【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
※12/24、サブタイトル変更。
神秘部の『死の間』にハーマイオニーは居た。
其処は『脳の間』より大きな薄暗い長方形の部屋で、死の秘密に関する研究が行われている。
すり鉢型の室内で円形劇場のように中心から外に向かって階段が刻まれており、中央には石の台座が置かれ、その上には黒いベールの掛かった石が聳え立っている。無風なのにベールは微かに波打ち、裏側から人の声が聞こえた。
「私は………なんで此処に………?」
ハーマイオニーは辺りを見回す。
自分はウィーズリー家に居たはずだ。
なのに、何故、神秘部の………アーチの在る部屋に居るのだろうか。
頭に次々と疑問が浮かぶ中、不意に背後で人の気配が生まれた。
振り向いたハーマイオニーは、眼を見張る。
「エミリーさん………?」
そう、其処に立っていたのはエミリーだ。
同級生の友人と瓜二つで見慣れた面立ちに長い黒髪、金色の瞳。
誰も居なくて一人だった不安が払拭されたハーマイオニーは幾分かホッと笑みを浮かべ………その直後、違和感を覚えた。
(あれ………でも確か、エミリーさんは―――)
まるでハーマイオニーの思考を具現化するかのよう、一瞬後ろを見たエミリーはすぐに前に向き直り、切迫感を感じる勢いで駆け寄ってきて、ギュッと抱き締めた。
その瞬間、ハーマイオニーは思い出した。
この次に起きる展開が、一体何なのかを。
「ダメ、エミリーさん………!」
ハーマイオニーは掠れた声で叫ぶ。
しかし、エミリーは言葉を無視してハーマイオニーを抱き締め………唐突に電光石火のスピードで迸った光輝く閃光に、背中から心臓までグッサリと貫通された。
途端、背中から一気に鮮血が噴き出される。
視界が一瞬にして血飛沫に染まった。
全身に返り血を浴びたハーマイオニーは鉄の味が口内に広がりながら、悲鳴に似た声を上げる。
「エミリーさん………!!」
だが、エミリーは返事もしなければ反応もせず―――攻撃を受けた彼女はハーマイオニーを抱いていた腕を力無さげに下ろし、血溜まりが出来た冷たい床の上に倒れた。
おびただしい量の血が四方に飛び散っている。
辺りは血の海と化していた。その全ての血が、たった一人の女のものだ。
むせ返りそうになる血の匂いの中、ハーマイオニーは必死にエミリーの身体を揺さぶった。
「エミリーさん! エミリーさん!」
しかし、エミリーは眼を開けない。
どんなに揺さぶっても、呼び掛けても、指先すら動かさない。
ボロボロ泣きながら今でも流れる血で真っ赤に染まっていく身体を揺さぶり続けていると、先程光線が走った方向から二人の男女が下卑た笑みを浮かべながら悠然と現れた。
ルシウス・マルフォイとベラトリックス・レストレンジだ。
ベラトリックスは血まみれのハーマイオニーとエミリーの姿を見て、ゲラゲラと人ならざる笑い声―――否、嗤い声を上げた。
「おやおや、誰かと思ったら『穢れた血』の小娘じゃないかい! そんな無様な姿になってるなんて、まさに穢れたマグルだねぇ! しかもあのベルンカステル家の女が死んでるよ! なんとも素晴らしい光景だねぇ!」
「ふざけないでちょうだい! この人殺し!」
ハーマイオニーは立ち上がり、声を荒げる。
既に事切れたエミリーを護るよう、杖を前に構える。
すると、決然とした態度で睨むハーマイオニーにルシウスが酷薄な笑みを浮かべながら、こう言った。
「人殺しとは、どちらのことかね?」
「え………?」
「我々はそこの『血を裏切る者』を狙った訳ではない。君を狙ったのだよ。でもどういう訳か、君が生き残り、代わりに彼女が死んだ。そう………君のせいなんだよ。彼女は君のせいでこうなってしまったのだ。君を庇わなければ、こんなことにはならなかっただろうに」
「そ、そんな………」
ハーマイオニーの胸に、絶望が広がる。
自分のせいでエミリーが………。
そのことで頭がいっぱいになり、ハーマイオニーは呆然と立ち尽くす。
そんなハーマイオニーを見て、ルシウスは更に嗤った。
「でも心配する必要は無い。すぐに君も彼女達の後を追わせてやろう」
………彼女達?
どういうことだ?
此処に自分達以外の誰が居ると言うのだ?
ルシウスの言葉に混乱するハーマイオニーを見て、ベラトリックスは肩を竦め、その彼女の口から衝撃的な発言が飛び出す。
「まさか惚けてるのかい? お前の後ろには、お友達の死体がゴロゴロ転がっているってのに、頭でもおかしくなったのかい?」
ハーマイオニーは恐る恐る後ろを振り向く。
そこには、信じ難い光景が広がっていた。
「あ………ああっ! そ、そんなっ………!」
ハーマイオニーが見たもの。
それは、先程まで確かに居なかったはずの友人や知人が遺体となって、あちこちに転がっている残酷な風景だった。
フィール、クシェル、ハリー、ロン、ジニー、ネビル、ルーナ、セドリック………大切な学友以外にも、ライアンやシリウスなど、自分以外で此処に来た全員が息の根を止められていた。
「ち、違う! こんなの、現実じゃない! 全部嘘よ! そうよ、きっとそうなんだわ!」
小さな子供のように、駄々を捏ねるように喚いていると、ルシウスが薄い唇に冷たい薄ら笑いを刷いた。
「見苦しい真似だな。いい加減、辛い現実から眼を背けずしっかりと向き合ってみたらどうだ? ―――君以外の者は皆死んだ。そして、君はこれから死ぬ。さあ、決められた運命から逃げず、全てを受け入れろ」
ルシウスの特徴的なステッキ型の杖が突き出される。
杖先が心臓部分を狙い、ハーマイオニーは背筋が凍り付いた。
早く逃げないと………!
そう思うものの、身体が言うことを聞かない。
やがて、『死の呪文』が放たれる。
殺戮効果を帯びた緑色の閃光が。
ハーマイオニーは成す術もなく悲鳴を上げた。
「イヤあぁぁぁぁぁぁああッ………!!」
♦️
自分の絶叫でハーマイオニーは目を覚ます。
最初に眼に入ったのがウィーズリー家の一室の天井だと気付くのに、少し時間が掛かった。
気付けば身体全身から酷い脂汗をかいており、心臓もドクドクと激しく脈打っている。
ハーマイオニーは、ガバッと跳ね起きた。
荒い息遣いと共に周囲を注意深く見渡す。
ルームシェアしているジニーは隣のベッドで眠っていて、ハーマイオニーが起きたことに気が付いていないようだ。勿論、起こすつもりはないけれど………。
もう一つのベッドはがら空きだった。
フィールが寝起きするベッドだ。
どうやら今夜も警備に当たっているらしい。
気配を察知しやすいフィールが不在でホッと安堵の息を吐きつつ、気分の悪さに胸を押さえながら、ハーマイオニーは呼吸を整える。
(一体、何回同じ夢を見ればいいの………)
神秘部の戦いを終えてから、幾度となく見ている嫌な夢。
夢なのに、あたかも現実で経験したかのような感覚に………寝起きが辛くて苦しい。
ハーマイオニーはベッドから抜け出し、ジニーを起こさぬよう窓に近付く。
ロンドンでは見ることが出来ない、無数の星々が夜空で煌めいている。
そんな美しい夜景も、今のハーマイオニーの瞳には虚ろに反射しているだけだった。
♦️
7月の中旬、真夏日。
本格的に夏が始まったこの時期はとても暑い。
ほぼ真上から降り注ぐ日差しからは逃れようがなく、ジリジリと肌を焼く。
そんなある日、ロンドン郊外に在る人気の無い古びた教会の墓地に数人の人影が現れた。その人影の手には花束が握られている。
「此処だ、皆。私の一族・ベルンカステル家の血を引く者と、その関係者が眠る墓地は」
フィールは、皆―――先月、神秘部にて死喰い人と一戦を交えて辛くも生還を果たしたハリーを初めとする友人のハーマイオニー、ウィーズリー兄妹・ロンとジニーに簡潔に説明した。
そう、此処ら一角はベルンカステル家のセメタリーエリアだ。
年季の入った教会を背後に緑豊かな地面に突き立てられた数多の墓には、『ベルンカステル』と言う文字が刻まれている。
今日此処に来た理由は他でもなく、墓参りだ。
あの日、唯一の戦死者として帰らぬ人となってしまった―――エミリー・ベルンカステルの。
親類のみの家族葬は既に終えている。
その時、ベルンカステル一家と深い関わりがあるベイカー夫妻・イーサンとライリーは参列し、多忙な知人達は合間を縫って各自花を手向けた。
ちなみにベイカー夫妻の一人娘でハリーやハーマイオニーの同級生・クシェルは両親に連れられて、フィールが彼等を連れて来るよりも先に墓参している。
「うわ………あ。凄い数の墓だ………」
目の前に広がる幾多の墓石にハリーは緑色の両眼を大きく見張り、ハーマイオニー達も思わず口をあんぐりと開ける。
どの墓石を見てみても、その全てには同一の姓が刻印されており、改めてベルンカステル家の歴史の古さを実感した。
「………………」
不意に、フィールはピタッと立ち止まる。
急に立ち止まったフィールに、ハリーは首を傾げた。
「フィール、どうしたんだ?」
「! ………ああ、いや、その―――」
フィールは顔を横に向ける。
ハリー達がそちらへ視線を走らせると、
と刻まれた墓石が立てられていた。
フィールの父・ジャックが眠っている墓だ。
その隣には、
と彫られた母・クラミーの墓石も並んでいる。
一見すると夫同様に死亡しているかのように見えるが、現実は母の形見としてフィールが肌身離さず首から下げているロケットにクラミーの魂が宿っている。
まあ、そんなの今はどうでもいいだろう。
死んだ父親の墓石の前。
そこは、フィールにとって因縁の場所だ。
「11年前、父の葬儀が終わった後………父方の叔父のアレックに『お前が死ねばよかったんだ』って言われたのを思い出して、それで」
ジャックの弟でフィールの叔父・アレック。
彼はただ一人の肉親だった兄を突然失ったショックで、悲しみと憎しみと八つ当たりから、当時まだ5歳の幼い童女だった姪のフィールに精神的苦痛を与える残酷な暴言を吐いた。
あのアレックの発言が、天真爛漫で純真無垢だったフィールを歪めた根本的な原因と言っても過言ではないだろう。
大好きな母と父を目の前で魂を喰われたり殺されたりして精神を抉られていた彼女を励ますどころか、逆にもっと心に深い傷を負わせ、更にはもう一人の姪っ子の破滅を魔法省の人間に依頼し、結果として新たな悲劇を生み出した。
ある意味では、ルシウス・マルフォイやドローレス・アンブリッジよりも冷酷非道で冷血な人間と言える。
―――お前のせいで、兄さんは………!
―――お前が死ねばよかったんだ………!!
「………ッ」
頭の中で響き渡る、アレックの鋭い叫び声。
自分を責め立てる言葉が、やけに鮮明に反響し―――フィールは思わず、こめかみを押さえた。
何年経っても、アレックの糾弾だけは………頭の奥に巣食って離れない。
長年が経過した今でも、こうしてふと甦り、その度に胸がギリギリと締め付けられる。
「………なんて、今日此処に来たのは過去の話をするためじゃなかったな」
気にしないでくれ、と言ったフィールに、ハリーは緑眼を細める。
先程、一瞬だけ苦し気な表情を浮かべたフィールの背中を優しくさすり、こう言った。
「僕達の前では、無理しなくていいよ」
とても短くて簡素なメッセージ。
でもフィールは、それだけで充分伝わった。
微かに微笑み返し、目元を和らげる。
「わかってる。………ありがとな」
それからは、無言のまま再度歩き出したフィールの後をついていき―――やがて彼女は、真新しい墓石の前で立ち止まった。
眼前の墓石に刻まれている名前に、ハーマイオニーとウィーズリー兄妹は息を呑み、固まった。
神秘部での死闘で起きた出来事が、嫌にも思い返されたのだろう。エミリーは、ルシウスとベラトリックスが放った呪いから三人を護るべく、自らの命を投げ出して死んだ。
人が殺される瞬間を無惨にも見せ付けられた三人にとって、エミリーの死はトラウマの一つとなった。
特にハーマイオニーはダメージが大きい。
ウィーズリー兄妹よりもエミリーと関わる回数が比較的多かったからだ。
年の離れた友達とも姉とも言える存在だったエミリーともう二度と会えない事実を改めて思い知らされ―――奥歯をギリッと噛み締める。
―――やったねぇ、やったねぇ! 忌々しいベルンカステル家の人間を一人殺っちまえて!
―――エミリー・ベルンカステルは死んだ。我々の手によってな。
人殺しを平気に行い、人ならざる嗤い声を上げてみせたあの忌々しい男女の声が、脳裏に響く。
(エミリーさんは私達を庇って死んだ………本来だったら、私が殺されてたのに………)
今になって、危うく命を落とし掛けた恐怖が甦ってきた。もしもエミリーが庇ってくれなかったら、今頃どうなっていたかわからない。
二人へ対する憎悪と同時、自責の念にも駆られるハーマイオニーは昏い翳を落とした顔で、墓石の前に花束を供えた。続いてハリー、ロン、ジニー、そしてフィールも順に花を供え、眼を閉じて手を合わせる。
(エミリーさん………私達は今、貴女のおかげでこうして生きているわ)
(僕達をアイツらから護ってくれて、本当にありがとう)
(どうか天国で安らかに眠ってください)
ハーマイオニー、ロン、ジニーは心の中で冥福を祈り………ゆっくりと眼を開ける。
先程と全く変わらない同じ景色が、視界を埋め尽くしていた。
もしかしたら、ゴーストとなったエミリーがドッキリを仕掛けるのでは、と思わず自嘲してしまうほどの馬鹿馬鹿しい希望にすがった自分自身にハーマイオニーは胸がズキッと痛む。
「………エミリーさん」
そっと墓石に触れ、刻まれた名前を指先でなぞる。
墓石の、ひんやりした感触が指先から身体の芯まで染み込む。
つらつらとエミリーのことを考えてると―――不意に記憶が甦った。
迫り来る、呪いを帯びた細長い閃光。
自身の命と引き換えに友人二人を護ろうと死を覚悟して眼を瞑った自分を強く抱き締めた、その人の両腕の力強さ。
辺りに響く、刹那肉を切り裂く不気味な音。
恐る恐る閉じた瞼を開け、眼に飛び込んできた―――紅に染まった世界の色。
真っ赤な大輪の花で咲き誇った胸元。
視線を落とすと、そこには、代わりに身を投じた女性の背中を刺し貫いた光景があり………。
「………ッ!」
フラッシュバックする、あの日の出来事。
死期迫る中、息も絶え絶えに言葉を紡ぎ、金色の瞳から溢れ出す涙で血に濡れた頬を伝いながらいつも見せていた笑顔で迎えた最期。
静かに瞼をおろし、つと話さなくなった彼女は肩にもたれ掛かるよう息を引き取り―――。
「ハーマイオニー? どうした?」
ハーマイオニーの様子がおかしいことに気付いたフィールは心配そうに顔色を覗き込む。
ハーマイオニーは、フィールの顔を見つめた。
エミリーと瓜二つの、整った綺麗な顔。
虹彩や雰囲気は全く違うのに………面差しがエミリーとピッタリ重なり、今までずっと堪えていた、形容し難い感情が沸々と胸の底から込み上げてきて―――
「う、あ………うぐっ……ああぁぁぁ………!」
次の瞬間。
ハーマイオニーはフィールの胸に飛び込んだ。
我慢しようと思ったけど、出来なくて。止めどもなく涙が褐色の瞳から溢れ出し、フィールの胸元を汚していく。
「ごめんなさい………エミリーさん………ごめんなさい………っ!」
あの時。
自分がもっと強かったら。
エミリーが死ぬことは………なかったかもしれないのに。
自分が弱かったばかりに、殺されてしまった。
親友の叔母を、大事な家族を、自分が奪ってしまった………。
もうどうにもならないことなのに。
謝って許されることじゃないのに。
罪悪感を涙で洗い流せるはずもないのに、ハーマイオニーはフィールの胸に甘えて泣き続けた。
「私………私のせいで、エミリーさんは………私があのまま殺されてれば、こんなことにはならなかったのに………本当に………本当に、ごめんなさい………!」
すると嗚咽を堪えきれず涙声で謝罪するハーマイオニーの頭を抱え、落ち着かせるように優しく撫でながら、フィールはこう言った。
「謝るなよ、ハーマイオニー。アンタは何も悪くないんだから。エミリー叔母さんはハーマイオニー達のことが好きだったから、最後の最後まで戦ったんだ。そしてアンタ達を護ると言う目的を果たした末に、命が果てた。満足に思いこそすれ、アンタを責めるようなことは一つも考えてないはずだ。逆にそんな風にアンタが思ったりしたら、あの人の誇りを傷付けるだけだろ」
フィールはハーマイオニーを諭しながら、どこか遠いところを見ているような眼をしている。
ハーマイオニーと似たような経験をしているが故の、理解者や共感者の眼差しだった。
「忘れろ、無かったと思え、とは言わない。アンタが今抱いている気持ちは、私もよくわかる。でも『自分が死ねばよかったんだ』って考えを持つのは止めろ。あの人が命を賭してでもアンタ達を生かしたなら、その気持ちを無駄にするな。あの人の分までこの世を生き抜け。そんな簡単に死ぬもんじゃない」
フィールらしい、ぶっきらぼうな言い方での励ましの言葉に。
泣きじゃくるハーマイオニーは深々とフィールの胸に埋めていた顔を離し、涙でぐちゃぐちゃにさせながらも強い瞳でコクリと頷いたのだった。
♦️
それから数週間、エミリーの墓参りで外出した以外、ハリーは隠れ穴の庭の境界線の中だけで仮初めの平和な日々を暮らした。毎日の大半をウィーズリー家の果樹園で二人制クィディッチをして時間を過ごすのは、とても楽しかった。
ハリーはハーマイオニーと組み、ロン・ジニーとの対戦だ。箒に乗るのが不得意なハーマイオニーは恐ろしく下手で、ジニーは手強かったので、中々いい勝負だ。
ちなみに果樹園以外でもクィディッチをプレイ出来るエリアは在る。丘の上に位置するウィーズリー家には小さな牧場が在り、草むらの周りは木立で囲まれ下の村からは見えないので、ウィーズリー兄妹は其処でクィディッチの練習をしているとか。
ハリーのガーディアンとして常に神経を研ぎ澄ませているフィールも時折二人制クィディッチに参戦し、息抜き兼ねてエンジョイしている。
あまり神経質になり過ぎていても、却って精神的に参るからだ。異変があればすぐに対処出来るよう警戒しつつ、実戦の勘を養うために『魂の境界線』で母・クラミーと組み手したりして、更に腕を磨いている。
フィールだけじゃなく、ハリー達もライアンやルーピンの指導の下、魔法の訓練を積んで力を蓄えた。
未成年魔法使いなので、普通であれば魔法省からのお咎めを受けているだろう。
しかしそうならないのは、以前ライアンがフィールの身を案じて製作した『匂い消しチョーカー』を彼からプレゼントされ、それを身に付けているおかげだ。このチョーカーを付けている間は学校の外で魔法を使っても問題無い。
魔法省にバレたら犯罪となる物の使用、ルールに煩いハーマイオニーからすれば、今頃は「いい歳した大人がなんて物を作ってるんですか!」と目くじら立ててキーキー非難していただろう。
けれどハーマイオニーは非難するどころか、ライアンからチョーカーを貰って魔法行使が自由になると、誰よりも熱心に魔法の手解きを受け、人一倍レッスンに励んだ。
―――もう二度と、大切な人を失いたくない。
頑固者のハーマイオニーが魔法界の規則を破ってまで強くなりたいと思うのは、エミリーの死から生まれた、ただそれだけの理由だ。
そしてその強い想いこそが、今のハーマイオニーの心を支えている。
もう、自分のせいで誰かを失う羽目になるようなことはあってはならない。
ハーマイオニーには、既に心を決めた人間特有の頑なさがあって、一度決めたことは最後まで守ると、決意を胸に努力し続けた。
だが―――それでもやはり、決意の裏側で悔恨の念に苛まれるのは、避けられなかった。
自分が力不足だったばかりに、エミリーは死んでしまったのだから………。
フィールには、そう思うことはエミリーの誇りを傷付けると言われたけど、どうしてもそう考えてしまう。
近頃ハーマイオニーは悪夢に魘されていた。
毎晩、ベラトリックスの高笑いとルシウスの冷徹な発言がリフレインし、エミリーが殺される夢を何度も繰り返し見た。
自分の意志では、夢の内容までコントロール出来ない。精神的に無防備な状態になるから、起きている時よりも記憶がハーマイオニーの心を圧迫するのだ。
そのせいでハーマイオニーは不眠症に陥っていた。睡眠不足だから四六時中顔色が悪く、食欲も沸かない。………と言うか、本当はあまり食べたくなかった。
悪夢を見た後に目を覚ました直後、嘔吐に襲われるからだ。でも、そのことを毎日美味しい料理を作ってくれるモリーに、正直に打ち明けられるはずもなく………今夜も独り、洗面所にて今日食べた物を全部リバースして、モリーに対し申し訳ない気持ちに苦しめられていた。真夜中だから、家の中はすっかり寝静まっている。
「はぁ………はぁ………うっ……………」
ハーマイオニーは口元を押さえる。
ズルズルと、力無く床に座り込んだ。
苦し気な息を吐き出し、眼を閉じる。
全身からは冷や汗が噴き出されており、顔色も気分も優れない。
壁にもたれ掛かるハーマイオニーは弱々しく項垂れた。
「気持ち………悪い………」
精神的にも肉体的にも、とても気持ち悪い。
罪悪感、自責の念、悔恨の念………色々な意味で負の感情が胸の中で渦巻き、増大し、支配されて、苦悶していた。
加えて彼女は別の苦痛に精神を蝕まれていた。
あの日………全身に浴びた、真っ赤な血液。
鉄の匂いが充満する、べったりと身に纏わりついた生暖かい感触が、肌に、細胞の隅々まで絡み付き―――どんなに洗い流しても、いつまで経っても剥がれない。
血は生きる者全ての身体に流れる命の水だ。
それを大量に失うと言うことは、生命活動の停止を意味する。
傷の開き口から溢れ出た血液をこの眼に焼き付けられたハーマイオニーは、血を連想させる真紅の物を見るのを避けていた。
が、それは厳しい話だった。
ハーマイオニーの所属寮はグリフィンドール。
グリフィンドールのシンボルカラーは真紅と黄金だ。新学期に入ったら、談話室や寝室の内装で否が応でも想起されるだろう。
そう思うと、9月1日にホグワーツ特急に乗ること自体気が滅入る。こんな気持ちになるのは、入学以来初めてだった。
「このままじゃ、ダメ………しっかり………しなきゃ………私が倒れたりしたら………皆に迷惑かけちゃう………」
気分の悪さに胸を押さえつつ、ハーマイオニーはふらふらと壁に手をついて立ち上がる。
そうして、眼の焦点が合わないハーマイオニーは意識が朦朧としながら、覚束無い足取りで部屋へ戻ろうと歩き始め―――途中、眩暈がして身体をふらつかせた。
「あ………っ」
よろけたハーマイオニーは棚にぶつかった。
コップや皿が床に落ちて散乱する。
細かい破片でハーマイオニーの頬や手の甲に傷が走り、血が滲んだ。
「もう………ダメ…………」
食器棚に激突した瞬間、まるで鋭く尖った杭を頭に打ち込まれたような痛みが走り………急速に疲労感と脱力感に見舞われたハーマイオニーは、自分の身体を支えることも出来ず、フッと意識が遠退き、力尽きてその場に崩れ落ちた。
【悪夢を見るハーマイオニー】
5章終了後、ほぼ毎晩見るようになってます。
【エミリーの墓参り】
ハリーが隠れ穴に着いて数日後、フィールが案内と護衛を兼ねて皆で行きました。
【大泣きするハーマイオニー】
キャラの中でも感受性が特に強いので、そりゃ大泣きしますよ。
【フラー・デラクール】
誰だそいつは?
【ハーマイオニー、ノックアウト】
作中でハーマイオニーが倒れるの、何気にこれが初では?
【まとめ】
今回は主にハーマイオニーがメインの回。
エミリーの死は特にハーマイオニーのトラウマとなり、作中では大いに苦しむ羽目となってしまいました。人が死ぬ瞬間を見せ付けられたら、こうなってしまうのは仕方ないですね。