【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#78.神秘部

(やっぱり、か)

 

 閉扉された、アンブリッジの自室のドア前。

 そこに、『目くらましの術』を掛けたフィールとクシェルは立っていた。二人はフィールが編み出したオリジナルスペル『精神感応呪文(コンロクィウム・コル)』であちらからは自分達の存在に気付かれないようテレパシーを送る。

 

(室内から、複数の人間の気配がするな)

(と言うか、さっき中の様子が見えちゃったんだけどね)

 

 フィールとクシェルは、スリザリン生数人がロンとジニーのウィーズリー兄妹、ネビル、セドリック、そしてレイブンクロー所属の変人ルーナ・ラブグッドをガッチリホールドしながらアンブリッジの部屋に入るのを、一瞬だけだがチラッと見た。

 その際、ハリーとハーマイオニーがそれぞれアンブリッジとミリセント・ブルストロードに捕らわれているのも閉まりゆく扉の隙間からハッキリと捉えていた。

 

(フィー、どうする?)

 

 此処に来る前にこのような場合を見通して立てられた作戦を今か今かと決行したい衝動を抑え込みながら、ウズウズするクシェルは確認の意味合いでフィールに問い掛ける。

 

(長引けば厄介だ。慎重に進めたいところだが、悠長なことは言ってられない―――)

 

 周囲の透明な空気と一体化しているフィールはこちらまで響くアンブリッジの耳障りな大声にストレスを抱きつつ、薄い唇に冷たい笑みを刷いて杖をスッと構える。

 

 

 

(―――作戦実行だ。即刻、強行突破するぞ)

 

 

 

♦️

 

 

 

「―――強制するしか手はないようね。ドラコ、スネイプ先生を読んできなさい」

 

 アンブリッジの命令に、ドラコ・マルフォイは先程取り上げたハリーの杖をローブに仕舞ってニヤニヤしながら、部屋を出ていこうと、ドアノブに手を掛けた。

 次の瞬間。

 

 バンッ!!

 

 と、派手な音と共に扉が破壊された。

 その強烈な衝撃に今まさに退室しようとしたマルフォイは軽々と吹き飛ばされ、細かな破片と共に床に落ちる。ピクリとも動かないので、どうやら失神してしまったみたいだ。

 

「な、何事………!?」

 

 アンブリッジは眼を剥き、他の皆もビックリして視線を一点集中させる。壊れたドアは完全に外れ、ガタンッと崩れ落ちた。

 崩壊した扉から姿を現したのは―――

 

「おーっ、結構呆気なくブレイクダウンしたな」

「えっ、フィール!?」

 

 混沌としたこの場に登場した救世主の正体に真っ先に気が付いたハリーが声を上げた。

 そう、現れたのは紛れもなく、フィール・ベルンカステルだ。フィールは蹴破った脚をトントンとやりながら、細長い杖をクルクルと弄んで狭い部屋の中に侵入する。

 ハリー達DAメンバーは堂々と姿を顕現とした彼女の謎の行動に頭の整理がつかなかったが、同時にこの上ない頼もしさを感じた。

 一方、アンブリッジとスリザリン生数人は彼女の姿を認めるが否や、まるで長年追い求めてきた敵を見つけたみたいに鋭い目付きになる。

 

「ベルンカステル、これは何の真似だ!?」

 

 ロンを取り押さえてるカシウス・ワリントンが声を荒げて怒鳴る。普通、フィールくらいの年頃の女の子なら大柄な男の大声にビビるものだが、生憎彼女はそんな神経をしていない。

 フィールはかつてクィディッチで意気投合したはずの先輩を冷ややかな眼差しで見る。

 

「何の真似って………見れば普通にわかると思うんだけどな」

 

 ハリー達を助けに来た、と顔に書いているフィールはタメ口で軽く肩を竦める。

 

「罰則です、ミス・ベルンカステル! 貴方達、ミス・ベルンカステルを捕らえなさい!」

 

 アンブリッジは手の空いているスリザリン生にフィールを束縛するよう命じる。

 すぐさま、暇だった二人が飛び掛かった。

 が、フィールは慌てず騒がず、ヒラリと躱すと一発強力な『失神呪文』でノックアウト。

 バタバタと、二人は折り重なるよう倒れた。

 

「くっ………親衛隊、捕らえている者を人質としなさい!」

 

 アンブリッジは自分達の最大のアドバンテージである反逆者を人質を盾にするよう指示し、彼らは機敏な動きで喉元に杖を突き付ける。

 ピタッと動きを止めたフィールに、形勢逆転したと言わんばかりにアンブリッジとスリザリン生達はニンマリと笑った。

 

「ふふっ………ミス・ベルンカステル、この状況下に置いても、反発するのかしら?」

 

 ハリーの心臓部分に杖先を当てながら、いつでも呪いが撃てるような姿勢で、手出しが出来なくなったであろうフィールを畳み掛ける。

 

「無礼講な行いをした罰として、貴女を退学処分とします」

「ふーん………で? それが一体何だって言うんだ? お前は直ホグワーツから追放される。罰則とか退学とか、そんなもん知ったことじゃないな」

 

 あからさまに不利な状況だと言うにも関わらずの一ミリたりとも崩さない、余裕綽々な態度と言動は、アンブリッジの部屋に居る者全てに疑問を植え付けた。

 

「強がってるのも今の内よ。学年首席らしい貴女はわからないの? 多勢に無勢、一対多数のこの現状でどちらが上なのか―――」

 

 しかしここで、アンブリッジの言葉を全面否定する言葉が突如として振り下ろされた。

 

 

 

「じゃ、一対多数じゃなくて、二対多数なら、どうなの?」

 

 

 

 それは、まさしく一瞬の出来事であった。

 確かに女の子の声が全員の耳を打ったが、部屋全体をどんなに見回しても、その声の主は何処にも見当たらない。

 何処からか聞こえた謎の声に硬直化したアンブリッジ達に向かって、何も無いはずのフィールの脇の空虚の空間からも迸った『失神呪文』の真紅の閃光が、寸分狂いもなく親衛隊全員の顔面に直撃した。途端に、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れる。

 

「フッ………計画通り」

 

 アンブリッジに『失神呪文』を放ち、もう2発ほど『失神呪文』を気絶した全員の顔面に撃ち込んで安全を保証したフィールは、これまでの腹いせを兼ねてハリーの足元で寝転がるアンブリッジを思い切り蹴り飛ばし、壁に激突させて強引に退かせた。

 

「フィ、フィール………ありがとう」

 

 マルフォイに盗られた杖を取り返しながら、ハリーは礼をする。ハーマイオニーも自分の杖を奪還しつつ、此処に来た彼女に質問した。

 

「ね、ねえ………どうして、此処に?」

「その説明は後だ。クシェル、作戦成功だな」

 

 クシェル?

 と、眼を丸くするDAメンバー。

 そんな彼らに、『目くらましの術』を解いた茶髪の少女―――クシェルは笑い掛けた。

 

「うん、上手くいったね!」

 

 クシェルとフィールはハイタッチした。

 未だに現状を把握出来ていないハリー達はポカーンとする。

 スリザリン組は、簡単かつ簡潔に説明した。

 

「試験が終わった後、通行禁止帯となった通路で『首絞めガス』の騒ぎと発言者が誰なのかをダフネに聞いてな。冷静に考えてみれば、その情報自体がフェイクだと思って―――」

「これは何かあるのかなって、アンブリッジの部屋を目指してやって来たんだよ。で、到着するまでの間に幾つか作戦を立てたんだ」

 

 むやみやたらに駆け込んで場を益々混乱させるよりはと思い、二人は一か八かの賭け事に近い計画を立てて乗り込んだ。

 狭い室内でハリー達を人質にするのは高確率のことだが、意地の悪い連中のことだから、すぐには手出ししないでこちらに都合の悪いアクションを起こして弄ぼうとするだろうと推察。

 そこで、敢えて『目くらましの術』を解いたフィールがド派手な登場でアンブリッジ達の注意を引いている間に、術を解いていないクシェルはフィールの隣に立ちながら、部屋の様子を窺って親衛隊をノックアウトさせるタイミングを見計らっていたのだ。

 フィールが時間稼ぎをし、クシェルが撃つ。

 慎重かつ大胆な戦略は、見事に成し遂げた。

 

「―――と言うことだ」

 

 粗方説明を施したスリザリン組は、アンブリッジの部屋で何をしようとしたのか質問した。

 

「ところでさ、アンタ達はなんで此処に?」

「そうだった! 大変だ! シリウスがヴォルデモートに捕まって拷問されてるんだ!」

 

 目的を思い出したハリーは大声で叫ぶ。

 クシェルを眼を見開かせたが、フィールは冷静そのものだった。

 

「………なるほど。だから、『あの場所』に煙突飛行ネットワークで確認しに行ったんだな」

 

 あの場所。

 つまりは、不死鳥の騎士団本部であるグリモールド・プレイス12番地を指している。

 ハリーは大きく頷いた。

 

「で、どうだったんだ?」

「シリウスは居なかった! やっぱり、神秘部に居るんだ!」

 

 神秘部―――去年の冬、アーサー・ウィーズリーが重傷を負った現場だ。確かにそれなら、ハリーが焦るのも無理はない。同じ場所にて親しい人物の身に危機が陥ったら、尚更だ。

 

「でも………私、腑に落ちないのよ。だって、シリウスは絶対に捕まらない所に居るわ。もしかしたら、これは―――」

「これはヴォルデモートの罠かもしれないって言いたいのか? それはちゃんと判明したじゃないか!」

 

 ハーマイオニーの冷静な呟きに、ハリーが苛立ったように怒鳴る。二人の様子から察するに、意見が2つに分かれたから真偽を探るべく、わざわざ危険を冒してまでアンブリッジの部屋に忍び込んだのだろう。

 もう少し、落ち着いて行動は出来なかったのだろうかとフィールはため息をつく。

 ニフラーを自室に入れられてから、アンブリッジは一層警戒心を持つようになった。『隠密探知呪文』くらい掛けられてもおかしくない。

 そのようなことに気付かなかったとは………先を見通そうとしなかった友人達に、こんな非常事態であるにも関わらず呆れてしまう。

 

「とにかく、今すぐ神秘部に行かないと、シリウスは殺されてしまう!」

「でも………どうやって行くの?」

 

 ハーマイオニーは尤もな意見を言った。

 あっ、とハリーは黙り込む。

 今すぐにでも此処から飛び出したいのは山々だが、肝心なのは移動手段だ。

 ハリーの箒は地下に閉じ込められている上にトロールが見張っている。

 これでは、神秘部に行くなど不可能だ。

 ………まあ、4年前に呪文1つでKOさせたフィールなら容易く制圧するとは思うが。

 

「手段は2つだな。一つは、トロールを討伐して箒を取りに行く。もう一つは―――」

「―――セストラル」

「―――そう。セストラルに乗っていく」

 

 それまで黙っていたルーナが答えを提示。

 フィールは頷いた。

 

「アンタ、セストラルのこと知ってるんだな」

「だって見えるもん。その言い方じゃ、アンタも見えるんでしょ?」

「ああ。………方向感覚が抜群で移動速度が高速なセストラルなら、スピードに格差がある箒と違って同等だ。列を崩すことなく、目的地に辿り着ける」

 

 セストラルが何なのかを知らないハリー達は首を傾げるが、とにかく移動手段があるならそれで構わないと、箒ではなくセストラルを用いる方法を選んだ。

 フィールは指をパチンと鳴らす。

 すると、アンブリッジ達の姿が消えた。

 

「アイツらは2階に放置されている『姿をくらますキャビネット棚』に転移させた。これで邪魔者の排除は完了だ」

 

 『姿をくらますキャビネット棚』とは、ホグワーツに飾られている金と黒の飾り棚だ。

 あまり知られていないが、実はボージン・アンド・バークス店内にあるもう一つの『キャビネット棚』と対になっており、魔法の通路が2つの『棚』を結び付けている。

 

 ホグワーツに在るそれは最初城の上階に置かれていたのだが、3年前にほとんど首なしニックに焚き付けられたビープスが、2階にあるフィルチの事務所の真上に落として、飾り棚を壊してしまったのだ。

 それ以降キャビネット棚は2階に放置され、ホグワーツを去る前に、フレッドとジョージのウィーズリーツインズが、グリフィンドールから減点しようとした犬猿の仲のグラハム・モンタギューを飾り棚に押し込んだ。

 本来であればボージンの店に移動するはずであったのだが、破損していたため、二つの場所を行ったり来たりして、どっちつかずに引っ掛かってしまった。

 結局モンタギューは『姿現し』をして脱出したものの、試験にパスしていなかったので5階のトイレに詰まり、危うく死にそうになった………という、そんなエピソードがあったのだ。

 

 これを聞いた後でのフィールの行動はやり過ぎかもしれないが、そうでもしなければ、意外と神経が図太いアンブリッジ達にダメージは与えられない。散々叩かれてきたのだから、これは当然の報いだとフィールは割愛している。

 

「それじゃ、私は先に行ってセストラルを集めてくる。名前は確か―――」

「ルーナ・ラブグッド。アンタ、フィール・ベルンカステルでしょ? そっちは、クシェル・ベイカー」

 

 ………言い切る前にズバズバ言う子だな。

 内心でフィールは苦笑しつつ、自己紹介する手間が省けたと思うようにする。

 

「ルーナ、セストラルが生息してる場所はわかるな?」

「うん、知ってるよ」

「よし、なら―――」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 

 ハリーが慌ててストップを掛けた。

 フィールとルーナは怪訝な表情で見る。

 

「なんだ?」

「フィール、まさかとは思うんだけど………皆も来ることを前提に話しているのか?」

 

 ハリーは、神秘部に行くのは自分だけの予定であった。これから向かおうとしていた場所は魔法省で、最悪の場合ヴォルデモートが潜んでいる可能性がある。捕まったらどうなるかなんて流石にわかるし、想像すらしたくない。

 だからこそ、これは自分だけの問題だと、何も関係のない友人達を連行する気はなかった。

 

「当たり前だろ。仮に私が『此処に残れ』って言ったって、素直に言うこと聞く訳ないだろ」

「だけど!」

「ハリー、もしもアンタが私達と同じ立場だったらなんて答えた? 私はこう言ったと思うぞ。『君達が危険な場所に行くって聞いて、大人しくするなんて出来ない!』ってな」

 

 その言葉は、正義感が強いハリーの心に深く突き刺さった。

 

「そういうことだ。アンタらが結成したDAだってアイツに対抗するためでもあるんだろ」

「そうだよ、ハリー。僕達DAは皆一緒だ。何もかも『例のあの人』と戦うためのものだっただろう? 今度は、現実に何か出来る初めてのチャンスなんだ。僕達も行くよ!」

 

 揺るぎの無い決然とした態度をハリーに見せながらネビルが言った。それに続く様、ジニー達も次々と頷く。

 

「私も貴方と同じくらいシリウスのことを心配してるのよ!」

「僕達は仲間なんだ! 何処までも君についていくよ!」

 

 ハリーはしばらく複雑そうな顔をしていた。

 なんとも言えないという気持ちの現れだった。

 が、諦めたのか、やがて髪をグシャグシャにかきむしってやけくそ気味に承諾した。

 

「わかったよ………皆、シリウスを助けるのに力を貸してくれ」

 

 全員が大きく首肯した。

 やっとのことで事が進み、フィールは一息つくと部屋の窓を蹴破り、最短ルートからのセストラル生息地を試みる。フィールは窓枠に絶妙なバランス感覚で足を乗せて風にローブを靡かせながら、肩越しに振り返る。

 

「言いそびれたから、もう一度言うぞ。私は先に行ってセストラルを集めてくる。ルーナ、ハリー達を連れてきてくれ」

「うん、わかった」

 

 そうして、フィールは優雅に飛び越えた。

 危険極まりないやり方で向かったフィールにハーマイオニーがガラスがなくなった窓から顔を出して覗き込んだ時には、既に彼女の姿は見当たらなかった。

 

 禁じられた森に入ったフィールは、ホグワーツ城が完全に見えなくなる所まで来ると、一度立ち止まって『守護霊の呪文』を唱えた。

 

エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)

 

 杖先から、銀色の狼が飛び出してくる。

 フィールは守護霊にある伝言を託し、シルバーウルフが雷速の如く駆け抜けていくのを見上げながら、ギュッと杖を握る手に力を込める。

 

(正直言って、不安しかないけど………これが凶と出るか吉と出るかは、まだわからない。いざとなったら………この身を投じてでも、クシェル達を護る。………お母さん、お父さん)

 

 フィールは暗くなってきた空を見上げた。

 もう少しで、果てしなく広がる空は闇の色に染め上がる。

 それをどこか遠い眼差しで仰ぎ見ながら、胸に手を当てた。

 

(お願い………今度は私がお母さんやお父さんみたいに誰かを護る番になるから………どうか、クシェル達を護り切る力を私に貸して)

 

 今は亡き、最愛の両親・クラミーとジャック。

 母と父の顔を思い浮かべたフィールは、クラミーの形見の一つである銀色のロケットを制服越しに掴み―――気持ちを切り替えて、その場から駆け出した。

 

♦️

 

 長時間セストラルに乗って魔法省一直線に突入したハリー達は、現在乗り込んだエレベーターを降りて9階にある神秘部の一本道の廊下を突き進んでいた。

 杖先に小さな灯りをつけ、用心深く歩く。

 壁の所々に立て掛けられている青い蝋燭の炎が光る大理石の床に反射するので、無人の魔法界政府機関の怖いくらいの静寂さと相まって、より一層緊張感が高まった。

 最初の扉に入ると、そこは円形の部屋。

 床も天井も何もかもが黒い丸い形の部屋で、1ダースほどの全く同一で取っ手のない黒い扉が壁一面に等間隔に並んでいる。

 

「セドリック、地下9階にある部屋って、結構沢山あるよな?」

「ああ。父さんから聞いた話だけど、かなり前だからあまり覚えてない。覚えてるのは『死の間』『時の間』『惑星の間』『予言の間』『鍵の掛かった部屋(開かずの間)』。あとは―――」

 

 最初にハリーが開けた部屋は、細長い長方形の部屋で机が数卓と濃い緑色の液体が入った巨大なガラスの水槽が室内の中央に置かれているものだった。その水槽の中には半透明の白いモノが漂っている。それは、脳ミソだった。

 

「………『脳の間』だったかな」

「「「「「「「「………………」」」」」」」」

 

 全員の顔から血の気が失せる。

 どうやら、説明する手間が省けたようだ。

 ハーマイオニーが『焼印』の×印を付けて試し済みのドアであることを示す証拠を印してくれたら、ハリーは静かにパタンと扉を閉めた。

 

「よし、次行くか」

 

 フィールが何事もなかったかのように言う。

 そんな彼女のおかげで、場の空気は幾分かマシになった。

 

 今度の部屋は前のより広く、薄暗い照明の長方形の部屋だった。

 擂り鉢型の部屋で、円形劇場のように中心から外に向かって階段が刻まれている。

 中央には石の台座が置かれ、その上には黒いベールの掛かった石のアーチが聳え立っていた。

 周囲の冷たい空気は静止しているのに黒色のそれは微かに波打っている。

 

「誰か居るのか?」

 

 ベールの裏側から人の声が聞こえ、思わずハリーは裏側に回り込む。そこには、擦り切れた黒いベールの裏側が見えるだけだった。

 

「セドリック、もしかして、此処は―――」

「ああ………そうかもしれない」

 

 フィールとセドリックは、ハーマイオニーが声を掛けて引き戻すよりも前に動いていた。

 二人はハリーの腕を掴み、連れ戻す。

 

「ポッター、潜って確認しようとはするな」

「アンタ、二度と戻って来られなくなるぞ」

「え………」

 

 聞き捨てならない二人の発言に言葉を失う。

 セドリックとフィールは険しい顔付きになってチラリとアーチを見据えた。

 

「此処は『死の間』だ。そしてアレは未だ魔法省でも解明出来ていないデンジャラスな物だ」

「推測では、アレは冥界の入り口であって出口ではない。………確かなことは、一度潜ったらもう此処には帰って来られなくなるぞ」

「僕達の目的は、こんな不気味な物の調査じゃないだろう? わかったら、早く行こう。今、すぐにだ」

 

 セドリックとフィールからの厳しい警告に、全員の顔が凍り付く。

 二人の言う通りだ。早くこの部屋を出よう。

 と言うことで、ハリー達は部屋を後にした。

 続けて『鍵の掛かった部屋(開かずの間)』にやって来たが、ハリーが夢で全部の扉を通り抜けられたことから除外し、次の部屋に入る。

 そして、遂にゴール地点に辿り着いた。

 

「此処だ!」

 

 美しい、ダイヤの煌めくような照明。

 ありとあらゆる種類の時計―――大小様々な時計、床置き時計、旅行用の提げ時計等が部屋全体に並んだ本棚の間や机の上に配置されている。

 部屋の奥には釣鐘型のクリスタルが聳え立ち、そこからダイヤのような煌めきが発せられていた。

 ハリーはその景色を見回しながら、名付け親が両親の仇が拷問されている部屋だと確信を抱いて爆発的な衝動に駆られる。

 

「此方だ!」

「おい、猪突猛進するな。早死にするぞ」

「縁起でもないこと言わないでちょうだい!」

 

 さらっと不吉な発言を呟いたフィールにハーマイオニーは声を上げるが、その実ハリーが猪みたいに突進して敵の罠に掛からないかが、心底心配だった。

 何列も並んだ机の間を通過し、クリスタルの釣鐘を通り過ぎて、その上にある唯一のドアを発見した。

 

「これだ。此処を通るんだ………」

 

 ハリーは全員の顔を一度見る。

 フィールは何を考えているかわからない無表情だったが、少なくとも一番冷静な面持ちで落ち着きを払っていた。皆が杖を構え直すと、フィールがハリーに「退け」と退かせる。

 

「ハリー、この先だな?」

「ああ………そうだ」

 

 神妙な顔でコクリと頷く。

 フィールは小さく頷くと、ドアを見据える。

 そして。

 

 バンッ………!

 

 と、超ド派手にドアを蹴破った。

 バタンッ、と音を立てながら床に倒れる。

 当然ながら、全員がギョッと眼を丸くした。

 

「ちょっ、フィール!」

「なんだ? 此処まで来たんだから今更だろ。ボケッとしてないで、さっさと行くぞ」

 

 と、フィールはハリー達を急かす。

 これでは自分達の存在を教えているものだと非難めいた眼差しを送るが、フィールはケロッとして涼しい顔で受け流していた。

 中に入ると、そこは大聖堂のように広く天井の高い部屋だった。室内には予言の球が置かれた棚がギッシリ聳え立ち、それ以外は何もない。

 棚の間にある間隔を置いて取り付けられた燭台の青い灯りがガラス球に反射し、鈍い光をあちこちから放つ。

 

「………………」

 

 部屋に入るのと同時、フィールは察した。

 部屋からは、物音一つしない。

 もしもシリウスが拷問されているのなら、何処に居ようが悲鳴やら絶叫やらがこちらまで聞こえてもおかしくない。

 

 なのに、この静けさはどういうことか。

 フィールは全神経を一点に集中させる。

 ………どうやら先客が居たみたいだと、ひっそりと『予言の間』で息を殺して潜んでいる魔法使い達の魔力を感受し、蒼眼を細めた。

 しかし、それを悟られないよう、フィールはハリー達を促す。一行は杖を構えながら、慎重に突き進む。

 

 しばらくして、目的地に到着を果たした。

 『97』という数字が書かれた棚を見つけ、ハリーはその脇にある通路に入る。

 が、誰も居ない。ひとっこ一人居ない。

 ハリーは顔をひきつらせた。

 

「このすぐ近くにシリウスが居るはずだ………何処か、この辺り………」

 

 だが、そんな希望的観測のハリーの思いは、フィールの爆弾発言にて呆気なく崩壊した。

 

「ハリー、此処にシリウスは居ない。アンタが見たのは偽りの映像だったんだ」

「偽りの映像………?」

 

 ハリーは眼を見張り、フィールを見る。

 フィールはハリーにある場所を示した。

 そこには、埃が被ったガラス球が綺麗に収められていた。何故だか知らないが、16年前の印と共にハリーの名前が刻まれている。

 ハリーはその球を手にしようとした。

 しかし、そこでまたフィールが遮る。

 

「ハリー、それこそアイツが欲してた予言だ」

「予言?」

「そう。ハリー・ポッターとヴォルデモートの運命が記されている、な。だから、アイツはそれを追い求めていた。けれど、予言は本人しか取り出すことが出来ない―――」

 

 フィールはハリーの背後の暗闇に向かって、声を張り上げた。

 

「だから、偽造した夢を見させて此処まで誘導するよう仕向けたんだろ? 死喰い人(デスイーター)共」

「ッ!」

 

 暗がりの中から、息を呑む音が聞こえる。

 ハリー達は一斉に振り返って杖を構えた。

 同じくして、何処からともなく周囲に黒い人影が現れ、目の前からは悪い意味で見慣れた男が舌打ちしながら出てきた。

 ドラコ・マルフォイの父親、ルシウス・マルフォイであった。ルシウスが仮面を外しながら登場したためか、他の死喰い人も仮面を外して素顔を露にする。そのほとんどが、アズカバンから集団脱獄をした死喰い人であった。

 

「ベルンカステル………貴様、最初から我々が居ることを気付いていたな?」

「さあ? 何のことやら」

 

 ルシウスの問いにフィールは答えない。

 ルシウスはイライラを募らせつつ、ハリーの方を向いた。

 

「さあ、ハリー・ポッター。その予言を取って、我々に寄越せ。さもなければどうなるか、その程度は理解出来るだろう?」

 

 呪いは撃たず、威圧するように声を発する。

 ハリーはまるで聞こえないと言わんばかりに腹の底から叫んだ。

 

「シリウスは何処に居るんだ!? お前達が捕らえたということは―――」

「おい、同じことを二度も言わせんな、ハリー。さっきも言っただろ。シリウスは捕まってなんかいない。アンタが見たのは、ヤツらがその予言を入手するためにアイツがアンタに見せた虚偽の映像だ」

 

 シリウスの居場所を聞き出そうとするハリーにフィールは冷たく制する。

 ハリーは心臓をハンマーで叩き付けられたような痛みが走ったように錯覚した。

 そしてようやく、自分の過失に気付く。

 自分はとんでもない過ちを犯してしまった挙げ句、無関係の友人達を危機的状況に連れて来てしまったのだと。

 ハリーが激しい後悔に打ちのめされていると、ルシウスの隣に居た黒髪の魔女―――ベラトリックス・レストレンジが凄まじい形相でフィールを睨み付けた。

 

「この小娘が! あのお方を『アイツ』呼ばわりするなど―――」

「ああ、お前みたいな鬱陶しそうなヤツに話し掛けられてメリットはないし煩いだけだから、とりあえずシレンシオ(黙れ)

 

 フィールは『沈黙呪文』でベラトリックスの耳障りな声を封印して口を閉じらせる。ベラトリックスは更に血走った眼になり、ビリビリと肌が痺れるほどの殺気を当ててきた。

 

「さて、邪魔が入らなくなったし、これで静かに会話が出来るな。ま、そんな呑気な現状じゃないくらいわかってるけど」

「ベルンカステル。調子に乗っていられるのも今の内だけだ。ポッター、早く予言を寄越せ」

 

 ルシウスが手を伸ばしながら、事を急かす。

 すると、フィールはハリーにこう言った。

 

「ハリー、その予言を手にしろ」

「え?」

「私に考えがある」

 

 ハリーは首を傾げたが………言われた通り、棚からゆっくりと水晶を手にすると、フィールが鈍い輝きを放つそれに杖先を突き付けた。

 その瞬間、死喰い人達は一斉に青ざめる。

 

「思った通り。どうやら、この予言を破壊されたらそっちにとっては都合が悪そうだな。ま、私からすればそんなもん知ったことじゃないけど」

「ちっ………!」

「ああ、それと」

 

 フィールは、恐らく無言呪文で予言を呼び寄せようとしたか仲間の誰かに呪いを撃とうとしたかのベラトリックスに向かって、皮肉を交えて声を張り上げた。

 

「妙な素振りは止めとけよ? ちょっとでもそういった仕草だと認識したら、私は迷うことなくこれを木っ端微塵にするぞ。勿論、コイツらの誰か一人にでも傷一つ負わせたら………どうなるかなんて、理解出来るよな?」

 

 煽りに煽り、窮地まで追い詰めるフィール。

 フィールの言葉は、マジだ。

 いつでも壊す気で宣言している。

 これでは、動こうにも動けない。

 

「………確かにそうだな。予言を盾にされては、迂闊には手出しなど出来ない。だがな………我々の罠に嵌まった貴様らに、退路などあるまい?」

 

 弱気になる精神を奮い立たせようと、ルシウスは現在の状況下を話題性に持ち出しながら、畳み掛けるように包囲網を見回す。

 

「ふふふっ………あっはははははははははは!」

 

 何がそんなにおかしいのか。

 突如として、フィールは高笑いを上げた。

 口元を三日月型に歪め、喉を鳴らす彼女のそれはハリー達のみならず、死喰い人達にも多大なるインパクトを与えた。

 

「何がおかしい?」

「ははは………なあ、死喰い人共。何かが変だと思わないのか?」

「は?」

「まさか………ヴォルデモートがハリーに何らかの干渉をして此処に誘導するよう仕向けてくるって、私()が全く持って予測していなかったと思うのか? 答えは『NO』だ。お前らが事を引き起こそうとする場所は、ほぼ確定事項。狙いが定まれば、慌てず騒がず………獲物を狙う虎のように虎視眈々と、完璧に気配を殺してじっと機会を窺う………」

 

 そこまで言うと、ルシウスはハッとした。

 同時、フィールは杖をスッと振り下ろす。

 

「貴様………まさか―――!」

「ようやくわかったか」

 

 ルシウスは呪文を放とうとするがもう遅い。

 フィールは杖を振り上げ、狼煙を上げた。

 それが、計画していた作戦のシグナルだ。

 

 

 

「私はお前達を()()()ためにわざと引っ掛かってやったんだ。そう………此処で、確実にお前らを仕留めるためにだ!」

 

 

 

 フィール達を包囲していた死喰い人達に背後から向かって無数の閃光が迸る。

 彼らは後ろから迫る魔力を感じ取って慌てて『姿くらまし』をして回避したが、何人かは反応にワンテンポ遅れて背中に直撃し、バタバタと冷たい床に倒れる。

 暗がりの中から現れたのは―――頼もしい救世主・不死鳥の騎士団のメンバーであった。




【派手に行くぜ!】
ドアを蹴破って真打ち登場!

【よし、神秘部行くぞ】
神秘部に行かせる流れは苦悩した。
でも行かせなければメタい話、嫌でもクリアしなければゲームが進まないこと然りで物語が進まない。

【守護霊の伝言】
詳細は↓↓↓↓。

【移動手段】
箒<セストラル

【煽りに煽るオリ主さん】
どんなキャラにでもなれるフィール。
クーデレキャラにもなれればゲスキャラにもなってしまう多重人格者。

【高笑いするフィール】
これには皆さんもビックリ。

【ふっふっふっ、掛かったなアホが!】
まさかフィールが何にも考えずに神秘部に向かうとでも思ったのかね? 残念だったな!
わんさかデスイーターが出てくるであろう神秘部で不死鳥の騎士団メンバーがステンバーイしていたのは実は前もって計画されてたこと。守護霊の伝言は「今から神秘部行くぜ」の前置き報告。狼煙は「乱戦を始めるぜ」のバトルスタートシグナル。
ハリー達には知らせていません。
だって教えちゃったらヴォルさんに計画筒抜けなので学生の中では唯一フィールが知ってました。

さて、次回いよいよ神秘部での乱戦。
果たして何人が生き残れるのか。
物語の境目に向けて、事態は加速する!
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