奪われ、再び一人となった落第騎士 作:落第寸前の男の要望
ーー≪
それは己が魂を武器として具現化させた、魔導騎士……
この世に生を授かったその瞬間から決まる固有
それがあれば大抵のモノは手に入ったし、人の心でさえもそのチカラで屈服させることが出来たからだ。
人々は優秀な伐刀者を求め、争い、怯え、そして讃えた。
国のパワーバランスさえ掌握したその異能のチカラを、我々は伐刀絶技と呼ぶのだ。
そしてその伐刀絶技の中でも異端中の異端ーー
≪
しかしそれほどの異能、当然
そして実際、それはその枠に収まった。だからきっと、そのチカラを持って生まれた人間は、皆等しく天才と言われるのだろう。
たとえその他のパラメータを度外視したとしても、天災級の可能性すら秘めたその異能は絶大である。
そこで質問だ。
そんなチート地味た能力相手に、例えばどうだろう、ヒエラルキーの
まるで蚊でも払うかの様に相手にされないだろうか? それとも必滅の一撃で
その答えは、その結果は、どんな結末であろうと
ーーなどと、
何故なら
かつて
そう。彼、
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七星剣武祭にて≪
破軍学園生徒、教員、その殆どが彼を認め賛辞を送ったのだ。
つい最近まで友人はおろか、家族にすら肯定されていなかった一輝にとって、それはとても有難いものであったし、励みになった。
だが肯定されるとは、選ばれるとは同時にそれらを背負うということだ。それは期待であったり、敗れた選手の夢であったり、大切な人との約束であったり……
「もっともっと、強くならないと」
剣尖が触れ合い、瞬時に柄を捻り上げ相手の一撃を逸らす。
素早く間合いを詰め、両手で柄を握り直し斬り下ろそうとした。その間僅かコンマ5秒の世界。
人間の反射速度は通常0.3秒。切り上げられた腕を考えても防御は間に合わない。
しかしーー
ギイィィンッ!!
「ははっ流石ステラだ。これぐらいは決め手どころか、小細工にもならないね」
「当然よイッキ。それより練習だからって手を抜かないでよね」
「勿論だよ!」
一輝と撃ち合う彼女の名はステラ・ヴァーミリオン。
ヴァーミリオン皇国第二王女にして、≪
その火を操る
まごう事なき天才が、また
一輝と恋仲であり、皇女でありながら決勝にて公然の場で愛を誓い合い、キスを交わした。それによってもはや交際を隠す必要性もなくなった今、彼女の心はとても晴れやかである。
そんな彼等は現在、来たる七星剣武祭に向け霊装の使用許可を得て、鍛錬に励んでいるという訳だ。
「はぁっ!!」
激しい撃ち合いの末に生じた一瞬の隙を突いて、ステラが小規模な火球の雨を降らせる。
その火球の軌道は直線的なものから歪曲されたものまで、実に不規則な動きをしていた。
(これは……
直線的なモノは単なる自由落下、歪曲されたモノは魔力制御だろう。
肌を焼き焦がす礫の
その間は、
「もらった!!」
一輝の懐に飛び込んだステラが剣を横薙ぎに振るう。腰の捻りと遠心力を加えたその一刀は、神速の居合いにも近しい程のスピードを有していた。
しかし、
「第一秘剣、≪
「ーーーーなっ!?」
一輝が床のタイル目掛けて刃を突き立てると、瞬く間に亀裂が広がり、タイルが粉々になりながらめくれ上がった。
「ここの床のタイルはいつも目にしてるからね、どこをどう突けば良いかは見なくても分かるんだ」
慣性に従ったまま身体を投げ出される羽目になったステラの視界を、一粒のタイルが塞いだかと思うと、一輝の霊装、≪
***
「ステラも飲むかい?」
「んっ、ありがと」
稽古を終え、一輝から手渡されたスポーツドリンクを、簡単な返事で受け取るステラ。
以前の様な間接キス……という訳ではなく、もう一本用意されたものだ。
付き合っているとはいえ、まだ互いに日が浅い。いや、勘違いしないで欲しいのだが、愛の深さに時間が関係しているという事ではなく、2人の恋に対する免疫がまだ弱いという意味である。つまり浅いのは彼等の色恋沙汰への経験というわけだ。
まあだからと言って、無意味に間接キスをする必要性は全くないのだがーー
「お・兄・さ・ま!」
「やあ2人とも、見ててくれたんだね」
「はいっ! お疲れ様です」
「ふふっ、格好良かったわよ」
実の妹であり、水を操り多彩な技を使う≪
両名とも一輝やステラにとって大切な仲間であり、行動を共にする事が多い。
更に二人とも戦闘能力が高く、一輝とステラは言わずもがなであることから、このグループ、生徒会に匹敵する程の知名度と強さを持っているのだ。
「ところでお兄様。私、喉が渇いてしまいました。少し、頂いても宜しいでしょうか?」
「ん? あ、ああ。勿論いいよ」
不意に雫珠が喉の渇きを主張してきたので、自然と飲んでいたスポーツドリンクを手渡す。
それを可愛らしい笑顔で受け取った彼女が、まるで吸い付くようにキャップに口をーー
「はーい、喉が渇いてるんなら私のあげるわよ? 単に水分を補給したいなら、別にイッキのじゃなくてもいいでしょ?」
「…………」
付ける前に、背後からステラにドリンクを交換される。
「いえ、ステラさんお口が臭いので。お兄様のドリンクを返して下さい」
ーーピキッピキピキッ
ステラの形の良い眉が痙攣し、笑顔のまま固まる。
この瞬間、一輝は悟った。
目線で有栖に助けを請うにも、笑いながらお手上げのポーズを取られてしまう……
「あらー、それならしょうがないから新しい飲み物買ってきてあげるわよ? お金も出すわ。何が良いのかしら?」
「そうですか、では
「は? 何それ?」
「ハワイ沿岸600mの深さから採れる水です」
「それ絶対近くに売ってないわよねっ!?」
1ℓで$120、つまり約6万5千円と世界でも高級な水のうちの一つである。純粋なミネラルが凝縮されており、水で薄めてからじゃないと体調不良を引き起こすから飲む時は気を付けてね。
「え、皇女様ともあろうお方が約束を
「な、あんたこそ私が買いに行ってる間にイッキのドリンクを飲むつもりでしょ!!」
「はぁ、胸に栄養が行き過ぎて思考までそんな風に汚染されてしまったんですね。ビクトリアフォールズにでも打たれて浄化されてきて下さい」
「どんだけ時間かかんのよ! というかあんなのに打たれたら死ぬわっ! 本当の意味で浄化されるわっ!」
ははは……
いつもの騒動、いつもの風景、いつものメンツ。何気無いそんな毎日が、本当に愛おしかった。
今この時は間違いなく、今まで一輝が歩んできた人生の中で最も輝かしい時間だ。色も温度も無かったセカイを、華やかに飾って照らす陽光だ。
(これが僕の居場所なんだ。帰るべき場所なんだ)
そう思うと自然に笑みが溢れる。そのぐらいの妄想はしたって構わないだろう。
しかしそんな毎日は、唐突に、無慈悲に、一切の隙を見せずして、別れを告げた。
そう。他の誰でもない。
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