Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第十五話

 

 

 

 

場所:じゃが丸君屋台付近

 

 

 

 ―――屋台の店主とヘスティアは現在最大級のパニックを起こしながら、最高のじゃが丸君を揚げるべく厨房へと消えていった。色々と謎の多い冒険者であるオッタルだが、彼が美食家、または偏食家だといううわさは聞いたことが無い。しかし、彼が『最高の』という注文を付けたのなら、それが誰のものになるかはオラリオで周知の事実だ。

 

 

 何故フレイヤほどのVIPがじゃが丸君(庶民の味)を、しかも側近中の側近に買いに来させたのかは謎だが、もし万が一彼女に『不味い』と言わせた場合、明日からの売り上げがどうなるかは明白だ。ヘスティアにとってはバイト先消失の危機であり店主以上にテンパっている。幸いオッタルは別段他に用事はないとのことなので、無理を言ってすぐ近くで待って貰っている。

 

 

 

 さてそういった事情のため、オッタルはヘスティアから借りてきたハインと共に近くの広場で待機していた。傍目からは、見るからに筋骨隆々の猪人とホームレスにも見紛う貧相なチビという異色すぎる組み合わせもあり、好奇の視線を集めながらも遠巻きにされていた。

 

 

「………じゃが丸君、好きなのか?」

 

 

「フレイヤ様が所望された。好いた者の好物を食べてみたいとの御言葉だ。だが恐らくは、俺が貴様の所へ出向けるよう口実を作って下さったのだろう」

 

 

 その言葉にますますハインは頭を抱えたくなった。前半はまだ良い、不穏と取れなくもないが予想通りの答えだ。しかし、後半から目的が自分であることが確定してしまった。しかも主神ではなく『猛者』の意図によるものらしい。

 

 

 まったく接点の無い彼が、何故たかがレベル1の冒険者に用があるのか。正直欠片も知りたくはない。しかし知らなければこの苦痛の時間が無限に続くのだと自分に言い聞かせ本題に入ろうとしたが、それより先にオッタルが切り出した。

 

 

「…主神は白兎――ベル・クラネルに『試練』を御課しになる」

 

 

「――ッ!……なぜそれを俺に聞かせる?」

 

 

「『怪物祭』で貴様の戦いを見せてもらった。新米冒険者では到底歯が立たない相手を平然と屠る貴様の『魔術』は、試練を台無しにしかねない」

 

 

「人の使い魔を切り捨てたのはアンタだったか。まあそれは良いとして、ますます分からん。邪魔だというなら四の五の言わず排除した方がよほど楽だろうに。アンタ等ほどの最大手が新米の一人や二人、始末したところで気にも留めん」

 

 

「……俺個人としては全く同感だ。だが、主神からは貴様への手出しは固く禁じられている。力づくで止められん以上言葉で止めるしかあるまい」

 

 

 ここまでオッタルが骨を折るのには理由がある。それはベルとハインの特異性が(彼にとっては)悪い方向で噛み合いすぎているからである。

 

 

 ベルのここ最近の成長は目覚ましい。特に敏捷性と回避能力については、オッタル程の強者から見ても将来が楽しみだと公言できるほどだ。そしてハインは先ほど述べた通りジャイアントキリングを容易に達成してしまえる『神話技能』の存在だ。

 

 

 この二つを切り離さないと、レベル1にとって紙一重といえる難業では到底『試練』足りえないのだ。ベルは只管回避と挑発に集中すれば事足り、ハインは確実に殺せる一手を決めさえすれば良い。これでは『殻を破る』ことなど夢のまた夢であるばかりでなく、最悪ハインだけがレベルアップすることになりかねない。

 

 

 忠義の徒であるオッタルにとって、主神の望みを果たせない眷属など万死に値する。そしてそれは当然自分自身も例外ではない。万が一、いや京が一にでもそれを妨げるならどんな手を使っても取り除く。それ故彼はフレイヤをして絶対の信頼を勝ち得ているのだ。

 

 

「フレイヤ様は、白兎の胸中に巣食う『陰り』を憂いておられる。それを払うための『試練』だ。荒療治であるのは否定せんが、より高みを目指すというのなら早いか遅いかの違いだ。奴の成長を共に望むなら、今回は傍観しろ」

 

 

 一通り言い終え再び沈黙したオッタルを見てハインは考え込む。恐らく『陰り』とやらはアイズとベルの会話にもでてきた『必要以上の怯え』のことだろう。であるならば『試練』の内容も大凡見当がつく。そしてその上で自分がどう動くべきかを考え始める。

 

 

 態々よそのファミリアがレベルアップに必要な段取りを整えてくれる、しかも監修及び審判はオラリオ最強の冒険者。見方によってはまさに至れり尽くせりといえよう。勿論彼の話を鵜呑みにするのは危険だが、フレイヤ・ファミリアは全員が筋金入りの狂信者だ。彼らが主神の名を出した以上虚偽は有り得ない。裏はあるかもしれないが大凡信用できるだろう。

 

 

「『猛者』オッタル、アンタに一つだけ聞きたいことがある」

 

 

「……何だ」

 

 

「神フレイヤの目的は何だ?もしあいつを英雄(神々の玩具)にする心算なら…」

 

 

 ―――『何をしてでもご破算にしてやる』。ハインにとって何よりも許せないことは、自由意志の簒奪であり、その最たるものこそが『都合の良い英雄』なのだから。

 

 

 ベルがベルとしてその生き様を貫き通した結果、英雄と称えられるというのならまだ納得する。しかし彼を都合の良い道具にする為『英雄』というレッテルを張り、『英雄らしさ』という訳の分からないもので縛り付けることだけは許さない。言葉に出ない余韻をオッタルは正確に読み取る。

 

 

「―――そうか。貴様の疑念の回答になるかは知らんが……あの方に『人形遊び』の趣味は無い。そも、主神を射止めたのは白兎の毛並でなく魂の色とやらだからな。剥製でそれ()は愛でられまい」

 

 

「………」

 

 

「あ、いたいた!お待たせしましたー!それで、えっとハイン君に用事って―――『必要なくなった、用は済んだ』―――え?って、あ!?ちょっと……行っちゃった。結局何だったんだい彼の用事って?」

 

 

 何とか納得のいく逸品が仕上がったのだろう、ヘスティアが大事に抱えながらこちらに近づいてきた。オッタルはそれを受け取ると、取りつく島もなくその場を去って行った(代金は注文した時に前払い済み)。何が何だか分からずハインに尋ねるが、難しい顔をしたまま彼は曖昧な返事しか返そうとしなかった。

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「――――手筈は整いました。白兎の仕上がりも上々とのこと、予定より早いお披露目になりそうです」

 

 

「ご苦労様オッタル。さあ、見せてもらおうかしら、あの子の『冒険』を……!」

 

 

 

~~~

 

 

 

「これより、深層への『遠征』を開始する!今回も上層の混雑を避けるため、二手に分かれて行動する。僕らの目標は他でもない、未到達領域―――59階層だ!!」

 

 

「(……あっという間だったな。でもこの一週間―――うん、楽しかった)」

 

 

「――?どうしたアイズ。ダンジョンに潜る前から意気軒昂とは、まるで駆け出しの頃みたいじゃないか」

 

 

「からかわないでリヴェリア。……少し恥ずかしい」

 

 

「照れる必要なんてないぞ?未熟な頃というのは兎角受け止めがたいものだが、懐かしさから新しい力を得ることは珍しくない。その感覚を大切にすると良い」

 

 

「わかった。……そういえばリヴェリア。前に読んだ本、とても役に立った。今度リヴェリアのお奨めの本を教えてほしい」

 

 

「む?そうか、ではこの『遠征』が終わったら一緒に探すことにしよう(アイズが最近読んでいた本……タイトルは何だったか、何かの飼育書だったと思うが…)」

 

 

~~~

 

 

 

「―――はあ、昨日はとんだ厄日だった。……『試練』か、動くメリットが無い…が、かといって鵜呑みに出来るほど連中とは信頼関係がない。さて―――『カサッ』――ん?メモ…いや手紙か?こんな所に何で―――ッ!?……ベル、ヘスティア。すまんが出てくる!明日中には帰るッ!!」

 

 

「えッ!?ちょ、ハイン君!突然どうし――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

『 拝啓 (僕/俺)の代行者へ

 元気にしてるかい?楽しんでいるかい?幸福かい?憤っているかい?もし一番最後以外の状態なら今すぐダンジョンに来た方が良い。別に来る来ないは君の自由だけど、また(・・)何もかも取りこぼすことになるかもね。

 

 僕にとっても君にとっても不愉快になる話が耳に入った。詳しくは第10階層とやらで聞かせてあげよう。

 

 【這い寄る混沌】より嘲笑を込めて

 

P.Sこの手紙は開かれてから30秒以内に自動消滅します 』

 

 

 

 

 

 




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