【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
クリスマス休暇前の最後のSSは、今までやってきたトレーニングの総復習で締めくくった。
最初の頃は動き慣れているフィール達を除いたスリザリン生が息を切らしていたウォーミングアップの回避運動も、徐々に体力がついてきてもうほとんどの人が一発も当たらず躱すくらいの反射神経を身に付け、SSのレッスンも回数を重ねるごとにレベルが上がった。
『武装解除呪文』は勿論のこと、『失神呪文』や『妨害呪文』等は全員が習得し、何人かは『盾の呪文』も完璧にマスターしたため、これならある程度襲撃されても身を護れるだろう。
今学期の鍛練を終え、メンバーが順番に帰っていく大部屋の片付けをし、最後に戻るのはリーダーのフィールだけなのだが………背後から人の気配を察し、振り返ってみると、何故かクシェルは此処に残っていた。何を考えているかよくわからない表情で、こちらを見ている。
「………クシェル?」
「フィー、色々お疲れ様」
「……ああ。クシェルもありがとな。私だけだったら、皆をあれだけ上達させるのは無理だった」
「そんなことないじゃん。フィーのおかげで皆は早く上手くなったんだから」
クシェルは微笑しながらそう言い、それからふと、いつになく真剣な顔付きになった。
「………少し、二人だけで話さない?」
「え? まあ、別に構わないけど」
フィールが頷くと、クシェルはせっせと何処かへ歩いていく。フィールは後を追い掛けた。
必要の部屋の内装はトレーニングルームから一変し、暖かな暖炉の近くに大きめのソファーが配置されているものへと変化した。
クシェルはソファーに腰掛け、フィールへ隣に座るよう促す。フィールは素直に腰を下ろし、クシェルに単刀直入で訊いた。
「それで、何の話をするんだ?」
「話って言うより、質問かな。………多分、今フィーに言っても貴女は『わからない』って答えると思う。………でも、それでも確かめたいことがあるんだ」
「………何をだ?」
「………今学期が始まってから、フィー、時々夢で魘されるようになった。でも、貴女はそのことを全く覚えてない様子だったから、あまり追求しなかったけど………でも、なんとなく、言わないとダメかもしれないって思うようになった」
初耳のフィールは、眼を見張った。
起床した早朝、時折冷や汗が全身に張り付いていた際には嫌な夢を見たのかと自覚はしつつ、どんな内容だったかは思い出せなくて………今まで知らないフリをしてきた。
「………私………魘されてたのか………?」
「うん。やっぱり、何も覚えてないんだね」
クシェルは一度視線を下に下ろす。
が、すぐに上げ、フィールと眼を合わせた。
「………貴女が魘されてる時、決まっていつも言う言葉に引っ掛かった」
「………なんて言ってたんだ?」
フィールの問いに、クシェルは口を噤む。
部外者の自分が言っても、徒らに彼女を混乱させてしまうのではと不安になったからだ。
しかし………悠長なことは言ってられない。
自分の中で、そう叫ぶ自分自身が居る。
だから―――クシェルは意を決して伝えた。
「―――『お姉ちゃん』って、いつも言ってた」
フィールにとって、クシェルから告げられた意外な単語に、一瞬時間が止まったような錯覚に陥った。
『お姉ちゃん』………何故かその台詞に、心が引っ掛かりを覚えた。
(お姉………ちゃん………?)
去年の夏季休暇中―――皆で遊びにブライトンに行った際、見知らぬ銀と黒の姉妹の光景を見たら何故か前者の後ろ姿を見て、自然と口から『お姉ちゃん』と単語が出た。
その時、一緒に居たエミリーがハッとして両肩に手を置いて問い詰めてきたのだ。
―――もしかして………思い出したの?
だけど、あの時フィールは首を横に振った。
自分でも何故そう言ったのかわからないのに、エミリーは何かを知っている様子だったので益々訳がわからず反射的にそうしたという理由もあったのだが………。
「………フィー、その『お姉ちゃん』に何か覚えはないの?」
「………わからない………私も………よく、わからない………」
フィールはこめかみを押さえ、俯く。
ブライトンで口から出たその言葉、不意に浮かび上がる白銀の少女、吸魂鬼によって引き摺り込まれた大雨の場景………。
と、そこまで考えたフィールの頭に、ある光景がフラッシュバックした。
ある日の夜。
幼い自分はベッド中で中々寝付けなかった。
思い浮かべるのは、大好きな家族の顔。
幸せな気分が、睡魔を寄せ付けない。
それからほどなくして。
ドアが音を立てて、誰かが入ってきた。
『フィール、まだ起きてる?』
そう言いながら、ベッドに近付いてきたのは。
銀髪紫眼の―――自分と瓜二つの少女だった。
「うっ……ああぁぁ………ああああ………ッ!」
フィールは頭を抱えて悶え苦しんだ。
頭に激痛が走り、呻き声を上げる。
「フィー? フィー? 大丈夫!?」
身体が硬直したと思えばソファーから落ちて頭を抱えて苦しみ始めた友人に、クシェルは慌ててソファーから下りて顔色を覗く。
冷や汗が額や首筋から噴き出し、端正な顔は苦痛に歪んでいる。クシェルは早く必要の部屋から連れ出そうと腕を掴むが、その手をフィールが振り払った。
「待って………このまま続けさせて………」
「え………?」
「その……お姉ちゃんの……人物像が……浮かび上がってきた………もう少し………時間を……ちょうだい………」
もう一度こめかみを押さえ、眼を閉じる。
意識を研ぎ澄ませ、自分の内側から滲み出ている記憶の奥底に集中した。
クシェルは息を呑み、黙って待つ。
本当はフィールに触れたいが、そうすると気が散ってしまうだろうと、グッと堪えた。
「ぐっ………うぅ………」
キリキリと激しい痛みが頭を締め付けるが、フィールは止めない。もう片方の手を床について身体が崩れないように支える。冷たい汗が頬を伝い、床に滴り落ちた。
(思い出せ………思い出せ………)
すると、ぼんやりとしていた少女の顔の輪郭だけはハッキリと浮かび上がった。
思わず気を緩めてしまいそうになるが、首を振って再び気を引き締める。
続けて、少女の面差しを探った。
上手くいけば、思い出せるかもしれない。
フィールは歯を食い縛り、痛みに耐えた。
徐々に徐々に浮上する、白銀の少女の姿。
もう少しで………誰なのか、思い出せる。
(耐えろ………あともう少しだ………)
頭痛と闘い続けた末―――先程の光景の続きが脳裏に過った。
ベッドの中に潜り込む自分の所へ近付いてくる人物に気付いた自分は、笑みを向ける。
『うん。まだ起きてるよ。どうしたの―――』
『―――お姉ちゃん』
「―――お姉ちゃん」
幼い自分が言った言葉と同じ言葉を呟いたフィールは、ハッと重い瞼を開けた。
「……ラ………シェル…………そうだ…………私には………姉が………いたん………だった……」
譫言のように囁いたフィールは、糸が切れた操り人形のように再度瞼が下ろされ、力尽きた。
咄嗟にクシェルが抱き止め、腕の中にいるフィールを見下ろす。
「………よく頑張ったね、偉い偉い」
いつしか似たような出来事を思い出しながらクシェルはヒョイとフィールを軽々と持ち上げてソファーに座ると、彼女の頭を自身の膝の上に乗せて膝枕する。
(………本当にお姉さんがいたんだ………)
これでハッキリとした事実が発覚し、クシェルは驚きを隠せず、フィールの寝顔を見る。
先程フィールがか細い声で話した『ラシェル』という人物は義姉のクリミアや従姉のシレンとは違い、血の繋がったフィールの本当の姉なのだろう。と言うことは、フィールは実質一人っ子ではなく、姉妹がいたという意味になる。
だが………その姉のことを今まで忘れていたなんて、余程の出来事が過去にあったのだろうかとクシェルは険しい顔付きになる。
とにかくこれで、一つの謎が解けた。
あとは一部の記憶を失くしているらしいフィールが全てを思い出したら、万事解決だ。
♦️
ハリー達の学生組織DAの訓練最終日の夜。
フィールの目の前に炎が現れ、一枚の羊皮紙が金色の尾羽と共にヒラヒラと舞い降りた。
それを手に取って見ると、不死鳥の騎士団の緊急召集であった。校長室に急行するようダンブルドアからメッセージが届き、驚いたことにクシェルも連れて来るよう書かれている。
横から覗いたクシェルと顔を見合わせ、二人は寝間着から制服に光の速さで着替えると、万が一アンブリッジと出会した場合を見据えて羊皮紙に記されている合言葉を覚えてから跡形もなく焼失させ、『目くらまし術』を掛けてスリザリン寮から出ていった。
校長室へとやって来たフィールとクシェルは、ダンブルドアとマクゴナガルだけでなく、ハリーとロンも居たことに眼を丸くした。
「校長、何かアクシデント発生ですか?」
騎士団員のフィールがそう尋ねると、
「アーサーが任務中に襲われたのじゃ。今、エバラードとディレスが確認に向かっておる」
アーサー―――ウィーズリー家の大黒柱で騎士団の団員の男性だ。確か、今晩彼は神秘部の廊下を監視する任務に就いていたはずだ。その最中に何者かに襲われたということだろうか。
「ダンブルドア!」
突然、歴代校長の肖像画の一つから、切羽詰まった声が聞こえてくる。
エバラードとディレス―――どちらもホグワーツの歴代校長で最も有名な二人だ。そして高名故に二人の肖像画は他の重要な魔法施設にも飾られている。自分の肖像画であればその間を自由に往き来出来るので、それを利用したのだろう。
「誰かが駆け付けてくるまで叫び続けましたよ。皆半信半疑で確かめるように下りていきました。下の階に私の肖像画はないので、確認には行けませんでしたが………ともかく、まもなく皆がその男を運びました。症状は良くない。血だらけだった」
「ご苦労。なれば、ディレスがその男の到着を見届けたじゃろう」
エバラードの報告を聞いたダンブルドアが冷静に言った直後、ガラ空きだった肖像画に駆け戻ってきた魔女・ディレスが今度は報告した。
「ええ、ダンブルドア。皆がその男を聖マンゴに運び込みました。………酷い状態のようです」
聖マンゴ―――と聞き、フィールは何故自分の他にクシェルを呼んだのかにピンときた。
「ご苦労じゃった」
ダンブルドアは歴代校長達に礼を言うと、マクゴナガルに眼を向けた。
「ミネルバ、ウィーズリーの子供達を起こしてきておくれ」
「わかりました………」
マクゴナガルはすぐさま校長室を出ていく。
クシェルはチラリと二人を窺うと、ロンが怯えたように顔を強張らせていたため、二人の側に寄り、彼を励ます。
それを横目に、フィールはダンブルドアと対話した。
「クリスマス休暇中は帰省させるため、私達を此処に呼んだのですか?」
「そういうことじゃ。後々聖マンゴへウィーズリーの子供達を向かわせるため―――」
「聖マンゴにはクリミアとライリーさんが就職しているから、二人と連絡を取り合うためにも、私達を呼び出したということですね?」
今年から癒者の卵として聖マンゴ魔法疾患傷害病院に就職したクリミア。去年のクィディッチ・ワールドカップ決勝戦の医療班リーダーに選抜されたライリー。
不死鳥の騎士団のメンバーであり尚且つ二人と連絡を取り合えるフィールの他に、聖マンゴの建物内を熟知しているクシェルも居た方が動きやすいとダンブルドアは考えたのだろう。案の定彼は小さく頷いた。
「アーサーは既に聖マンゴに運び込まれておる。君達をシリウスの家に送ることにした。病院へはその方が隠れ穴よりも便利じゃからの」
ダンブルドアは三人の背後にある戸棚から黒ずんだ古いヤカンを取り出し、机の上にそっと置くと、
「
と唱えた。
ヤカンが一瞬震えて青い光を発し、震えが止まるとまた元の黒さに戻った。
「校長、それは………いや、どうせ許可を得るだけ無駄か」
ダンブルドアは緊急で移動キーを作った。
だが、移動キーの勝手なる作成は犯罪だ。
しかし、その許可を得るための魔法省とは決別していたのを思い出したフィールは、これが正しい選択だと割愛した。
「そうじゃよフィール。無駄な行為じゃ」
ダンブルドアは別の肖像画に歩み寄る。
その肖像画はブラック邸で見たことがあったので、ブラック家の血筋を引いている歴代校長なのだろう。
「フィニアス、フィニアス」
しかし、その肖像画は反応しない。
が、寝ているように見えて、その実起きているのだろう。
「フィニアス! 貴殿は不服従ですぞ!」
「我々にはホグワーツの現職校長に仕えるという盟約がある!」
他の肖像画もダンブルドアと共に叫び、狸寝入りをしていた肖像画―――フィニアス・ブラックは、芝居が掛かった身振りでそれまで閉じていた眼を開いた。
「誰か呼んだかね?」
「フィニアス、貴方の別の肖像画をもう一度訪ねて欲しいのじゃ。また伝言があるのでな」
「ほうほう、わかりましたよ。ただ、アイツがもう私の肖像画を破棄してしまったかもしれませんがね。何しろアイツは家族のほとんどを―――」
「シリウスは貴方の肖像画は処分すべきではないことを理解しておる」
フィニアスが口実する前に、ダンブルドアがさらりと遮って伝言を託した。
「『アーサーが重傷で、妻、子供達、ハリー、クシェルが間もなくそちらの家に到着する。護衛にはフィールが就く』。よいかな?」
「アーサーが負傷、妻と子供、ハリー、クシェルが滞在。護衛がフィール。………誰だ? その護衛とやらのヤツは」
「私だ、フィニアス元校長」
フィールが軽く手を挙げる。
フィニアスはネクタイの色を見て、自身の出身寮のスリザリン生徒がガーディアンと知り、怪訝そうに眼を細める。
「まだ小娘じゃないか。………それに、そのネクタイの色は―――」
「フィニアス」
ダンブルドアは静かに圧力を掛ける。
フィニアスは気乗りしない様子で、肖像画の奥へと消えていった。
次の瞬間、校長室の扉が開き、ウィーズリー兄妹がボサボサ頭にパジャマ姿でマクゴナガルに導かれて入ってきた。
「ハリー、マクゴナガル先生は貴方がパパの怪我する所を見たって仰るの―――」
「お父上は不死鳥の騎士団の任務中に怪我をなさったのじゃ」
ジニーの言葉にハリーが答えるよりも先に、ダンブルドアが答える。
「お父上はもう聖マンゴ魔法疾患傷害病院に運び込まれておる。君達をシリウスの家に送ることにした。病院へはその方が隠れ穴よりもずっと便利じゃからの。お母上とは向こうで会える」
「どうやって行くんですか?
珍しくフレッドが敬語で話し掛けた。
それほど動揺しているらしい。
「いや、煙突飛行粉は現在監視されていて安全ではない。移動キーに乗るのじゃ」
ダンブルドアは机の上のヤカンを指差す。
瞬間、部屋の真ん中に炎が燃え上がり、その場に一枚の金色の羽がヒラヒラと舞い降りた。
「フォークス―――わしの飼っとる不死鳥からの警告じゃ。アンブリッジ先生が、君達がベッドを抜け出したことに気付いたに違いない………ミネルバ、適当な作り話でもして、足止めしてくだされ」
マクゴナガルはまたまた校長室を出ていく。
「アイツは喜んでと言っておりますぞ」
視線を向けてみると、いつの間にか肖像画にフィニアスが戻っていた。
「私の曾々孫は家に迎える客に関して、昔からおかしな趣味を持っていた」
「さあ、此処に来るのじゃ。邪魔が入らぬ内に」
ブラック邸が安全地帯と確認すると、ダンブルドアは子供達を呼ぶ。
全員が机の周りに集まると、
「移動キーは使ったことがあるじゃろな?」
そう問い掛け、皆が頷く。
「よかろう。3つ数えてからじゃ。フィールよ、後を頼むぞ」
「わかりました。責任持って護衛します」
「では………1………2―――」
その時、ハリーがダンブルドアを見上げた。
「―――3」
そして、ハリーから濃厚な殺気を感じ取った。
フィールはゾクリと背筋に悪寒が走る。
移動キーは発動したので、手は放せない。
次に地面に足がついた時には、グリモールド・プレイス12番地の薄暗い地下の厨房に到着していた。
フィールはヤカンが落ちた音など耳に入らない勢いでハリーが立ち上がる前に、その胸ぐらを掴んでいた。
「おい。さっきのアレはどういうことだ?」
ハリーは訳がわからないという表情で、フィールの鋭い眼差しを見返す。
「アレって………?」
「殺気だ。一瞬、アンタからダンブルドアに対する凄まじい殺意を感じた」
「え、な、なんでフィールがそれを? いや、待ってくれ、違う。アレは僕の意思じゃない!」
ハリーは激しく動揺し、フィールへ叫ぶ。
一体何事かと、ウィーズリーブラザーズとクシェルがこちらを向き、後者は友人がもう一人の友人を脅迫していると捉えたのか、慌ててその腕を掴んだ。
「フィー、怖い顔してどうしたの………?」
「………いや、なんでもない。とにかく、シリウスが来たようだし、何があったのか説明しろ」
フィールがハリーから手を放すと、慌ててこちらまでやって来たシリウスに事情を話す。
それからは全てハリーに丸投げし、彼はポツリポツリ語り始める。
どうやら、ハリーはアーサーが蛇に襲われる場面を夢で見たらしい。それは事実だ。アーサーは蛇に襲われて重傷なのだから。
「ママはもう来てる?」
フレッドがシリウスに訊いた。
「多分まだ、何が起こったかさえ知らないだろう。アンブリッジの邪魔が入る前に君達を逃がすことが大事だったんだ。今頃はダンブルドアがモリーに知らせる手配をしているだろう」
「聖マンゴに行かなくちゃ」
ジニーが急き込んで言った。
全員を見回し、スリザリン組以外の皆がパジャマ姿なのに気が付いた。
「シリウス、マントか何か貸してくれない?」
しかし、シリウスは首を横に振った。
フィールもシリウスに同意見だ。
「落ち着け。皆の気持ちはわかるが、今すぐ聖マンゴに行く訳にはいかない」
「俺達の親父だ! 落ち着けるか!」
フレッドがフィールを睨み付ける。
今度はシリウスが口を開いた。
「アーサーが襲われたことをまだ何も知らせていないのに、君達が知ってるなんて、どうやって説明する気だ?」
「そんなことどうでもいいだろ?」
兄に続いてジョージがムキになった。
「バカ野郎、どうでもいい訳あるか。ホグワーツから魔法省までどれだけの距離があると思う? 遥か彼方で起きた出来事を、事件直後に私達が知ってるなんて、魔法省がこのことを知ったら尚更パニックが広がるだけだろ。……騎士団での任務は常に『死』と隣り合わせだ。団員は一人一人、それを承知してる上で、危険な仕事に出向いている。アンタ達はそれを一時期の私情に駆られて、騎士団のためにも労力を費やした父親の努力を台無しにする気か?」
フィールが説得するようにそう言うが―――フレッドとジョージが怒鳴り声を上げた。
「騎士団なんかクソ食らえ!」
「俺達の親父が死にかけてるんだ! 親のいないお前に俺達の気持ちがわかるか!」
シン………と厨房内は静まり返った。
思わず暴言を吐いてしまったジョージは慌てて口元を押さえるが、時既に遅し。
フィールの顔から血の気が引き、瞳からスッと輝きが失せた、絶対零度のものとなる。
言葉の意味を理解したシリウスがジョージをぶん殴ろうとするが、フィールが止めた。
「……………ああ、そうだな。私には、父親も母親もいない。両親がいる人の気持ちなんて、理解出来ないのかもな」
恐ろしいくらいに冷たくて鋭い声音。
ジョージは謝ろうとしたが、フィールがその時間を与えなかった。
「クリミアとライリーさんに早めに連絡するか。
杖先から白銀の狼が飛び出してくる。
フィールは狼に伝言を託し、狼はブラック邸を駆け抜けて姿を消した。
「とにかく、これで安心しただろ。私の役目はアンタ達の護衛だ。直にあっちからの伝言が来る。だから此処で大人しくしろ」
「あ、ああ………」
さっきまでの反抗的な態度は嘘のように消え、素直に厨房の椅子を引いて座る。ハリーはまだ顔面蒼白して静かに座っていた。
「………その、さっきは悪かった………」
「は? 何のことだ?」
そうは言うが、フィールの瞳は冷たい。
明らかに傷付いているのを物語っている。
「訳わかんないこと抜かすくらいなら、父親の心配をしろよ」
口調が更に辛辣なものとなり、ビクッとする。
時折見せるこの冷ややかな冷たさは、紛れもなくフィールだけが持つものだ。
「………………」
シリウスはガラリと変わったフィールの冷酷な空気をビシバシと当てられ、今まであまり考えてなかったあの会議のことを思い出した。
それは―――子供達が寝静まり、ベルンカステル兄妹とベイカー夫妻を除いた騎士団のメンバーで開かれた『密命』を背負う者を選定したあの日のこと………。
♦️
「―――とのことらしい」
マッド・アイ・ムーディの重い声音。
それは、フィール・ベルンカステルの過去を今初めて知った者達にとって、この上なく重たいように感じられた。
「マッド・アイ、それ、本当なの?」
トンクスが信じられないという面持ちで、ムーディに尋ねる。
「ああ。ダンブルドアから聞いた話だ。本当のことだろう。………わしも信じられん。アイツが幼くしてあの手を血で染めたなど………」
そこまで言ったムーディは、全体を見渡す。
「それから、このようなことも言っておった」
それは、ダンブルドアが『開心術』を使ってハリーが占い学の教師シビル・トレローニーの予言を聞いた記憶を覗いた際………闇の帝王復活の予言と共に、もう一つの予言を告げていたとのことだ。
『今から約2年後………闇の帝王の暗躍と同じにして、力ある者が呪縛から解き放たれる。その者はこの世界に光をもたらす可能性を秘めておるだろう。しかし、忘れてはならぬぞ。力ある者が目覚めの刻を迎えるその日、多大なる代償を支払うことになるというのを………』
光か闇か。
進むべき道はどちらになるのだろうか。
その予言が告げられたのは、2年前。
その予言が示していた年は、2年後。
つまり………ちょうど、今年である。
闇の帝王の暗躍はまさにその通りだ。
だが、力ある者とは………一体誰のことを指しているのだろうか。
「力ある者とは、恐らくはアイツのことだろう。光をもたらす可能性を秘めておる………もしかすると、アイツは本当にヴォルデモートが存在するこの魔法界に希望を作り出す者となる。だが、覚えておけ」
ムーディは杖を一突きし、静かに語る。
「………もし、もしもだ。アイツが闇の道に身も心も堕とした場合を見据えてみろ。その時、この魔法界は更なる絶望と恐怖に震撼するだろう」
だからこそ―――と、次の瞬間。
ムーディの口から、衝撃的な発言が飛び出してきた。
「―――フィール・ベルンカステルが我々の脅威となった場合は………この世から消すことだ。その役目を担う者を、今から決めるぞ」
【ラシェルを思い出したフィール】
だがまだ記憶は完全ではない。
【ブラック邸にレッツゴー】
そこでちょっとトラブル発生。
【密命】
闇の道に堕ちたらフィールを抹殺。
1章以来のオリ主ログアウトの話題。
【まとめ】
今回は騎士団内で秘密の約束してたの回。
次回は聖マンゴへレッツゴーの回。