【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
ムーディからの爆弾発言に、会議室から一切の音が消えた。
ただただ流れる、嫌な静寂。
しばらくは誰一人として言葉を発することなくムーディを見つめていたが………。
「マッド・アイ、それは流石に止してくれ!」
ルーピンが真っ先に抗議の声を上げた。
続いてルーピンと同意見のシリウスも頷く。
「リーマスの言う通りだ。頼むから、フィールを抹殺するなんて行為は止めてくれよ!」
「あの娘を殺したら、どれだけ多くの人が悲しむか貴方にはわかっているでしょう!?」
しかし、ムーディの反応は冷淡だった。
「お前達の言いたいことは、痛いくらいにわかっておる。わしだってアイツを殺したくなどない。だがな………アイツが誰かを嬉々として人を殺すヤツになった時、果たして今と同じことが言えるか?」
ムーディからの『IF』の問い掛けに。
ルーピンとシリウスは押し黙った。
フィールの、殺した人間の返り血を浴びた、冷たい微笑み。
その光景を想像したら―――フィールがフィールではないと思うに違いない。
「安心しろ。アイツが闇の道に堕ちなければ、殺したりなどはせん。これは万が一を見据えてだ。アイツが味方である限りは我々にとって即戦力であるが、敵となればこの上なく厄介者となるだろう。………お前達には、この任務を任せん。断るのは流石のわしでもわかっておるし、仮に引き受けたとしても引き受けたフリをするのは容易に想像がつく。わしらの誰かが密命を帯びるが、時と場合次第では他の者が実行することを許可する。それでいいな?」
「待ってくだ―――」
ダンッ!
と、杖で床を突く音が響く。
ルーピンはビクッとし、口を噤んだ。
静かになったところで、ムーディは他のメンバーと会議する。中にはムーディにどこか非難の眼差しを向けつつ会議に参加する人が見られ、どちらかと言えば荒れた密会である。
結果的に使命を背負ったのは、ムーディだ。
彼なら躊躇せずに全うするだろうとの評価で、他薦とも押し付けとも言える形で決定した。
♦️
密談の夜の日を口には出さないであれこれ思い返していたシリウスは、やるせない気持ちでフィールに視線を向ける。
シリウスやルーピンはフィールをこの世から消すというムーディの役目に異を唱える派なので、此処に居る間は出来るだけ眼の届く範囲で見守るようにはするが………。
「………なんだ、シリウス」
視線に気付いたフィールが、怪訝な顔でこちらを見てきた。
「あ、いや、なんでもないさ」
(フィールだけじゃなく、ライアン達にも隠し事をするのは気が進まないが………)
今は野暮なことはしたくないと気持ちを切り替えたシリウスは咄嗟に笑いかけた。
フィールは少し勘繰るようにじっと凝視していたが、ほどなくして、クリミアかライリーからの返事が来るのを待つべく、杖を片手に壁に背を預ける。
「ところで、聖マンゴにはいつ向かうんだ?」
「とりあえず、モリーから連絡が来るまでは此処でじっとして待機しなきゃいけない」
「了解。………シリウス、何か飲み物ないか?」
こそっとフィールがそう訊いてきた。
ウィーズリー兄妹達の曇った顔を見て、気分転換になれるような物はないかというフィールなりの励ましてやりたい気持ちを察したシリウスは、
「そうだな。ビールでも飲んでリラックスするか。
杖を振るって『呼び寄せ呪文』を唱えると、食糧庫からバタービールが人数分飛んできた。全員の手元に行き渡り、彼等はジョッキに口をつけて甘く温かい飲み物を喉に通す。
フィールもバタービールを飲みつつ、アクシデントが発生してもいつでも対応出来るようにスタンバイした。
しばらくして、銀色の大鷲がやって来た。
大鷲の守護霊―――クリミアからだ。
フィールとシリウスは顔を見合わせると、大鷲からの伝言を聞いた。
『アーサーさんはまだ生きているわ。モリーさんが聖マンゴに来て、出来るだけ早く知らせを送るからそれまで待っていて………とのことよ』
まだ生きている。
それはすなわち、今にも死にそうだという意味を遠回りで表現している。
全員がそのことに気付いたらしく、サッと顔面蒼白する。その後は押し黙り………時間が刻一刻と過ぎていくのを辛抱強く待った。
フィールはふと、椅子に座っている彼らの方に視線を走らせ―――ジニーが今にも泣きそうなのを認めると、彼女の側に行き、頭を抱えて優しく撫でる。
「大丈夫だ、アーサーさんは死なない。………泣きたかったら、存分に泣けよ」
その言葉にジニーは思わず涙腺が脆くなって本当に泣き出してしまい、フィールの胸に顔を埋めてギュッと抱きついた。胸元が涙で濡れるのを厭わなければ嫌な顔一つせず、ジニーの背中を撫でて落ち着かせる。
(………やっぱり………)
昔と比べると、今のフィールは断然性格が変わったと、シリウスはライアン達から聞いた話を基にそう思った。昔のフィールは他人に物凄く冷たく、誰に対しても信頼しないような、自ら独りを選ぶ性格だったらしい。
だが、今はそれとはまるで反対だった。
孤独や苦しさを知っているからこそ、他人の痛みがよくわかる。
だからこその、こういった行動。
シリウスは、内心で改めて強く思う。
やはり、フィールを抹殺するなんて意見は撤回して欲しい、と。
それから数時間が経過した。
そろそろ明け方だという時刻になった頃、厨房のドアが開いた。
そこに立っていたのは、モリーだった。
皆は一斉にモリーを見る。
モリーの顔色は優れなかったが、皆を見渡して力なく微笑む。
「大丈夫ですよ。お父さんは眠っています。後で皆で面会に行きましょう。今は、ビルが様子を看ています」
フレッドは両手で顔を覆い、ドサッと椅子に戻った。ジョージとジニーは立ち上がり、モリーに抱きつく。
「さあ、朝食を食べるか」
シリウスは、嬉しそうに大声で言う。
朝食は既にフィールが作ってくれててテーブルの上にズラリと置かれている。皆は椅子に座り直し、料理に手を伸ばした。
「シリウス、子供達を一晩中見てくれて本当にありがとう」
「なに、役に立てて嬉しいよ。アーサーが入院している間は此処でゆっくりするといい」
「まあ、シリウス。とても有り難いわ。アーサーはしばらく入院することになると言われたし、なるべく近くに居られたら助かるわ。………その場合は、クリスマスも此処で過ごすことになるかもしれないけど」
「大勢の方が楽しいさ」
シリウスはクールに答えつつ、心底嬉しそうな声音だったので、モリーはニッコリ笑う。
それからふと、フィールに眼を向けてシリウスにこそっと訊いた。
「………フィールは一晩中どうしてたの?」
「普段と変わらないさ。護衛として、此処で子供達のガーディアンを務めてくれた」
「そう………なら、よかったわ」
モリーはどこか安心したように笑み、シリウスは少しハンサムな顔を暗くさせる。
なんだかあの密談以来、フィールに対する警戒感を容易く感じ取るようになった。
ライアン達が言うにはあれは事故だったと言ってたみたいだが………シリウスは、当時のフィールの気持ちが少しはわかるつもりだった。
それはひとえに、自分も似たような思いを今でも抱いているからなんだろうが………どうやら他の人からすれば、敵意を持ってしまうものらしいと、シリウスは他人との相違の考え方に反りが合わなそうな気分になった。
その後は全員がそこそこの食事を口にし、午前中は夏季休暇中にそれぞれ寝泊まりした部屋で仮眠を取った。フィールは昼食用の軽食を前もって作ってから体力回復のため休息を取る。
昼食を食べ終える頃にはホグワーツから全員分のトランクが届けられた。パジャマ格好、制服の彼ら彼女らはすぐに私服へ着替える。
「全員揃っとるか?」
不意に厨房の扉が開き、ロンドンの街中を同伴するムーディとトンクスが姿を現した。
ノック無しの二人の登場に、フィールは反射神経を活かして本能的に杖を向ける。
「なんだ!? わしに杖を向けるとは!」
ムーディもまた素早い杖さばきで『切断呪文』をフィールに放つ。フィールはまさかの攻撃にビックリしながらも咄嗟に避けた。
が、僅かに頬を掠り、つと血が一筋流れる。
ムーディが当て損なった魔法はフィールの後ろの壁に衝突し、軽く壁に切り跡を作った。
「………………」
フィールは頬に手を当て、手のひらが血液で紅く生暖かい感触を感じ、不愉快そうに端正な顔を歪めた。
今のはまだ顔だったからよかったのだが、これが首であったら致命傷となっていたに違いない。
「ちょっ、マッド・アイ!」
トンクスは慌ててムーディに眼を剥く。
シリウスとモリーもサッと蒼白し、子供達もムーディの行動に驚愕した。
「………今の、結構強めでしたね」
杖を頬に当てて治療したフィールは責めることはしなかったが、ジト眼で睨んだ。
「ああ………すまんな」
「ま、私も悪かったのでお互い様ですけどね」
あっさり許したフィールは杖を仕舞い、黒いジャケットを羽織る。彼女は騎士団の任務中は白いワイシャツに黒のネクタイ、黒のスカートを着衣していて、今回は前回の真夏日と違って冬の時期なので、寒くならないようジャケットを羽織りストッキングを履いていた。
「ポッター達の護衛をダンブルドアから頼まれたので来たんだ。ほれ、早く出発するぞ!」
「? 魔法的手段じゃないのか?」
「まあね。『付き添い姿くらまし』じゃ、皆には早すぎるし。地下鉄を使うわ。皆、マグルの服装は着ているわね?」
「ニンファ………いや、トンクスだったか。アンタが一番目立ってるぞ」
トンクスのヘアカラーは鮮やかなピンク色をしている。トンクスは微笑し、笑いを堪えるように山高帽を少々奇妙に被っているムーディを見た。
皆もそれに気付いたらしく、地下鉄ではトンクスよりもムーディの方が間違いないなく目立つと請け合う。
それからフィール達はロンドン市内へと向かう電車に乗り込み、ロンドンの中心部にある駅で降りる。そこからは徒歩で移動し、ロンドン市内の『パージ・アンド・ダウズ商会』という流行遅れのデパートの前に着いた。
そのデパートは今も営業されている様子はこれっぽっちもなく、ショーウィンドーにマネキンが数体てんでんばらばらに立っている。
と言っても、これはマグル避けのためだ。
トンクスがマネキンに話し掛けると、マネキンは小さく頷き、手招きした。
トンクスはジニーとモリーの肘を掴み、ガラスを真っ直ぐ突き抜けて姿を消す。ウィーズリー兄弟もその後に続いた。ムーディはハリーの背中を押して中に入るよう促し、最後にスリザリン組の二人が足を踏み入れる。
中は病院の受付場だ。
グラグラした感じの椅子が何列も並び、魔法使いや魔女が座っている。患者も様々だ。見たところどこも悪くなさそうな人もいれば、身体から余分な腕が生えている不気味な姿形の人もいたりと多種多様である。
ハリーは初めて入る聖マンゴの敷地内をキョロキョロ見回し、近くに居た、胸にある杖と骨がクロスした図柄の紋章が入ったライムグリーンのローブを羽織る人達を指差しながら、クシェルに話し掛ける。
「あの人達は
「
「へえ………そうなんだ」
初見のハリーにわかりやすく教えていると、
「皆、来たようね」
聖マンゴのユニフォームローブを羽織ったライリーが駆け付けてきて、その隣には見習い癒者のクリミアも居た。二人が大怪我を負ったアーサーの担当癒者、研修癒だ。
「ライリー、アーサーの容態は?」
「今は安静にしているから大丈夫よ」
それから、ライリーはフィールの顔色を覗く。
「フィールちゃん、大丈夫だった?」
『闇の魔術に対する防衛術』がアンブリッジであるという情報はライリーもクリミアも聞き及んでいたので、二人はフィールのことが心配だったのだ。
「それなりには。………それと―――」
フィールはライリーとクリミアに小声で、
「後でクリミアとライリーさんに話したいことがあるんだけど………いいか?」
「? ええ、いいわよ?」
クリミアが首を傾げつつ頷いた時。
グッ、とライリーが何故かフィールを自分側へ引き寄せた。
「わっ、ライリーさん………?」
「………………」
ライリーは無言で、チラッとムーディを見た。
今、ムーディがフィールに近寄ろうとした気配を察し、気付いた時には彼女を抱き寄せた自分の行動に構わず、内心である不安や憤りを渦巻かせていた。
(………正直、アラスターにだけはフィールちゃんを近付けたくないわ―――)
♦️
それは、ある夜中のことだった。
なんとなく目が覚め、厨房に行って水でも飲もうと静かに部屋を退室してそっと地下に向かった時、ドアの隙間から光が漏れていて、中からざわざわとざわめく複数の人の気配を察知して首を捻った。
(あら? おかしいわね………今日の会議は全部終わったはずじゃ………?)
正確な時刻まではわからないが、間違いないなく深夜を回っているはずだ。興味津々な子供達が盗み聞きしないよう寝静まる夜に開くという理由なら納得がいくが、ついこの間に全体情報なら伝えるのを許可したはずだし、第一大人であるはずの自分やイーサンに、この時間帯で会議するとは一言も聞いていない。
なんとなく、ライリーは足音を立てないようそっとドアに近付き、聞き耳を立てる。
盗み聞きは行儀悪いと思うが、扉を開けて話を中断していいような雰囲気ではなさそうなのでタイミングを計ろうと思った。
が、そのまま聞いていく内に―――ムーディからの衝撃的な発言を聞いてしまった。
―――フィール・ベルンカステルが我々の脅威となった場合は………この世から消すことだ。その役目を担う者を、今から決めるぞ。
思わず「なんですって!?」と叫びそうになり、ライリーは自分の口を手で押さえた。
(フィールちゃんを………この世から消す?)
随分遠回りな言い方であるが、つまりは抹殺すると言ってるのだ。まさかの、現在会議室で開いているのは単なる話し合いなんかではなく、あろうことか、親友の忘れ形見の命を絶たせる者を決めるための密談だったのだ。
(嘘でしょ? どうしてそんなことを………?)
ショックで唖然としている暇に、ルーピンとシリウスが抗議する声が聞こえてきた。彼らも陰で聞いているライリーと同じく、ムーディの爆弾発言に愕然としている様子だった。
しかし、ムーディからの問い掛けにその二人は押し黙り、淡々と彼はなんてこと無さげに事を進めた。
他のメンバーも喫驚しているはずなのだが、協議に参加している。
最終的に密命を帯びたのはムーディだが、場合によっては他の者がフィールを屠るよう命じ、彼らは渋々了承した。
最後に、このことはベルンカステル兄妹とセシリア、ベイカー夫妻、そしてクリミア、ルーク、シレンには絶対に内密にするようにと念を押して、その場は解散となった。
ライリーは後退り、気配を殺しながらも急いで部屋に戻り、扉を閉めたら未だに心臓が高鳴る胸に手を当てて、高ぶる気持ちを鎮めようと努力した。
(何なの………これは………)
断片的に話を聞いただけなので、詳細はよくわからない。
しかし、聞こえてきた内容からして、フィールが闇の道に進んで光の陣営―――不死鳥の騎士団にとって『敵』という存在に堕ちた瞬間、殺害することを決定事項としている。
長年殺人者を相手に幾度も渡る激戦を潜り抜けてきたムーディに限って、冗談でフィールを殺すなんて発言はするはずがない。
間違い無くあの言葉は本気だ。
彼は密かに彼女の寝首を掻き取るチャンスを窺っている。否、下手すれば、自分達を除いた大人達全員もフィールを殺す瞬間を待ち構えているかもしれない。
(クラミー………ジャック………)
ライリーはズルズルと座り込み、頭を抱え、今は亡き親友二人の顔を思い浮かべる。
(一体………どうすればいいの………?)
♦️
ムーディが密命を実行するのは、フィールが闇の道に堕ちて自分達と敵対することになった時。
だから、フィールがそうならなければいいのだが………このまま上手くいくとは、ライリーには思えなかった。
「ライリー、アーサーの病室を案内してくれ」
そんなライリーの苦悩は露知らずのムーディはしれっとした感じで、見舞いしに来た人物の割り当てられた部屋を訊く。
「………ええ、わかったわ」
ライリーは至って普通に返事をし、フィールの肩から手を離して、ムーディ達をアーサーの病棟へと連れていった。
2階にある、『「危険な野郎」ダイ・ルウェリン記念病棟―――重篤な噛み傷』。
此処が、アーサーが入院している病棟だ。
フィール達不死鳥の騎士団の正式メンバーは家族の面会後に重大な話をするため、入室するのは後にした。ウィーズリー一家と他二人が病室へ入るのを見届けると、フィールは腕を組んで壁に背を預けて一息つく。
「ダンブルドアからある程度事情は聞いておる。昨夜は一晩中ご苦労だったな」
「苦労も何も、一応私も騎士団の一員だし、限り無くハリーに近いのも私ですからね」
「おかげでわしらは助かっておる。これからもハリーを頼むぞ、フィール」
ムーディはフィールの肩を叩いて太鼓判押すように言ったが―――ライリーにはどうしても、何も知らないフィールを建前の言葉で騙しているようにしか見えなかった。
「………ライリーさん? どうしたんですか?」
さっきから怖い顔を崩さないライリーに、恐る恐るクリミアが声を掛けた。
その声に、ライリーはハッとする。
そうだ………クリミア達は、このことを知っていない。
否、知らせていないと言うのが正しい。
ライリーは、あの夜盗み聞きした内容をクリミア達には伏せていた。
時々、クリミア達にも伝えるかどうか苦悩するのだが………過剰なくらいフィールのことになると過保護になるライアンやエミリーにこのことを説明したら、徒らに彼らを今後不安にさせるだろうし、何よりもムーディ達と接する際に神経質になり過ぎて、逆にバレてしまう可能性がある。
無口無表情で何を考えてるか悟られないように振る舞えるフィールと違って、ライアンやエミリーは演技派ではないし嘘をつくのがつくづく下手だ。
ならば伝えない方が懸命だと、ライリーは自分の胸の内側だけに仕舞うことにしたのだ。
「いえ、なんでもないわ。ちょっと考え事をしていただけよ」
貼り付けの微笑みを作ったライリーは咄嗟に誤魔化しつつ、拳を胸の前で握り締める。
(大丈夫よ………いざとなれば、私がフィールちゃんを護るから)
緑色のローブの内側ポケットに仕舞っている、一枚の写真。
それは―――学生時代の頃の仲良し四人組を撮った大切な思い出の品。
その写真の中に、亡き親友は写っている。
二人が亡くなった今でも尚、ライリーは二人への友情は自分の心の中で、揺るぎないものとして生き続けると信じている。
だから、自分が護らないでどうするんだ。
親友の忘れ形見の娘を今度こそ護ってみせる。
それが―――墓石で二人に誓った約束だ。
絶対に、フィールを殺させはしない。
たとえそれが、味方さえも敵に回すとしても。
「行くぞ」
数分後、扉が開いてウィーズリー兄妹達が出てきたので、入れ違いでムーディ達が入る。最後に入ったフィールは『遮音呪文』を掛けて、好奇心旺盛な彼らが盗聴出来ないようにした。
ライリーは、一番奥の小さな高窓の側にあるベッドの上に寝ているアーサーの容態を診た。
「呼吸脈拍共に正常よ。大量出血と蛇の特殊な毒が厄介だけど、それさえ良くなれば帰れるわ」
「そう、その蛇なんだけど―――隈無く探したんだけど、何処にも見つからなかったらしいよ。アーサー、貴方を襲った後、蛇は消えちゃったみたい」
「消えた? どういうことかしら………」
トンクスの言葉にモリーが疑問顔になる。
「とりあえず………ほぼ確定なのは、アーサーさんを襲ったのはヴォルデモートの蛇ってことくらいでしょうね」
「なんだ? ヴォルデモートの蛇を知っとるのか?」
「知ってると言うよりは見たことがあるですね。去年開かれた三大魔法学校対抗試合の第三の課題で墓場に連れていかれた時、大蛇が私の身体に巻き付いてきましたから」
「おい、噛まれてなどおらんな!?」
「噛まれてませんよ。むしろ噛まれてたんなら、とっくに私は死んでて此処には居ませんから」
「………なら、よかったわい」
ムーディはホッと安堵の息を吐く。
「あ、ちょっと私達抜けるわね。話は続けて構わないわ。後で私達にも教えてちょうだい」
ライリーはフィールとクリミアを引っ張り、部屋の隅に連れてくる。ムーディ達は訝しい表情だったが、深入りはせず、会話を続けた。
「それで、フィールちゃん。私達に話したいことって何かしら?」
小声でライリーが尋ねると、
「………あのさ。私、数日前に少しだけ思い出したことがあるんだ」
「思い出したこと?」
コクリ、とフィールは頷く。
「うん………私の双子の姉―――ラシェル・ベルンカステルのこと」
予想外過ぎた、フィールの衝撃的な言葉に。
クリミアとライリーは同時に眼を見張った。
♦️
12月25日、クリスマス当日。
フィール達は再び聖マンゴに訪れていた。
勿論、それは入院中のアーサーの見舞いのためなのだが………。
「はぁ………めんどい………」
フィールは珍しくイライラした声音で、通路を歩いていた。
今、彼女達が向かっているのはギルデロイ・ロックハートが居る病棟である。
なんでも、ハリー達がアーサーの見舞いをしに来た時に廊下を歩いていたロックハートを見つけて声を掛けた所を、近くに居た癒者が見舞い客だと勘違いして彼の割り当てられた病棟まで案内されることになったとか。
「まあまあ、落ち着いて」
クシェルは苦笑しながら、傍から見てもわかるくらいにイヤな表情を浮かべるフィールを窘めてハリー達の後ろを歩く。
「………………」
フィールは、ふと、足を止めた。
あまり意識していなかった―――『ヤヌス・シッキー病棟』という5階の隔離病棟。
何故か、この廊下には見覚えがあるなと、さっきから胸中で渦巻いていた疑問。
それが、今、ようやく解けた。
此処はかつて、廃人となった母が移送された病棟であったのだ。
その見舞いのために、この通路を………時に足を引き摺りながら病室まで足を運んだのを、フィールは鮮明に思い出した。
「………………」
フィールは、ある部屋の扉に掛かっているプレートを発見した。
そのプレートに書かれている文字を見て―――意識が過去の記憶の奥底へと沈んだ。
【密命を受けたのは?】
ムーディ。
だけど時と場合次第では他人も有り得る。
【盗み聞きしていたライリー】
でもライアン達には伝えない。
自分だけの秘密にするか、後に彼らにも言うべきかで現在苦悩中。
【いざとなれば………】
味方のムーディ達を敵に回してでもフィールを護るため腹を括った。
【フィールからの衝撃的発言に】
クリミアとライリーはビックリ。
【ヤヌス・シッキー病棟】
クラミーが移送された病棟。
【まとめ】
今回は聖マンゴでの出来事の回。
いよいよ次回、過去編①に突入の回。
文字数次第では数話に分ける可能性大。