【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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最近になって生存ルートになったはずなのにクラウチJr.を5章では登場させなかったのを今更ながら思い出し、あれそういやアイツ何処行ったんだろ? とあまり本編では影響されない作中でのクラウチJr.の現在の所在をあれこれ考えてます。

とりあえず今のところの候補は、「復活に一番尽力尽くしてくれた褒美として1年間の自由時間を与えられ、お言葉に甘えてやって来ました日本と外国に旅行と言う名の失踪をした」ですかね。


#87.破れぬ誓い

 スピナーズ・エンド。

 そこはホグワーツで『魔法薬学』を担当する、恐らくは教師の中でも最年少であろうセブルス・スネイプの自宅がある通りだ。

 汚い袋小路で、掃き溜めのような場所にあり、付近には荒れ果てたレンガ建ての家が並び、通りの上には廃墟になった紡績工場の煙突が浮かんで見える。

 スネイプの家は玄関は無く、入った所がすぐ居間だ。居間は小さな暗い独房のような部屋で、擦り切れたソファーや古い肘掛け椅子、ぐらつくテーブルなどが置かれている。壁は本棚となっていてびっしりと本で覆われているが、その一部は隠し扉となっており、扉の裏の階段から2階に行くことが出来る仕組みだ。

 そんなスタレタストリートの一番奥の家で住むスネイプの元へ、二人の魔女が訪れていた。

 一つは、ベラトリックス・レストレンジ。

 長身で黒髪、薄い唇、厚ぼったい瞼の彼女は嫉妬と不信感が入り交じったキツい眼差しをスネイプへ向けている。

 もう一つは、ナルシッサ・マルフォイ。

 長身痩躯で長いブロンドの髪の彼女は蒼白で高慢な顔を涙でぐちゃぐちゃにさせ、スネイプに泣き縋っていた。

 

「セブルス………お願い………あの方にお話しして、説得して………私の息子を………たった一人の息子を………助けて………」

 

 ナルシッサがスネイプの家に訪問した訳。

 それは―――彼に、愛する一人息子・ドラコの庇護者になって欲しかったからだ。

 ヴォルデモートは夫のルシウスの度重なる任務の失敗の罰として、死喰い人見習いに任命したまだ幼い子供のドラコへ『アルバス・ダンブルドア殺害』を命じた。

 その時ナルシッサは、ヴォルデモートはドラコを殺すつもりで遂行する確率が極めて低い任務を与えたのだろうと直感した。

 

 ドラコは今年で6年生になるまだ幼い子供。

 齢16歳の無垢な少年に、人殺しなど出来るはずがない。

 しかも殺戮対象はあのダンブルドアだ。

 今世紀最高の偉大な魔法使いと評され、ヴォルデモートが唯一恐れている人物に、学生の身分のドラコが彼に敵う訳がないのは火を見るよりも明らかだろう。信用に値しない者に危険な任務を命令するほど、ヴォルデモートも無計画な人間ではない。

 にもかかわらず、そんな実行不可能な命令をドラコに下した理由は………。

 

 ヴォルデモートの隠れた意図を薄々察しているナルシッサの心に、それまで彼に払っていた忠誠心の欠片などもう残っていない。

 あるのはただ、他言無用と言い渡された闇の帝王の言い付けを背いてでも、自分の命を捧げてでも護りたい、この16年間ずっと溺愛してきた一人息子の身の安全を保証したい母愛だった。

 

「闇の帝王は説得される方ではない。それに我輩は、説得しようとするほど愚か者ではない」

 

 だがしかし、ナルシッサの必死の哀願をスネイプは冷たい声音で即座に一蹴した。

 ナルシッサは絶望感がハッキリと現れた顔で、生気の失われた瞳で彼を見上げる。

 

「我輩としては、闇の帝王がルシウスにご立腹などと取り繕うことは出来ない。ルシウスは指揮を執るはずだった。自分自身が捕まってしまったばかりか、他に何人もの部下が捕まり、そして何人もの部下がフィール・ベルンカステルの手によって失われた。オマケに予言を取り戻すことにも失敗したのだ。左様、ナルシッサ、闇の帝王は非常にお怒りだ」

「それじゃ、私の思った通りだわ! あの方は見せしめのためにドラコを選んだのよ! あの子を成功させるおつもりではなく、途中で殺されることがお望みなのよ!」

 

 声を詰まらせ、泣きじゃくるナルシッサはヨロヨロと立ち上がってスネイプに近付き、漆黒のローブの胸元を掴んだ。涙で汚れた顔をスネイプに近付け、涙を彼の胸元に溢しながら言葉を紡ぐ。

 

「貴方なら出来るわ。ドラコの代わりに、セブルス、貴方なら出来る。貴方はきっと成功するわ。そうすればあの方は、貴方に他の誰よりも高い報奨を―――」

「あの方は最後には我輩にやらせるおつもりだ。そう思う。しかし、まず最初にドラコにやらせると、固く決心していらっしゃる。有り得ないことだが、ドラコが成功した暁には、我輩はもう少しホグワーツに留まり、スパイとしての有用な役割を遂行出来る訳だ」

 

 しがみつくナルシッサの両手首をやんわりと外しながら、スネイプは冷たく言い放つ。

 卒業後は死喰い人の仲間入りを果たしたスネイプだったが、ある日を境にヴォルデモートを裏切ってダンブルドアに頼った彼は不死鳥の騎士団と死喰い人の『二重スパイ』となった。

 闇の陣営やヴォルデモートからは自分達の味方と思われているが、実際はダンブルドアを初めとする光の陣営側の人間なのに、彼等は一切気付いていない。

 

「それじゃ、貴方は、ドラコが殺されても構わないと言うの!」

「何度も言わせるでない、ナルシッサ。闇の帝王は非常お怒りだ。あの方は予言を聞けなかった。貴女も我輩同様、よくご存知のことだが、あの方は易々とお許しにならない」

 

 前学期、ヴォルデモートとハリーの運命が記された予言の全貌を知ろうと前者は後者を神秘部に誘き出すが、ルシウスの失態で予言の球は内容を聞く前に砕け散り、挙げ句の果てにルシウスはアズカバンに収監された。

 それに加え、彼は凋落前にヴォルデモートから預かったトム・リドルの日記が分霊箱だったのを知らず、アーサーがマグル保護法を起草したことに危機感を感じてウィーズリー一家を破滅させようとした焦燥から、軽々しくジニーの持ち物に紛れ込ませ、最終的にはフィールに破壊されたと言う大きな過失がある。

 ただでさえルシウスへ対する信頼度が0になってきてる今、その彼の妻であるナルシッサの懇願など自己中心的な性格のヴォルデモートの耳には届かないだろうし、すげなく願い下げするのはスネイプの眼から見ても容易に予想がつく。

 

「ドラコ………私のたった一人の息子………」

 

 膝から崩れ落ちるようにナルシッサはスネイプの足元に踞り、啜り泣いた。

 

「お前は誇りに思うべきだよ、シシー! 私に息子がいたら、闇の帝王のお役に立つよう、喜んで差し出しただろう」

 

 それまで黙って事の成り行きを見守っていたベラトリックスが妹に向かって情け容赦無く言い、ナルシッサは姉の非情な発言に小さく絶望の声を上げた。

 そんな彼女の腕をスネイプは屈んで掴み、ソファーに座らせる。それからナルシッサのグラスにワインを注ぎ、無理矢理手に持たせた。

 ちなみにこのワインは、先程隠し扉の一つの裏で聞き耳を立てていたワームテール(本名:ピーター・ペティグリュー)が用意した物だ。

 最近彼は盗み聞きが趣味になったらしいが、その心理はイマイチよくわからない。

 

「ナルシッサ、もう止めるのだ。これを飲んで、我輩の言うことを聞け」

 

 ナルシッサは少し静かになり、血のように紅いワインを撥ね溢しながら、震える手で一口飲んでフッと一息つく。

 

「最後まで手助け出来ると言う保証は無いが、それでも構わないと言うならば、我輩はドラコを全力で手助けしよう」

 

 その言葉にナルシッサはハッと、青い眼を大きく見開いた。

 

「セブルス………貴方が、あの子を助けてくださる? あの子を見守って、危害が及ばないようにしてくださる?」

「やれる限りは、そうしよう」

 

 スネイプが頷くと、ナルシッサはグラスを放り出した。グラスがテーブルの上を滑ると同時にナルシッサはソファーを滑り降りて、スネイプの足元に跪き、彼の手を取って唇を押し当てる。

 

「貴方があの子を護ってくださるのなら………セブルス、誓ってくださる? 『破れぬ誓い』を誓ってくださる?」

「『破れぬ誓い』?」

 

 『破れぬ誓い』とは、強制的に約束事を取り付けるには最適の魔法界の誓いの呪文(儀式)だ。

 何故ならこの誓いを破った者は死ぬのだから。

 これを行うには、まず誓約を取り交わす者同士が跪き、互いの右手を握り合い、『結び手』と呼ばれる証人が二人の頭上に立ち、結ばれた手の上に杖を置く。誓いが立てられる度に、結び手の杖先から炎の舌が飛び出し、灼熱の紅い紐のように握った手の周りに巻き付く。

 それが『破れぬ誓い』を実行した証だ。

 

「シシー、聞いていなかったのかい? ああ、コイツは確かにやってみるだろうよ。いつもの虚しい言葉だ。行動を起こす時になると上手くすり抜ける………闇の帝王の命令だろうともさ!」

 

 勝ち誇ったように高笑いするベラトリックスを華麗にスルーしてスネイプはナルシッサの涙に濡れた青瞳を見据えて、小さく首肯した。

 

「いかにも。ナルシッサ、『破れぬ誓い』を結ぼう。姉君が『結び手』になることにご同意くださるだろう」

 

 ベラトリックスは口をあんぐりと開け、驚愕の表情で凍り付いた。スネイプはフリーズするベラトリックスを尻目にナルシッサと向かい合って跪くように座り、彼女と右手を握り合う。

 

「ベラトリックス、杖が必要だ。―――それに、もっと傍に来る必要がある」

 

 スネイプは冷たく言い、未だに一驚してるベラトリックスは唖然としつつ、杖を取り出して一歩前に進み出し、二人の頭上に立って結ばれた両手の上に杖の先端を置く。杖が置かれた直後、ナルシッサは静かに一つ目の誓いを立てた。

 

「セブルス、貴方は、闇の帝王の望みを叶えようとする私の息子、ドラコを見守ってくださいますか?」

「誓おう」

 

 眩しい炎が細い舌のように杖から飛び出し、二人の手の周りに巻き付く。

 

「そして貴方は、息子に危害が及ばぬよう、力の限り護ってくださいますか?」

「誓おう」

 

 二つ目の炎の舌が杖から噴き出し、最初の炎と絡み合い、輝く細い鎖を形作る。

 

「そして、もし必要になれば………ドラコが失敗しそうな場合は………闇の帝王がドラコに遂行を命じた行為を貴方が実行してくださいますか?」

「―――誓おう」

 

 一瞬の沈黙の後、スネイプは約束した。

 眼を見開き、驚くベラトリックスの顔が、三つ目の細い炎が閃光で赤く照り輝く。三度炎が噴出し、他の炎と絡み合い、握り合わされた二人の手に、縄のように、炎の蛇のように、がっしりと巻き付いたのだった。

 

♦️

 

「フィール、ホント、マジでごめん………私、貴女を殺そうとして………」

 

 窶れた顔に惨めな表情、いつもの風船ガムのようなショッキングピンクではなく、くすんだ茶色の髪色になったニンファドーラ・トンクスは、隠れ穴にハリーが滞在する間の彼の護衛として数日前から隠れ穴に泊まり込みに来ているフィールへ深く頭を下げた。

 ハリーが滞在する間、最大級の安全策が魔法省によって施されてはいるが、万が一トラブルが発生した場合にはすぐに対応出来るよう、彼と一番近しいフィールに護衛役を頼んだのだ。

 現在ハリーは、ダンブルドアと共にセブルス・スネイプ前任の『魔法薬学』教師だったホラス・E・F・スラグボーンと言う男の所へ向かい、後にダンブルドアが此処まで連れて来る予定だ。

 何でもスラグボーンはダンブルドアのかつての同僚らしく、彼は『スラグ(ナメクジ)・クラブ』と言う、有名人や成功者の子弟、魅力ある者などの『お気に入り』の生徒を選び出しメンバー間で有用な人を紹介して便宜を図るのが目的のサロンを主催する人物蒐集癖があるとか。

 

 ダンブルドアはハリーを連れてホグワーツで再び教鞭を取るようスラグボーンの家に行き、彼を説得するとのことだ。スラグボーンは『選ばれし者』ハリー・ポッターを見たら喜んで復職を受け入れるだろうと言うダンブルドアの思惑である。

 何故そのようなことをするのか、最年少の不死鳥の騎士団メンバーのフィールはダンブルドアから詳しい話を聞いている。

 スラグボーンはフィールやハリーの両親、親友が数十年前にホグワーツに入学する前から長年ホグワーツに勤務していたみたいで、トム・リドル―――ヴォルデモートがホグワーツに在学中だった時期も『魔法薬学』の教授を担当をしていたらしい。

 彼ならきっと何かヴォルデモートや分霊箱に関連する記憶を持っているに違いない、とダンブルドアは確信めいたものを抱いている。スネイプがホグワーツに勤務し始めた時期に退職した彼の復帰を目的としているのはそのためだ。

 スラグボーンが復職した暁には現『魔法薬学』担当のスネイプに彼の念願だった『闇の魔術に対する防衛術』を任せるとダンブルドアは言ってたので、「ハリーが聞いたら絶対嘆くな………」とフィールが友人の不運に軽くため息をついたのはまた別の話だ。

 

 スラグボーンのことは、そのクラブのメンバーで教え子でもあった母のクラミーからも彼について話を聞き及んでいる。

 陽気な人物ではあるが、甘えた生き方をしており、有名で成功した力のある者と一緒に居ることを好み、そのような魔法使いに自分が影響を与えていると感じることを楽しみ、またクラブの見返りに好物など常に何かを得てるとか。

 因みにスラグボーン復職の確実を期する為、過去にメンバーの一員で魔法界では有名人の孫のフィールも連れて行こうと言う一案は一時期挙げられたが、それはフィール本人が断った。

 ハリーとフィール、どちらか一人だけならまだしも、流石に二人もの有望な人物を連れて行ったら、訝しんで何か別の意図があるのかと勘繰られる恐れがあるからだ。

 

「何度も言ってるだろ。過ぎたことは悔やんでも仕方ないし、私自身、もう気にしてないって。ちゃんとムーディや団員とも和解したし、これ以上アンタが謝る必要なんて無いだろ」

 

 フィールはやれやれとした表情で肩を竦める。

 ここずっとトンクスは顔を見合わせる度にこうして何回も謝罪してくるようになったのだ。

 と言うのも、不死鳥の騎士団もといマッド・アイ・ムーディが万が一フィールが自分達にとって脅威の存在になった場合はこの世から消すと言う衝撃的な計画を内密を立てていたことが発覚したからだった。

 

 それ以降フィールの叔父夫妻・ライアンとセシリア、彼女の両親と親友だったベイカー夫妻・イーサンとライリーは未だに敵意を募らせているのだが、特に一度は本気で殺害しようと決意したムーディへ対する殺意は半端じゃない。隙あらばいつでも喉を掻っ切る気で虎視眈々とスタンバってるくらいだ。

 彼等の計画に反対派だったシリウス・ブラックやリーマス・ルーピンとの関係は変わらず良好だが、ここ最近は他の団員、と言うよりはムーディとの関係は頗るよろしくない。

 ライアンやセシリアにとってフィールは大事な家族で、イーサンやライリーにとっては亡き親友の忘れ形見なのだ。そんな彼女を抹殺しようと密かに企んでいた仲間を、そう易々と許すことなんて出来るはずがない。

 

 とは言えヴォルデモートを初めとする闇の陣営が暗躍するこの時勢、いつまでも恨みを根に持っている暇など無く………とりあえずは、ヴォルデモートに対抗する秘密組織の和を乱してはならないと、フィール本人があっさり許してることもあって()()()和解し、渋々ではあるが表面上は良好的に付き合っている。

 フィールは「これは完全に和解するには時間掛かるな………」とドロドロで不安定な関係性に頭が痛いのだが、彼等は気付いておらず、それが余計彼女からすると悩みの種だった。

 

「だけど………なんか御詫びしないと、私の気が済まないわ」

「御詫び、ねえ………」

 

 正直言うと別にそんなものは要らないのだが、ここで断って延々とループしても鬱陶しいし疲れるだけなので、少し考え込んだフィールは、あっと何かを思い付いた顔になり、トンクスの方を見た。

 

「トンクスって確か、闇祓い(オーラー)だったよな?」

「え? うん、そうだけど」

「だったら、教えてくれないか? 闇祓いに要求される不可欠な要素とかを」

 

 フィールの将来の夢は闇祓いになることだ。

 そのため、目指している職業のプロのトンクスに直接話を聞いてみたいとフィールは最近とある事情からめっきり元気を無くし落ち込んでいるトンクスの気分転換にもなればいいと思いながら、そう頼んだ。

 

「フィールが教えて欲しいって言うなら、私は喜んで教えるけど………でも、私に聞くより、長年闇祓いやってたムーディに聞いた方が、わかりやすいしタメになるわよ?」

「勿論、ムーディからも今度聞くつもりだ。私は一人の人間だけじゃなく、他の人の話も聞いてみたいんだよ。だから、教えてくれ。それが御詫びになるから」

 

 フィールの言葉を受け、元気無さげに分かったと頷いたトンクスは彼女の闇祓いについて説明する。

 暫くはトンクスからの話を真剣に聞いて暇な時間を潰していると、不意に裏口の戸を3度叩く音がした。

 フィールはハッとそちらに顔を動かす。

 トンクスも音の発信地に意識が逸れた。

 

「誰? 名を名乗りなさい!」

 

 着古した緑の部屋着を着たモリー・ウィーズリーが扉に向かって声を張り上げると、ダンブルドアの声が扉越しから聞こえてきた。

 

「わしじゃ、ダンブルドアじゃよ。ハリーを連れておる」

 

 モリーはすぐにドアを開けた。

 紛れもなく、アルバス・ダンブルドアの隣には見慣れた黒髪緑眼の少年が立っていた。

 

「ハリー、まあ! 全く、アルバスったら、ドキッとしたわ。明け方前には着かないって仰ったのに!」

「運が良かったのじゃ。スラグボーンはわしが思ったよりずっと説得しやすかったのでな。勿論ハリーのお手柄じゃ」

 

 ハリーを中に誘いながらそう言うと、ダンブルドアはモリーからトンクスとフィールの方に視線を移した。

 

「これはニンファドーラ、こんばんは。フィールよ、先日ぶりじゃな」

「こんばんは、先生。………よう、ハリー」

「やあ、トンクス。あれ、フィールも居たの?」

「ああ、数日前からアンタの護衛役として泊まり込みに来てる」

 

 ハリーと挨拶がてらのハグを交わしながらフィールが言うと、トンクスが「私、もう帰るわ」と立ち上がってマントを肩に巻き付けた。

 

「モリー、お茶と同情をありがとう。フィール、将来の師弟関係を楽しみにしてるわよ」

「ニンファドーラ、わしへのお気遣いでお帰りになったりせんよう。わしは長くは居られないのじゃ。ルーファス・スクリムジョールと緊急に話し合わねばならんことがあってのう」

「いえ………私、帰らなければならないの。おやすみ」

 

 トンクスはダンブルドアと眼を合わせることなく挨拶すると、モリーがこんな提案をした。

 

「ねえ、週末の夕食にいらっしゃらない? リーマスやシリウス、マッド・アイも来るし―――」

「ううん、モリー、ダメ。でもありがとう。皆、おやすみなさい」

 

 トンクスは急ぎ足で三人の脇を通り過ぎ、庭に出て戸口から数歩離れた所で『姿くらまし』をして隠れ穴を去る。モリーは心配そうな表情でトンクスが消えた空間を見つめていた。

 

「さて、ホグワーツで会おうぞ、ハリー。くれぐれも気を付けることじゃ。モリー、フィール、ご機嫌よろしゅう」

 

 ダンブルドアは一礼し、トンクスに続いて出ていくと全く同じ場所で『姿くらまし』した。庭に誰も居なくなると、モリーは戸を閉めてハリーの肩を押し、テーブルを照らすランタンの明るい場所まで連れて行くと、上から下まで眺めながら深いため息を吐いた。

 去年同様、またまた背丈がぐんと伸びているので、元々高身長のフィールからするとそんなに身長差は無いのだが、低身長のモリーからすると、最初にハリーと出会った時と違って彼を見上げる形になっていて、月日が経つのは早いなと感慨深く思った。

 

「ロンと同じだわ。二人共まるで『引き伸ばし呪文』に掛かったみたい。この前ロンに学校用のローブを買ってやってから、あの子、間違いないなく10㎝は伸びてるわね。ハリー、お腹空いてない?」

「うん、空いてる」

「お座りなさいな。何か有り合わせを作るから」

 

 ハリーが椅子に腰掛けた瞬間、オレンジ色の毛にオレンジ色の瞳の、潰れたような顔をした巨体でがに股の猫が彼の膝に飛び乗り、喉をゴロゴロ鳴らしながら座り込んだ。

 ハーマイオニーが飼っているペットのクルックシャンクスだ。

 

「ハーマイオニーも居るの?」

「ええ、そうよ。一昨日着いたわ」

 

 クルックシャンクスの耳の後ろをカリカリ掻きながら嬉しそうに訊くハリーに、モリーは大きな鉄鍋を杖でコツコツ叩きながら答える。鍋はガランガランと大きな音を立てて飛び上がり、竈に載ってたちまちグツグツ煮え出した。

 

「勿論、皆もう寝てますよ。貴方があと数時間は来ないと思ってましたからね」

 

 モリーはまた鍋を叩く。鍋が宙に浮き、ハリーの方に飛んで傾いた。モリーは深皿をサッとその下に置き、トロリとしたオニオンスープが湯気を上げて流れ出すのを見事に受けた。

 

「ハリーも無事到着したし、今日は夜が明けるまで外に居る。何かあったら連絡しろ」

 

 白いワイシャツの上に黒のジャケットを羽織ったフィールはヒップホルスターから杖を抜き出していつでも魔法を使えるよう準備すると、玄関を出て隠れ穴の警護に当たった。

 その背中を見送ったハリーは、なんだか自分のせいでせっかくの夏休みを台無しにしてるのではと、頼もしさと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。誰に強要された訳でないにしろ、そう感じてしまうのは仕方ない。

 するとハリーの胸中を見透かしたように、フィールが出て行った後のドアを見ながらモリーがこう言った。

 

「最初は、学生のあの娘に騎士団の任務は就かせないって決めた約束事を破って、騎士団の仕事を与えたのを私は反対したわ。まだ子供なのに、重荷を背負わせたり負担を掛けるような行為はしたくなかったし。でも、あの娘はイヤな顔一つせず貴方の護衛を引き受けてくれたわ。だからねハリー。貴方自身が危険に首を突っ込んで、あの娘の気持ちを裏切るようなことはしないでちょうだいね」

 

 モリーの言葉に、ハリーはハッとする。

 自分が此処に滞在中は魔法省による最大級の安全策が施されているが、それらの措置のせいでモリーと夫のアーサーはある程度の不便を受ける羽目となった。

 が、二人は自分の安全を一番心配してるから、その事を全く苦に思ってない。

 しかし、自ら危険に身を晒すような真似をすれば、二人の恩を仇で返すことになるだろう―――と先程箒小屋でダンブルドアからも同じことを言われた。

 多忙なフィールが自分のために貴重な時間を割いてくれているのを、自分は無謀に命を投げ出して彼女の努力を無駄にしてはいけない。

 今ならダンブルドアやモリーの言葉の意味がよくわかったような気がして、ハリーは「はい」と大きく頷いたのだった。

 

 フィールは玄関の横壁に背を預け、腕を組んで夜明けを待っていた。片手には細長い杖が強く握られており、警衛しているのを示している。玄関はゴム長靴がごた混ぜになって転がり、思いっきり錆び付いた大鍋が転がっていた。

 

「今は午前1時過ぎか………とりあえず、数時間は此処で見張りするか」

《フィール、ハリー君達のために頑張るのはいいことだけど、無理は絶対しないこと。疲れたと思ったら、正直に言って休みなさい。身体を壊してしまったら、元も子もないわ》

「わかってる。眠くなったりとかしたら、一旦中に入って仮眠取るよ。隠したとしても、お母さんにはバレバレだから意味無いし」

《まあね。フィールの考えてることは、魂を通じてわたしには全部筒抜けよ。もしも疲労を押し通して皆に隠し通すような真似をしたら、後で説教するわよ》

「そしたら次に魂の境界線に行きづらくなるし、そうなる前に正直に言うわ」

 

 クラミーとそんな会話を交わし、フィールはフッと一息つく。それから、一度眼を閉じ、神経を研ぎ澄ませた。

 人が寝静まる深夜のためか、辺りはシンと静まり返っており、冷たい風が時折空気を切り裂く音と、中でハリーとモリーの会話が壁を挟んで耳に入ってくる。

 しばらくはただただ静かに時間が過ぎていっただけだったが、裏口の方からバシッと言う音がしたのと、モリーの叫び声が重なり、何事かとフィールは眼を開けて少々ビックリしたが、モリーの言葉からして、どうやらアーサーが帰ってきたらしい。

 確かにアーサーの声が微かに聞こえてくる。

 が、アーサーは自分が本物のアーサーかを決定付けるための質問をしろとドア越しにモリーに言い、モリーは多少躊躇いつつ、夫の気迫に気圧されて「貴方の一番の望みは何?」と質問し、彼は「飛行機がどうして浮いていられるのかを解明すること」と返答した。

 

「ヒコウキ? それって確か、マグルの人間が空中移動の際に乗るデッカい鉄の塊だよな?」

《ええ。空中を飛行する機械である航空機の内、ジェットエンジンの噴射かプロペラの回転から推力を得て加速前進し、且つ、その前進移動と固定翼によって揚力で滑空及び浮上するものを「飛行機」と言うわ》

「お母さん、なんかやたら詳しいな」

《昔、ライリーから教わったからね》

「ああ、そういえばライリーさん、父親がマグルだって言ってな。それなら、一度くらい乗った経験あってもおかしくないか」

 

 クラミーの説明にフィールが一人納得してる間にも、今度はアーサーがモリーに質問を投げ掛けたのがこちら側にも伝わってきたのだが………その質問内容に、ハリーのみならず、第三者のフィールとクラミーも向こう側から発せられるなんとも熱々な雰囲気を感じ取り、フィールは額に手をやった。

 

「………もっと別の質問なかったのか?」

《なかったんじゃない?》

 

 フィールの呟きにクラミーは即答する。

 フィールは苦笑していたが………ふと、いつになく真剣な顔付きになり、ロケットに宿るクラミーに話し掛けた。

 

「………ねえ、お母さん」

《ん? なに?》

「もしもお母さんが私が本物かどうかを確認するなら、私になんて質問する?」

 

 アーサーとモリーのやり取りから、フィールは問い掛けてみたのだろう。クラミーはその問いにこう答えた。

 

《………わたしの予測としては、貴女がわたしに訊く側だった場合にわたしに投げ掛けただろう質問を同じように貴女に投げ掛けたでしょうね》

 

 その返答に、フィールは微かに微笑む。

 

「うん。私もそう思う。………なら、答え合わせとして、私に質問して?」

《ええ………わかったわ》

 

 本当は、とっくの昔にわかっている。

 でもそれは敢えて言わず、クラミーはフィールへ質問した。

 

《―――わたしと貴女の共通する目的は何?》

 

 星明かりが綺麗な夜空の下。

 夜気に身体が包まれ、黒髪を優しく揺らす夜風を肌で感じながら、フィールは無数に輝く星空を決然とした表情で見上げ、静かに答えた。

 

 

 

「吸魂鬼に魂を喰われ、新たな吸魂鬼へ成り果てた私達の家族―――ラシェル・ベルンカステルを救い出すこと」

 

 

 




【画面外でのライアン達】

~ベルンカステル邸にて~

ライアン「イライライライライラ………」
セシリア「あの………最近ライアンからとてつもない殺気を感じるんだけど………(冷や汗」
ルーク「ああ、俺もそう感じる………(冷や汗」
シレン「私も………(冷や汗」
クリミア「ライアン叔父さんだけじゃなく、今頃はきっと………(遠い目」

~ベイカー家にて~

イーサン「イライライライライラ………」
ライリー「イライライライライラ………」
クシェル(なんかドロドロしたオーラをスッゴい感じる………)

【破れぬ誓い】
約束破ったら死ぬと言うリアルで実在したら絶対アカンヤツな儀式。ハリポタシリーズって、たま~にこういうとんでもない呪文(と言うか最早呪いの中の呪い)がさらっと出てくるのが何気に恐ろしい所です。

【フィールの将来の夢】
闇祓い。
ちなみにオーラーは作者がハリポタシリーズで一番好きな職業です。

【騎士団との関係】
一応は和解したけど次に何か起きたら今度こそ決別して離脱する。

【対面前からスラグホーンの人物像知る】
原作知識持ってるオリ主並みのズルさ。
ちなみに印象はあまりよろしくないようです。

【フィールとクラミーの共通目的】
ラシェルの救済。

【まとめ】
今回は原作平常運転の破れぬ誓いを交わしましたとフィールさん隠れ穴にてハリーの警護ですの回。果たして誓約は実行されるのか、それとも………。
これ以上はネタバレになるのでアウトですね。
とりあえずは明かされるまで色々と予想してみてください。
次回はダイアゴン横丁でお買い物の回の予定。
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