【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士 作:Survivor
このことわざのように、今回もやって来ましたダイアゴン横丁の回は話の区切りと本文文字数の関係でまたまた延期となりました。何度も何度も予定がコロコロ変更してしまい、本当にすいません………。
一体いつになったらダイアゴン横丁行くんだよこの野郎と思ってくれて構いません。次回こそちゃんとダイアゴンへレッツゴーしますので、どうかお待ちください。
時は少し遡り―――。
フィールは今夜も外で警備に務めていた。
腕を組み、外壁に背を預けて夏の夜空を仰ぎ見る。
丘陵地の夜気が全身を包み、時折渡って吹いてくる冷たい夜風が涼しくて気持ちいい。
が、フィールは冴えない表情だった。
ふーっと息を吐き、眼を閉じる。
今日はなんだか調子が悪そうだ。
《フィール、ちゃんと寝てるの?》
「………実は、あんまり。なんか、寝ようにも寝付けなくてさ。疲れてるはずなのに、すぐに目が覚めるし………」
魔法省直々に最大級の保護対策を施してくれたとは言え、死喰い人がいつ奇襲して来るか心配で眠れないのだろう。
ガーディアンとしての役割を投げ出さずにきちんと守るのは素直に偉いと思うが、少しばかり無理をし過ぎだ。連日夜遅くまでの警守は体力的にも精神的にも消耗が激しいのだから、蓄積した疲労感は相当なはずである。
《フィール、今日はもう休みなさい》
「え………でも」
《無理は禁物よ。近頃は疲れも中々取れてきてないみたいだし、ちゃんとコンディション整えてからの方がいいわ》
「でも、もう少し………せめて、あと10分くらい………」
フィールは眠そうな眼を擦り、睡魔を強引に押し退けて再度気を引き締める。
前に眠くなったら一旦仮眠して休憩すると約束はしたが、フィールとしては、やはり気掛かりで仕方ないのだろう。
寝首を掻く、と言う言葉の通り、今の時間帯は特に危険性が高い。人間寝込みを襲うのが最も効率的で最低限リスクが低い手段だ。
ハリーを匿っているだろう隠れ穴にいつ死喰い人が襲来してくるか、わかったものではない。
だからこそ、フィールは寝る暇も惜しんで、不死鳥の騎士団の仕事を精励していた。
《………もう、こういう時は粘り強いのね》
フィールをそれ以上止めることも出来ず、ロケットの中でクラミーはやや諦め顔になる。
約束破ったら説教、と少々考えてはいたが、フィールの騎士団の一員だからとかではなく、ただ純粋な気持ちで友人を護りたいと言う気持ちを魂を通じて知って以降、自分には口出しする権利が無いと、思春期真っ只中と言うのもあってあまり異を唱えないようにはしてたが………。
それでもクラミーは、心配で堪らなかった。
娘が友達のために頑張るのは長年傍で成長を見守ってきた母親として喜ばしい限りだが、無理をして体調を崩したら大変だ。頑張れと応援したい反面、無理はして欲しくないと、クラミーは複雑な心境になる。
(全く………ハリー君の護衛はフィール本人が了承したとは言え、アラスターもこんな危険な役割を子供に任せないで欲しいわ。と言うか、本当はあの人達と関わること自体、わたしは反対なのだけれど………)
今も尚クラミーはライアン達同様、ムーディや騎士団へ対する敵意や殺意は少なからず抱いている。前に『魂の境界線』で組み手したフィールへ自分を抹殺しようと企んでいた彼等との接触は気にしてないのかと、少しばかり気になってたことを直接訊いてみたのだが、やはりと言うかなんと言うか、「別に今はもう気にしてない」と随分あっさりな返事が返ってきた。
フィールからそう返答された後でも、クラミーはムーディ達を許す気持ちにはなれない。大事な子供を密かに殺そうとしたヤツをどう許せと言うのだ。
そうして、クラミーがあれこれ思念しているのは露知らずのフィールはそのまま警備を続行し、10分が経過した後、そろそろ就寝しようかと腕時計を見て時刻を確認した、その時だ。
家の中で、バタンッ、と大きな音がしたのは。
ハッとフィールは振り返る。
今のは空耳なんかではない。
確かに何かが倒れた音だ。
それも、物ではなく人が倒れたような………そんな音に、二人に緊張感が駆け抜ける。
「………今、中で大きな音しなかったか?」
《ええ………そうね。………フィール、万が一の場合も有り得るわ、慎重に入りなさいよ》
「ああ、わかってる。―――
フィールはゆっくりとドアを開け、『照明呪文』で小さな灯りを杖先に灯しながら、先程聞こえた物音の発信地へ向かい―――驚愕に眼を剥いた。
「―――ハーマイオニー………!?」
足元の床を照らしたフィールは声を上げる。
杖先のほのかな光が、食器類が散乱した台所に寝転がる人影を映し出す。
眠気が一気に覚めたフィールの眼に飛び込んできたのは、2階の部屋で寝ていたはずのハーマイオニーが華奢な身体をくの字に曲げた形で倒れている光景だった。
♦️
何処かで自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
深い深い水の底でもがくように足掻き続けていると、また微かに自分を呼ぶ誰かの声が耳を打った。
聞き慣れた少女の声が徐々にハッキリと聞こえるようになり、ハーマイオニーは神経を集中させる。
―――………イオニー………ハーマイオニー。
(ジニー………?)
―――ハーマイオニー………お願い、目を覚まして。
その声は、確かにジニーだった。
一人っ子のハーマイオニーにとって、妹的存在のジニー。
彼女に呼ばれたのを無視することは出来ない。
急速にハーマイオニーは意識が覚醒する。
自分に呼び掛ける声の主がジニーだとわかった瞬間―――闇の底から引き上げられるような感覚と共に、深い眠りから目覚めた。
身体は深い水の中を歩いてきたように重い。
淀んだ沼の底から這い上がったみたいに、まだ気だるい意識を引き摺ったままだけれど、心配そうに覗き込むジニーの顔はハッキリと捉えていた。
「ジニー………」
気が付くと、そこは見慣れたジニーの部屋で、いつも自分が寝起きしているベッドに寝かされていた。
すっかり使い慣れた感触に包まれているのを実感し、ハーマイオニーはホッと安心する。視線を反対側に向けると、ハリーとロンも居た。
「よかった………」
「本当に心配したよ………」
目を覚ましたハーマイオニーを見て、二人共安堵の表情を浮かべている。
「………私は………どうして………………」
額を押さえながら、半身を起こそうとすると、ジニーが反射的に手を貸してくれた。
自分の身に何が起きたのか、と記憶を探る表情を見せるハーマイオニーに、ジニーが説明する。
「今日の真夜中、フィールが此処に運んできたのよ。なんか騒がしいなって思って下に降りたら、『ハーマイオニーが倒れた』って私より先に起きてたパパとママから聞いて、本っ当にビックリしたわ………」
言われて、ハーマイオニーは朧気に思い出す。
今回もあの悪夢を見て吐き気に襲われ………堪らず洗面所で嘔吐し、部屋に戻ろうとした最中に食器棚にぶつかり、急激な倦怠感に包まれた身体を支えられず、倒れて意識がブラックアウトしてしまった………。
「………ごめんなさい、私、皆に迷惑掛けて」
「そんな………迷惑だなんて、これっぽっちも思ってないわ。ハーマイオニーが倒れたって聞いて心配しない訳が無いじゃない」
「ジニーの言う通りだぜ。ま、とにかくハーマイオニーが目を覚ましてよかった」
二人からの温かい言葉に、ハーマイオニーは涙が出そうになるが、その顔はどこか暗い。
心配してくれるのは親友として嬉しいけど、皆に迷惑掛けてはいけないと心掛けてたのに迷惑を掛けてしまって、申し訳ない気持ちになり、鬱屈そうに瞳を伏せて俯いた。
「そういえば、フィールは………?」
この場にフィールが居ないので誰にともなく尋ねると、グッドタイミングで部屋のドアが開き、フィールが現れた。
人数分のホットチョコレートが入ったマグカップを『浮遊術』で溢さないよう器用に浮かせている。いつもの無愛想な顔に、ホッとした表情が滲んでいた。フィールの顔を見て、一瞬、エミリーの面影を感じ、ズキッと胸が痛む。
「ハーマイオニー………目が覚めたんだな」
「フィール………心配掛けて、ごめんなさい」
「気にするな。まだ寝てろ」
ホットチョコレートをそれぞれ渡し終えると、フィールはハーマイオニーの頭をくしゃりとやった。
「色々辛いとは思うが………今は意識が戻ったことを喜べ。アーサーさんやモリーさんも心配してたぞ。今、下に居るけど、顔を見せてやれば安心するだろ。呼ぶか?」
「いえ………私が下に降りるわ」
「ハーマイオニー、大丈夫?」
ベッドから起きようとするハーマイオニーを、ジニーが支える。
「ええ。ありがとう、ジニー」
ジニーの肩を借りて、ゆっくりとした足取りで階段を降りていく。
1階に降りると、ウィーズリー夫妻が居た。
「ハーマイオニー!」
「目が覚めたのね!」
ハーマイオニーの顔を見るなり、アーサーとモリーは声を上げる。モリーなんかは早足で駆け寄り、痛いくらいに強く強く抱き締めた。
「真夜中にフィールに起こされたと思ったら、貴女が台所で倒れていたって言われて、冗談抜きで心臓が止まりそうになったわ………。気分は大丈夫? 吐き気とかないかしら?」
「今は大丈夫、です………」
そうは言いつつ、顔色は頗る悪い。
ハーマイオニーはモリーに怠い身体を預け、重い瞼を閉じる。
モリーは身を任せてきたハーマイオニーを受け止め、背中を優しく背中をさすった。
「しばらくは部屋でゆっくり休んだ方がいいわ。ハーマイオニー、気分が悪くなったりしたら、我慢しないですぐに言いなさいよ」
「はい………」
「じゃあ、部屋に行きましょう。歩ける?」
が、その前に、
「いや、私が連れて行く。ハーマイオニーを運んだらそのまま部屋で待機してるから、何か起きたら連絡してくれ」
と、モリーからハーマイオニーを受け取ったフィールがヒョイと背負い、階段を上がろうとしたが、そこでハリーが口を挟んだ。
「だけどフィール。君は1回も寝てないじゃないか」
ハーマイオニーが倒れていたのを発見して以来フィールは一度も寝ていない。睡眠不足がちなフィールの身を案じてハリーは自分がハーマイオニーに付き添うと言おうとしたが、肩越しに振り返ったフィールにバッサリと断られた。
「心配してくれるのは嬉しいけど………流石にこんな状況で寝る気にはなれない。気持ちだけ受け取っておく」
そうして、フィールは階段を上っていく。
モリーはフィールが傍に居るなら大丈夫だろうと安心しつつ、内心はハリーと同じで、姿が消えるまでその背中を心配そうな眼差しで見つめたのだった。
2階に在るジニーの部屋に入ったフィールはベッドにハーマイオニーを寝かせた。横になったことで呼吸が楽になったようだが、顔色は相変わらず悪い。そんな中、ハーマイオニーは申し訳なさそうな表情でフィールを見た。
「フィール………本当にごめんなさい。ただでさえ、普段寝る時間を潰しているのに………」
「言っただろ。気にすんなって」
「でも………」
「わかった。なら、早く良くなって元気になれ。いつまでも寝込むハーマイオニーなんてらしくないし、アンタが居なきゃ、無鉄砲なアイツらが何を仕出かすかわかったもんじゃない」
「だけど、私のせいで、貴女は休憩時間や魔法の練習時間が潰れて―――」
ハーマイオニーが思わず言い募ると、フィールは少しムッとした顔になった。
「それ以上言ったら、いくら私でも怒るぞ? 友人の身よりも自分の時間を優先するヤツが何処に居る? いいから今は余計な事は一切考えんな。他人の心配をする暇があるなら、自分の体調を心配しろ」
「………ご、ごめんなさい」
フィールにピシャリと言われたハーマイオニーはシュンと恐縮し、大人しく眼を閉じた。
しばらくは静かな時間が流れ―――。
沈黙が漂うシンとした空気の中、ふと、眼を開けたハーマイオニーは、視線だけを動かしてフィールを見た。
椅子に深く腰掛けるフィールは、責任感が強いハーマイオニーに気を遣わせないよう表向きは魔法の本を読んでいるが、その実ハーマイオニーに異変が起きたらすぐに対応出来るようスタンバっている。
フィールとは長い付き合いのハーマイオニーは然り気無い彼女の気配りをなんとなく察しつつ、やはり彼女はエミリーの血縁者なんだなと、またまた面影がオーバーラップして胸を締め付けられた。
ハーマイオニーが顔を歪めた直後、何処からか視線を感じたフィールが本から顔を上げ、ハーマイオニーの方に視線を走らせた。
「どうした? 気分悪くなったか?」
「あ、えっと、その………大丈夫よ」
「本当に? 無理して隠してる訳じゃないだろうな?」
怪訝そうな眼差しをフィールは送る。
その瞳を見ながら、ハーマイオニーは目元を和らげ、ニッコリと淡く笑む。
「………なんで笑うんだよ」
「ああ、ごめんなさい………何だかんだで、フィールは優しい人よね」
フィールは蒼い両眼を剥く。
ハーマイオニーの言葉に驚いてるようだった。
「私が? 優しい人? 面白い冗談を言うな。笑わせるなよ」
「冗談じゃないわ。それにそう言ってフィールは笑ってないじゃない」
(そこは普通にツッコミ入れんだな………)
「………まあ、それはいいとして。なんで、そう思うんだ?」
「だって、そうでしょう? フィールは自分の時間を割いてまでこうして傍に居てくれるし、さっきだって、言い方はキツいけど、私の身体を心配して、ああ言ってくれたわ。不器用な優しさが、貴女の特徴よね」
ハーマイオニーは柔らかく微笑む。
「ありがとう、フィール。フィールには本当に感謝してるわ。同性の友達が少ない私と仲良くしてくれて、私のこと、本気で心配してくれて。私だけじゃない。ハリーにロン、それにネビルやジニー………貴女はこれまで、数え切れない程の人達を救ってきたのよね」
彼女の言った意味が上手く飲み込めないでいたフィールは眼をぱちくりさせたが、次第に、頬がほんのり紅潮していき、プイッと顔を逸らした。
「………そうか」
「あら? もしかして、照れてるのかしら?」
「別に照れてなんかない」
「ふふっ、そうかしら?」
「軽口叩けるなら、そこまで心配する必要は無いか?」
ハーマイオニーはイタズラっぽく笑う。
なんだかフィールが可愛く見えて、つい、笑みを溢してしまった。
そんな彼女を、クールダウンしたフィールはフッと一息ついてから、いつになく真剣な瞳で見据えた。ハーマイオニーは急に真面目な顔で見下ろしてきたフィールに緊張感を持つ。
「………なあ、ハーマイオニー」
「なに?」
「この際だから、アンタに確かめておきたいことがある。―――アンタが真夜中に倒れたのって、もしかして、何らかの悪夢を見た影響か?」
「え………………」
思わぬ問いに、ハーマイオニーは絶句する。
言葉を失ったハーマイオニーを見てフィールは蒼い眼を細め、確信めいたものを抱きつつ、そのまま続けた。
「意識を失って眠ってる間、アンタが寝言で『エミリーさん』って言ってたのを偶然聞いたんだ。それで、もしかしたら、エミリー叔母さんが死んだ出来事の夢を見て、精神的に限界を迎えて倒れたんじゃないかって思った。違うか?」
「………………ええ、フィールの言う通りよ」
どストライクでフィールの推測が的中してる以上、彼女に対し隠し事にする必要性は無い。言いづらそうな面持ちだったハーマイオニーは観念して半身を起こし、現在二人きりで話せる状況だと言うのもあって、これまでずっと悪夢に魘されていたこと、それでほぼ毎晩嘔吐していたこと等、今まで誰にも打ち明けてこなかった秘密を1から順に説明した。
「………そうだったのか」
ハーマイオニー本人から直接事情を全て聞き及んだフィールは、椅子からベッドに移動し、ハーマイオニーに向かって頭を下げた。
「悪かった。アンタが苦しんでいたのに、気付いてやれなくて。いや、なんとなく、顔色は良くないなとは思ってたけど………それでも、気に掛けてやらなくて、ごめんな」
「そんな………悪いのは、皆に何も言わないで隠し通そうとして、こんなにも多大な迷惑を掛けた私よ。フィールは悪くないわ」
「………………」
「ねえ、フィール………」
ハーマイオニーはフィールの眼を見つめた。
見慣れた蒼色の瞳がこちらを覗いている。
「………最近私は、貴女のことを、本当はエミリーさんなんじゃないかって、勘違いするようになってきたわ。それほどまでに、貴女とエミリーさんは………瓜二つだもの」
「そりゃ………あの人は私の実の叔母だったんだから、顔くらい似ていて当たり前だろ」
「いいえ………血縁者だから容姿が似ているとかよりも………ともすればエミリーさん本人と錯覚するって言った方が、この場合は正しいかもしれないわ」
細い腕を伸ばし、ハーマイオニーはフィールをギュッと抱き締める。
「だけど………わかってるわ。貴女はエミリーさんじゃないってことくらい。でも………どうしても、心がついていかない。頭ではどんなにわかっていても………もう、エミリーさんと会えないなんて………わかりたくないわ………」
抵抗せず、ハーマイオニーの腕の中にいるフィールはなんて声を掛ければいいのかがわからず、顔を伏せる。
何か言わなければ、と思いながらも、励ましの言葉の一つ、上手く口に出来なくて。ハーマイオニーの元気が出るような気の利いた言葉の一つも思い浮かばない。
(私はダメなヤツだな………)
今のハーマイオニーの気持ち、フィールには痛いくらいによくわかっていた。
母と顔が似ている叔母を見る度、死んだ母が帰ってきたと錯誤した………かつての自分と重ね合わせ、フィールは俯く。
今度は自分が誰かにとって辛い思いをさせる立場となったのだ。
言い方は悪いが、今までは、その逆で自分が辛い思いをしてきた立場だったのに………。
両サイドの観点を持ったフィールは、どうすればハーマイオニーを励ませるかと、必死に頭を働かせる。
と―――少し身体を離したハーマイオニーが、なんとも言えない表情を見せた。
「なんて、こんなこと言っても、貴女を困らせるだけよね。他人である私よりも、血縁者だった貴女の方がずっと………」
辛くて苦しいのに、とハーマイオニーは言おうとしたが、言い切る前に、今度はフィールに抱き締められた。
「えっ、ちょっ………?」
「あのさ………他人とか血縁者とか、そういうので勝手に順位付けすんなよ。血が繋がっていようが繋がってなかろうが、同じ苦痛を感じているのに変わりないんだから」
多少語気を強くしてハーマイオニーの両肩に手を置き、厳しい声音でフィールは言った。
「だから、独りで思い悩むな。自分一人だけの問題にしようと、あるいは問題と向き合わずに逃げていたから、今に至ったんだろうし………アンタは周りに気を遣い過ぎだ。もっと言いたいことを言え。そしてもっと頼れ、私達を」
ハーマイオニーの瞳が揺れ動く。
フィールの言葉に胸の底から形容し難い感情が込み上げてきて、涙が溢れそうになった。
「私………皆に充分甘えてるわ。優しくして貰ってるわ。だから………これ以上、皆に迷惑は掛けたく………なくて………」
言っている途中で、我慢し切れず、眼に溜まっていた涙が一筋頬を伝った。
「そういう所が無理してるって言ってんだ」
苦々しそうに呟いたフィールは、いきなり、ハーマイオニーの頬をぷにっと引っ張った。ハーマイオニーはビックリして眼を丸くした。その弾みで涙も引っ込む。フィールがこんなことをするなんて、意外過ぎて思ってもみなかったからだ。
「自分で言うのもアレだけどな。私もアンタみたいに、独りで苦悩を抱えて生きてきた身だ。周りに迷惑を掛けたくない、またあんな思いをしたくない。そういう考えを持ってた私は、助けを求めたくても求めなかった。そうして結局は、本当の意味で孤独となって孤立し、自分で自分を窮地に追い詰めた。今のハーマイオニーは、あの時の私とスゴく似ている」
そこで一旦言葉を区切り、フィールは眼を閉じる。この十数年間の己の人生を追想し、深いため息を吐いて、ゆっくりと眼を開けた。
「それに………ハーマイオニー。今もアンタは、自分が居なければ皆に迷惑を掛けなくて済んだのにって考えてないか?」
「! え………そ、それは………」
「バーカ、隠したってダメだ。これでも共通の経験を持つ人間だからな。そのくらいわかる」
フィールの前では嘘ついても見破られる。
と、ハーマイオニーは改めて再認識した。
「だからこそ、言うぞ。―――今後、隠し事は一切するな。隠し事をするってことは信用してないって言ってるようなものだからな。正直に話せ。アンタやその友人が私を救ってくれたように、今度は私が、アンタ達を救う。だから心配すんな。たとえ周りのヤツが何と言っても、私は何度でも手を差し伸べてやる」
力強くも優しくそう言ってくれたフィールに。
ハーマイオニーはまた涙が出そうになったのをグッと堪え、コクリと小さく頷いた。
【カクテル言葉のサブタイトル】
4章の番外編『ブルームーン』以来の超久々なカクテル言葉を用いたサブタイトル。
【カミカゼ:あなたを救う】
①ウォッカ(20ml)
②コアントローorホワイトキュラソー(20ml)
③フレッシュライムジュース(20ml)
作り方:①~③をシェイクして氷を入れたロックグラスに注げば完成。
タイプ:ロング
ベース:ウォッカ
アルコール度数:25度以上
テイスト:中甘辛口
色:無色透明
備考:第二次世界大戦時に日本の戦闘機(旧日本海軍の特別攻撃隊)の『神風』から命名された。が、日本ではなくアメリカ生まれなのがユニーク。カミカゼのように鋭い口当たりが名前の由来ではないか? と言われている。