【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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第6章謎のプリンス編スタート。
いよいよこの物語もクライマックスへ向けて加速します。なるべく早く6章終わらせて最終章に突入出来たら理想ですね。
ま、何はともあれ、謎のプリンス編開始です。


Ⅵ.THE HALFーBLOOD PRINCE
#86.罪滅ぼし


 1996年7月7日、夏。

 ホグワーツ魔法魔術学校3階校長室にて、この学校の校長であり今世紀最高の魔法使いと評されるアルバス・ダンブルドアは、テーブルの上に載っている小さな物体に視線が一点集中していた。

 視線の先には、大きな黒い石が嵌め込まれた金色の指輪が転がっている。石の真ん中には亀裂のようなものが入っていた。

 バジリスクの毒を刀身に吸収しその力を得てるグリフィンドールの剣を片手にダンブルドアは、絶対に指輪を嵌めてはいけないと決意してはその度に幾度も屈曲する自分の甘さと愚かさに自嘲気味に笑い、本日何度目かわからない深いため息を吐く。

 

 ―――今すぐ指輪を嵌めたい。

 ―――でも嵌めてはならない。

 

 ダンブルドアがそんなジレンマにここまで陥っているのには、当然訳があった。

 実はこの指輪………『マールヴォロ・ゴーントの指輪』は、何処にでもあるような単なる指輪なんかではない。

 ホグワーツの創設者の一人サラザール・スリザリンを祖先とする純血の一族・ゴーント家に代々伝わる家宝であり、闇の帝王ヴォルデモート卿の分霊箱(ホークラックス)(魂を分割してその断片を物品や生物に封印させることで不死性の特性を獲得する禁断で邪悪な闇魔術)の一つなのだ。

 推測が正しければ、ヴォルデモートは意図的には6個の分霊箱を作成、そして彼本人すら意図せず作成してしまった分霊箱も合わせて計7個の分霊箱が、この魔法界の何処かに隠されているだろう。

 

 ホークラックスを全て覆滅された状態で本体が肉体的な死を迎えない限り、ヴォルデモートは永遠に破滅しない。

 その内の一つは、既に打ち砕かれている。

 3年前の1993年5月29日、秘密の部屋で現れた16歳当時の姿に実体化したヴォルデモートの魂が保存されていた『トム・マールヴォロ・リドルの日記』を、フィール・ベルンカステルが『悪霊の火』で分霊箱でもあった日記を実体化したトム・リドルごと根絶した時だ。

 あの時フィールは日記が分霊箱とは気付いてなかったが、ジニー・ウィーズリーを操り人形の如く意のままに操った本体に並みの魔術類ではないと感付いて深い闇の魔術を使用した。それが結果的にジニーの命を救い、同時にヴォルデモートを滅亡させる手助けもしてくれたのだ。破壊方法はともかく、大きく貢献してくれた彼女には感謝しないといけない。

 

 これが何の変哲も無い()()()分霊箱だったら、ダンブルドアはとっくの昔にこの指輪を破壊し、限り無く不死身に近いヴォルデモートを完全討伐する道へ一歩近付けただろう。

 これが分霊箱だと理解していながらその事実を忘れ、思わず指輪を嵌めたい衝動に駆られて未だに打ち砕いていないのには、もっと別な理由があった。

 指輪に埋め込まれた黒い石。

 その正体は、死者を現世に呼び戻す伝説の死の秘宝の一つ―――『蘇りの石』なのだ。

 魔法界では童話として古くから慕われている『吟遊詩人ビードルの物語』。

 そのお伽話に、『死の秘宝』に関係する『三人兄弟の物語』が収録されている。

 

 昔々、三人の兄弟が曲がりくねった道を夕暮れ時に旅していると、何人もの旅人が尊い命を落とした、渡れないほどの激しく危険な川に差し掛かった。

 しかし、ペベレル三人兄弟―――アンチオク、カドマス、イグノタスは魔法を学んでいたので、魔法で橋を架けて難なく死を回避した。

 が、三人が渡り切る前、フードを被った何者かが行方を遮る。

 その人物こそが『死』で、物語の敵役だ。

 『死』は三人の獲得を出し抜かれ、我が物に出来なかったのを悔しがった。

 だけど『死』は狡猾で、魔法で死を免れた三人を誉めるフリをし、褒美を授けると申し出た。三人は性格も思考も全く異なっていたので、長男のアンチオクは最強無敵の杖『ニワトコの杖』を、次男のカドマスは死者を現世に呼び戻す『蘇りの石』を、そして三男のイグノタスは被った者の身を隠す『透明マント』を『死』に要求し、それぞれ与えられた。

 

 けれどアンチオクは、魔法界史上最強の杖を周囲に吹聴・自慢したばかりに寝込みを襲われ、喉を掻っ切られて死亡した。好戦的な一面を持っていたが故の、異常なほど戦闘を追い求めた戦闘狂な性格が災いし、ペベレル兄弟の命を掌中に収めようと企んでいた『死』の意図に気付けなかった彼は、皮肉なことに自ら作った敵によって命を奪われたのだ。

 カドマスは『死』から与えられた黒い石を掌の中で3回回すと、かつて結婚するつもりだった亡き恋人の魂をこの世に呼び戻すことが出来た。だが、死人の彼女はこの世に馴染めず、石の限界を知った彼は完全ではない蘇生に苦しみ、本当の意味で一緒になろうと自ら命を絶った。

 イグノタスは全身を覆うことで所有者の姿を他人の眼から不可視にするマントを持ってた関係で『死』が何年探しても見付からなかったが、やがて年老いた彼は自らマントを脱いで息子に与え、『死』を旧友として迎え、喜んで死と共にこの世を去った。

 

 これが『三人兄弟の物語』である。

 伝説ではニワトコの杖、蘇りの石、透明マントの全ての秘宝を所持した時、『死を制する者』になれると言われているが、登場してる小説がお伽話であることや『死』と言う如何にも寓話的な存在が出てくる点、透明マント以外の秘宝が現在は所在も所有者もわからない事実により、魔法が蔓延る魔法界と言えども「死の秘宝は実在せず物語も完全な創作である」とほとんどの魔法使いは信じていない。

 

 しかし………多くの魔法使いが知らないこのお伽話の裏には、ある真実が隠されていた。

 実は物語の主役である三兄弟は過去に実在し、死の秘宝は現代に渡って存在するのだ。

 

 現にハリー・ポッターは『死』から透明マントを授かった三男のイグノタスの遺産で秘宝と思わしき透明マントを所持している。それを決定付ける証拠は、そのマントの驚異的な効果だ。

 透明マントと呼ばれる物は数多くあるが、使われる素材は多種多様で、デミガイズ(極東に生息する未来を予見する魔法生物)の毛で織ったり、普通のマントに『目くらましの術』を掛けることで製造された模造品で、時間が経過すると効果が薄れて色褪せたり、魔法が当たると効果が切れたりする。対して死の秘宝である本物の透明マントの効果は永久的で、呪文の影響を受けず『呼び寄せ呪文』にも反応しない。

 そう、イグノタスはポッター家の祖先であり、ハリーはイグノタスの子孫なのだ。彼の父親ジェームズが透明マントを持っていたのも、先祖伝来の家宝だったからである。

 

 そして………単なる偶然か運命の悪戯か。

 イグノタスの兄の一人でペベレル兄弟の次男・カドマスの子孫は、なんとあのヴォルデモートなのだ。

 カドマスの死後、『蘇りの石』は指輪に嵌め込まれてペベレル家の子孫に受け継がれていたが、ある時ヴォルデモートの母方の家系・ゴーント家の手に渡ったのだろう。

 この指輪を発見した在処が廃墟となった無人のゴーント家だったので、ヴォルデモートが分霊箱にした後に隠したとみて間違いない。分霊箱に替えたからなのか単に興味がなかったからは不明だが、ヴォルデモートはこれが死の秘宝であることに気が付かなかったらしい。

 

 だが、今はそんなこと、どうでもいい。

 ダンブルドアは沸々と沸き上がるどす黒い欲望とそれを抑制しようと奮闘する理性が鬩ぎ合い、精神力が徐々に弱まっていく。

 分霊箱だとわかっていながら嵌めたい理由。

 それは、亡き家族に―――愚かな過ちの果てに死に追いやってしまった妹のアリアナに、面と向かって謝りたいからだった。

 

 1881年、ダンブルドアは父・パーシバルと母・ケンドラの長男として誕生。

 その3年後に弟・アバーフォース、それから1年後に妹・アリアナが生まれた。

 ダンブルドアがホグワーツ入学前―――妹のアリアナが6歳の頃、魔法を行使してる場面を三人のマグルの少年に目撃され、彼等は得体の知れない力に恐怖心から彼女に暴行を加えた。

 それが原因でアリアナは精神的に不安定になってしまい、自分の感情がコントロール出来なくなると魔力が暴走する『発作』を度々起こすようになった。

 父のパーシバルは愛娘に身体的にも精神的にも苦痛を与えたマグルの少年達に烈火の如く激怒して復讐、アズカバンに収容され、それから数年後に獄中死。その後一家はゴドリックの谷に引っ越し、以降アリアナの面倒を母のケンドラは付きっきりで見るようになる。この時ダンブルドアはホグワーツに在籍していたので、アバーフォースも母同様に妹の面倒を見た。

 

 1892年にホグワーツに入学、グリフィンドールに組分けされたダンブルドアは当初『犯罪者の息子』と言う眼で見られてきたが、『ホグワーツ始まって以来の秀才』と評判を得てからは蔑みの眼差しを送る者は誰も居なくなった。

 在学中は首席・監督生に選ばれた他、学校の賞と言う賞を初めとする『秀でた呪文術へのバーナバス・フィンクリー賞』や『カイロにおける国際錬金術会議での革新的な論文における金賞』等の様々な賞の受賞、ウィゼンガモット最高裁への英国青年代表、『実践魔法薬』『変身現代』『呪文の挑戦』等への論文掲載など、学生の身分でありながらこの時から既にダンブルドアは数々の栄誉に輝いた。また、錬金術師ニコラス・フラメル、魔法史家バチルダ・バグショット、魔法理論家アドルバード・ワフリング等、当時の著名な魔法使い・魔女と交流もしていた。

 

 1899年、数々の輝かしい賞を獲得してホグワーツを卒業したダンブルドアは、入学初日に友達になった学友のエルファイアス・ドージと共に卒業世界旅行を計画したのだが………当時14歳だった妹アリアナが、『発作』で母ケンドラを誤って殺害すると言う卒業旅行を断念せざる得ない事件が起きてしまった。

 ケンドラの死後、弟のアバーフォースとどちらがアリアナの面倒を見るかで口論するも、最終的には一家の長男で若くして家長となったダンブルドアが面倒を見ることになった。

 けれど、ダンブルドアはそのような環境下では自分の他人よりずっと飛び抜けた才能を存分に発揮出来ず、自身の実力に酔いしれていた彼は不満やストレスが溜まりに溜まっていった。

 

 数週間後、ダンブルドアはある人物と出会う。

 その人物との出会いがその後のダンブルドアの人生を180゜大きく変え、事態が急変したきっかけでもあった。

 ―――ゲラート・グリンデルバルド。

 近所に住んでいたバチルダ・バグショットの大甥で、現代では魔法界の歴史上においてヴォルデモートに次いで2番目に強大な闇の魔法使いとして知られている男だ。

 闇の魔術を専門とするダームストラング専門学校に通っていたが、同級生を攻撃したことで退学処分となったグリンデルバルドはその後ゴドリックの谷に訪れ、そこに住んでいたダンブルドアと同じ年頃の青年同士と言うのもあって彼と親友になり、ダンブルドアも最初は『自分と唯一対等になれる人物』としてグリンデルバルドに強く惹かれた。

 出会って間もないのに二人はあっという間に意気投合し、ダンブルドアはグリンデルバルドと共に『より大きな善の為に』と言うスローガンの基、マグルの支配計画や死の秘宝を探し出す計画に夢中になり、自分達にとって最高の魔法界の将来について語り合うのが楽しくてしょうがなく、アリアナの世話を蔑ろにしてしまう。

 二人の計画を知ったアバーフォースは当然大反対してダンブルドアとグリンデルバルドと舌戦になり、やがてその舌戦は三つ巴の争いへと発展した。

 

 そしてその醜い争いが、悲劇を生み出した。

 幼い頃にマグルの人間に暴力を振るわれて心に深い傷を負い、故意でなかったにしろ実の母親を手に掛けてしまった自責の念に苦しみもがいていたアリアナが、この戦いの末に不運にも亡くなってしまったのだ。

 死因については、ダンブルドア達もよくわからないが………一つだけハッキリしてるのは、三つ巴の戦いを目撃したことがきっかけだ。

 アリアナは自分の兄二人が争うのを見て精神的に不安定になり、病弱ながらもいざこざを止めようとしたけれど、『発作』を起こして死亡したのかもしれない。

 死因は何にしろ、この一件をトリガーにダンブルドアは初めて己の慢心と愚かさを思い知る事となり、「もしかしたら『発作』ではなく自分の放った呪いが妹を殺してしまったのではないか?」と言う恐怖に取り憑かれ、既にダームストラングの前科があったグリンデルバルドは咎を受ける事を恐れて外国へ逃亡し、以後二人が友として再会することはなかった。

 

 妹の死と言う大きな代償と引き換えに、今では『20世紀で最も偉大な魔法使い』と呼ばれるまでになったダンブルドアはあの日以来、現実的に容赦無く突き付けられた自分が犯した重罪やかつて抱いた愚考を忘れたことは1日とてない。

 死者を呼び戻せる力を持つ伝説の秘宝を前にするダンブルドアは、次第に強靭な理性が私情に飲み込まれていく。

 放すまいと強く握り締めていたグリフィンドールの剣が手から滑り落ち、けたたましい金属音が足元の床から室内全体に響き渡った。

 それには眼もくれず、ダンブルドアは死んだ家族に会える期待と待望に震える手をゆっくりと金色のリングへと伸ばす。

 どんなに頭の中でダメだと叫ぶ声が鬱陶しいくらい反響しても、本能に忠実な心はそれを撥ね付ける。

 そして、遂に指先が指輪に触れようとした、次の瞬間―――。

 

 

 

「ストップ、ダンブルドア校長。それ、嵌めたら明らかにヤバい物じゃないんですか?」

 

 

 

 部屋の入り口から此処には居ないはずの少女の声がし、ダンブルドアはハッと顔を上げて、急いでそちらへ顔を向ける。

 長い漆黒の黒髪に蒼い瞳、どことなくワイルドな印象を与える端正な顔立ちをした少女―――フィール・ベルンカステルが、そこに立っていた。

 服装は白いシャツの上に黒いジャケットを着て黒いスカートを履いている。

 相当急いできたのか、髪が若干乱れていた。

 ダンブルドアはキラキラした青い瞳を大きく見開かせる。

 今は夏季休暇中だ。本来であれば、生徒は居ないはずである。なのに、わざわざ此処に来たと言うことは、余程の理由があるのだろうか。いや、それよりも、まず―――

 

「君はどうやって入ってきたのじゃ………?」

 

 入り口には石のガーゴイルに守られており、正しい合言葉を言わなければ校長室には入室不可能なはずだ。

 するとフィールは首を傾げて不思議そうな表情を浮かべた。

 

「え? お母さんから前に『ダンブルドア校長は甘いお菓子が好きで合言葉もお菓子の名前一貫だった』って教えられたので、とりあえずテキトーに『ペロペロ酸飴』と言ってみたら、一発で当たりました」

 

 フィールは胸に手を当てて、なんて事無さげにそう言う。ダンブルドアは思わず苦笑した。

 

「覚えておったのじゃな、クラミー。わしがお菓子好きなことを」

《ええ、勿論。覚えてますよ》

 

 フィールが首から下げている銀色のロケットから、ダンブルドアの言葉に返事する女性の声が聞こえてくる。

 声の主は、フィールの母・クラミーだ。

 クラミーは11年前、ルシウス・マルフォイからの依頼を受けたドローレス・アンブリッジが派遣した吸魂鬼(ディメンター)によって魂を吸い取られ、廃人になったのだが―――微かに身体に残存していた魂の残滓とフィールの魂の一部が融合したことにより、長年ロケットに宿って娘を見守ってきた。

 生死の狭間・魂の境界線でクラミーと再会を果たした後、フィールはちょくちょく会いに行っては共に訓練を積み重ねたりしている。そして訓練終了後は、お決まりでクラミーにべったりするのが最近の日常茶飯事となってきた。

 なんと言っても、幼くして母親を失ったのだ。

 それまで甘えられなかった分、甘えたくなるのはフィールの境遇を考えれば仕方ないだろう。

 さて、それはさておき―――。

 

「何故君は此処に来たのじゃ? 今は夏季休暇じゃぞ?」

「その理由を話す前に、私から一つ。―――その指輪、迂闊に触れようとしないでください。禍々しい気がビシバシと伝わってくる。嵌めればまず間違いないなく呪いに掛かり、命を蝕まれるでしょう。軽率な行動は控えた方がよろしいかと」

 

 険しい顔付きで淡々と話していたフィールは、視線をダンブルドアから床に転がるグリフィンドールの剣に移す。それだけで、大方察したのだろう。

 

指輪(それ)は分霊箱だから、校長は破壊するべくグリフィンドールの剣を用意したのでしょう? ならば、即刻私()が成すべき事は同じはずです」

「………私()?」

 

 今度はダンブルドアが首を傾げて不思議そうな表情を滲ませると、フィールはジャケットのポケットから何かをスッと取り出した。

 それは、黒ずんだ小さな髪飾りだった。

 サファイアのような楕円形の石が嵌め込まれており、レイブンクローのシンボルアニマル・鷲とホグワーツ創設者の一人ロウェナ・レイブンクローの有名な言葉で信条の『計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり』が刻まれている。

 これを頭につければ知識が増すと言われている―――長らく所在が不明だったことからレイブンクローの失われたダイアデムと言う名でも知られる、『ロウェナ・レイブンクローの髪飾り』だ。

 何故それをフィールが持っているのか?

 驚きを隠しきれないダンブルドアはこれまた質問を投げ掛ける。

 

「そのティアラ………何処で見付けたのじゃ?」

「必要の部屋ですよ。前々から、何処からか発せられる禍々しい気配に不快な気分を味わうことは多々あったんですが、そういう時はあまり気にしないようにしてほったらかしにしてました。でもお母さんにその事を話したら、『恐らくは分霊箱が発する不穏なオーラでしょう』と言われて、校長室に来る前にホグワーツに来たついでに必要の部屋に寄って隠されていたこれを見付けました」

 

 フィールはティアラをテーブルに置く。

 その隣には、金色の指輪が転がっていた。

 これで分霊箱は2個揃った。

 破壊すれば、分霊箱は残り4個となる。

 

「………分霊箱の力は凄まじいですね。持ってると余計不快な感情を与えてきましたよ。アイツのことだから、更に強大な闇の魔術を重ね掛けして盤石を固めたんでしょうね、きっと。いい迷惑ですよ、ホントに」

 

 一見すると何とも無いように振る舞っていたフィールであったが、その実分霊箱を所持する人間に精神に異常をきたす作用によって、さっきから不愉快極まりない思いを抱いていた。

 少し疲れたため息を漏らし、顔を歪める。

 が、瞬く間にいつも通りの表情を取り繕ったフィールはヒップホルスターから杖を抜き出し、いつでも魔法を発射出来るよう準備する。

 

「では校長。さっさと壊してしまいましょう。勿論、破壊後も決して嵌めないでくださいよ。じゃなかったら、慌てて駆け付けた私の立場がありませんからね」

「その忠告、確かに心に刻んだ。………では、分霊箱を打ち砕こうぞ」

 

 ダンブルドアは白銀の剣を拾い上げ―――迷いを吹っ切るよう高く振り上げ、今度こそ分霊箱たる指輪を破壊した。同時、フィールも『悪霊の火』を用いる。ティアラは闇の炎に飲まれ、跡形もなく焼失させた。

 これで分霊の役割を務めていたゴーントの指輪とレイブンクローの髪飾りは使い物にならなくなり、後者に至ってはこの世から完全に消滅した。

 少々やり過ぎだったかもしれないが、今更悔やんでももう遅いし、仕方ない。ホークラックスの破壊方法は限り無く少ないので、どうしようもないのだから。

 

「ふぅ………これで残り4個ですね」

「そうじゃな。………君のおかげでわしは命拾いした。感謝するぞ」

「と言っても、こうなったのは奇跡的な偶然が重なったからなんですけどね」

「………フィールよ、もう一度、君に尋ねてもよいかね。君は何故ホグワーツに来たのじゃ?」

「ああ、それは………ある人からの伝言を届けに来たんですよ」

「伝言? わしにか?」

「ええ、そうです。………その人から、直接聞きましたよ。校長の経歴や過去も、全部」

 

 杖を収納したフィールはダンブルドアと真っ正面から向き直る。ダンブルドアは聞き捨てならないセリフに、眼を見張った。

 

「………その人は、死んでも尚、貴方を『兄』として慕い、愛していた。そして貴方に対し、謝意の念も抱いていた。もう現世では会うことが出来ないから、伝えたいことを伝えられず、心を痛めていた。………だから、貴方の教え子であり、共通の境遇を持つ私へ代わりに伝えて欲しいと、魂の境界線にやって来たその人物にそう頼まれました」

「………その人物とは、まさか………」

 

 熱い塊が胸の奥から込み上げてきて、声が詰まる。眼から何かが溢れ出してしまいそうになり、ダンブルドアは次の言葉が紡がれるのを待った。

 

「優しそうな、貴方と面差しが似てる金髪の女の人ですよ」

 

 フィールがそう答えた瞬間、目の前に張り掛けていた水の膜が弾けて溢れ落ちた。

 

「妹さん………アリアナ・ダンブルドアは、こう言ってました。『ごめんね、お兄ちゃん。私がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに………私がお母さんを殺したことでお兄ちゃんの人生を大きく変えてしまって、本当にごめん。あの時、私はお兄ちゃん達が争っているのを見て、また「発作」が起きたの。だから、誰も悪くないんだよ。悪いのは、魔法を上手く制御出来なかった私なんだから』」

 

 そこで一度区切り、間を置いてから、再度口を開く。

 

「『最後に私から言わせて。………私は、嬉しかったよ。短い間だったけど、お兄ちゃんが私の傍に居て面倒を見てくれたことが。世間から外れ、実の母親を殺害した私の傍に………たとえ仕方なくによせ、事務的だったとしても、四六時中情緒不安定な私なんかの世話をしてくれて。お兄ちゃんは十分誰かのために労力を費やして頑張ってきた。だから、これからはお兄ちゃんらしくこの世界を生きて。死んで、私やお父さんお母さんの所に来たら、また1から家族をやり直そうね。だから、もう一人のお兄ちゃんのアバーフォースと早く仲直りしてね。………アルバスお兄ちゃん、アバーフォースお兄ちゃん』」

 

 そしてフィールは、アリアナからの最後のメッセージをダンブルドアへ静かに伝えた。

 

 

 

「―――『死んでも私は、お兄ちゃん達のことを愛してます』」

 

 

 

 校長室から一切の音が消え失せた。

 奇妙な静寂に覆われた室内は、しんみりとした空気と長く感じる沈黙が流れ―――やがてダンブルドアは、震えた声で言葉を発した。

 

「フィー、ル……その言葉は、誠なんじゃな? アリアナが、本当に………そう言っておったんじゃな?」

「当たり前ですよ、校長。冗談で私がこんなこと言う訳がないでしょう? 妹さんがいたってことは、今日が初耳でしたし」

 

 微かにため息を吐いたフィールは鬱屈そうに長い睫毛に縁取られた蒼瞳を伏せる。

 

「………他人である私がこんなこと言ったら、『お前に何がわかるんだ!』って怒るかもしれませんが………アリアナさんの苦しい気持ち、よくわかるんです。私も、故意でなかったにしろ家族に手を掛け家族を苦しめてしまった身ですから。………私が殺した叔母のシュテラは、命を奪った張本人を前にしても尚、イヤな顔一つせず許してくれました。アリアナさんも同じく、貴方達へ対する愛情は変わらないんです。だからこそ、生き続けてください。生きて、その人の分まで人生を全うしてください。それが私達に出来る唯一の償いなんですから」

 

 如何に本人に謝罪し、許してくれようとも、死に至らしめた原因に自身が関与しているのに変わりはない。この世界に生きる限り、かつて犯してしまった罪と自責の念は永遠に付き纏うだろう。

 それでも自分達は生きなければならない。

 生きて過ちを償わなければならないのだ。

 同じ立場に立っているからこそ、責任の重さが痛いほど理解出来る。

 

「私達にはまだ使命が残っている。それを果たし終え、未練を断ち切ってから、死後の世界でもう一度やり直しましょう。今は護るべきもののために戦う時ですから。………もう二度と、現実から目を背け、逃げないでください。自ら選んだ運命から」

 

 そう言って、フィールは窓枠に飛び乗る。

 飛び降りる前、フィールは肩越しからダンブルドアを振り返り、フッと微笑んだ。

 

「それでは、またお会いしましょう。今日は急に押し掛けて、すいませんでした」

 

 そうして、フィールは窓から飛び降りて姿を消したその背中を見送っていたダンブルドアは一つ息をつき………一人取り残された部屋の中で、アリアナからの伝言とフィールからの言葉を胸に深く強く刻んだのであった。




【ゴーントの指輪破壊時期】
ピクシブでは1996?月7日と記述。
確か原作ではハリーをダーズリー家から迎えに行く前に指輪を破壊したと言ってたので、7月に設定。

【ダンブルドア生存ルート】
オリ主が生死の狭間『魂の境界線』にいつでも行ける関係で寸前でダンブルドアを生存ルートに変更。
ある意味これはこの時のためでもあったり、と今では思います。
だって仕方ないじゃないか!
ダンブルドアを存命させるか否かの分岐点って正直言うとこのタイミングしかないんだもの。

【ついでに壊しちゃいましたティアラ】
ホグワーツ来たついでに必要の部屋に寄ってレイブンクローの髪飾りもブレイクしたので、6章1話目にして残りの分霊箱が4個に。
え? いくらなんでも早すぎないかって?
大丈夫です、作者もそう思ってますから。

【アリアナと対面したフィール】
魂の境界線は5章ラストで現れたシュテラみたいに、魔法使い・魔女の死者で現世に何らかの未練が残ってるならやって来られる的な認識で一応設定してるので、アリアナはダンブルドアの教え子のフィールの所へ来て、兄に伝言を伝えて欲しいと依頼されました。

【アリアナの死因】
実は色んな情報があって、結局どれが本当なのか定かではないんですよね。
三人が争っているのを見て『発作』で死んだのかそれとも三人の誰かが撃った呪いで死んだのか、あるいはその両方か、その辺はあんまり明確に明かされてないので、この作品では『発作』で死んだ設定にしてます。

【まとめ】
今回はダンブルドア生存ルート&分霊箱2個の破壊でお送りしました。原作では指輪を破壊した後に嵌めて弱体化と言う流れでしたが、作中では破壊前に嵌めようとしたところを寸前でホグワーツにやって来たフィールが待ったを掛けて見事死亡ルートから救出してくれました。
安心してください、この作品のダンブルドアはバリバリ元気ですよ。
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