【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
それは、重傷を負ったアーサー・ウィーズリーの見舞いをしに行った日のことだ。
その日の夜、不死鳥の騎士団の中でも腕が立つメンバー―――マッド・アイ・ムーディやキングズリー・シャックボルト等―――は会議室にて重大な話し合いをしていた。
此処に居るのは、総員ではない。
死喰い人相手に互角に渡り合える少数の一員のみで集結されていた。
「アーサーを襲った蛇がヴォルデモートの蛇だと推測すると、やはり『例のアレ』を目当てに偵察しに向かわせたのだろう」
ムーディは杖を一突きしながら静かに言う。
椅子に座り、真顔でムーディの方を見つめる団員達は無言だった。
「闇の陣営がいつ始動するかはハッキリとしないが、そろそろヤツらも何らかのアクションを起こすはずだ。我々は常に臨戦態勢で日々を過ごさねばならん」
そこまで言ったところで、それまで壁に背を預けながら話を黙って聞いていたフィールが、珍しく口を開いた。
「ムーディ。ヴォルデモートが目的としているのは神秘部の9階にある『アレ』だよな?」
「そうだ。それがどうした?」
「だったら、こんなことが考えられないか? ヴォルデモートが、ハリーを『予言の間』まで誘導させるために干渉してくるって」
なんだと?
と、聞き逃してはならない発言に、一斉に視線の先がフィールに向けられるようになった。
「何故そう思うんだい?」
リーマス・ルーピンは真っ先に訊いた。
フィールは腕を組み直しながら、自分の憶測を語り始める。
「どういう訳か、ヴォルデモートとハリーには『絆』がある。ハリーがヴォルデモートの行動や心を覗き見ることが出来るなら、その逆もまた然りじゃないか?」
「………つまり、『闇の帝王』もハリーと同じことが出来るって言いたいんだな?」
シリウスがそう問うと、フィールは頷いた。
「だけど、二人には決定的な格差があると思うんだ。自分の意思でコントロール出来ないハリーと違って、ヴォルデモートは意のままに操れるのを前提として物事を考えると………どんな事態になるか、わかるよな?」
まさか………とフィールの推測の意味を飲み込んだ彼らは、息を呑む。
フィールは静かな口調で続けた。
「もしも………ヴォルデモートがこのことに気付いたらまず間違いないなく利用するだろう。最も考えられるのは、ニセモノの映像を送り込んで正義感の強い彼を『予言』がある部屋まで誘き寄せて罠に嵌めるってことだな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! もしも本当にそんなことが起きたら大変じゃないか!」
誰よりもハリーの安否を心配し、彼を息子として愛しているシリウスは堪らず椅子から立ち上がって眼を剥いた。
フィールの言うことは一理ある。
ヴォルデモートは目的意識に従ってこの世を生きる者だ。そのためならば如何なる手段であろうとも嬉々として選ぶ、まさにスリザリン出身者の名に相応しい性格を備えている。
宿敵ハリー・ポッターを殺害する前に、予言の内容を聞くという目標を果たすべく、確実に彼から追求している物を取らせるために動き出す可能性は十分ある。
シリウスは最悪のケースを想像したのか、顔面蒼白してフィールを見た。
「………ま、私としては、これを逆手に利用出来るんじゃないって思うんだけどな」
「え?」
「闇の陣営は『予言』を欲している。その『予言』があるのは、神秘部のみ………。闇の中から機会を窺っているアイツらが100%の確率で姿を現す場所は、もう定まっている」
だったら、と。
フィールは部屋全体を見回しながら、薄い唇に大胆不敵な笑みを刷いて、言い放った。
命と言う名の品物を賭けた、ギャンブルを。
「―――わざとトラップに引っ掛かり、敵を捕獲したと油断しきっている隙を突いて、黒色の巨大な蛇達を仕留めてやろうじゃないか」
♦️
あの日、危険極まりない極秘作戦を練ってから数ヶ月が経過した現在。
フィールの推理はどストライクで命中した。
やはり、ヴォルデモートは『絆』を上手い具合に利用して、ハリーを魔法省まで引き出そうと偽りの夢を送信した。
ハリー・ポッターが予言を手にした瞬間、集団で取り囲んで数的優位を確保し、リスクを冒さず簡単に手に入れるという、最も手際が良くて好都合な企みを企てていた。
しかし………予想だにしなかったアクシデントが発生してしまった。
このような考え方を見通す者がいたのだ。
そして………まんまと釣られてしまった。
本来であれば、真逆であったものなのに。
「くそっ………! 返り討ちにしてやれ!」
リーダー的立場のルシウスの鼓舞に、不意打ち攻撃を逃れた、ベラトリックスを初めとする強者死喰い人は一気に猛攻を仕掛けた。
だが騎士団メンバーの動きも素早い。
杖を振るい、数多の呪文を連続で撃つ。
思考を切り替え、戦闘モードに入ったハリー達DAメンバーは即座に近くにある予言の棚に魔法を叩き込み、幾千幾万の予言の水晶を犠牲にしてガラスの雪崩を作った。耳障りなサウンドを響かせながら、敵陣を動揺させる。
スリザリン組の二人は自分達に向かって発射される呪いを全て撃ち落としてガードした。
「皆、出口を目指して走れ!」
フィールは声を張り上げ、退散を呼び掛ける。
ウィーズリー兄妹、セドリック、ルーナ、ネビルはすぐさま駆け出した。クシェルは一度近くに居た死喰い人を吹っ飛ばしてから、脚に力を入れて走る。
が、いっこうに走ろうとしないハリーにフィールは苛立って叫んだ。
「何してるんだ! 早く戻るぞ!」
「ダメだ! そんなことは出来ない!」
「バカ野郎! 私達が此処から脱出しない限り、騎士団員はいつまで経っても戦線離脱出来ないんだぞ! わかったら早く向かえ!」
ハリーの抗議の声をフィールは一蹴する。
内密に立てられたこの戦略方法は、フィールがハリー達を連れて戦場となるこの場を後にするのも含まれている。
だから、何よりも保護するべきハリーが留まる道を選んでしまえば、全て台無しだ。
なのに―――
「イヤだ! 僕も戦う!」
まさに、猪突猛進の無謀な加勢だった。
ハリーは強く握り締める杖を右手に、ヴォルデモートが欲して堪らない予言を左手に、死喰い人の連中がすぐには自分を殺せないことを後ろ盾にして囮になろうと疾駆した。
が、そこで二人の男女がドンッと突き飛ばす。
フィールの母方の叔父叔母、ライアンとエミリーが眼前の敵に呪いを撃ち込みながら、肩越しにハリーを怒鳴った。
「馬鹿な真似は止せ!」
「私達に任せなさい!」
今までにない鋭さが孕んだ二人の大声は、たった今援護しようとしていたハリーの心に深く突き刺さった。そんな彼の側にハーマイオニーが駆け寄り、腕を引っ張る。
「ハリー、行きましょう!」
が、そこに死喰い人が放った魔法が物凄い速さで飛んでくる。その閃光は、真っ直ぐにハーマイオニーを狙っていた。
「
咄嗟に前に躍り出たエミリーが『盾の呪文』を唱える。
半透明のバリアが現れ、二人の眼前で紫色の光を弾き飛ばした。
「この子達に傷一つでも負わせたら、私が許さないわよ!」
エミリーは憤慨し、ハーマイオニーに怪我をさせようとした死喰い人に対して『失神呪文』を撃ち込み、思い切り吹き飛ばした。
「さあ行きなさい!」
振り返らず、背中越しから鋭く叫ぶ。
ハーマイオニーはハリーを立ち上がらせ、ドア付近にて退路を確保しようと乱戦を繰り広げているフィール達の所まで走り出した。
疾走する二人の背後を死喰い人二人がチャンスとばかりに杖を向けたが、またしても邪魔が入る。
クシェルの両親、イーサンとライリーが二人の相手となって注意を引いた。
「お前らの相手は俺達だ!」
「相手を間違えないでちょうだい!」
後者は医術関連に特化している者で、戦闘関連の仕事には就いていない。しかし、前者が長年犯罪者と対峙してきた者だ。
知識も技能も夫である彼から教わっている。
それに加え、今は亡き親友二人も闇祓いに勤務していたのだ。夫と友人から護身術を学んでいたライリーも、十二分に死喰い人と対抗する実力を兼ね備えている。
ベイカー夫妻が時間稼ぎをしている間に、全力疾走したハリーとハーマイオニーは予言部屋の出入口まで走り着いた。
ドアの脇に、フィールが立っている。
二人は飛び込むようにドアを潜った。
同時、『姿現し』で騎士団メンバーが現れる。
彼らが中に入ったら、フィールは此処に来る際に蹴破った扉の代わりに強固な城壁を造り上げて簡単には侵入出来ないようにした。
「とりあえず、全員居るな?」
「ああ、問題無い。ベルンカステル、お前が思案した作戦は成功だ。後はわしらに任せろ!」
「了解! 皆、出口を目指して走れ!」
「で、でも、どれが出口かわからないわ!」
円形ホールとなっている部屋には複数のドアがあり、出入りする度に回転する。つまり、逃走しようにもすぐには出られないのだ。
「出入口の扉に★のマークをつけておる! それを探して入るのだ!」
如何に事を上手く運んでも、帰還するまでは任務遂行とは言えない。生還するにおいて大切なのは、逃げ道をしっかりと確保してから戦場に飛び込むものだ。
故に、フィール達が予言部屋に入った瞬間、スタンバイしていたムーディは出入口に★印が浮かび上がるようあらかじめ仕組んでいたのだ。
「! バリケードが破られるわよ!」
いち早く、亀裂が入り込んだ障害物に気が付いたクリミアが声を上げた時。
城壁が破壊され、血走った眼差しの死喰い人達が一気に雪崩れ込んできた。
ルシウスに『解除呪文』を掛けて貰い、喋られるようになったベラトリックスはフィールを認めると、鋭くギラギつかせた瞳で睨み付ける。
「この小娘がァ! 私の手で殺してやる!」
「待て、ベラトリックス。まだベルンカステルを殺すでない」
「何を言って―――」
「あのお方からの命だ。それを破るのか?」
ルシウスに窘められ、ベラトリックスはギリギリと歯軋りしながら自制をする。ルシウスはフィールの方を見た。
「さて………ベルンカステル、最後に問うぞ。あのお方の腹心になる気はないか?」
と言いながら、その実答えなどわかりきっている上で、闇の帝王が最強の部下として取り入れたい彼女に尋ねる。
「はぁ………何度言えばわかるんだ?」
フィールは鬱屈そうに眼を細め、睨んだ。
「私はお前らの仲間になるなんて、殊更ない」
キッパリと、言い放った。
その瞳と態度は、やはりベルンカステル家の者かとルシウスは思う。
どこまでも、信念を貫き通す少女だ。
例えそれが、どんなに強い敵の前でも。
しかし、これでようやく心置きなく―――
―――フィール・ベルンカステルを殺せる。
「ベラトリックス………殺れ」
待ってました、と言わんばかりの笑顔で。
ベラトリックスは、杖を振り上げた。
「
杖先から迸る、緑の光を帯びたの最強の呪い。
『死の呪文』が、フィールの心臓を狙い撃ちして走るが―――その閃光は、二人の黒髪男女が同時に放った魔法で撃ち落とされる。
フィールを庇うように前に一歩踏み出たその二人はベラトリックスを射抜いた。
「何しやがる! この女狐が!」
ライアンは激昂を外面に出し、ベラトリックスに敵意………否、殺意を胸いっぱいに抱く。
エミリーは醜悪に顔を歪ませるベラトリックスの前に『姿現し』をし、杖をみぞおちに当てて見えない波動を放ち、思い切りぶっ飛ばした。
「私の娘を殺すなんて行為は許さないわよ!」
ベラトリックスは壁に激突し、床に落ちる。
闇の陣営きっての即戦力・ベラトリックスを一時的に無力化させたのを皮切りに、再び神秘部は幾度も色とりどりの閃光が飛び交うバトルフィールドに急転した。
「エミリー、よくやった!」
ライアンはニヤリと笑いつつ、こちらも闇祓いとしての実力を存分に発揮させながら、死喰い人三人をあっさり制圧させる。
「ベルンカステル! ポッター達を連れて、此処から脱出しろ!」
数人の敵と対敵しながら、ムーディが言う。
フィールは頷き、友人達へ振り返った。
「ムーディが言ってた★マークを探せ! それが唯一の血路だ!」
「わかったよ!」
「オーケー!」
クシェル達は頷き、四方八方に駆ける。
しかし、決して妨害がない訳ではない。
数十人の死喰い人があちこちから接近、背後から攻撃してきた。
慌てて手近なドアを誰かが開け、中に数人が入り込み、ドアを閉める。
手分けして探そうとしたのが裏目に出て、最悪な現状で皆とはぐれてしまった。
「あ、そ、そんな! ど、どうしよう!」
「落ち着けクシェル。チラッと見たところ、全員単身じゃない。二人以上で固まっている」
フィールは冷静に言いながら、あたふたするクシェルを落ち着かせる。扉越しから、バラバラに逃げたハリー達を追跡するため手分けして当たるらしい死喰い人の声が聞こえた。
「どうやら、アイツらも別行動するみたいだな」
「みたいだね………此処に来た死喰い人は、此処で倒そう」
「そうだな。分担したなら、敵の数も少数だ。さっさと倒して、仲間と合流するぞ」
フィールは杖を構え、発射準備をする。
クシェルもジリジリとドアを見据え―――『開錠呪文』で滑り込んできた死喰い人二人の胸を狙って『失神呪文』を撃つ。
「「
紅い閃光は見事クリティカルヒットした。
呻き声を上げて床に倒れたのを見届けると、杖を取り上げて縄を出し、何重にもキツく縛り上げて束縛する。
その騒ぎを聞き付け、またまた死喰い人が数人此方までやって来るのが見えたので、失神させたり凍結させたりと、スリザリン組は結構な数の敵をノックアウトさせた。
二人は粗方片付けると、別の部屋に入る。
そこでは、約十人ほどの死喰い人がハリー、セドリック、ネビル、ルーナと戦っていた。
数は死喰い人の方が多く、ハリー達は苦戦を強いられている。フィールとクシェルの存在に気付いた二人が「あっ」と硬直したのを二人は見逃さない。
呪文を撃ち、無力化させる。
倒れた二人を見て、近くに居た彼らが発信源に眼を向けた時には時既に遅し。
眼も眩むような光が間近に迫っていて、そして顔面に直撃した。
乱入してきた二人に気を取られている隙に、ハリー達が残りの死喰い人を失神させる。
これで、危機は一応去ったと思いたい。
これが、その場しのぎだったとしても。
「大丈夫か?」
「まあ、なんとか………」
額に滲み出る汗を拭い、ハリーは見渡す。
「とにかく、まずは此処を出よう………ハーマイオニー達を探さないと」
フィールとクシェルは先程と同じく丸腰にしてから拘束し、まだ合流出来ていないハーマイオニー、ジニー、ロンを探索するため、ドアを開けてこの部屋を後にしようとすると、
「ハリー! 無事だったか!」
「皆も怪我はないかい?」
シリウスとルーピンが近付いてきた。
フィール達は振り返り、顔を綻ばせる。
「ん? ハーマイオニー達はどうしたんだ?」
シリウスは何処にも見当たらない三人の姿に怪訝そうな顔をする。ハリーは一息ついてから説明した。
「ハーマイオニー、ジニー、ロンとはまだ会っていない………早く探さなきゃ」
「………………」
ハリーが話しているのを聞くとはなしに、フィールはキョロキョロ辺りを見回していた。なんだか、落ち着きがない。
(なんだ………何かを感じる………)
フィールの中で、アレが鳴っている。
不吉な予感を思わせる………警告音が。
胸騒ぎが全身を駆け抜け、不穏に思う。
絶えず打ち鳴らす警報は、今までそれが命中してきたフィールに不安と焦燥を募らせた。
(今度は………違う………何かが違う………)
心臓が早鐘を打つみたいに早まる。
冷や汗が額や全身から噴き出し、寒気を与えられた。
(イヤ………そんなことある訳―――)
神経質になり過ぎだ、と自嘲気味な笑みを浮かべ、鬱屈とした想いを晴らそうと頭を振ったその瞬間―――
―――ベラトリックス・レストレンジの嗤い声が此方まで響き渡った。
♦️
死喰い人からの攻撃を避けるため、ハーマイオニー、ジニー、ロンは同室に飛び込んだ。
『施錠呪文』を掛けて侵入は防いだが、やはりと言うかなんと言うか、数秒も持たず、死喰い人が雪崩れ込んできた。
最初に入った部屋は『時の間』であった。
此処には
それらは激しい戦いの中で全部破壊された。
貴重な物を破損してしまったことに対する罪悪感がのし掛かってくるが、生き残るためには仕方ないことだと区切りをつける。
死喰い人を数人倒したが、今度は別の死喰い人がやって来たので、三人は慌てて一番近くにあった部屋に飛び込む。
だが………そこで三人は顔面蒼白した。
「嘘でしょ………此処、アーチが在る部屋よ!」
「マジかよ!? 僕ら運無いぜ!」
「ロン、呑気に言わないで!」
戦況はこの上なく最悪だった。
敵は数も質も上、割り当たった部屋はあのアーチがある場所。
三人は後悔するが、後戻りは出来ない。
無謀とも勇敢とも言える姿勢で、DA会合で鍛えた腕で闇の魔法使いと戦いを繰り広げた。
が、その最中にジニーが足を怪我して戦闘不能となってしまった。
ジニーを庇う形でロンとハーマイオニーは二人で死喰い人と対戦するが………疲労が蓄積した身体が限界を迎え、体力を切らして膝をついてしまった。
「くそっ………こんなところで………」
自分の不甲斐なさにロンは舌打ちする。
なんとか顔を上げたハーマイオニーが目前で見たのは、勝ち誇ったようにニヤニヤ笑いながら杖を向ける死喰い人の姿………。
殺られる―――と強く杖を握った、その時。
「
『武装解除呪文』を唱える女性の声が耳を打ったのと同時、杖が弧を描いて宙を舞った。
「
続け様に違う効果を帯びた紅い光が走る。
死喰い人は軽々と吹き飛び、壁に激突した。
「皆、大丈夫!?」
現れたのは、エミリーであった。
肩で息をしながら、安否確認してくる。
「ああ、よかった………!」
頼もしい大人の登場、周囲に敵は不在。
安全とも言える現状に思わず三人は全身の緊張が解け、ホッと胸を撫で下ろして気を緩ませる。
だが、その油断が命取りとなった。
「………ッ!」
急いで後ろを見たエミリーは金眼を剥く。
此方側に………戦闘続行が可能なベラトリックスとルシウスが接近してきた。
そしてその二人の呪いが雷速に飛んで来る。
その閃光は、三人の中でも前線に居るハーマイオニーの心臓を真っ直ぐに狙っていた。
(マズい………!)
あの二人は、子供達を殺す気だ!
それを一瞬にして理解したエミリーは急いで前に向き直る。
1秒が命運を分けるこの場でエミリーは全力で走り出す。
あの速さでは、防御する時間が無い!
しかし、このままではあの子達が死ぬ!
刹那の思考の果てにエミリーが見出だした答えは―――。
体力的にも精神的にも限界な三人は、呆然と飛来してくる閃光を眺めることしか出来なかった。
『盾の呪文』を詠唱しようと腕を振り上げたいが、度重なる激戦での凄まじい疲労感に見舞われている身体では、どうすることも出来ない。
ジニーは小さく悲鳴を上げた。
ロンは妹を護るように覆い被さる。
ハーマイオニーはそんな二人を庇護しようとその場から離れず、自分の身を犠牲にすることを覚悟して、固く眼を瞑った。
と、そうしたら。
駆け寄ってきた『誰か』にギュッと抱かれた。
………そして―――
―――刹那、肉を裂く不気味な音が響いた。
「…………………………え?」
なんだ、今の音は?
今の…………嫌な、音は?
何故、自分は死んでいない?
目前まで迫ったアレに心臓を貫通されているはずなのに………なん、で?
恐る恐る、ハーマイオニーは眼を開けた。
そして………ハーマイオニーは絶句した。
「……………………え………………?」
疑問と絶望に染まった声が、唇から漏れる。
ハーマイオニーが見たもの。それは―――。
ルシウスとベラトリックスが放った呪いが絡み合って1つの閃光となった細長い筋が、エミリーの背中から心臓を貫き、ハーマイオニーの胸元の直前で止まっている光景だった。
つい先程、何かを胸元に押し付けられる感覚を覚えたハーマイオニーはその原因を悟った。
瞬きすることも忘れ、彼女は自分の身体に視線を向ける。
グリフィンドールのシンボルカラーのネクタイを巻いた白いワイシャツが、胸元が、紅い大輪の華で咲き誇っていた。
「あ………なた………達」
肩越しにエミリーは背後に振り返る。
「ちっ………本当はマグルの小娘を冥土の土産にするつもりだったのだが………」
紅に染まる視界の中で、ルシウスは愉悦に満ちた顔で冷たく囁く。その隣では、ベラトリックスが狂ったように笑い声を上げていた。
「あっははははははははははは! やったねぇ、やったねぇ! 忌々しいベルンカステル家の人間を一人殺っちまえて! あははははははははははっ!」
狂笑するベラトリックスの言葉なんて、今のハーマイオニーには、何も聞こえなかった。
ただただ、エミリーの命の紅が自分の制服を染め上げるのを見ることしか出来なかった。
その後ろで、ロンとジニーは蒼白している。
もしも………エミリーが身を挺して護らなかったら、ハーマイオニーの心臓が刺し貫かれていたに違いない。それどころか、後ろに居た自分達も死んでいたかもしれない。
「え………エミリー………さん…………」
喉はカラカラに渇き、頭がガンガン痛い。
ハーマイオニーの瞳から、涙が溢れる。
「ハー………マイオニー………ちゃん………ジニー…ちゃん……ロン君……怪我は無い?」
息も絶え絶えに、エミリーは問い掛ける。
その口から、真っ赤な血が吐き出された。
三人はハッとしたが、すぐに大きく頷く。
「私達は大丈夫ですから………っ! もう、喋らないでください………!」
「いいえ………もう………私は………助からないわ………だから……あなた達に伝えたいの……」
本来であれば、当に事切れた生命活動。
それを魔法で辛うじて繋ぎ止めているが、長くは保たない。
エミリーは死期がすぐ側まで迫っているのにも関わらず、微笑みかけた。
「……フィー………ルと………私の姪と………仲良くしてくれ……て………本当に………ありがとう……私も………年の離れた……友達の………あなた達と……一緒に遊んで……笑い合って……凄く楽しかった………」
エミリーの脳裏に………数々の想い出が走馬灯のように駆け巡る。
ブライトンに行って海水浴をしたり、別荘でバーベキューをしたりした………想い出が。
学生時代。
優秀な姉と兄を持ってたが故に、一番年下で末っ子だったエミリーは『クラミーの妹』『ライアンの妹』としてしか周囲には認識されなかった。
『流石はクラミーさんの妹ね』
『お姉さんそっくりで才色兼備だ』
『性格もライアンと似ている』
『末っ子の妹ちゃん、流石にお兄さんお姉さん方と比べたらアレだけど、十二分にスゴいよなぁ』
それは、学校を卒業してから魔法省に勤めた後でもそうで………『エミリー・ベルンカステル』というよりも『エルシー・ベルンカステルの娘』として接してくる人が多かった。
『おい、聞いたか? 今度俺達の部署にベルンカステル家の女性が就くみたいだぞ』
『マジ? もしかして、あのエルシー・ベルンカステルの娘か?』
『ああ。エルシー・ベルンカステルの娘だ』
でも―――。
『エミリーさん』
一人の人間として、接してくれた人達が居た。
その子達は自分を………『エミリー・ベルンカステル』として見てくれた。
たとえ相手が年の離れた子供でも、エミリーにとっては代えがたい喜びだった。
だから………もう会えなくなるのが淋しい。
言葉では言い表せないほどの、身を切られるほどの思いだった。
だけど………その子達を護り切れたのなら、自分の身を投じたことを何も厭わない。
―――誰かの為に、自分の命を投げ出せる。
そうすることが出来た自分を誇りに思えただけでも………胸張って堂々と死ねるから。
だから―――最期に言わせてちょうだい。
今まで………本当に………本当に―――
「―――ありがとう………あなた達と過ごした想い出は………私の………宝物…よ………」
いつも見せていた、穏やかな笑顔で。
嬉しさと淋しさが入り交じって金色の瞳から溢れた雫で血に濡れた頬を伝いながら。
静かに瞼をおろして―――息を引き取った。
「―――………エミリーさん?」
つと話さなくなったエミリーに、ハーマイオニーは声を掛ける。
だが、彼女は反応を示さない。
最早生命活動が途絶えた流血の開き口から鉄の匂いがする真っ赤な液体が溢れ出るのみだ。
「ね、ねえ………嘘、で、しょ………?」
ジニーは弱々しく首を振りながら、信じたくない現実に認めたくない心を背ける。
「嘘だろ………? 嘘だよな…………?」
ロンは輝きが失せたブルーの瞳で目の前で死んだ黒髪の女性を揺する。その腕は震えていた。
「そう……よ……嘘に決まってるわ………」
ハーマイオニーは涙声で、頭ではわかっているはずの現実とは真逆の言葉を言う。
しかし、世界というのは残酷なもので。
止めどもなく溢れる涙を流す三人に、無慈悲な一言が容赦なく振り下ろされた。
「見苦しい真似だな。いい加減、辛い現実から眼を背けずしっかりと向き合ってみたらどうだ? ―――エミリー・ベルンカステルは死んだ。我々の手によってな」
エミリーを殺した張本人の一人の言葉。
それは、現実という名の巨大な壁を三人に突き付けるには十分な威力で。
「あ、あああ、あ………い………や………いやぁああああああああああああッ!!」
ハーマイオニーの声にならない悲痛な絶叫が、冷たい空気を切り裂いて壁に反響した。
【Dead:エミリー・ベルンカステル】
本編開始時の時点で生存していたオリキャラが死亡するの先陣を切ったのはなんとエミリーさん。
エミリーさん、最期はハーマイオニー、ジニー、ロンを庇って死亡。もしもあの時エミリーが身を挺して護らなかったら三人は間違いなく死にましたね。
実は原作でハリー以外の原作キャラがほとんどノックアウトされるフラグをへし折って全員を正常な状態にさせたのは、この時のためだったり。
………とまあ、この作品でも遂にオリキャラとサヨナラする時を迎えました。
正直言うと、滅茶苦茶悩みましたね。
最終章まで延命させようかとも思ったのですが、それではなんかダメだと腹を括りました。
オリ主のフィールと深い関係があり、そして原作キャラのハーマイオニー達とも関わりがあったエミリー。
彼女の死は、あの三人に多大なるインパクトを与えたでしょう。特にハーマイオニーは一生のトラウマになったと思われます。
そしてセストラルが見えなかった三人も、次からはセストラルの姿が見える状態に。
よく「(セストラルの姿が)見えたらいいのに」とぼやいてましたし、なら本当にセストラルが見えるようにさせて、『死を見たことがあるというのはどういうことか』を考えさせるきっかけを作ってみました。
とにかく………これにてエミリー・ベルンカステルは本編からバイバイとなります。
さようなら、エミリーさん。
2章スタートからの初登場以来、本当にお疲れ様でした。