【完結】ハリー・ポッターと蒼黒の魔法戦士   作:Survivor

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クシェル「バルス(物理)!」グサッ!
ダンブルドア「目が、目がぁ~!」
フィール「おいいぃぃぃぃ!クシェル何やってるんだあぁぁぁ!?」
クシェル「え?前回やりそびれてたバルス(物理)しただけだよ?」
フィール「(物理)って何!?てかそもそもバルスってなんだ!?」
クシェル「え?フィーラピュタ知らないの?じゃあ今度一緒にゲオ行ってレンタルして観てみよっか」
フィール「あれれ~?おっかしいぞォ~?イギリスにゲオってあったっけ!?」

はい、皆さんお久し振りでございます。
久々の更新早々、オープニングボケならぬ前書きボケ終了です。なんか色々混ざってましたね笑。
それでは本編に入りましょう。
安心してください。ダンブルドアはバルス(物理)されてませんよ。 


#96.ホークラックスの洞窟

 ホグワーツから何㎞も離れた海岸。

 其処にシリウスとライアンは居た。

 潮の香りと打ち寄せる波の音、時折強く吹く海風に黒髪を揺らし、海から高く突き出た黒々とした岩場の上に立つ彼等の視線の先にあるのは、背のっぺりした岩肌を見せて聳え立つ背の高い真っ黒な崖。

 シリウスとライアンが今から目指す場所は、崖の割れ目の中だ。

 

「彼処か………随分と危なっかしい場所に隠してたんだな、あの自称闇の帝王様は」

 

 ライアンは荒涼たる光景を目の当たりにしながら、手を眼の上に翳して遠方の目的地を見る。

 

「………ああ、そうだな」

「おいおい、シリウス、君がそんな顔してどうするんだい? 僕達が今日、こうして此処まで来たのは、君がクリーチャーの証言の真偽を確認したいと言ったからだろう?」

「………………」

 

 鬱屈そうにグレーの瞳を伏せたシリウスは何も言わないで、眼下で海が泡立ち渦巻いているのを見下ろす。

 二人が海岸にやって来た訳―――。

 それは、かつてヴォルデモートが分霊箱の一つ『スリザリンのロケット』を、彼を裏切ったシリウスの弟が本当に本物とすり替えた偽物があるかどうか、ハッキリさせるためだ。

 分霊箱により近い状態のクラミーによる禍々しい気を発するホークラックスの位置探索や、英国魔法界を徘徊しそこら辺に存在するマグルの人間や闇の陣営側じゃない魔法使いを襲撃する死喰い人を捕獲しての情報入手で、不死鳥の騎士団は蔵匿された分霊箱の在処に徐々に近付いていった。

 そして騎士団は2つの分霊箱をある場所でそれぞれ発見し、見事破壊した。

 

 1つ目は『ハッフルパフのカップ』。

 ホグワーツの創設者の一人であり穴熊寮の由来となったヘルガ・ハッフルパフの遺産だ。グリンゴッツ魔法銀行・レストレンジ家の金庫に盗難避けとして『火傷の呪い』と『双子の呪い』と言う二重の防御で厳重保管されていたそれは穴熊の彫刻が施された小さな金のカップで、精巧に作られた取っ手があり、宝石も埋め込まれていた。

 ヴォルデモートはヘルガ・ハッフルパフのカップをベラトリックスに預け、彼女はレストレンジ家の金庫に保管した。

 グリンゴッツ銀行はホグワーツに次いで世界一安全な場所で、金庫に向かうには小鬼(ゴブリン)と共にトロッコで移動しなればいけない。しかも一種の泥棒対策として、小鬼以外が金庫のドアに触れると永久的に金庫の中に吸い込まれてしまうシステムが組み込まれているのだ。ベラトリックスがロンドンの地下に広がる魔法銀行の金庫の中に保管するのは妥当と言えるだろう。

 が、実はこれ、裏を返せば金庫内にある物を窃盗するのが目的であれば、不法侵入はバリバリ可能なのだ。

 何故なら例え閉じ込められたとしても、そこから『姿現し』などして脱出すればいいだけの話なのだから。要は脱出する手段さえちゃんと持ち合わせていればOKなのである。

 ホグワーツ卒業後、グリンゴッツに就職した騎士団員の一人・ビルからの極秘情報を基にベラトリックスの金庫までの裏ルートを辿ったシリウスとライアンは、レストレンジ家を初めとする古く深い場所にある家系の金庫の番人、多種のドラゴンの中で最大クラスの巨体を誇るウクライナ・アイアンベリーをその眼に焼き付けられながらも、無事にカップを回収。

 ベラトリックスが施したダブルガードに少々手間は掛かったが、『姿現し』で金庫を脱出した後にライアンが『悪霊の火』を用いて破壊した。

 

 2つ目は、『スリザリンのロケット』。

 ホグワーツの創設者の一人であり蛇寮の由来となったサラザール・スリザリンの遺産だ。彼の子孫に代々受け継がれてきた装飾品は重い金で出来た物で、表面には曲がりくねった蛇のような形をした『S』と言う飾り文字が緑の宝石で嵌め込まれていた。

 驚くことに、それが隠匿されていた場所はなんとグリモールド・プレイス12番地―――シリウスの生家・ブラック邸だった。

 更にもっと言えば、ロケットを保管していたのはクリーチャー………ブラック家の屋敷しもべ妖精だったのだ。

 彼の部屋に隠されていた分霊箱に、当たり前だが騎士団のメンバーは何故お前がサラザール・スリザリンのロケットを隠し持っていたのかと、特にシリウスは激しく問い詰めた。

 そしてクリーチャーが涙ながら語った事の真相に、一同は愕然とした。

 

 レギュラス・アークタルス・ブラック―――。

 クラミーとライアンの妹・エミリーと同い年でシリウスの1歳年下の弟だった青年。兄のシリウスより背丈は低く華奢ではあったが、美形の人物が多いブラック家の例に漏れずの美男子で、ホグワーツに在学中、スリザリン家系の一族に生まれた彼は祖先同様にスリザリンに所属、クィディッチチームのシーカーも務めていた。

 彼はヴォルデモートの記事をスクラップにするほどの猛烈なファンで、16歳と言う若さで死喰い人の仲間入りを果たすほど、闇の帝王を尊敬してやまなかった。

 

 ある時を境までは―――。

 両親や兄に虐げられていたクリーチャーを唯一大切にし、愛情を注いでいたレギュラスは、ヴォルデモートがクリーチャーに過酷な仕打ちを与えたことから彼に失望し、裏切ることを決意。

 最後の抵抗として分霊箱であるスリザリンのロケットをブラック家の家宝のロケットとすり替え最終的には破壊するため、シリウスとライアンの目的地の洞窟に置いてある水盆に沈められたスリザリンのロケットを取り出すべく、クリーチャーに成り代わって毒液を全て飲み干し―――破壊に失敗したレギュラスは本物のロケットをクリーチャーに託し、衰弱したところを湖の中に居た亡者に引き込まれ、死亡。

 自分の裏切りによって家族やクリーチャーに被害が及ばぬよう事実を隠したため、『闇の陣営にある程度入り込んだものの、恐れをなして身を引こうとしたため、ヴォルデモートの命を受けた他の死喰い人に殺された』と言う認識が一般的となった………。

 

 真実を聞き及んだ騎士団はレギュラスの死を哀悼した。生前ギリギリまで敵対者の死喰い人だったとは言え、その死因は、彼等に『レギュラス・ブラック』と言う故人の印象を変える大きなキッカケに、そして過去数百年分のスリザリン寮の不名誉を一掃することになったのだ。

 ロケットを破壊された今、これでレギュラスの犠牲は報われただろう。………が、そこまで聞いても尚、半信半疑の人間がいた。

 

 シリウスである。

 『愚かな弟』と血の繋がった兄弟に対しそう述べていたシリウスは、憎んでいた家を生々しく思い出させる存在のクリーチャーの話を完全には信じきれず、疑惑の念を抱き、論より証拠だと、実際にホークラックスの洞窟に足を運んで自分の眼で確かめると言い出したのだ。

 当然最初は、皆シリウスに異を唱えた。

 本物のロケットは無事に見つけ出して打ち砕いたのだから、わざわざ偽物だと知った上で衰弱してまで手に入れようとするなど愚の骨頂だ。

 それに………騎士団の中でもトップクラスで強者のシリウスが暫く活動不能になるのはかなり痛手だ。出来るだけ戦力を欠如させたくない騎士団にとっては、現状でシリウスの私情を挟むのは望ましくない。

 

 しかし、そんな彼を擁護する者達が居た。

 親友のルーピンやライアンである。

 彼等は、例えどんなにシリウスの欲求を撥ね付けたとしても彼はめげずにしつこく食い下がるだろうし、後味が悪い始末となればそれこそ任務に支障が出るだろうと、なるべく騎士団全員が納得するような説明と懸念事項を伝えて深々と頭を下げた結果、渋々だが許可をくれ―――現在に至ると言う訳だ。

 

「時間も惜しい。さっさと行って帰ろう」

「そうだな、そうしよう」

 

 洞窟内に直接『姿現し』は出来ないので、二人は近くの崖まで移動すると、『防火・防水呪文(インパービアス)』を全身に掛けてから、灯りを点けた杖を口に咥えてそこからダイブし、海を遊泳して、崖の割れ目の中へと入っていく。奥は幅が1m足らずの暗いトンネルになっており、泳ぎ続けるとトンネルは左に折れ、崖のずっと奥まで伸びていた。やがて二人は最奥に辿り着く。大きな洞穴に続く階段が見え、二人は海から上がり、階段を這い登った。

 洞穴は洞窟全体の入り口の小部屋となっていて魔法を使った形跡が確かにあり、ゴツゴツした岩壁に広範囲で触れて調べてみる。程無くして、一旦壁から離れたライアンは杖を特定の岩壁に向けて魔法を発射してみる。すると岩壁にアーチ型の輪郭線が浮かび上がり、隙間の向こう側に強烈な光があるかのように、一瞬カッと白く輝く。が、すぐに輪郭線は消えて岩壁は元通り復元し、行く手を拒まれてしまった。

 

「よし、此処で間違いなさそうだ。さて………確か通過するには『血の代償』が必要だったんだよな」

 

 ヴォルデモートがクリーチャーにした冷遇。

 それは、闇の魔術を重ね掛けして分霊箱の守りをより磐石にさせた何重もの仕掛け―――血を持ってしか開けない扉、一人前の魔法使いを一人しか乗せない小舟、飲む者に悪夢を見せる毒水、盗んだ者に襲い掛かる亡者など、防御魔法のテストにクリーチャーを利用し、使い捨てたことだ。

 簡単には盗まれないよう厳重に保管するのが目的だったとは言え、自分達にとって名誉あることだと、しもべ妖精を必要としていたヴォルデモートに喜んでクリーチャーを差し出したレギュラスからすると、惨い扱いを平然と行った彼の残忍さは敬意を捨てさせるのに、一切の迷いはなかったのだろう。

 レギュラスの己の命を捧げてでも護りたいものを護り抜こうとした彼の勇気を讃えて改めて冥福を祈りつつ………ライアンは懐からナイフを取り出し、腕を切りつける。

 真っ赤な鮮血が迸り、岩壁に飛び散った。

 此処に来る時点で覚悟はしていた。そこに躊躇いなど無い。

 自分がやるよりも先にライアンが血と言う名の『通行料』を払ったため、シリウスは「すまない」と詫びる。

 本来であれば、無関係の人間は巻き込まないで一人だけで足を運ぶ予定だったのだが、誰か一人同伴者がいなければ、騎士団は赴くことをOKしてくれなかった。

 その同伴者に自ら名乗りを挙げてくれたのが、ライアンと言うことだ。ちなみにその時はルーピンも挙手したのだが、騎士団の判断でライアンに決定したのである。

 

 さて、それはさておき………。

 硬い岩の表面に血飛沫が点々と飛散すると、今度こそ銀色に燃えるアーチ型のゲートが顕現とした。腕につけた深傷を治しながらライアンとシリウスは消失した障壁の先を歩いていく。

 二人は向こう岸が見えないほど巨大な黒い湖の畔に立っていた。洞窟の天井は高く、広大な湖の中央と思われる位置に滑らかな岩で出来た小島が浮かんでおり、其処には緑色に光る何かがあるのを遠目からでも見て取れた。

 周囲は普通の闇より濃い闇で包まれている。

 眼を凝らしてみると、湖の中にはおびただしい数の亡者で溢れていて、今はまだ静かに横たわっているが、ちょっとでも湖に触れたりすればたちまち襲撃してくるだろう。

 シリウスとライアンは軽く頷き合い、狭い湖の縁を慎重に進んで行く。岩縁を踏む二人の足音がピタピタと反響し、無意識の内に神経質になっている彼等は要らぬ刺激を心に与えられ、冷や汗が額に滲む。

 二人は再び魔法の形跡を見付け、空中に浮遊する不可視の何かを掴みながら握った手を杖で叩くと、赤みを帯びた緑色の太い鎖が何処からとなく現れた。鎖を叩くとひとりでに蛇のように滑り出し、幽霊のように鎖と同じ緑色の光を発しながら小舟が湖面を割って姿を出す。

 

「ここまではクリーチャーから聞いた通りだな。シリウス、少しは信憑性が高まったかい?」

「………どうだろうな」

 

 シリウスは小舟に乗り込み、鎖を巻き取る。

 すると、小舟はすぐに発進した。

 ライアンは『飛行術』で小舟と並行に進む。

 『飛行術』を会得してるならシリウスもそれを使えば済む話だが、彼は敢えて正式な手順を踏んでの進行を選んだ。

 二人は無言で少しずつ小島に接近していたが、暫くすると謎の沈黙に嫌気が差したのか、ライアンが明るい声でシリウスにこんな提案をした。

 

「そうだ、シリウス。レギュラスのロケット回収して帰ったら一杯やらないか?」

「お、いいな。ワインでどうだ?」

「だったら、チーズや生ハムを肴にしたいな」「サラミも悪くない。あのスパイシーさ、肉の油っこさは赤ワインと相性抜群だ」

「ビターチョコやドライフルーツも合うぞ。どれをつまみにするか、考えるだけでも楽しいな」

 

 男二人が場にそぐわない会話をしていたら、いつの間にか湖の中央の小島に到着した。着いた島はダンブルドアの校長室ほどの大きさで、台座が設置されており、その上には燐光を発するエメラルド色の液体が満たされた水盆が置かれていた。

 これこそがクリーチャーを苦しめ、そしてレギュラスを死に追いやる原因となった劇薬なのだろう。

 毒々しい色の液体に、上陸した二人の顔は一瞬で強張る。

 話に聞いていたとは言え、こうして間近で見てみると、いざ飲み干そうと覚悟しても、どうしても飲むのに抵抗が生まれてしまう。

 試しに水盆に手を突っ込んでみたが、まるで見えない障壁に阻まれているかのようにビクともしなかった。ヴォルデモートが仕掛けたギミックだ。『消失呪文』や『変身呪文』、その他諸々の呪文でも一切効かないだろう。

 ではどうするのか?

 答えはただ一つ。

 この液体を全て飲み干すこと、それだけだ。

 

「これを、レギュラスは全部飲んだのか………何気に男前だな。ある意味、チャレンジャーとも言える」

「………………」

「さて………少々躊躇いはあるが、飲むか」

 

 と、意を決してライアンがグッと表情を引き締めた、その時。

 シリウスが、ライアンの肩に手を置いた。

 

「待て、ライアン。これは俺一人で飲み干す」

 

 瞠目したライアンはあんぐりと口を開ける。

 クリーチャーの証言に半信半疑で疑惑の念を抱いていたシリウスが自ら名乗り出たのだ。これで驚くなと言う方が無理な話である。

 

「シリウス、正気かい? 一体これがどんな物なのか、君もわかっているだろう?」

「ああ、わかってるさ。それを踏まえた上で俺は一人で飲むと言ったんだ。男に二言は無い。約束は必ず守る。これ以上君に迷惑は掛けられないしな。それに―――」

「それに?」

「………それに、此処まで来て何もせず帰還したら、クリーチャーのために死んだレギュラス(アイツ)の犠牲が犬死になるからな」

 

 またまたライアンは大きく金眼を見開かせる。

 生まれたブラック家そのものを激しく嫌い、家族との仲も不仲でクリーチャーに対しても無関心と言う虐待を続けてきたシリウスの口からそのような発言が出てくるとは、予想を遥かに上回ったからだ。

 

「確かに俺は今でも嫌いだ。死んでも大嫌いだ。家族もクリーチャーも、ブラック家も純血主義の親族も。………だが、アイツはそれを命を賭してでも必死に守ろうとした。俺にとっては一生どうでもよくても、アイツにとってはかけがえの無い大切なものだった」

 

 だからアイツは死喰い人から身を引いた。

 ヴォルデモートを裏切る道を選んだ。

 家族のために迷うことなく献身した。

 その気持ちだけは………共感出来る。

 シリウスはエメラルド色の液体を見つめた。

 緑色の液体の表面に、自分自身の顔が映る。

 その顔に、最後まで不仲のまま終わった忌々しい弟の顔が脳裏を過った。

 

「だったらせめて俺が此処で命を絶ったアイツにしてやれることは、この液体飲み干した後でロケットをクリーチャーに渡すことくらいだ。本物と取り替えたロケットはアイツの物だったからな。きっとアイツはクリーチャーにあげたいと思うだろう。クリーチャーがしたことへの感謝の証としてな」

 

 そうしてシリウスは水盆を持ち上げ、ライアンが「あっ」と声を出す前に、あっという間に全部飲み干してしまった。

 途端に彼は顔色が悪くなり、空になった水盆が手から抜け落ちる。

 傾いた拍子にロケットが地面に落ちた。

 大きな音を立て、闇の中に吸い込まれるかのように黒い湖の中に姿を眩ました水盆などには眼もくれず、ライアンはその場に踞ったシリウスに呼び掛ける。

 

「おい、大丈夫か!?」

「………ッ、ライアン………、俺のことはいいから、早くロケットを………!」

「あ、ああ………」

 

 ライアンがレギュラスのロケットを取り、ポケットに入れた直後。

 湖の中で漂っていた大量の亡者が派手な水飛沫を上げて湖面から飛び出してきた。恐らく、分霊箱が沈められていた水盆の中の液体が空になった状態で水盆が湖に触れたのを敏感に感知したのだろう。

 闇の魔法使いの呪文によって『生ける屍』へと進化を遂げた亡者の大群は、島の真ん中に佇むライアンとシリウス目掛けて這い上がってきた。

 

「うわ………最悪だわ、マジで」

 

 何処を見回しても全方向死人に包囲され、退路を絶たれてしまったライアンは呻く。

 まさか、水盆が湖に触れた瞬間に襲来してくるとは………己の読みの甘さに舌打ちする。

 だが、今は後悔してる暇も余裕も無い。

 まずはなんとかして此処を脱出しなければ。

 未だに血の気が引いているシリウスを抱え、ライアンは杖を高く掲げる。

 

インフェルノ・フィニス(終焉の業火よ)!」

 

 深い闇魔術の一種で、制御出来なければ術者も焼き殺される『悪霊の火』。闇の魔法の中でも高位に位置するその闇の炎は、瞬時にキメラの姿形に構成される。

 火炎のキメラは二人の周囲を旋回した。

 亡者の弱点は火だ。

 そのため、亡者達はライアンの杖先から噴出された業火に瞬く間に怯え、湖の中へ我先にと逃げて行く。

 その隙にライアンは『飛行術』で地面を強く蹴って飛翔し、シリウスを連れて島を後にした。キメラは何度も死人の集団に突進し、追ってこられないよう時間稼ぎをする。

 

 やがてライアンは出入口のゲートがある岩壁まで戻ってきた。急いで腕に傷をつけ、鮮血を噴き出させる。血の貢ぎ物を受け取ったアーチは再び姿を現した。二人は外側の洞窟を過り、ライアンはシリウスを支え、崖の割れ目を満たしている氷のような海水にダイブする。

 星空の元に戻って来ると、ライアンは一番近くの大岩の上に引っ張り上げ、ぐったりともたれ掛かる彼を支えながら、『付き添い姿現し』で騎士団の本拠地に帰還した。

 二人はブラック邸の厨房及び会議室にダイレクトに現れ、其処に居た騎士団のメンバーはいきなりの登場にビックリ仰天する。ライアンとシリウスは荒く息をつき、床に座り込む。

 

「ライアン、シリウス!」

 

 いち早くライリーが二人に駆け寄った。

 癒者(ヒーラー)の彼女はすぐに魔法薬を飲ませる。幾分か二人の血色は良くなった。それからライリーは二人の脈を測り、容態を診る。

 軽傷のライアンはともかく、あの毒水を全部喉に通したシリウスはかなりの重態だったが、1週間ほど静養して栄養のあるものを食べていれば問題無く治ると診断されたので、特に心配は要らない。

 

「それで、手に入れたの? ロケット」

「ああ………ちゃんと手に入れたよ」

 

 ライアンはポケットからロケットを取り出す。

 パッと一見すると分霊箱だったロケットと見間違えそうだが、本物ほど大きくはないし、何の刻印も無い。そして何より、スリザリンの印とされる宝石で出来たS字の飾り文字も埋め込まれていないこれには、分霊箱から発せられる禍々しい気は少しも感じなかった。

 

「ライアン………それを私にくれないか?」

 

 疲れきった表情のシリウスは弱々しい声でライアンに言う。自分の手で中を開けたいと言うシリウスの意思を汲み取ったライアンは彼にロケットを手渡す。

 シリウスはゆっくりとロケットを開けた。

 中には羊皮紙の切れ端が一枚入っていた。

 折り畳んで押し込まれているそれを掴み、覚束無い手取りで開くと、そこには見覚えのある筆跡でこんな文章が簡素に書かれていた。

 

『闇の帝王へ

 あなたがこれを読む頃には、私はとうに死んでいるでしょう。

 しかし、私があなたの秘密を発見したことを知って欲しいのです。

 本当の分霊箱は私が盗みました。

 出来るだけ早く破壊するつもりです。

 死に直面する私が望むのは、あなたが手強い相手に見えたその時に、もう一度死ぬべき存在となることです。

                R・A・B』

 

 R・A・B。

 それは紛れもなく………レギュラス・アークタルス・ブラックその人のイニシャルであった。

 読み終えたシリウスは端正な顔を歪める。

 胸の奥底から込み上げてきた形容し難い感情に自分でも混乱したが、しかしすべき事を見失ったりはせず―――シリウスは初めて自主的にクリーチャーの名を呼び、彼を自分の元へ呼び出した。




【没シーン:ロケット回収した二人と遭遇】

ヴォルヴォル「ダニィ!? な、何故お前達が此処に!? い、いやそんなことはどうでもいい! その手にある物はま、まさか………」
シリウス「え? スリザリンのロケットですが何か?」
ライアン「あ、ちなみにこれ偽物なんで何年も前から」
ヴォルヴォル「What′s!?」
シリウス「それじゃ、用も済んだし」
ライアン「僕達はこの辺で失礼しま~す」
ライシリ「「あばよ~とっつぁぁぁ~ん!」」
ヴォルヴォル「野郎ぶっ殺してやらあぁぁ!」

【ハッフルパフのカップ】
ロケット破壊前に金庫から盗んで破壊。
流石に全部の分霊箱捜索の詳しい描写書いてたらキリがないのでキングクリムゾンさせて頂きました。

【ベラさん金庫への乗り込み】
銀行勤務のビルなら裏ルート知ってそう。

【スリザリンのロケット】
マンタンガスが盗み出す前になんとか回収。
もしアンブリッジの手に渡っていたら………その後は読者のご想像でお任せします。

【ホークラックスの洞窟に赴く男二人】
読者からすれば騎士団同様何故わざわざ偽物取りに行くんだと思うかもしれません。しかし、せっかくこのSSのシリウスは生存したんだ。原作でレギュラスの真実知らないまま死んだシリウスはこの作品ではせめて弟の死因を知った上で存命していて欲しい。

【シリウスの一人称】
原作や映画では一貫して『私』でしたが、たまには『俺』もアリかなと。

【悪霊の火】
闇の炎に抱かれて消えろ、と言うセリフにまさにピッタリな闇魔術。

【現時点の分霊箱】
①トム・リドルの日記→×
②ゴーントの指輪→×
③スリザリンのロケット→×
④ハッフルパフのカップ→×
⑤レイブンクローの髪飾り→×
⑥ハリー・ポッター→○
⑦ナギニ→○

【まとめ】
と言うことで今回は分霊箱ブレイクの回でした(シリウス、かなりのイケメンぶりと兄ぶりを見せてくれました)。
この時点で既に5/7のホークラックスぶっ壊されちゃいましたね。流石に早すぎたかなとは思いますが、この#で破壊しなくてもどうせ次回辺りでフツーにグリンゴッツ銀行の裏ルート使って金庫に忍び込みカップ盗みあばよ~とっつぁぁぁん~になるので、そんなに変わらないでしょう。
あ、最初に言っておきますが、ハリー&ナギニロックオンは7章となりますので、分霊箱ブレイクは一旦お預けとなります。流石にナギニまでも6章の時点で無限の彼方へさあ行くぞさせちゃったらやり過ぎ感半端じゃないので。ま、可能な限りのホークラックス早期の段階で破壊したおかげで、7章はほぼ全編バトルの回にさせられそうな気がするのでこっちとしては好都合ですけどね。

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