフィールのことが本気で好きになって告白して、ちゃんと君から返事を聞けた。………だから、潔くキッパリ諦めるよ」
「………そう」
フィールはそっと微笑みかけた。
セドリックはそれを、どこか遠い眼で見る。
思い返してみると、クールな彼女を好きになったのは、普段見ることがない笑顔を見たからであった。
思い浮かべるだけで胸が高鳴り、その度に幸せな気分に溺れた。
………だけど、心の片隅ではわかっていた。
どんなにフィールのことを好きになろうとも、彼女が自分に恋愛感情を抱いてくれることは一ミリたりともないんだと。
だが、それでいいと思った。
フィールには、自分よりもずっと相応しい人がこの先の人生で待っているだろう。
今は魔法界の時勢から考えて誰かと恋仲になるのは困難かもしれない。
でも、きっと運命の人と出逢えるだろう。
或いは、既に出逢っているかもしれない。
自分は未来を予測・予言が可能な占い師でもなんでもないが、これだけは確信出来る。
平穏が取り戻された未来の魔法界。
その時、真にフィールの隣に立っているのは自分なんかではない………と。
「………そろそろ、寮に帰ろっか」
「そうだな。このまま此処に居てもしアンブリッジに見つかったらシャレにならないし」
フィールは軽く伸びをし、セドリックに「気を付けて寮に戻れよ」と注意を呼び掛け、彼に背を向ける。
「………………フィール」
階段を下りようとする、少女の後ろ姿へ。
青年は最後に言いたかった言葉を伝えた。
「―――今まで、僕の好きな人でいてくれてありがとう」
心の底からの笑顔を浮かべて、セドリックはフィールに笑い掛けた。
フィールはハッと立ち止まる。
セドリックに背中を見せたまま、フラれたにも関わらずそのような言葉を掛けてくれる彼に対し返す言葉がすぐには見付からず暫くその場から動かなかったフィールだったが、軈てこう言葉を返した。
「―――こちらこそ、私のことを好きになってくれて、ありがとな」
肩越しに振り返り、柔らかな笑みをセドリックに向け―――それから先は何も言わず、フィールは脇目も振らずに階段を下り、静寂に覆われた夜の城内を、気配を殺して歩き続けた。
【罰則受けるダブル主人公】
ハリーは原作通りなので説明乙。
フィールは私はそれを右から左に受け流す的にガン無視してたらデデーンとなってしまった。
それを差し引いてでもアンブリッジは苛めるのを楽しんでいたのであのピンクBBAはいつか排除されること間違いないなしのフラグを存分に立たせてしまった。
その時は皆さん、一斉にこう言いましょう。
フラグ回収乙www、と。
【SS:スリザリン戦隊】※7/1、追記&修正
中身はDAと同じの構成蛇寮生徒のみの軍団。
最初はフィールとクシェルだけで秘密の特訓させるのもよかったけど、最終決戦のことを考えて『DAがスリザリン生以外の寮生で構成されてるならその反対にスリザリン生だけの軍団作ればいいじゃないか』とのことで急遽こんな形となった。
SSは本文中でもあった通り、『スリザリン戦隊』を英語にしてその頭文字を抜き取って命名(※実は作者が昔スーパー戦隊物見てたこともあり急に戦隊が思い付いた)。
その他の理由としては、スリザリンのSとスクワッド(元々は軍隊用語で『隊』や『団』と言った個別のグループを意味している。そこから転じて『いつも一緒に居る仲間』『イカしたグループ』等の意味もある)のSを組み合わせて『SS』と表記出来るからですね。
余談ですが、『秘密結社』を英語にして頭文字を抜き取ってでもこの表記が出来ます。
【セドリックへの告白返事はNO】
だがしかし、セドリックは最後の最後までイケメンを貫き通した。本当のイケメンとは見た目も心もイケメン。
【まとめ】
今回は蛇寮団結とセドリック失恋の回。
次回はクリスマス休暇中の出来事の予定。