【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
昼食時間帯を終えた後。
4年のハッフルパフ女生徒、クリミア・メモリアルは1歳年下の他寮の後輩、アンジェリーナ・ジョンソンとアリシア・スピネットと遭遇し、現在クリミアは1階のサンルームで、二人に勉強を教えていた。
此処は屋根と壁面がガラス張りになっているために陽射しが暖かく、大空がよく見える。
比較的交流の幅が広いグリフィンドール生とハッフルパフ生の組み合わせは然程珍しくない。
なので、もし誰かが来て一緒に居る光景を見られたとしても、特に大きな問題は無かった。
クリミアは4年。
アンジェリーナとアリシアは3年。
1歳違いなので年上・年下、先輩・後輩という最低限の礼儀はあるが、厳しい上下関係はそこまで無い。
と言うより、気さくなクリミアが「敬語使ったり先輩つけたりするのは他人行儀だから、そんなものは必要無い」とフレンドリーな関係を望んでいるので、同じタイプのアンジェリーナやアリシアとはすぐに友好関係になった。
「ふーっ、ようやく終わった~」
「これで来週の課題提出はバッチリね」
大量に溜まっていた課題を全て終わらせたアンジェリーナとアリシアは、羽ペンを置いて手を休め、満面の笑みで伸びをする。クリミアは「お疲れ様」と微笑んだ。
「クリミア、本当にありがとね。貴女に教えて貰わなかったら、きっと終わらなかったわ」
「お役に立てて何よりよ。でも、私にも都合って物はあるから、毎回は教えられないわよ。それだけは忘れないでちょうだい」
「うー………わかってるわよ」
羊皮紙を綺麗に丸めて自分のショルダーバッグに仕舞ったアリシアはテーブルに突っ伏す。
「でも、これでのんびりと休日を過ごせるわ」
「課題が多い日なんかは丸々潰れた時があったわよね」
などアリシアとアンジェリーナは顔を見合わせながら呟き、そんな二人にクリミアは紅茶を淹れて差し出す。
二人は「ありがとう」と言ってから、取っ手を掴んでちびちび飲む。
そうして午後の穏やかな一時を満喫していると不意にアンジェリーナが言った。
「そういえば、クリミア。貴女は今年もクィディッチ選抜に申請しないの?」
クィディッチ選抜とは、各寮のクィディッチの寮代表選手を選定するための入団テストだ。
受けたい生徒は飛行訓練の教科担任でレフェリーのマダム・フーチや寮監に申し出ることになっている。
「ええ、しないわよ」
「え~っ、それ、ホントに勿体無くない?」
クリミアの返答に、アリシアが口を挟む。
この話題は、これまで何度も繰り返された。
クリミアが1年の時―――授業中に彼女はアクロバティック飛行を披露し、一時ホグワーツでは話題が事欠かなかった時期がある。
温和な顔付きに温厚な性格。
ハッフルパフ生にしては珍しい超優等生。
普段から雰囲気的にも優しいお姉さんタイプのクリミアが実は運動神経抜群と言う、身体能力が高そうには到底見えない所謂『ギャップ』に、当時のホグワーツ生は全員がビックリ仰天した。
「貴女の飛行技術がどれほどなのかは、実際見てないから詳しくは知らないけど………オリバーが言ってたのよ。『ハッフルパフのメモリアルが選手になったら油断出来ない』って」
「観客として観戦するにおいては一興だけど、選手として試合するのはあまり好きじゃないのよ。それに、選手になったら勉強時間とかが大幅に削られるし」
「クリミアは勉強好きよね。いつも思うんだけどそんなに頭が良くて勉学に意欲があるなら、レイブンクローに入ればよかったんじゃないの?」
「組分け帽子はハッフルパフかレイブンクローかで悩んだみたいだし」
「レイブンクロー、ねえ………」
レイブンクローは、機知と叡智に優れた者が集う寮だ。
勤勉な者や学力が高い者を求めているこの寮、知性を重んじるためか寮生はプライドが高い傾向にあり、他人を見下す者も多く、寮内でのイジメも少なくない。
また、頭脳明晰故に気難しい者や自惚れる者など個性的でクセ者揃いだ。
「素敵な寮かもしれないけど、私はハッフルパフの方が好きよ。両親がハッフルパフ出身だったから、私もそこに入ったって理由はあるけど、それ以上に私個人の意志で選んだわ」
ハッフルパフに入って心底よかったと、私は思ってるわよ―――とクリミアは柔らかく微笑む。
アンジェリーナとアリシアも笑った。
「そうね。確かに、クリミアみたいな人はハッフルパフが一番相応しいかもね。仮にレイブンクローに入ってたら、今とは印象が大分違ってたかもね」
「貴女がレイブンクロー生で学年首席だったら、多分皆はこう思ったでしょうね。『レイブンクローの名に相応しい叡智の女王様』って」
「それも有り得るけど、女王様って言うより、高嶺の花が一番ピッタリじゃない?」
「あー、確かにそうかも。才色兼備、品行方正、冷静沈着………そんな言葉がまさにピッタリな超優等生。でもそれ故に誰も不用意に近付いてはならない、そして指一本触れてはならない聖域ってな感じだったかもしれないわね」
「ま、でも現実は食い違ってるから、それはそれで皆ギャップを感じたでしょうね。優しげな顔によく似合う柔和な笑みに、プライドが高くて他人を蔑視しがちなレイブンクロー生とはとてもじゃないけど思えない的な?」
と、グリフィンドールの二人は、クリミアがもしもハッフルパフではなくレイブンクローだったら周りからはどんな評判だったか、互いの意見を交わして意気揚々と盛り上がる。
「スリザリンはまず有り得ないわね。『才知溢れる優秀な生徒』ってところは確かにそうだけど、清廉潔白なクリミアに狡猾とか野心家なイメージは全然合わないし」
「早い話、スリザリン以外の寮だったら何処でも上手くやれる万能タイプ、って言えばわかりやすいわね」
そこまで言って、二人は一息つく。
少しして、アンジェリーナがまた口を開いた。
「話を戻すけど………今度、貴女の飛行技術を見せてちょうだい。どれくらいスゴいのか、貴方が卒業するまでにはこの眼に焼き付けておきたいのよ」
「勉強もいいけど、たまには運動も大切よ。箒に乗って空を飛ぶのは楽しいし、暗い気持ちも吹き飛ぶわ」
「ってことでクリミア。今度、私達と一緒に飛行訓練しましょ」
「ふふっ、わかったわ。楽しみにしてるわ」
「ええ、私達も楽しみに待ってるわよ」
たまにはスポーツするのもいいかなと、クリミアは笑みながら了承し、二人も大きく頷く。
仲の良い友達同士で一つの約束を交わし終えた後、「そういえばさ」とアンジェリーナが何かを思い出した顔で別の話題を切り出した。
「飛行訓練で思い出したんだけど………昨日、1年のグリフィンドールとスリザリンが合同で飛行訓練の授業があったわよね」
「ああ、なんかその授業で事件が起きたって、1年の子達騒いでたよね」
「事件?」
初耳のクリミアはティーカップを置く。
昨日の今日なのでまだ詳細は一部の生徒しか知らないが、ホグワーツは噂好きな人間が多数を占めるので、いずれ全体に知れ渡るだろう。
だが、悠長なことは言ってられない。
スリザリンには―――妹が所属している。
もしも………『彼女』が関与しているならば、これは早期に知れる絶好のチャンスだ。聞き逃しは許されない。
だからこそ、心配性なクリミアはグッと顔を近付けて聞く態勢を整えた。
『事件』の断片を口にしたアンジェリーナとアリシアは特に包み隠すような素振りは無く、普通に話し始める。
「私達の後輩―――ハーマイオニー・グレンジャーって女の子が言ってたんだけど、どうやら授業中にネビル・ロングボトムって男の子が、焦ってフライングしたそうなのよ」
ハーマイオニーとネビル。
どちらもホグワーツ特急で出会ったあの少年少女の名前だ。
「ハーマイオニーによると、箒にしがみついていたネビルが手を放してしまって、かなりの高さから落下したそうだわ。でも、松明台の針に引っ掛かったから、ネビルは助かったみたいよ。………それ以外の理由もあるけどね」
「それ以外の理由?」
「さっき、松明台の針に引っ掛かったって言ったでしょ? そうなったのは、ローブを着ていたからだってのはわかるわよね?」
アリシアは空いてる椅子に置いた自身の黒いローブを一瞥する。
彼女が何を言いたいのかは、頭の回転が早いクリミアでなくとも何と無くわかるだろう。
「15m以上の高度で箒を手放して、地面にモロ直撃しなかったのは不幸中の幸いだけど………当然、それで無事に終わる訳が無い。ローブは徐々に破れて、ネビルの身体はどんどん下へ落ちていく」
その後どうなるかは―――嫌でも容易に想像がついた。
「普通だったら、ネビルは地面に叩き付けられたでしょうね。だけど、そうはならなかった」
「危うく地面に墜落しそうになったネビルを助けてくれた人がいたみたいでね、結果的にその人のおかげでネビルは無傷なのよ」
「助けてくれた人………?」
「ええ。話の一部始終を聞いた今でも、私達はあまり信じられないんだけどね。………ハーマイオニー以外の人達も言ってたんだけど、スリザリン所属の―――」
瞬間―――
「―――フィール・ベルンカステルが、ネビルを助けてくれたみたいなのよ」
―――クリミアは、ピクッと反応した。
だが、アンジェリーナとアリシアは彼女の微妙なリアクションに気付かないまま、話を続ける。
「最初聞いた時、私、ハーマイオニーは面白い冗談を言ってるんだと思ったわ。だって、スリザリンに所属してる生徒が、犬猿の仲のグリフィンドール寮生を助けるなんて、初めて聞いたもの。それ以前に、ベルンカステルみたいな人間が人助けするってこと自体ビックリよ」
「ほら、あの茶髪の女の子………クシェルだったかしら? あの娘からの『友達になろう』って言葉を撥ね付けるくらい、冷たくて無愛想なベルンカステルが、まさかそんなことをするなんて信じられないわ」
「グリフィンドールの方ではハリー並みに有名人なのよね。彼と違って、悪い意味でだけど」
「『目付きが怖くて近付きたくない』とか『アイツ何様のつもりだ』とか『ちょっとばかり成績良いからって調子に乗っている』とか、1年の子達は皆そう言うわ」
「実際ベルンカステルは、目付き鋭いし雰囲気も刺々しい、無口無表情で何考えてるかわかんないから、正直言うと、あの娘とは極力関わりたくないのよね。まあ、関わる機会なんて寮の関係上然う然う無いだろうけど」
「………………」
黙って聞いていたクリミアは紫瞳を伏せる。
話題の中心人物となったスリザリン寮生―――フィール・ベルンカステルは彼女の家族だ。
しかし、二人の関係を知っている生徒は現在二人―――ソフィア・アクロイドとアリア・ヴァイオレット―――だけである。
………アンジェリーナとアリシアは知る由もないだろう。
フィールこそが、クリミアの―――数年前までクリミアには『血の繋がっていない妹』がいると一時期大トピックになった、その義妹本人とは何もわからずに。
(目付きが怖いとか、無口無表情とかは、確かに事実だけど………)
ちょっとばかり成績が良いからって調子に乗っている、と聞いて、クリミアは自分のことのようにカチンときた。
フィールは決して増長しない人間だ。
それはクリミアがよくわかっている。
何も知らない人間に………家族を悪く言われて憤らない訳が無い。
思わずクリミアが口を開きかけた直後、アンジェリーナとアリシアは紅茶を飲み干し、ガタッと椅子を引いて、立ち上がった。
「話が長引いちゃったわね。私達、そろそろ寮に戻るわ。また今度ゆっくりお話しましょ」
「今日は本当にありがとね、クリミア」
「あ、そうそう、言い忘れてたんだけど―――」
アンジェリーナはクリミアに近付き、
「多分、近い内に知れ渡るだろうけど………ハリー、私達グリフィンドールのクィディッチチームのシーカーになるのよ。このことは、まだ誰にも言わないでちょうだい」
「え、ええ、わかったわ………。でも、1年生は校則でダメじゃなかったかしら?」
「まあね。本来はそうなんだけど………さっきの話には、続きがあるのよ」
なんでも、フィールがネビルを助けた後にまたもや騒動が起きたらしい。
この話は次に会ったら詳しく教えると言い残して、二人はサンルームを後にした。
「………………」
二人が居なくなると、急に静かになった。
クリミアは重いため息を吐いて、ガラス張りの天井を見上げる。
フィールが入学して、約2週間が経過した。
既にフィールはホグワーツ内で話題沸騰中の一人である。
前述の通り、悪い意味で、だが。
『ベルンカステルってさあ、なんか暗いよね』
『いっつも仏頂面してるし、目付きもキツい』
『あんなヤツがエルシー・ベルンカステルの孫とかマジガッカリだな』
『友達は大切にしなさいって親から言われなかったのかしら』
『もしかしたら、親が親なら子も子でベルンカステルの親に問題あるんじゃない?』
『あー、なるほど。子は親の鏡って言うし。ってことは、ベルンカステルの両親もあんな人だったんだな、きっと』
前に同期の連中がフィールやフィールの両親の陰口を叩いていたのを思い出し、クリミアは拳を握り締める。
「私達のお父さんとお母さんは、そんな人達じゃなかったわよ!」
と、あの時クリミアは大声で叫びたかった。
自分を………生まれて間もなく両親を失って孤児になった自分を引き取ってくれたのが、フィールの両親・ジャックとクラミーだ。
血の繋がりが無い自分に溢れんばかりの愛情を注ぎ、実の娘のように可愛がってくれた恩人なのだ。
だから………自分達の事情を何にも知らない連中にあんなことを言われて、久し振りに滅茶苦茶腹が立った。
「お父さん………お母さん………」
ガラス越しに紫瞳に映る広い青空を仰ぎ見ていたクリミアは、胸の底から込み上げてきた淋しさや哀しさ、そしてもうあの二人はこの世の何処にも居ないという喪失感を改めて感じ………閉じた瞼から、一筋の涙が流れた。
「もう一度…………お父さんとお母さんに会いたいよ…………」
もしも、願い事が一つだけ叶うなら。
自分は迷うこと無くそう願ったに違いない。
そしてそれは、きっとフィールも―――。
クリミアは右手で目元を覆い隠す。
いつの間にか、熱い雫が溢れていて………それは彼女の白い手を温かく濡らした。
♦️
ギュッ―――。
明らかに体調不良なのに何処かへ行こうとしたフィールを、駆け寄ったクシェルが勢いそのままに抱きついて彼女を引き留めた。
「………離せ」
「ダメ、絶対離さない」
両腕に更なる力を込め、クシェルは呟く。
「………フィー、なんで、そうやって独りで抱え込もうとするの? さっき、言ったでしょ、辛かったり苦しかったりしたら、私やマーカスを頼ってよって。………私の前でウソはつかないでよ」
「だから言ってるだろ。それはアンタの杞憂だ」
「だから言ってるでしょ。ウソはつかないでよ」
フィールの言葉を一蹴したクシェルは続ける。
「友達が苦しそうにしてたのを見て、黙っていられる友達はいないよ。フィー、自分で言ってたでしょ? 誰かが虐めてるのを見て、黙ってろって言う方が無理な話だって。それと同じ。フィーが辛そうなのに、知らないフリは出来ないよ」
………どうして、この人はこんなにも粘るのだろうか。
これが別の人間だったら、今頃自分を突き放していただろうに。
他の人だったら、追い掛けて来ないだろうに。
(……私のことを忌み嫌う人間がほとんどだから、こういう優しい言葉を掛けられるのは、慣れないのに………)
そう、自分は皆からの嫌われ者だ。
人助けしたって………蔑まれる。
先程、ロンから『正義の味方気取り』と言われた。
じゃあ、もしも………あの時、自分じゃなくてハリーがネビルを助けたら。
ロンはハリーのことを『正義の味方気取り』と言っただろうか?
………否、100%言わないだろう。
正義感が強い行動だったと、感心して誉め称える光景が思い浮かんだ。
ならば自分はどうだ?
自分ではない他人が人助けすれば、その場に居た者全員が拍手喝采するような行為でも。
スリザリン生の自分がすれば、一変する。
蔑視し、罵声し、侮蔑し、厭悪し。
そして最後は遠ざかっていく。
イヤな物を見るような眼で距離を取りながら。
(私には居場所が無い………)
これは、ホグワーツに入学してからずっと思っていたことだった。
何処に行っても、このホグワーツには自分にとっての拠り所は無くて。
だから、誰も居ない場所を独り探してそこで独り過ごすのだ。
闇のように真っ黒な感情が胸の奥で燻り………ビリッとフィールの指先から微弱な光が迸った。
「わっ………!?」
驚いたクシェルはフィールから離れる。
慌ててフィールは左手で右指を握り込んだ。
ドロドロした感情とグラグラした精神に苛まれ過ぎて、その不安定な心を反映するよう、魔力が勝手に漏れ出てしまったのだ。
「フィー、今のは………」
が、フィールは苦痛に歪んだ顔を背け、
「………ごめん、クシェル。今は一人にさせてくれないか? 一人になって、頭を冷やしたい」
と謝罪すると、逃げるように走り去った。
長い廊下をフィールは何も考えずただひたすら駆け抜け………その途中、躓いて、派手に転んでしまった。
転んだ衝撃でだて眼鏡が何処かへ吹っ飛ぶ。
フィールは硬くて冷たい床に少し擦り剥いた手をついてゆっくりと起き上がり―――だて眼鏡を拾い上げる。青のそれを掛けようとしたが、すんでで止めた。
ポーチに仕舞い、フィールは前を向く。
少し離れた場所にバルコニーが在った。
何かに誘われるように、フィールは足を一歩踏み出して歩みを進める。
そうして、バルコニーに移動すると―――軽く身を乗り出して、下を見た。
眼下には、大きな庭が広がっている。
午後の授業が無いためか、人の姿は誰一人として見当たらない。
生徒が不在なのを確認したフィールは、顔を上げて向こう側の吹き抜けの廊下を見る。
此処から彼処まで辿り着くのは容易だ。
何故ならば、魔法を用いればいいのだから。
「………………」
自然と手摺を掴む手に力が入る。
微かに震えていた手をパッと離し、後退するとヒップホルスターからスッと杖を抜き出した。
緊張と不安で心臓が高鳴る。
もし、魔法を上手く使えなかったら………自分は身体を地面に叩き付けられる。
フィールは恐れを振り払うように、首を横に振った。
大丈夫だ。自分なら出来る。そう信じよう。
何度も自分自身に言い聞かせたフィールは一度深呼吸し………意を決すると、その場から弾け飛ぶように駆け出した。
そして手摺を飛び越え、魔法を駆使しようと杖を振るう。
が―――。
『なあ、お前………あの時、どうしてネビルを助けた? お前はスリザリン生だろ!?』
『煩い! 正義の味方ぶったスリザリン生め、もう二度と僕らに関わろうとするな!』
『グリフィンドールに所属する生徒を助けるような真似は、もう止めなさい』
『グリフィンドール生を助けるなんて、無意味な行為なのよ』
『君が居なければこれからの学校生活を有意義に過ごせたと思うよ』
『君はスリザリンの恥だ。君の存在は、スリザリンにとって害でしかない』
精神的に落ち込む原因となったあらゆる言葉に頭も心も支配されたフィールは、安定した魔法を発揮出来ず………重力に従って、物凄い速さでまっ逆さまに落下した。
しかも―――手の力が抜けて、アカシアの杖が滑り落ちてしまった。
魔法を発動する寸前での最悪の事態。
杖無しでも魔法を駆使する技能をフィールは習得しているが、今の彼女にはそれさえも満足に出来る状態ではない。
結果、フィールは地面に叩き付けられた。
「痛ッ………」
地面に激突したフィールは呻き声を上げる。
そこそこ高度が高い所からの墜落だったが、フィールは普段から相当身体を鍛えているので、一般人よりは強靭な肉体をしている。
なので、運良く骨折はしなかったが………無理に動かそうとすると鈍い痛みが全身を駆け抜けるので、しばらくは起き上がれそうにない。
下手に動いて悪化させるよりは、痛みが引くまで大人しく待とうと、フィールは諦める。
「久し振りだな………こんなこと………」
一瞬自嘲気味に乾いた笑みを浮かべたフィールであったが、その笑みは瞬く間に消え失せ、溜め込んでいたストレスを発散するように、重苦しいため息を一気に吐き出した。
「………私って、こんなにも弱かったんだな。たかが他人の誹謗に………窮地に立たされるくらい心が………ズタズタにされるなんて……………」
譫言のように独り言を呟くフィール。
いつの間にか、目尻に涙が溜まっていた。
フィールがそれに気付いた時には、ゆっくりと頬を伝っていて。
「…………なんなんだよ………………」
フィールは目元を左手の甲で覆い隠した。
嗚咽を堪えようと、奥歯を強く噛み締める。
「皆して私を責め立てて…………私を悪者扱いして…………なんなんだよ………………」
辛くて苦しくて………どうしたらいいのかが、全くわからない。
感情に圧され、涙が込み上げてくる。
我慢しようと思ったけど、出来なくて。
止めどもなく溢れてくる。
左手の下に隠された母親譲りの端正な顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。
【年上世代】
同世代だけでなく、年上世代の原作キャラとオリキャラの絡みや関わりも書きたいのが私の本望で、今回はちょっと意外な組み合わせで登場。
【2学年年上のグリフィンドール女生徒】
1学年年上でハッフルパフ生のクリミアとは仲が良い他寮の先輩後輩という関係。
【原作キャラのルックス】
①原作通り
②映画版
③マイビジョン(簡単に言うと自分好みに設定)
とまあ、ざっくり纏めるとこんな感じ?
中々に多種多様なので、近い内に活動報告にて原作キャラのルックスを纏めておくべきですかね。
と言うか、結構黒髪や灰色眼って多いですよね。
映画では割りと黒髪や灰色眼、褐色眼がほとんどでしたが、まあ流石に全員が全員そうだったら作者も読者も飽きてくるし面白味に欠けるので、明度や濃淡、~系とかで違いを見出だしたり、③を実行したりします。
【多種多様で登場する屋外(屋内)スペース】
バルコニー、サンルームは既出。
ベランダ、テラス等は未出。
校内構造がバラエティー満載のホグワーツのことだ。屋外(屋内)スペース設置もバラエティー満載に違いないだろう。
【穴熊寮or鷲寮で迷ったクリミアの組分け】
実はクリミアの守護霊がレイブンクローのアニマルシンボルなのは、そういう理由でもあります。
ま、最初から大鷲の有体守護霊をオリキャラの誰かに持たせることは決定事項で、最終的に頭脳明晰なクリミアに確定したんですけどね。
【クリミアの前で本音をぶちまける二人】
この頃はまだ二人が義姉妹とは知りません。
【陰で陰口叩かれまくりなフィール】
しかもジャックとクラミーさえも悪く言われる。
これにはクリミアさんも激おこプンプン丸です。
【涙したクリミア】
作中でクリミアが泣いた描写は何気に初。
【ホグワーツでは居場所が無いフィール】
ハリー・ポッターと対比する部分の一つ。
自宅(ダーズリー家)では拠り所が無かったハリーにとってホグワーツは居場所ですが、フィールはその逆。
何処行っても多くのホグワーツ生からは嫌われ者として扱われているフィールには、居場所が何処にも無い。だからこそ、誰も居ない空き部屋とかバルコニーで学校生活の半分を過ごすのです(後に大半は必要の部屋になりますけどね)。
【魔力の漏電】
精神的な問題が原因。
【スランプに陥って地面激突したフィール】
前述でもありましたが、精神的に追い詰められていたフィールは安定した魔法を使えず、そのまま地面へ落下。
あれは流石のフィールでも痛い………。
そして心が傷付き過ぎたフィールも涙する。
流石にこればかりは誰でも泣いてしまう。