つい数分前までは帰宅に喜び勇んで大騒ぎする生徒たちで一杯だったホームは、キングスクロス駅行きのホグワーツ特急が発進したことで、引率に来ていた僕だけになっていた。あぁ…羨ましい。今年のクリスマスは僕もセブルスと一緒に家に帰る予定だったのだ!……昨日までは。
原因?あの忌々しいブラックのお陰だ。セブルスの腕を掴んで帰りたい、と意思表示をしたのだがマクゴナガル教授には許してもらえなかった。ハッキリと言葉に出して言っているわけでは無いが、おそらくハリーが残るからだろう。殆どの生徒がいなくなったクリスマスにブラックが襲撃してくる可能性もある。狙われている(と思われている)ハリーが居残る以上、教員も彼を警護しなくてはならない。
こんな事ならハリーも帰ってくれればよかったのだが…。
僕は慌てて頭の中の思いをデリートする。彼の家、いや彼にとっては家では無いのだろうが彼の叔母の家ではかなり酷い扱いを受けていたらしい。自らを受け入れてくれるホグワーツこそ彼にとっての家。そこから離れろというのは余りにも酷だろう。自分を否定する場所に帰れ、なんて僕が言えることじゃない。
突然風が激しくなり、雪混じりの風が吹き荒れる。凍えてしまいそうな程風が冷たい。
思考に集中していたせいで全く気付いていなかったが、いつの間にか空は綺麗なオレンジの夕焼けに染まっている。冬は日が沈むのも早い。僕はフードを深めに被り直し、足早に城に向かった。
僕は初めてきたから分からないが、セブルスによると今年は例年に比べて残っている人数が随分多いらしい。
獅子寮が六人、穴熊寮が二人、大鷲寮が四人に蛇寮は…ゼロ。親が純血魔法族や魔法省の役人、といった上流階級の人間が多い蛇寮はクリスマスは人脈作りの為にパーティーに出席しなければならないから例年居残りがいないらしい。
クリスマスパーティー 懐かしい響きだ。親に決められた“お友達”と一緒にくだらない純血主義について話し合い、顔合わせと称して身分に見合った婚約者を決められる。煌びやかな飾りの下では真っ黒な腹の探り合い。糞ったれな彼奴ら純血のお貴族様のせいでーーー
ーーー落ち着こう。今彼奴らのことを考えても苛々するだけだ。
意識を無理矢理テーブルの上に戻した僕は顔を顰める。なんでよりによって僕の目の前に、ローストビーフがあるのだ。基本好き嫌いがなく何でも食べれる僕だが、ローストビーフだけは無理だ。こんがり焼いているステーキなら大丈夫なのだが、どうも僕はあの血生臭さが苦手だ。
一番手前のローストビーフが乗った皿を奥に移動させて、テーブルの奥にあったステーキを皿にとる。フォークで肉を抑えて、ナイフで一口サイズに切り分けた。やはり良い肉を使っているのだろうか。力を入れずとも、ナイフを肉に走らせればスーっと切れてしまう。切り口から溢れ出る肉汁が何とも美味しそうだ。
一口サイズの肉を、フォークで刺して口に運ぶ。まだ熱いが我慢できない程ではない。ゆっくりと味わうように肉を噛み締めると熱々の肉汁がジュワッと口の中で踊る。ふと横に目をやると、僕の口の中に吸い込まれて行くステーキをじっと見つめる視線に気付く。セブルスだ。彼は顔に似合わず猫舌だ。きっと食べたくて仕方ないのに、我慢しているのだろう。
態とステーキの刺さったフォークをセブルスの顔に近付けてみると、凄く悲しそうな表情をする。
……罪悪感がすごいのでこの辺で止めておこう。
今日のデザートは美味しそうなフルーツタルト…だが残念。今日は食べれない。これでも体型には気を遣っているのだ。外見は華奢かもしれないが、一応鍛えてはいる。決闘は魔法だけじゃ無い。やたら盾の魔法を使う人が多いが、あんなの避けてなんぼ。相手にだけ魔法を使わして、疲れさせたところで武装解除するのが一番だ。最もその戦法は格下にしか使えないが。
閑話休題。
今日は朝に甘い菓子パンを食べてしまったので我慢しよう。僕はタルトを諦め、席を立った。
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時は流れクリスマス。いや、正確には今日はイブで明日がクリスマスだったか?
とまぁ、そんなどうでもいいことは置いといて僕が今いるのは
「おぉ、気きくじゃないか! いやー寒いと思ってたんだよな。」
「僕が貴重なセブルスとの時間を削ってまでプレゼント渡しにきてあげたんですから、もうちょっと感謝の言葉とか無いんですかね?」
……会話からして察せるだろうが叫びの屋敷だ。ここ最近あまり来れていなかったのでプレゼントとして、ブラックに毛糸のマフラーを持って来てあげたのだが、正直あげる必要性が皆無だった気がする。そもそもお前はは犬になれるんだから一日中犬でいろよ、と言う話なのだがブラック曰く年がら年中使っていると、本当に自分が犬になってしまった気がして、気が滅入るらしい。じゃあ十三年間ずっと鼠でいたはずの、ペティグリューは何なんんだよという話だが…。
「それより! ハリーにファイアボルト渡してあげたんですからいい加減動物もどきを教えて下さい」
「そんなこと言われてもな……感覚だ、感覚!」
「あぁ、もうっ!ホント感覚論好きですね!?もっと分かりやすい説明をしてください!」
「んなもん知るか!」
こいつは未だに僕に動物もどきを教えない。こいつの脳内辞書に感謝の二文字はないのだろうか?
考えるまでも…ないか。絶対無い。この僕が断言する。
「はぁ…無罪が確定したら絶対に教えてもらいますからね!」
「ん」
「じゃあ今日はもう帰ります。明日は来れないので適当に鼠でも食ってて下さい」
「あぁ分かっ…ってそれは無いだろ!!クリスマスの豪華な飯俺も食いたいんだぞ!?」
「仕事しないから悪いんです。労働に見合った対価を、がモットーですからね。もう行きますから」
余程クリスマスを楽しみにしていたのか、やたら食い下がるブラックをスルーして僕は叫びの屋敷を出る。今はこう言ったが流石に鼠を食わせる訳にはいかないので、明日の昼頃にもう一回くる羽目になるだろう。
通路を抜けて歩き出すと、地面を踏みしめる度に柔らかい雪の感触がする。つい一時間前までは降っていたからか、まだ固まっていない雪の感触は心地いい。踏みしめた時のザクッという小さな音もまたいい。寒い上に雪かきが面倒なので“家”にいた時は雪が嫌いだったが…終わった後に残る銀世界はいやはや良いものだ。
辺りを見渡すと数名の生徒が目に入る。魔法を使って雪だるまを作っているらしい。
……なんだか懐かしい。脳裏に弟との思い出が浮かぶ。雪が降った日はいつも二人で一緒に大きな雪だるまを作っていた。上の方になると手が届かなくて形が整えられなかったから、弟を肩車したりしながら作った。一生懸命作った雪だるまは七日後には溶けてしまったが、大泣きしていた弟を見兼ねた父が、魔法を使って溶けない雪だるまを作ってくれた。満面の笑みを浮かべ、大喜びする弟に僕も、普段あまり笑わない父も思わず破顔していた。
嫌な気分になった僕は足早にその場を離れる。
もう少し外で一年でこの季節にしか見られない美しい光景を堪能しようと思っていたが…萎えてしまった。また降り出さない内に中に入ってしまおう。
ーーどこか遠くで楽しげに笑う二人の子供も声が聞こえた気がした。
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「ではイエス・キリストの誕生を祝って…乾杯!」
いつもは家具が殆ど置かれていない殺風景なだけの僕の部屋だが、今日だけは別だ。制作時間約三十分の魔法のイルミネーションによって照らされた室内は、小さなクリスマスツリーに飾りのプレゼントボックスと季節感たっぷりに飾り付けられている。
「我輩もお前も無神論者の筈だが…」
「はぁ、全く。そんなこと言ったらお終いです!折角のクリスマスなんですから楽しまないと駄目ですよ!」
僕とテーブルを挟んで向かい側に座るセブルスは、あからさまに面倒臭そうな表情を浮かべているが、“一緒に迎えられる”クリスマスが後何回か、なんて分からないのだから楽しんだ方がいいに決まってる。それにニホンとかいう極東の島国じゃあ年の初めにはジンジャに行って、結婚式は教会でやって、葬式はオボウサンにやってもらうと聞いた。神様なんて本当にいるのかわかったもんじゃ無いのだから祈ったもん勝ちだ。
「さぁさぁ、セブルスも飲んで下さいよ!今日は結構奮発したんですよ?」
昨日態々ロンドンまで買いに行ったワインを棚から取り出す。不確かな記憶によると、結構な年代物だった筈だ。
テーブルの上のコルクスクリューを取る。螺旋状の金属針はあっけないほど簡単にコルクに刺さるが、引き抜くには結構な力がいる。T字型はこれだから嫌なのだ。 左腕に力を込めると、ポンッという音と共にコルクが抜ける。無駄に疲れてしまった。次からはソムリエナイフを用意しよう。
密かに来年への決意を固めた僕は、セブルスの前に置いてあるワイングラスにワインを注ぐ。透き通ったクリスタル・ガラスにはきめ細かいカットが施されていて、良い品ということが伺える。因みにこのグラスはこの間馴染みの店に行ったらプレゼントとしてくれた物だ。
セブルスのグラスにワインを注ぎ終えた僕は、杖を一振りしてワインに状態保存魔法をかける。冷たくする必要もないし、魔法を解かなければそれこそ何年でも同じ状態をキープできるので、地味にこの手のものは便利だ。
ワインはささっと戸棚にしまってしまい、僕は自分のグラスにシャンパンを注ぐ。こっちは前に買ったやつだ。そこまで高くないが、味が好みなので僕はいつもこれだ。グラスの三分の一に入ったところくらいで、ボトルの中のシャンパンが切れてしまった。もう少し飲みたかったが…まぁいい。今度はボトルを消失させる。
一通り終えた僕は、自分のグラスをセブルスのグラスに合わせる。小さな音が部屋に響く。僕のグラスの中で、レモン色のシャンパンが揺れた。セブルスも嫌々ながらグラスを合わせてくれる。
セブルスが嫌いなのは熱いものだけだが、セブルスは酔うとやたら絡んでくるのだ。引き取られてすぐの頃、普段鉄仮面なセブルスが顔を赤く染めて、やたら僕に絡んできたときの衝撃は忘れない。あの時は記憶があったのか、翌日すごい謝られた。それ以来セブルスは僕の前で酒を飲もうとしないのだ。
まぁ今日はクリスマス。聖夜の夜は特別なようで、セブルスはワインをグビグビ飲んでいく。絡み酒だが中々ダウンしないので明日はきっと猛烈な二日酔いに襲われるのだろう。
僕たち二人の間に会話はない。だが一緒にいるだけで幸せだからこれでいいいのだ。お互い口を開かないまま、唯ひたすら飲んでいると時計の針が一になったところで漸くセブルスがダウンした。部屋を豪華に飾り付けても、結局飲むだけだったが…もうそれは気にしない。後片付けを手早く終わらせた僕は二日酔いの薬をテーブルの上に置いておく。セブルスなら色と香りからしてすぐ判別できるだろう。二日酔いの薬はショッキングピンクにパイナップルの香りという中々、いやかなりショッキングな組み合わせなので大丈夫のはずだ。
机に突っ伏して寝てしまっているセブルスに、毛布を掛けたあげた僕は彼を起こさないようそっとドアを開けて部屋を出た。
ホグワーツミステリー始まりましたね!
にしても今年はファンタビといい、ホグワーツミステリーといいハリポタ祭りですね。今から楽しみです。
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