【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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#92.ウルフィール

 9月1日の新学期当日。

 隠れ穴から魔法省の特別車でキングス・クロス駅に出発し、ホグワーツ特急に乗り込んだハリーとフィールはトランクを引き摺って通路を歩いていた。

 ロンとハーマイオニーは監督生の仕事があるので、今頃は監督生車両に居るだろう。なので二人が空いてるコンパートメントを探す係だ。

 その二人が近付くと、周囲の皆は去年とは違って臆面もなくじろじろ見た。二人をよく見ようとコンパートメントのガラスに顔を押し付ける者さえ居るほどだ。

 何せ今年の6月にヴォルデモートが魔法省に現れたのを認めて以来、『神秘部に保管されていた予言が、ヴォルデモートを倒すことの出来る唯一の者として、ハリー・ポッターを選んだ』との憶測が流れ、『日刊予言者新聞』で『選ばれし者』の噂を魔法界全土に発行されてしまったのだ。

 噂好きで好奇心旺盛、そして脳内お花畑なホグワーツ生が興味を示さない訳がない。前もって予測していたとは言え、眩しいスポットライトの中に立つ感覚が楽しいとは、一ミリとも思わなかった。

 あちこちから注目を浴びるハリーはチラリとフィールの横顔を横目で見る。

 魔法省は『選ばれし者』ハリー・ポッターだけでなく、かつてヴォルデモートに真っ先に反抗したエルシー・ベルンカステルの子孫であるフィールのことを、『蒼黒の魔法戦士』として魔法界に広めた。詳しい情報は知らないが、確か闇の陣営に対抗する切り札扱いだったような気がする。

 

「これは何処行っても鬱陶しくなるな、多分」

 

 ハリーの視線に気が付いたのだろう。

 小さく嘆息したフィールは舌打ちした。

 

「あー、うん………それには全面的に同意だ」

「とりあえず、さっさと空いてるコンパートメント探して休憩するか」

 

 と言うことで、二人はキョロキョロと座れる場所を探索する。途中、友達と喋っていたジニーと遭遇し、一緒に探さないかと誘ったが「ディーンと落ち合う約束してるから」と断れてしまった。

 ちなみにディーンとは、ハリーと同じグリフィンドール生でルームメイトのディーン・トーマスのことである。

 ジニーは5年の終わり頃からディーンと付き合っているらしい。その前はレイブンクロー生のマイケル・コーナーと交際していたみたいだ。

 

「ジニー、いつの間にか魅力的な女の子になったよな。あんなにも美人になったのなら、当然誰かと付き合うか」

 

 長い赤毛を靡かせて立ち去るジニーの後ろ姿を見届けながら、フィールはポツリと呟く。

 ハリーは「そうだね」と目元を和らげて頷きつつ、小声でフィールに問い掛けた。

 

「そういえば、フィールは好きな人いる?」

「は? なんだよ、いきなり」

「いや、そろそろフィールも恋愛に興味持つ年頃かなって気になってさ」

「おあいにく様。今はいないぞ」

「今は、ってことは恋愛には興味あるんだね?」

「まあ、別にそこまで皆無ではないけど………」

 

 そこで一旦区切り、フィールはちゃっかり聞き耳を立ててハリーとの会話を盗み聞きしようとするホグワーツ生を鋭い目付きで一瞥する。途端に彼等は無言の威圧感に気圧され、慌てて自分達のコンパートメントに戻っていった。

 フィールを本気で怒らせたらどうなるか、3年前にバジリスクの被害に遭ったクシェルを貶したマルフォイの発言に彼女からとてつもない殺気を感じた彼等は、数年が経過した今でも忘れずに覚えていた。

 

「なんか知らないけど、邪魔者は退散したな」

 

 フィールは天然なのかそうじゃないのか。

 ケロッとした顔で包囲網のように邪魔だった障害物と言う名の生徒が居なくなったのを喜び、歩きやすくなった通路をつかつかと進んで行く。ハリーは内心「ナイス」と賛辞を送り、フィールの後を追い掛けていった。

 そうして、ようやく空席のコンパートメントを発見した二人は急いで中に入り、トランクを荷物棚に押し上げる。

 

「ようやく一息つけるな」

「しばらくは何も起きないで欲しいよ」

 

 ふーっ、と二人は疲れたため息を漏らす。

 知らぬ間に気を張っていたためか、コンパートメントに入った瞬間、緊張の糸が切れた二人は主に精神的疲労がどっと噴き出し、無言でシートに深く腰掛けて背もたれにもたれ掛かった。

 疲れたハリーとフィールは眼を瞑る。

 このままホグズミード駅に到着するまで寝てしまおうかと考えた直後―――数分も経たない内にコンパートメントの外が騒がしくなった。

 堪らず二人は眼を開け、視線を走らせる。

 4年生くらいの女の子達がドアの外に集まってこちらを見ながらヒソヒソ話し、クスクスやっていた。

 

「貴女が行きなさいよ!」

「いやよ、貴女よ!」

「私がやるわ!」

 

 何やらギャーギャー言い合っていた連中の内、大きな黒い眼に長い黒髪の、エラが張った大胆そうな顔立ちの女の子がドアを開けて入ってきた。

 

「こんにちは、ハリー。私、ロミルダ。ロミルダ・ベインよ」

 

 その女の子―――ロミルダは大声で自信たっぷりに言った。フィールは「誰だコイツ?」と初見の女子学生を怪訝そうな眼で見る。すると、ロミルダはフィールを指差しながら、聞こえよがしの囁き声で言った。

 

「私達のコンパートメントに来ない? この人と一緒に居る必要は無いわ」

「この人は僕の親友だ」

 

 不機嫌な表情で、ハリーは冷たく言った。

 ロミルダは「あら」と眼を見開かせて驚いた顔をする。

 

「そう、オッケー。………ところでハリー。この際だから訊いておくわ」

 

 ロミルダはそれまでの軽い態度から一変し、真剣な瞳で口を開く。

 

「ハリー、貴方はその人と付き合ってるの?」

 

 その問い掛けに、思わずハリーは唖然とした。

 予想を斜め上に飛んだ質問内容だったので、数秒間フリーズしてしまう。

 自分が? フィールと付き合ってる?

 それは決して有り得ない。

 確かに彼女は成績優秀で誰もが認める美人だ。

 もしも誰かと付き合うなら、『文武両道な人物』と答えるのが多数だろう。

 しかしハリーはこれまで、『恋愛対象』としてフィールのことを見てきたことは一度もない。仮にそうしていたなら、とっくの昔に彼女を好きになっていただろう。

 1年の時から一緒に学校生活を送ってきたフィールはどちらかと言えば、共に過酷な試練を乗り越えてきた謂わば自分の『戦友・パートナー』みたいな存在。

 これからも親友でありたいとは強く思うが、恋人になりたいとは少しも思わない。

 

「いや、私とハリーは付き合ってないぞ」

 

 そしてそれはフィールの方も同じである。

 ハリーとは長らく苦楽を共にしてきたし、境遇は違えど、心の闇を背負っている同士だからこそ人の苦しみを共有し合える相手だ。けれど逆にここまで来ると、彼のことをそういう対象では見れない。

 強いて言うなれば、鏡みたいな存在だ。

 多少異なる所はあるが価値観も似ているし、純粋な友情以外にも、クィディッチや防衛術など同じ得意分野を持つ者同士の連帯感のようなものを育んでいる。

 加えてハリーは入学当初からほぼ毎日一緒に居るクシェルを除けば、恐らくは沢山居る友達の中でも一番仲の良い友人。

 最初の時点で『友達』としてのライン上で距離が近過ぎたためか、今では『戦友・パートナー』の意識が圧倒的に高かった。

 

「貴女には聞いていないわ。私はハリーに聞いてるのよ」

 

 ハリーの代わりにフィールが答えたら、このように邪険されてしまった。

 

「で、ハリー。どうなの?」

「フィールが言ってくれた通りだ。僕とフィールは付き合ってない」

 

 ハリー本人の返答に、ロミルダはホッと安堵する。他の二人も安心を得たと言う様子だ。

 

「そうよね。グリフィンドールの英雄である貴方がスリザリン生と付き合う訳がないわよね。よかったわ。………そうそう、危うく言い忘れるところだったわ」

 

 今度は嫌味な笑みを浮かべたロミルダは、軽蔑と敵意を帯びた視線をフィールに向ける。

 

「貴女、ハリーと交際してないんでしょう? だったら、ハリーに近付かないでくれる? スリザリンは『例のあの人』の出身寮。そんな人が『選ばれし者』の彼の側に居るなんて、誰も望んじゃいないわ。わかったら早く彼の前から消えてくれるかしら?」

 

 嫌味たっぷりに言ったロミルダの発言。

 しかし、フィールは無表情を崩さなかった。

 所詮は『選ばれし者』と呼ばれるハリー・ポッターに熱を上げてるだけの小娘の戯れ言に過ぎないと、()()()()()()()()と言う理由でつっけんどんな言い方をされるのには慣れっこなフィールは風を受け流す絹のように聞き流そうとした、その時だ。

 

「いい加減にしてくれ、ロミルダ」

 

 ガタッ、とハリーが立ち上がり、キッと鋭い眼でロミルダを睨み付けた。フィールと違い、先程の彼女の聞き捨てならないセリフにカチンときたのだ。

 

「もう一度言う。フィールは僕の親友だ。親友と一緒に居ることの何が悪いんだ?」

 

 静かな怒りを声に含めてそう尋ねると、

 

「な、何よ………ロミルダは貴方のためを思って言っただけなのに………!」

 

 と、別の女子が凄んできたが、ハリーはそれに怯まず、キッパリと言い放った。

 

「御生憎様、僕は自分の事は自分自身で決める主義なんだ。君達が口出しすることじゃない。それにスリザリンにもいい人はちゃんといる。フィールを見ればわかるだろう? これ以上フィールを傷付ける発言をしたら、僕は許さないぞ」

 

 ハリーの強い瞳と口調に気圧されたのか。

 それとも、嫌われたら怖いと恐れたのか。

 彼の決然とした姿勢に面食らった女子達は渋々踵を返した。

 

「………行きましょう」

「そ、そうね」

 

 彼女達が去っていくと、ハリーは全身の緊張を解いた。

 

「フィール、ごめんね、僕の後輩があんなこと言って」

「あんな風に言われるのはもう慣れてる。今更じゃない。それにたかが年下の挑発に乗ったら、年上としてカッコ悪いだろ」

「だけど………」

「でも、アンタがああ言ってくれたのは素直に嬉しいよ。ありがとな」

 

 無表情を崩し、フィールは微笑する。

 その笑みを見て、ハリーも微笑んだ。

 

 昼頃になり、やっとロンとハーマイオニーがハリーとフィールの居るコンパートメントにやって来た。「ランチのカート、早く来てくれないかなあ」とロンは空腹を訴えるお腹をさする。

 

「ところでさ。マルフォイが監督生の仕事をしていないんだ。他のスリザリン生と一緒にコンパートメントに座ってるだけ。通り過ぎる時にアイツが見えた」

 

 気を引かれたハリーは座り直した。

 去年、監督生としての権力を嬉々として濫用していたのに、力を見せ付けるチャンスを逃すなんてマルフォイらしくない。

 

「アイツらしくないよな。なんで1年生をイジメに来ないんだ?」

「多分、『尋問官親衛隊』の方がお気に召してたのよ。監督生なんて、それに比べるとちょっと迫力に欠けるように思えるんじゃないかしら」

「そうじゃないと思う。多分、アイツは―――」

 

 が、ハリーが持論を述べない内に、コンパートメントのドアがまた開いて、今度は3年生の女子が息を切らしながら入ってきた。四人は何事かと彼女を凝視する。

 

「あのっ、私、これを届けるように言われて来ました。フィール・ベルンカステルとハリー・ポッターに」

 

 ハリーと眼が合うと女の子は真っ赤になって言葉がつっかえながら、紫のリボンで結ばれた羊皮紙の巻き紙を2本差し出した。ハリーもフィールは訳がわからなかったが、わざわざ渡しに此処まで来てくれた以上、拒否するのは相手に申し訳ない。二人はそれぞれに宛てられた巻き紙を一応受け取る。役目を終えた女の子は転ぶようにコンパートメントを出て行った。

 

「なんだい、それ」

「招待状だ。スラグホーン教授からの」

 

 巻き紙を解き、そこに記された文章にサッと眼を落としたハリーはロンの質問に答える。

 

《あら、あの人、早々に食事会を開催するなんてね。早くもメンバー選定に当たるのかしら》

「クラミーさん、知ってるんですか?」

 

 ハリーはフィールが首から下げている銀色のロケットに宿っているクラミーに尋ねる。ダンブルドアの忠告に従ってホラス・スラグホーンとは距離を置いて接するつもりなので、可能な限りは彼に関する知識を得ておきたいハリーにとってこれは有益な情報源だった。

 

《ええ。わたしも昔はナメクジ・クラブのメンバーだったからね。スラグホーン教授はクラブ内で定期的に食事会などを開催し、メンバー間で優秀な人物や野心家、有名人や有力者との繋がりがある人を紹介して便宜を図り、その見返りとして好物などを得る人物よ。過去にクラブのメンバーだったわたしからのアドバイスとして、必要最低限彼とは関わらない方が身のためだわ。ある程度の一線は引いて接した方がいいわよ》

 

 クラミーからの助言にハリーは頷くのと同時にちょっと嫌気が差す。前にもダンブルドアが同じことを言ってたのだが、実際にスラグホーンが作った取り巻きクラブの一員だった人から聞くと、尚更抵抗感が生まれる。

 

《と言うか、フィールにも招待状が来たことにわたしは驚いてるわ。どんな理由で招いたのでしょうかね………って、大方、予測はついてるのだけれど》

 

 エルシー・ベルンカステルの孫であり、『選ばれし者』と呼ばれるハリーと並んでヴォルデモート打倒のための『兵器』と見做して噂しているのを、当然ながらスラグホーンは耳にしているだろう。仮にそのことを差し引いても、彼女の母親がかつてクラブのメンバーの一人だったのならば、それを理由に招いてもおかしくはない。

 

「………どうする?」

「少々めんどうだが、これを送られた以上、行かなきゃ後で余計面倒事になるだろうな」

「そうだよね………」

 

 フィールとハリーは嘆息しつつ、腰を浮かす。

 正直言うと全然乗り気じゃないのだが、ここで行かなかったらスラグホーンやダンブルドアに後々文句を言われるだろう。ならば否が応でも行くしか選択肢はないと、顔を見合わせた二人の意見は一致している。

 コンパートメントを出る前、『透明マント』を着ていけば、途中でマルフォイが何を企んでいるかわかるかもしれないとハリーは閃いたのだが、通路がランチ・カートを待つ生徒でごった返しだった状況から、アイディアは別段悪くなかったのに実現出来なかったのを残念に思い、カバンに戻した。

 なのでそのまま二人はドアを開けて外に出る。

 四方から向けられる視線が更に強烈になり、二人をよく見ようと生徒達があちこちのコンパートメントから飛び出した。

 眼も開けられないほどのスポットライトを浴びる気分を味わいながら、ハリーとフィールは出来ることなら今すぐにでも大きな声でも出してストレスを全て吐き出したいだと、叫びたくても叫べない、とにかく叫び出したい衝動をグッと抑えながら、ある意味長い道のりを進んでいった。

 

♦️

 

 コンパートメントCにてスラグホーンが開催した食事会に招待されたフィールとハリーは彼に招かれた複数の招待客の紹介が終わった後、彼自身が教えた著名な魔法使い達の逸話で午後の時間を過ごした。

 二人を除いて招待客は全部で五人だ。

 フィールの同僚同輩で長身黒人のブレーズ・ザビニ。ハリーより1学年上の大柄でバリバリ頭の青年コーマック・マクラーゲン。痩身で神経質そうなレイブンクローの男子生徒マーカス・ベルビィ。そしてあとの二人はハリーとフィールがよく知っているグリフィンドール生ジニーとネビル・ロングボトムだ。

 

 招かれた理由は区々だが、そんなことはどうだっていいだろう。ランチタイムの最中、マーカスが雉肉の塊を喉に詰まらせると言うアクシデントを挟みつつ、昼食会が終了する前にフィールは用事があるのとことで一足先にコンパートメントCを抜け出した。ちなみに雉肉を飲み込んで危うく窒息死するところだったマーカスは、スラグホーンが『気道開通呪文(アナプニオ)』を唱えてくれたおかげで無事である。

 さて、それはさておき。

 その用事とは十中八九『不死鳥の騎士団』に関係することだろうと、フィールの諸事情を知っているハリーとジニーは仕方ないとは言うものの、用事を理由に早々に離脱したのをちょっとズルいと思いつつ、彼女が出ていくのを見送った。

 

「―――じゃあ、そっちで破壊と探索は頼むぞ」

『ええ、皆にはそう伝えておくわ。フィール、無茶ぶりはしないでね』

「わかってる。じゃ、そろそろ戻る」

 

 マグル界で言うところのテレビ電話的なアイテム『両面鏡』をポケットに仕舞い、フィールは自分の荷物を置いている車両まで戻った。本日何度目かの長い霧の中を通り過ぎると、汽車の窓からは真っ赤な夕日が見えており、そろそろ制服に着替えなければいけない時間帯だと教えてくれる。

 生徒のほとんどが学校用のローブに着替えて荷物を纏めるためにそれぞれのコンパートメントに戻っているので、午前中とは比べ物にならないほど歩きやすかった。

 そうして、コンパートメントに帰ってくるなりフィールは首を傾げた。ロンとハーマイオニーは制服を着てシートに座っているのに、何故かまだハリーは居なかったのだ。

 

「二人共、ハリーはどうしたんだ?」

「え? 彼ならまだ来てないわよ?」

「君と一緒じゃなかったのか?」

「私は用事があって途中で抜けたんだ」

「そうなの?」

「ああ。流石に今の時間帯なら昼食会も終わってるだろ。それなのにハリーが来てないなんて、変だな」

「ま、その内来るだろ。あんま心配しなくても大丈夫じゃないか?」

 

 楽観的に笑うロンの横で、

 

「そうだといいんだけど………」

 

 ハーマイオニーは少し不安が顔に滲む。

 

「とりあえず、まずは待ってみるか。もしも来なかったら探しに行く。だから心配すんな」

 

 ハーマイオニーの隣に座ったフィールがそう言い、彼女は少しだけ安心したように微笑む。

 それから、時間はどんどん過ぎていき………ホグワーツ特急はホグズミード駅に到着した。生徒達は順番に下車していく。ドアを開けて通路に出たハーマイオニーは辺りを見回した。汽車が停車したにも関わらず、一向にハリーが来る気配がしないからだ。

 

「どうしましょう………ハリーが来ないわ!」

「先に降りたんじゃないか?」

「制服に着替えてもないのに降りる訳ないでしょう!」

 

 ロンの軽い口調で言った言葉にハーマイオニーは怒鳴る。フィールは「落ち着け」と肩に手を置き、荷物棚から自分とハリーのトランクを引っ張り出した。

 

「私が残って車両を探索してみる。アンタ達は先に行ってろ。もしかしたらロンの言う通り、本当に降りたのかもしれない。外でハリーと会ったら『守護霊の呪文』で私に伝えてくれ」

「ええ………わかったわ。お願いね」

 

 ハーマイオニーは小さく頷き、ロンと共に汽車を下車する。フィールは生徒が全員降りるまでじっと待ち、完全に居なくなったのを確認してから行方不明のハリーの捜索に当たった。

 とりあえず片っ端から見て回ってみるが、何処にも人の気配は感じられない。何車両目かの通路を通ったフィールは一旦立ち止まり、前髪を掻き上げてくしゃりとやる。

 

「見当たんないな………下車したならとっくに連絡来てるだろうし………私としたことが迂闊だった」

 

 窓の外を見れば、暗いプラットホームを生徒達がゾロゾロ歩いている。トランクを引き摺る音やガヤガヤと言う大きな話し声がこちらまで聞こえてきた。車内での足音は完全に消え去っているので、恐らくは自分一人―――と、ハリーしか此処には居ない。自分の行動を悔いり、唇を噛み締めたフィールはふと、周囲を見回して今居る車両がコンパートメントCの所だと知った。

 

「そういや此処だったか………此処からハリーはマジで何処行ったんだ? ホントに―――」

 

 と、そこまで呟いたフィールはハッとする。

 そういえば、スラグホーンが開いた食事会の招待客には同輩のブレーズも含まれていた。ブレーズはスリザリン生でマルフォイの仲間だ。もし、彼が元居たコンパートメントがマルフォイと同じだったのならば………。

 

「………ああ、なるほど。そういうことか」

 

 ようやく忽然と消えたハリーの行動と居場所を察したフィールはそちらへ早足で向かう。

 そして、ビンゴ。

 微かに人の気配を感知した。

 数歩歩いたフィールはしゃがみこみ、覆い被さっている物を払い除けるように手を動かす。

 案の定、『透明マント』が退けられ、中から鼻が折れ曲がって顔が血だらけのハリーの姿が顕現とした。凍結しているところを見ると、『全身金縛り呪文』でも掛けられたのだろう。

 フィールは『解除呪文』を唱え、ハリーに自由を取り戻させた。ハリーはすぐさま立ち上がり、フィールに礼を言う。続けてフィールは『治癒呪文』でハリーの鼻を治し、血で濡れた顔も『払拭呪文』で綺麗にさせた。

 

「やっぱり、此処に居たか。………大方、昼食会が終わった後にザビニの後を追ってマルフォイの話を盗聴しようとした結果、バレてこうなったんだろ」

 

 鋭く突っ込んできたフィールにハリーはバツの悪そうな顔になる。図星だったからだ。

 と、その時だ。

 エンジンが唸りを上げて息を吹き返し、床が振動し始めた。このまま長居したら、ホグワーツ特急が発車して自分達は置いてきぼり、ロンドンへと折り返しだ。

 

「詳しい話は後だ。まずは飛び降りるぞ」

 

 汽車の窓が水蒸気で曇り、まさに駅を離れようとしている。フィールはハリーを促し、デッキのドアを開けてプラットホームに飛び降りた。汽車は速度を上げ始め、ホームが足元を流れるように見える。ハリーが着地でよろめき、体勢を立て直した時には、紅色の蒸気機関車は更に加速し、やがて角を曲がって姿を消した。

 

「ふぅ、まさに間一髪だったな」

 

 透明マントを返しながら、フィールはトランクをハリーに手渡す。

 

「早く制服に着替えろ。そしたら城に行くぞ」

 

 プラットホームで私服から制服に着替えるのは抵抗があったが、フィール以外の人は誰も居ないのと、その彼女が背を向けたことから、急いでハリーはトランクを開け、制服を着用する。そうして脱いだマグルの服をトランクの中に仕舞って蓋をしたハリーはフィールに声を掛けた。

 

「フィール、着替えたよ」

「よし、じゃあ、さっさと行くぞ。ハリー、一旦トランクをこっちに渡せ」

「え?」

「早く」

 

 フィールに急かされ、ハリーは慌てて預ける。

 渡されたトランクを『検知不可能拡大呪文』を掛けたポーチに入れたフィールは、人間の姿から一転、黒色の大きな狼になった。額には有体守護霊の狼と同じ、魔法陣の紋章が刻まれている。

 フィールの動物もどきは黒狼だ。狼の姿になっても、耳についたイヤーカフや鋭い蒼瞳など、人の姿を連想させる部分はちゃんと残ってる。体躯も自分と然程変わらない体格の人間なら普通に乗せられるくらいの巨体で、黒狼に変身したフィール―――ウルフィールは、口をあんぐりと開けて見下ろすハリーの前で体勢を少し低くした。

 乗れ、と言う仕草だ。

 しかし、一驚してるハリーは乗らない。

 なので、

 

「おい、何ボケッとしてんだ。早く乗れ」

 

 と、若干苛立った声音で人語を発した。

 本来、動物もどきになった魔法使いは言語能力を失うのだが、フィールは特殊訓練でそれを克服したので、動物もどきになっても言語能力はそのまま健在である。

 

「えっ!? あ、はい!」

 

 何故か敬語で返事し、慌てたようにハリーはウルフィールの背中に跨がる。同世代の男子の全体重がのし掛かっているのに、彼女は平然とした姿勢を保っていた。

 

「しっかり掴まっておけよ」

 

 ハリーが掴まっているのを確認し、ウルフィールは彼を乗せて、ホグワーツ城へ続く長い道のりを人間の時よりもずっと速いスピードで駆け抜ける。

 割りと険しい地形なのに難なく走破するウルフィールの並外れた運動能力に、最初ハリーは振り落とされないよう必死にしがみつくのが精一杯だったが、世界最速の箒・ファイアボルトを乗りこなす彼は徐々に慣れていき、箒とはまた別の新しい感覚に興奮を覚えた。

 

「ところでハリー。アイツが何を企んでるのか聞いたのか?」

 

 走りながら、ウルフィールは問い掛ける。

 すっかり忘れてたハリーは急速に思い出し、車両の中で聞いたマルフォイの話を語った。

 

「アイツが何かやろうと計画してるのは間違いない。アイツはヴォルデモートに命じられてる的なことを仲間内で話してた。内容までは話さなかったけど………」

「………そうか」

「フィール、君はどう思う?」

「………ハッキリとした情報が掴めない以上、現段階では推測の域を出ない。可能な限りはこっちでもアイツの動向は探ってみるけど、あんまり期待はするなよ」

「わかった」

「………っと、そんなこと話してたら、いつの間にか見えてきたな」

 

 立ち止まったウルフィールの目線の先には、セストラル率いる馬車でホグワーツまで辿り着いた生徒達の集団が寮別に並んでいる。どうやら間に合ったらしい。これで新学期早々遅刻と言う不名誉な事態は免れた。ウルフィールとハリーはホッと胸を撫で下ろす。

 

「こっからは普通に歩くぞ。暗闇の中からいきなり狼が現れたら、大パニックになるだろうし」

 

 と言うことで、あちらからは死角の場所で狼から人間に戻ったフィールは預かっていたトランクをハリーに返す。受け取ったハリーは最後に「ありがとう」と感謝の言葉を述べると、フィールと共に少し遅れてやって来ました感を見事に演じてそれぞれの寮生と合流した。




【ホグワーツ生】
噂好き、好奇心旺盛、脳内お花畑。

【ネビルナ】
5章同様、どっか別のコンパートメントでイチャイチャしてんじゃない? ちなみにネビル、ナメクジ・クラブのランチの招待券は普通に手渡されました。

【ハリフィーのカップル噂】
犬猿の仲の寮間の壁を越えて仲の良いダブル主人公。実は結構前から「あの二人付き合ってんじゃね?」的な噂は流れています。ま、作中のご本人達は結構一緒に居る回数が多いクセして恋愛感情はこれっぽっちも抱いてませんけどね。

ハリフィー「「僕(私)達はカップルじゃない」」
ホグワーツ生「いやどう考えてもお前ら付き合ってるだろ」

【ダブル主人公のハリーとフィール】
この作品のダブル主人公は『戦友・パートナー』を特に意識して書いています。
例えで言うとこんな感じ↓。

バイオ:クリス・ジル(1)、レオン・ヘレナ(6)
ゼル伝:リンク・ミドナ(トワプリ)、リンク・ファイ(スカウォ)

【言語能力健在のウルフィール】
動物もどきになると言語能力は無くなるみたいですが、訓練次第じゃ克服出来んじゃね? とのことでフィールは動物もどきになっても普通に人語喋れます。
単に喋らなかったらつまらない、と言う作者の個人的な理由も含まれてますけどね。

【ウルフィールに跨がるハリー】
未だかつてこんなケースはあっただろうか?
オオカミに変身したフィールにハリーが乗る、実はめっちゃやりたかったんですよね。
これは多分、トワプリやもののけ姫の影響。
ウルフフィールと誰かが寄り添って寝る構図、これはかなり絵になるかも? いつかどっかの#で取り入れてみるのも悪くないですかね。
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