Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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 ※本作では独自解釈とオリジナル設定が多数あります。


第十六話

 

 

 

 

 

「――――久しぶり、と言えば良いでしょうかナイア?『観客』の貴方が態々動くとは驚きましたよ」

 

 

「およ?何だ君、敬語使えるんじゃないか。いやー、拾って僅か一秒で放り捨てた僕なんて害虫以下に格付けされているかと思ってたんだけどね?」

 

 

「……まさか、貴方は何もかもを嘲笑しているが、されることは極端に嫌う。生憎非才の俺が生きていくのに『神話技能(コレ)』を失う訳にはいかない」

 

 

 ――――ダンジョン地下10階層。ミ=ゴを伴い急行したその場には、以前と変わらぬ目が潰れそうなほどの美青年が鎮座していた。そのすぐ傍には、赤味がかった体毛を持つミノタウロスがまるで親の傍で安心したように(・・・・・・・・・・・・・・)眠りについていた。

 

 

「…そいつが『試練』とやら、ですか?」

 

 

「ピンポンパンポン大せいかーい!まあこの子は大事な話には関係ないんだけど、落ち着いて話をするために大人しくなって貰っているのさ。まあそんなことはどうだって良い。重要な話ってのは君がイチャイチャ家族ごっこしている白い坊やについてさ!!」

 

 

「―――俺が誰と家族に興じていようが勝手でしょう。今更おれとの『契約』を反故にする御つもりで?」

 

 

 突然告げられた予想外の名前に一瞬思考が停止するが、その次には1オクターブ下がった声音で疑問を投げかける。殺気すら纏わせるその有様は到底主神に対する態度ではないが、ナイアと呼ばれた1柱は微笑みを浮かべて(嘲りを湛えて)満足そうにしている。

 

 

「うん。君はやっぱり『脇役の天才』だ。奪われまいと大河に逆らうサマなど実に良い!おっと、落ち着きたまえ。何もしやしないよ、僕もあのベル君とやらは『生まれ以外は』気に入っている。ただ、君も気付いているんだろう?彼のチート、というよりイカサマの片棒を担がされていることは」

 

 

 ―――イカサマ。ベルのスキルについてはハインも以前引っかかった事があり考え込む。眷属が発現するスキルや魔法本人の資質や望みが強く反映されるという。しかしベルの『憧憬一途(リアリス・フレーゼ)』の内容があまりにもベル自身と相違し過ぎているのだ。

 

 

 ベルは冒険譚を良く好み、物語の英雄の様になりたいと常々言っているのは知っている。しかしそれは、『偉業を成し遂げた存在』になりたいのであって『人より楽をして(・・・・・・・)褒め称えられたい』等ということでは決してない。もしスキルの効果が『限界を超えて成長できる』や『逆境にいるとステータス激増』とかなら疑問にも思わなかったのだが、まるで冒険(人生経験)を『作業』か『時間の無駄』とでも言うような効果がどうしてもベルに噛み合わない。寧ろ人間を駒か何かに見立てて遊んでいる『プレイヤー』の目線だと言われた方が余程しっくりくる。

 

 

「――その考察は概ね正しいだろうねえ。早熟するって言えば聞こえが良いけど、それってつまりは唯のレトルト商品ってことだからね。そりゃ親の視点じゃなくて『使用者』の視点だ。現に彼はキャリアという支えが無い所為でプライドとかと無縁だし、使う側にとっては実に都合が良い。で、そんな彼を訝しんでいた僕の所にとんでもない情報が飛び込んで来た!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――彼には神の血が流れている。しかも最悪な奴のが、ね。上手いこと考えたもんだ。神の力(アルカナム)の使用は禁じられているが、孕ませた子種の中に仕込むことについては言及されてないってことかな?ま、あの『糞爺』だけはどれだけ禁忌を犯しても許されるんだろうけどな」

 

 

まるで出来の悪い教え子を諭すように言いながら、最後の一言だけは余裕ぶった態度を脱ぎ捨て心底吐き捨てるように言い放つナイア。傍からすれば耳を疑うような神の大スキャンダルに対し、しかし出生など心底どうでも良いとしか考えられないハインは早々に続きを促す。

 

 

「神の血が流れているから、上位者の視点によるスキルが発現したということですか?しかし、異端は厄を呼ぶものですが、聞いた限りでは特に害はなさそうに聞こえましたが…」

 

 

「はっはっはッ!!寝ぼけてるのかい?昔と違って無駄にルールが増えた中でとびきりの違反である半神半人を生み出したんだよ?意図的に植えつけられた神の加護なんて厄種、害しか無いに決まってるじゃないかッ!!

 

そもそも神が何のために下界に降りてきたか忘れたかい?我々を見張るって大義こそあるけど、大部分の目的は娯楽だ。そして娯楽には明確なルールが不可欠だ。そりゃ中にはズルしたり汚いことする奴はいるけど、それでも絶対に侵してはならない領分が存在する。だってそれ守んないと娯楽になんないからね。そしてこの世で最も無駄に矜持が高い存在が『神』だ。自分だけワリを喰う出来損ないなんて早々にぶっ壊してしまうさ。ここまで言えばどれだけベル・クラネルという存在が異質か理解できただろう?

 

 じゃあ何故あいつらが黙認しているかって?そんなの言うまでもない。彼にしか出来ないことを彼にやらせるためさ。どうやらとうとうあの『糞爺』も年貢の納め時ってことでね、これ以上は我々を抑えきれないんだそうだ。でもそうなったら比喩表現でなくこの世の終わりだ。だから代わりが居る、つまりそのための『英雄(ベル・クラネル)』という訳さ。

 

 

「…それじゃあ、この『試練』も、あいつのスキルも、ヘスティアに出会ったことも、何もかもがベルを『人間』から『歯車』に引き摺り下ろす為の舞台装置だったってことかよッ!!」

 

 

「ふむ、ヘスティアとやらについては会ったことないから知らないけど、フレイヤについては昔よく遊んだ(殺し合った)から知ってるよ。割と趣味が合う旧神だと思うんだけど、何故か嫌われてるんだよねえ。まあそれはおいといて、彼女はこの件とは無関係さ、もし知ってたらこんな詰まらない計画とうに御破算にしてるだろうしね。――さて、ここからが本題だ!」

 

 

 パンっと手を打って仕切り直しをする。目の前の可愛い元眷属は今すぐにでも『バベル』へ乗り込みかねないほど鬼気迫った表情をしている。ああその顔が見たかった、まさしく彼は僕の代行者に相応しい、と【這い寄る混沌】は祝福する(嘲笑する)。しかしまだだ、まるで足りない。その塵にも等しい力で叶うなら自分は動きなどしない。

 

 

「彼の少年は此度の『試練』で間違いなく階位を上げるだろう、だがそれは始まりに過ぎない!彼を世界が望み、世界が彼を望み通りに動かそうとする今、全ての神・人・魔物は彼のための贄であり糧だ。望もうが望むまいが、ね。今日この日に差を付けられたら、まず間違いなく二度と追いつけなくなるだろうねえ。だから僕からも君に『試練』を課そう」

 

 

「…前置きは結構です、早く内容を教えてください」

 

 

「まあまあ、慌てる乞食は貰いが少ない、だよ?僕が授けた『恩恵』は残念ながら仕組みそのものは他と変わらない。つまり『冒険』しないとレベルアップは出来ない訳だけど、君にはベル君に劣らず『神話技能』というチートがある。その所為でレベル2になれる偉業を果たしても出来て当然と処理され、それより上の偉業は達成する前に紙耐久が足を引っ張って叶わない。

 

 ―――ではどうするか?難しく考える必要はない。魔物にも物にも叶えて貰えないというのなら、『ヒト』に叶えて貰えば良いのさ」

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「―――ミノタウルスだぁッ!?」

 

 

「本当なんだって!9階層で大剣を持ったミノタウロスが居たんだよ!!先に白髪のガキが襲われてたから逃げ出せたんだが……」

 

 

「『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』以外の武器を持った魔物だと?そんな話は噂ですら―――ッ!アイズ、どこへ行く!?」

 

 

 ロキ・ファミリア遠征部隊の片割れであり、団長フィンが指揮を執るチームは、その道中とあるパーティと遭遇していた。上層でもかなり浅いこの場所で、この世の終わりの様に血相を変える彼らを見咎めたベートが(挑発にしか聞こえないが)声を掛けたところ、またしても上層にミノタウルスが進出したという。

 

 

 訝しむロキ・ファミリアの面々であったが、話の途中で突如アイズ・ヴァレンシュタインが飛び出していったため、幹部達が先遣隊として急行し、残りはレベル4冒険者のラウル・ノールドを臨時指揮官とし、予定通りの速度で進行することとなった。

 

 

 アイズが飛び出した理由は言うまでも無く、襲われている冒険者の特徴が昨日まで稽古に付き合っていた少年と一致していたからだ。否が応でも初めて会った日の事がフラッシュバックされる。あの時は辛うじて間に合ったが果たして今回は……、自分でも良く分からない焦燥感に突き動かされていた彼女だったが、突如感じた血臭と悪寒に立ち止まることとなった。

 

 

「急いでるの、そこを退いて」

 

 

『―――■■■■■■■ッ!』

 

 

 目の前に現れたのは正しく『異形』の存在だった。全身から黒い霧のような何かを纏っていて姿は分からないが、発せられる言葉は何重にも音が重なり何を言っているか不明である。普段のアイズなら上層の魔物など一瞬で追い抜かして無視するのだが、それをすれば確実に危険に陥ると、長年彼女を支える戦士としての『勘』が告げる。

 

 

「―――アイズッ!単独行動は慎んでくれ、どうやら今のダンジョンは相当な『異常』を抱えているようだ」

 

 

「フィン…皆は?」

 

 

「後方でも未知のモンスターが出現したからその対応に追われてる。僕はリヴェリアにその場を任せて君を追ったんだけど、正解だったようだね。……奴の足元に転がってる死体、見覚えがあるな。どうやら神ソーマへの依頼は早く終わりそうだ」

 

 

 一挙一投足見逃すまいと警戒するフィンは、傍に打ち捨てられた死体を発見する。写真と伝え聞いた情報でしか知らず好意を欠片も持っていなかったとはいえ、弄んだかのような惨殺死体に眉を顰めると愛用の槍を携える。

 

 

「場合によって遠征の取り止めも視野に入れる。出し惜しみなしで行くよ!」

 

 

「うん、一秒でも早く片付ける」

 

 

 最初から様子見無しの本気で挑みかかる彼らに、異形の存在は聞こえない言葉を滑り落とした。

 

 

 

 

『…ロキ・ファミリアの精鋭を相手取って生き残れとか、『試練』と言うより唯の博打だな』

 

 

 

 

 

 




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