【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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月曜と火曜の2日間は延期になった学年末テストあるので更新遅れます。

※今回もアンチ・ヘイト要素が含まれます。多分これからも含まれる可能性があるので、苦手な方はブラウザバック推奨。


#95.幸運の液体(フェリックス・フェリシス)

 首席のフィールと次席のハーマイオニーの白熱極まる模擬戦闘は結果的にホグワーツの歴史に名を刻むような武勇伝となり、観戦していた生徒達は未だ熱が冷めない様子であった。

 尊敬の眼差しで瞳をキラキラさせる視線の数々に二人はちょっと疲れ気味なのだが、そんなことは露知らず、噂好きの彼等はあちこちに噂を広めていく。これはしばらく注目の的になる予感がしたので、二人は気が滅入ってしまい、顔を見合わせて深いため息を吐いた。

 ………それはさておき、『闇の魔術に対する防衛術』の次にフィール達が受けたのは『魔法薬学』だった。

 教授は復職したホラス・スラグホーンだ。

 セイウチ髭を生やした太った丸顔の小男で、突き出た眼はスグリ色をしている。余談だが、現在ハゲ頭の彼は若い頃、麦わら色の髪を茅葺屋根のように生やしていたらしい。

 

「さて、さて、さーて。皆、秤を出して。魔法薬キットもだよ。それに『上級魔法薬』の………」

「あの、先生。僕とロンは本も秤も何も持っていません。僕達NEWTが取れるとは思わなかったので………」

「ああ、そうそう。マクゴナガル先生が確かにそう仰っていた。心配には及ばんよ、ハリー、全く心配無い。今日は貯蔵棚に在る材料を使うといい。秤も問題無く貸してあげられるし、教科書も古いのが何冊か残っている。フローリシュ・アンド・ブロッツに手紙で注文するまでは、それで間に合うだろう」

 

 ハリーとロンの二人は魔法薬学の道具類を用意してなかったが、昨年度まではスネイプが担当で彼は『O』を取った生徒以外はNEWTレベルの授業を受けさせないと明言していたので、これは仕方ない。事情を察しているスラグホーンは咎めることなく、ハリーとロンに教科書と道具を貸し出す。その二冊の教科書に見覚えのあるフィールは「あれ、確かそれは………」と二人の手に握られているそれを眼で追う。

 スラグホーンが二人に貸した古本は5年前、フィールがスネイプと魔法薬学の特別授業を受けた際に使用した物であった。しかもハリーが今持っている教科書は、魔法薬学と闇の魔術に秀でたスネイプの手で調合の指示書きや呪文がぎっしり書き込まれた『半純血のプリンス蔵書』だ。正確な調合法はともかく、呪文には危険な類いの物も含まれている。万が一ハリーが呪文の効果を知らないで人に対して使った場合、彼の運命はどうなるかわからない。

 ………まあ、高確率でそうなる前にきっとハーマイオニー辺りがこちらの意見を求めてくるだろう。当時は匿名で名付け親のシリウスからクリスマスプレゼントされた世界最高峰の箒・炎の雷(ファイアボルト)の時みたいに。

 

「さーてと、皆に見せようと思って、幾つか魔法薬を煎じておいた。ちょっと面白いと思ったのでね。NEWTを終えた時には、こういう物を煎じることが出来るようになっているはずだ。まだ調合したことがなくとも、これが何だかわかる者は居るかね?」

 

 最初にスラグホーンの質問を全て回答したのはハーマイオニーだ。無論フィールも手を挙げたのだが、スラグホーンはこれが初対面となるハーマイオニーを指名した。

 3滴飲ませば秘密を問答無用で全て暴露させられる無味無臭の自白薬『真実薬(ベリタセラム)』。自分じゃない誰かに1時間変身出来る『ポリジュース薬』。そして相手に偽の恋心を起こさせる『愛の妙薬』もしくは『惚れ薬』だ。魔法界で最も強力な愛の妙薬は『魅惑万能薬(アモルテンシア)』である。

 それぞれ特徴と効能を淀みなくスラスラと答えたハーマイオニーの頭脳に、スラグホーンはお気に入りの生徒にカテゴリーしたのだろう。

 スラグホーンは笑顔で称賛し、グリフィンドールに20点を与える。

 が、まだ一つだけ説明されていない薬があるのを何人かの生徒は疑問に感じた。

 机の上に置いてある、小さな黒い鍋。

 中身は金を溶かしたような黄金で輝いており、ピチャピチャと跳ねている。水面から金魚が飛び上がるように飛沫が跳ねているのに、どういう原理か、一滴も溢れることはなかった。

 

「さてそれでは、実習を始めよう」

「先生、これが何かをまだ教えてくださっていません」

「ほっほう」

 

 ハッフルパフの男子生徒、アーニー・マクミランの言葉にスラグホーンは満足そうな声を上げたので、彼は劇的な効果を得るために初めから誰かが質問するのを待っていたのだろう。そしてわざわざそんな演出を挟むと言うことは、それだけの価値がある魔法薬だと考えられる。

 

「―――そう、これね。さてこれこそは、紳士淑女諸君、最も興味深い一癖ある魔法薬で、名をフェリックス・フェリシスと言う。きっと君はこれが何かを知っているね? ミス・グレンジャー、ミス・ベルンカステル」

 

 『フェリックス・フェリシス』と聞いただけでアッと声を上げたハーマイオニーと、やっぱりと言う顔のフィールにスラグホーンは問い掛ける。

 ハーマイオニーは興奮気味に答え、補足説明をフィールが加えた。

 

「幸運の液体です! 人に幸運をもたらします!」

「飲むと薬効が切れるまで、全ての企てが成功に傾きます。ただし、飲み過ぎると向こう見ずで危険な自信過剰に陥り、大量に摂取すると毒性が高くなります」

 

 二人の言葉にざわざわとざわめきの波紋がクラス中に広がり、背筋を正した。つい先程まで他人事のように聞き流していたマルフォイも例外ではなく、全神経をスラグホーンに集中させる。

 

「その通り。グリフィンドールにもう10点、スリザリンにも10点あげよう。そう、この魔法薬は面白い。調合が恐ろしく面倒で、間違えると惨憺たる結果になる。しかし、正しく煎じれば、ミス・ベルンカステルの言う通り、薬効が切れるまでは、全ての企てが成功に傾いていくのがわかるだろう」

「先生、どうして皆、しょっちゅう飲まないんですか?」

 

 レイブンクローの男子生徒、テリー・ブートが勢い込んで訊いた。コイツ、さっきの話ちゃんと聞いてたのか? と思ったのは、何もフィールだけじゃない。

 

「それも先程彼女が言ってくれた通り、飲み過ぎると有頂天になったり、無謀になったり、危険な自信過剰に陥るからだ」

「先生は飲んだことあるんですか?」

「二度ある。24歳の時に一度、57歳の時にも一度。朝食と一緒に大さじ二杯だ。完全無欠な2日だった」

 

 同じくレイブンクローの男子生徒、マイケル・コーナーの質問にスラグホーンは夢見るように遠くを見つめる。仮にこれが演技だったとしても、効果は抜群だ。

 

「そしてこれを、今日の授業の褒美として提供する。フェリックス・フェリシスの小瓶一本。12時間分の幸運に十分な量だ。明け方から夕暮れまで、何をやってもラッキーになる」

 

 スラグホーンは、コルク栓をした小さなガラス瓶をポケットから取り出して全員に見せる。全ての生徒が『幸運』の二文字を具現化させた薬が入っている小瓶に釘付けで、教室は静寂の中に微かな熱気が籠り始めたように感じた。

 

「警告しておくが、フェリシス・フェリシスは組織的な競技や競争事では禁止されている。これを獲得した生徒は、通常の日にだけ使用すること。そして通常の日がどんなに異常に素晴らしくなるかを知るだろう」

 

 そりゃそうだ。スポーツ選手にとってこれを飲んで試合に出るのは、マグル界で言うところの『ドーピング』になってしまう。当然試験や選挙でも使ったら、バリバリ不正行為だ。

 

「この素晴らしい賞をどうやって獲得するか? さあ、『上級魔法薬』の10ページを開くことだ。あと1時間と少し残っているが、その時間内に『生ける屍の水薬』にきっちり取り組んで頂こう。これまで君達が習ってきた薬よりずっと複雑なことはわかっているから、誰にも完璧な仕上がりは期待していない。しかし、一番良く出来た者がこの愛すべきフェリックスを獲得する。さあ、始め!」

 

 流石は過去に教鞭を取っていた教師だ。授業の進行の仕方や生徒の心を惹き付けるやり方が非常に上手い。スラグホーンの合図で、生徒達は一斉に大鍋を手元に引き寄せ、秤に錘を載せたりなどして、一心不乱に『生ける屍の水薬』の製作に取り掛かった。皆は夢中で『上級魔法薬』を捲る。

 部屋中が異様な静けさに包まれる中、この薬の正確な調剤を暗記しているフィールは時間のロスになることから、教科書は開かないで淡々と作業に取り組んだ。他の生徒が無我夢中になる中、一人だけ冷静な雰囲気のフィールに隣のクシェルは首を傾げる。

 フィールはチラリとハリーの方を見てみた。

 彼は銀のナイフの平たい面で催眠豆を砕いているところだった。どうやら、半信半疑ながらもプリンス蔵書の指示書き通りに行っているらしい。

 もし、その本の持ち主がスネイプだと知ったら彼はどんな反応をするかと、想像したフィールは苦笑して、自分の作業に戻る。

 それからしばらくして、終了時間となった。

 スラグホーンの声で生徒達はピタッと作業の手を止める。

 スラグホーンは大鍋を覗き込みながら、何も言わずに時々薬を掻き回したり、臭いを嗅いだりして、ゆっくりとテーブルを巡った。そうしてハーマイオニー達のテーブルの番に来て、フィールとハリーの薬を見た途端、スラグホーンは瞳を輝かせ、満面の笑顔で声を上げた。

 

「紛れもない勝利者達だ! 素晴らしい、素晴らしい! なんと君達は明らかに母親の才能を受け継いでいる! 彼女達は魔法薬の名人だった。さあ、さあ、これをどうするか………」

 

 スラグホーンは少し困った笑みを浮かべ、金色の液体が入ったガラス瓶と、黒髪の少年少女を見比べる。まさか二人も完璧に製作するとは予想外だったので、どちらに渡そうか悩む。

 両者共に遜色ない出来だ。一方には提供して、一方には提供しないのは不公平だ。教師たるもの常に平等にしなくてはならない。これがもしスネイプだったら、迷わずフィールにプレゼントしていただろう。けれど、スラグホーンはそうしなかった。

 この難しい状況をどうするべきか、真剣に考え悩むスラグホーン。

 すると―――フィールがこんな発言をした。

 

「ああ、先生。それ、ハリーにやって構わないですよ」

 

 さらっと口にした、フィールの爆弾発言。

 スラグホーンのみならず、この場に居た全員が眼を剥いてフィールを凝視した。特にハリーはあんぐりと口を開けている。

 半日が幸運になるフェリックス・フェリシスは是非とも欲しい一級品だ。プリンス蔵書のおかげで上手く調合したハリーと並んで、フィールには貰える権利がある。

 なのに、それを自ら手放すとは………何としてでも我が物にしたかった彼等にとって、フィールの行動は信じられなかった。スラグホーンもすぐにハリーには渡さず、戸惑っている。

 

「し、しかし本当にいいのかね? 見ていたが、君は誰よりも早く水薬を完成させていたはずではないかね?」

「ええ、構いません、どうぞ」

 

 フィールは滅多に見せない爽やかフェイスを見せる。

 何故そのような曇りない晴れやかな表情を浮かべられるのかは不明だが………フィールが構わないと言うならそれでいいと、スラグホーンは約束のフェリックス・フェリシスの瓶をハリーにあげる。その代わり、フィールには20点の加点を与えた。これでグリフィンドールと同点だ。

 最後にフィールは「使い道をよく考えろよ」と呆然とするハリーの肩に手を置くと、グサグサ突き刺さる生徒達の怪訝な視線を背に、真っ先に教室を出て行った。

 

♦️

 

 その日の夜―――。

 大広間で鱈腹夕食を食べ終えたホグワーツ生は各寮へと戻って行った。皆は今頃談話室で談笑したり、チェスやトランプ等の趣味に興じたり、新学期早々に出された課題を終わらせたりして、各自自由時間を満喫しているだろう。

 現在、大広間には数人の教師と、一人の生徒が残っていた。ピョンピョン跳ねた明るい茶髪がトレードマークのその女生徒は、スリザリンのテーブルに座って時折教師陣をチラチラと見ている。

 

「珍しいのう、クシェル。君がフィールと共にスリザリン寮に帰らないとは」

 

 そろそろ自室に戻ろうと、大広間を出ようと入り口に向かって歩いていた教師の一人―――校長のダンブルドアは、生徒で唯一此処に留まるクシェルのことが気になって声を掛けた。

 彼女が居残っているのには、訳がある。

 なんとなくだが、ダンブルドアはそう直感が働いていた。ダンブルドアの隣では、マクゴナガルとスネイプが彼と同じように不思議そうな眼でクシェルを見下ろしている。

 

「君が此処に居るのには、何か理由がある。そうではないかね?」

「………その通り、です」

 

 ガタッと椅子から立ち上がったクシェルは、キッと鋭い目付きでダンブルドアを睨む。入学した頃はあどけなさが全面的に顕著していたが、成長した今は顔付きも大分変わって大人びた感じがする。

 そんなクシェルの鋭い視線をモロともせず、ダンブルドアは青い瞳で真っ直ぐ見返した。親友を見捨てようとしただけでは飽き足らず、支配下に置いている男なのに無駄に澄んだ瞳をしていて、癪に障ったクシェルは内心舌打ちする。

 

「まどろっこしい言い方は嫌いなんで、単刀直入に言います。―――今すぐフィーを解放してください。そして、二度とフィーに近付かないでください」

 

 マクゴナガルとスネイプは揃って瞠目する。

 わざわざクシェルが大広間に残留していたのはダンブルドアに物申すためだったのかと、賢い二人は瞬時に理解した。ダンブルドアは青眼をスッと細め、クシェルの翠眼をじっと見つめる。

 

「ふむ………君の言いたいことはわかったが、よければ理由を聞かせて貰えるかね?」

「言わなきゃ、わかんないですか?」

 

 必死に怒号を抑えているのだろう。

 拳を強く握り締め、微かに震わせるクシェルは憤怒の表情でダンブルドアを見上げた。クシェルがダンブルドアに隠しきれない怒りをぶつける理由がまだわからないマクゴナガルとスネイプは、互いに顔を見合わせる。

 

「貴方は………いや、アンタ達は、初めからフィーを殺すつもりで形だけ騎士団に引き入れた。神秘部でムーディ達がフィーを殺そうとしたのを、アンタは止めようともせず、見殺しにした。なのになんで、悪びれもせず、フィーに近寄って来るんですか!」

 

 堪らず、感情の沸点が低くなって怒り心頭に達したクシェルは声を荒げる。その大声は、シンと静まり返る大広間の隅々まで響き渡った。クシェルの剣幕にマクゴナガルとスネイプは思わずビクッとし、信じられないと言う表情をする。

 クシェルは、相手が校長だろうと今世紀で最も偉大な魔法使いだろうと、構わず感情の赴くままに叫んだ。

 

「どうしてそんな酷いことが平然と出来たんですか!? 今までフィーがどれだけの犠牲を強いられてきたか考えたことがあるんですか!? ハリー達と一緒に何回ホグワーツを守ってきたか忘れたんですか!? ハリーさえ生かせればフィーは死んでも構わなかったんですか!? 何人死ねば何人助かるとか数で救える命を計算してたんですか!? ああ、そうだったんでしょうね。アンタの中では、フィーは『使い捨ての駒』同然の認識だったんだろうね。だから気付かなかった。気付こうともしなかった。フィーが死んだら悲しむ人がいるってことに………私達がどんな気持ちになるか、これっぽっちも考えようとしなかった!」

 

 ダンブルドアの隣でマクゴナガルが怒ったような顔で見下ろしてくる。今はまだ黙っているが、もう少ししたら堪忍袋の緒が切れて怒鳴り散らしてくるだろう。だが、クシェルにとってはどうでもよかった。こうして校長の前で激昂し、心情を吐露した時点で、そんなものは些細な問題に過ぎない。減点されることも叱責されることも全て覚悟した上で此処に居るのだから、今更だ。

 

「生徒一人の命を救おうとしないで何が『偉大な魔法使い』だ! 何がホグワーツの校長だ! アンタはただの最低なクズ野郎に過ぎない! アンタだけじゃない! ムーディもシャックルボルトもトンクスも! その他大勢の騎士団も! アンタ達はフィーのことを見定めようとせず、全てを蔑ろにした! 人生も生命も人権も存在も! なのによくふざけたこと抜かせましたね! ヴォルデモートや死喰い人に狙われてるから自分達の保護下に置くと言っておきながら、本当は―――」

「―――お黙りなさい! ミス・ベイカー!」

 

 遂に我慢の限界を迎え、マクゴナガルが怒号を飛ばす。普通の生徒であれば、日頃から厳格なマクゴナガルの怒鳴り声にシュンと肩を縮こませただろうが、生憎ブレない精神力と並外れた根性を持つクシェルはビビらなかった。

 

「黙れマクゴナガル! 私はコイツに本音をぶちまけなければ気が済まない!」

「こ、コイツとは………偉大なるお方に、何と言う無礼な発言を!」

「偉大なるお方!? 笑わせるな! 親友を見捨てようとしたヤツに礼儀も遠慮もあるか! ダンブルドア、私はアンタを本気で許さない! フィーは騎士団の『奉仕者』でも『奴隷』でも、『手駒』でも『使い捨ての道具』でも何でもないのにまるで『玩具』のように扱って………これ以上、フィーをいいように使われて堪るか!」

 

 出せる限りの最大限の声で溜め込んでいた感情を吐き出したクシェルは肩で息をする。ダンブルドアは表情一つ変えず、クシェルの言葉を受け止め、眼を伏せた。スネイプは一見すると無表情だが、その実自分が受け持つ寮生が校長に対し堂々と意見を述べた事実に驚きを隠せない。マクゴナガルはクシェルの失言の数々にワナワナと身体を震わせる。

 呼吸を整え、幾分か落ち着いたクシェルはこれ見よがしにため息をつくと、不機嫌この上ない顔でダンブルドアを見た。

 

「アンタ………なんで、トム・リドルを教師として教え導かなかったんですか」

 

 トム・リドル―――。

 ヴォルデモート卿(名前は言ってはいけないあの人)の本名だ。

 いきなりの話題変更と、彼の学生時代の名前を出され、今日初めてダンブルドアは戸惑う。

 

「アンタはトム・リドルの邪悪さや残忍さを最初から見抜いてた。だったら、ただ黙って監視するのではなく、人としての道を導かせてあげることも出来たはず。そうしたら、今頃はこんなことにはならなかったのに………どれだけ人を見捨てれば、アンタは気が済むんですか」

 

 確かに、まだ年端もいかぬ少年に邪悪さや残忍さを感じていたら、警戒することに越したことはない。

 でも、ただ静観してしつこく監視することだけが、気付いた人間に出来る手段でもないはず。

 クシェルはそれがどうしても許せなかった。

 何故、人に道徳を教えられるだけの力と心を持つはずのダンブルドアは、ただ黙って事の成り行きを見守っていたのか。

 何もせず、ただボケッと、まだ光の道に引き戻せるチャンスがあったのに、何故それを自ら手放したのか。

 闇の道に堕ちたからといって、それがその人を見捨てていいと言う理由にはならない。闇堕ちしたならば、すぐに対立するのではなく、手を差し伸べてやることも考えなかったのか?

 一度は闇に堕ちて殺人鬼モードになったフィールを救ったクシェルにとって、ダンブルドアの行為は最大の疑問だった。

 

「私はアンタと違ってフィーを離したりしない。どんな犠牲を払ってもね」

 

 クシェルの双眸が、鋭くダンブルドアを縛り付ける。

 不覚にも、背中にゾクリと悪寒が走った。

 真っ暗な闇のようで、底の無い沼のような。

 そんなクシェルの瞳を見ていると、まるで闇の中に吸い込まれていくような錯覚に陥り―――ダンブルドアは慌てて首を振った。

 

「とにかく………伝えたいことは伝えました。早くフィーを自由にしてください。束縛してるアンタが解放しなかったら、フィーはいつまでも檻に閉じ込められたまま、アンタの支配下で生き続けることになる。そんなのは絶対に許さない。フィーにはもっと、普通の女の子として生活する権利も、幸せになる権利もある。それをアンタ達の勝手な感情で奪わないでください。これ以上フィーを振り回さないでください」

 

 クシェルの脳裏に、昨夜のフィールの泣いた顔が過る。

 フィールの涙を見た時、クシェルはダンブルドアや騎士団に対し、激しい憎しみを抱いた。それは最早、殺意と言っても過言ではない。

 

 

 

「次、フィーを追い詰めたら………私はアンタをズタズタに掻っ捌いてやる」

 

 

 

 最後にそう言い残し、クシェルは踵を返した。

 黒いローブを翻し、立ち去って行く彼女をマクゴナガルが呼び止めようとするが、ダンブルドアに止められた。

 

「止すのじゃ、ミネルバ」

「ですが、アルバス………」

「あの娘の言葉は真実じゃ。わしは一度、フィールを見捨てようとした。その事実が変わることはない。しかし、困ったのう………」

 

 ダンブルドアは銀色の長い顎髭を摩る。

 今しがたまで生徒のクシェルに散々罵詈雑言や糾弾を浴びせられたが、その言葉に嘘は一つも混ざっていない。どれも本当のことだ。それは否定しない。しかし今は、フィールを見殺しにする気は欠片もない。それも偽りのない本心だ。

 だが………

 

「………………」

 

 クシェルにはバレないよう『開心術』を使って見えた、フィールの泣き顔が浮かび上がる。

 フィールが泣くなんて余程のことなので、表面上は平静を保ち、しかし内心ではクールな彼女の意外な一面に少しばかり動揺したが………自分はそれだけ彼女を追い詰めているのかと、ダンブルドアは鬱屈そうにため息を吐く。

 一体どうすれば、誰も傷付けずに済む?

 何をどうやれば、誰もが納得するのか?

 どんなに自問自答しても、これが最善と言う答えは見付からない。

 解決していたと思っていた問題は、本当は何も解決していなかったのだ。

 

「………すまんのぉ、クシェル」

 

 フィールに近付くなとは言われたが、そうはいかない。こうなった以上、今後の学校生活や騎士団の活動をどうするか、近い内に今一度本人とちゃんと話し合って決めなければいけない。

 ダンブルドアは虚無の空間を見つめながら、姿が見えなくなった少女に謝罪した。

 

♦️

 

 遅れて寮に戻って来たクシェルは、重い足取りで二人部屋に向かった。談話室に着いた時、何人かの人が気になって尋ねてきたが、適当な言葉ではぐらかしておいた。とにかく今は、フィールに会いたい………そんな気持ちだった。

 そうして、部屋の前まで来て、ドアを開けようとしたら、タイミングよくドアが開き、フィールと眼が合った。

 

「あ………」

 

 クシェルが軽く眼を見開くと、フィールがふわりと笑った。

 

「なんだ、今来たんだな。あまりにも遅かったから何かあったのかと思って、談話室に様子を見に行こうと思ったんだ」

「そっか………ごめん」

「気にするな。クシェルが無事ならそれでいい」

 

 部屋に入りながら、見慣れた景色にクシェルはホッと一息つく。ベッドに腰掛けたフィールにクシェルは無性にハグしたい衝動に駆られた。

 

「………………」

「………クシェル?」

「………………フィー」

 

 衝動に従い、クシェルは小首を傾げるフィールの前に来て彼女をギュッと抱き締めた。相変わらず華奢な身体だと思いながら、クシェルは背中に両腕を回す。

 突然ハグされたフィールは困惑の表情でクシェルを見た。クシェルは構わず、フィールの長い黒髪に顔を埋める。甘い香りが鼻腔を擽り、安心感を得て緊張の糸が切れた。ぬくもりを肌で感じ、それだけでクシェルはフィールを手放したくない気持ちで胸の中は満たされる。

 

「……もう二度と、私の前から黙って居なくならないで。私から離れて行かないで。私の傍に……ずっと居て」

 

 今にも消え入りそうな、クシェルの声。

 フィールを抱き締める腕の力が強くなる。

 抵抗せず、クシェルの腕の中に居たフィールはそっと声を掛けた。

 

「急にどうしたんだ? クシェル。私はもう、黙って貴女の傍から居なくならないし、ちゃんと傍に居る。それはわかってるだろ?」

「うん、わかってるよ。でも………」

「でも?」

「………ううん、なんでもない。お願い、もう少しだけ、こうして貴女を抱かせて」

 

 クシェルは大好きな人を抱き締める腕に、一層力を込める。

 此処に来る前、クシェルに何があったのか知らないフィールは理由がわからないながらも、ギュッと抱き締め返した。




【クシェル①】
遂に啖呵を切った。
今までこんなに堂々とアンチ・ヘイトしたキャラはいただろうか?

【黙れ小僧(マクゴナガル)!】
かの有名なもの○け姫の名言。
ダンブルドアのみならずマクゴナガルにも言えるとは、ある意味凄い………。
ちなみにもしクシェルがタタリ神の呪いを受けてたら、命削られることを厭わないで血祭りに上げてたでしょう。

闇堕ちクシェル「ダンブルドア………まずはお前から血祭りに上げてやる!」

【クシェル②】
フィールと会って早々ハグ。
ダンブルドア(とマクゴナガル)に対しなんなんだこのギャップは。と言うかスネイプさん完全なる空気でなんか申し訳ない。

スネイプ「ふざけるなぁぁぁ!」

【クシェル③】
今回めっちゃ口悪かった娘。
バイオ7のイーサンに負けず劣らずだったような気が。あ、そういやクシェルパパの名前「イーサン」だった。
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