Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第十七話

 

 

 

 

 

『―――テケリ・リ・テケリ、テケリテケリテケリテケリテケリ』

 

 

 

「クソがッ!何だこの気色悪い化けモンは!!」

 

 

「何度も遠征行ってるけどこんなやつ見たこともないよ!粘液に触れても溶けたりはしないけど、こいつ全然効いてない!」

 

 

 ―――突然隊列を乱して走り出したアイズを追ったロキ・ファミリアの面々だったが、一本道となった通路に入った途端、正体不明のモンスターに襲撃されることとなった。

 

 

 その姿は不気味な玉虫色をした粘液であり、絶えず四方八方から得体のしれない鳴き声を上げ続けている。そんな怪物が上下左右の壁や天井をびっしりと覆いかぶさり、死角と言う死角から触手を生やしてくるのだから堪らない。しかもその一撃は凄まじいモノであり、もしこの場に彼ら以外の仲間が付いてきていたら間違いなく今以上の窮地に立たされていたことだろう。

 

 

「――ハッ!!『ザシュッ』ふう、こうもあちこちから襲撃されたんじゃ前衛も後衛もないわね。…リヴェリア、どう思う?」

 

 

「異常事態…は言うまでも無いが、多分目的は我々だろう。解せぬ点は多々あるが」

 

 

「根拠は?」

 

 

「先ほど逃げてきた冒険者はミノタウロスについては言っていたがこんなものがいたとは言っていない。第一、もし彼らがこれと遭遇したのならまず生き残れまい。そして恐らくこいつは此処で放たれた、下層から上がってきたのならガレス達と交戦しているはずだ。ガレスの前衛とレフィーヤの魔法を凌げたとは思えん」

 

 

 悠長にしゃべっているように見えるが、ティオネもリヴェリアも果敢に応戦している。しかし二人とも全力を出せない状況に追い込まれているのである。

 

 

 モンスターの出現と同時に奥へと通じる道と出口が粘液で塞がれ閉じ込められた。ベートとティオナは前方を塞いでいる粘液を破壊するべく触手を捌きながら攻撃を加えているが、内側全てが敵の攻撃が届く前衛となってしまい、リヴェリアを護衛するべくティオネはベート達に加勢できないでいる。

 

 

 二つ目は通路の狭さと敵の対魔力だ。先ほどフィンを通すべく魔法《ウィン・フィンブルヴェトル》を放ったが、直撃したにも拘らず、細身のフィンがギリギリ通れるくらいの小さな面積しか凍らせることが出来なかったのだ。物理耐性だけでなく魔法耐性もかなりのものがあるのは歴然であり、倒すならより威力のある魔法を全力で放つしかない。しかしそれをすれば、間違いなく前衛を巻き込んでしまうし、かといって下がらせれば自分たちですらただでは済まない威力の触手が自身へ殺到することになる。前衛が回避を得意とし、受け止めることを重視していないメンバーであることも痛手である。もしガレスが此処に居れば、とつい考えてしまう。

 

 

「しかし、こいつのこの無尽蔵の再生は一体どういうこと?ベートの『魔剣』仕込の蹴りは確かに効いてるし、切り離した触手も霧散してる。確実に消耗してるはずじゃ…」

 

 

「チッ、耳済ませてみろ。こいつの餌なんざそこら中に居やがる(・・・・・・・・・)

 

 

テケリリ・テケリ―――『パキパキ、ビキ』――テケリ!リ!リ!『ムシャッグチャッ』

 

 

「ウソッ!?う、生まれるはずだったモンスターを食べてる…の?」

 

 

「ハッ!いよいよキナ臭くなってきやがったな。共食いするモンスターなんざ聞いたこともねえ。人為的って話も信憑性が出てきやがったな」

 

 

「言ってる場合ッ!?」

 

 

 

 

 

 テケリ・リ、テケリ。テケリ・リ――『クスクス』――テケリ・リ!テケリ

 

 

 

 

「――ッ!!?気を付けろ馬鹿アマゾネス!まだ隠れてる奴が居やがる!!」

 

 

 ――――クス、クスクス―――『チクリッ』

 

 

「え?――痛ッ!?な、なに……『ガランッ』…………え?」

 

 

 突然ベートが発した言葉、それと同時に感じた痛みともいえない疼痛。それを感じた瞬間、ティオネは武器を取り落としていた(・・・・・・・・・・・)。彼女とティオナは嫌っているが、アマゾネスとは生粋の戦闘民族であり、その本質は破壊と殺戮である。その血を色濃く流す彼女が、戦場で武器を落とすなど絶対にありえない。驚愕した仲間が彼女の方へ目を向けるとさらに驚愕することとなった。

 

 

 彼女は妹と違い、身だしなみには人一倍気を遣っている。勿論それはたった一人の思い人へのアピールなのだが、それ故彼女は健康美ともいうべき美しさを備えていた。

 

 

 ―――その彼女の両腕が、末期患者のソレの様に細く干乾びていたのだ。驚くなと言う方が無理というものである。とりわけティオネの動揺は凄まじかった。何が起こったのかわからない恐怖もさることながら、自分の獲物すら握れなくなるという『無力感』は彼女の奥底にあるトラウマを呼び起こしてしまい、茫然自失となってしまった。

 

 

「――――こんのおオオオォアッ!!ティオネから離れろおおおおッ!!!」

 

 

 ティオネが武器を取り落したと同時に姿を現した、アセロラゼリーの様な色合いと鉤爪を持った得体のしれないモンスターへティオナが突撃する。そのモンスターは大双刃(ウルガ)をひらりと躱すと、そのまま逃げるように離れて行ってしまう。追撃を試みたティオナだったが、守るように行く手を遮る触手に阻まれ取り逃がしてしまう。

 

 

「すまない、助かったティオナ!前衛は―――」

 

 

「ベートに頼んできた!ベートからも『さっさと馬鹿アマゾネス二号を叩き起こしてこい』って言われて…」

 

 

「―――そうか。ティオナ、少し時間を稼いでくれ。本気(・・)で魔法を撃つ」

 

 

「ちょッ!?そんなことしたらベートが!!」

 

 

「あいつには『魔防』と『ハティ』がある、恐らくお前を下がらせたのも私に魔法を使わせる為だろう」

 

 

「で、でも―――」

 

 

「悪手なのはわかっている。だが最悪なのは我々の全滅だ。先ほどのモンスターが再出現し奇襲を受けたら取り返しがつかなくなる、そうなっては此処を任せてくれたフィンに顔向けできない」

 

 

「リヴェリア……」

 

 

 迷いを振り切るように前方を見据え、詠唱に入るリヴェリア。彼女から迸る魔力を脅威と感じたのか、今まで以上の勢いで攻撃してくる触手をティオナが薙ぎ払う。想定外に次ぐ想定外を齎したこの遭遇戦、結果の如何はともかくいつ終わりを迎えるのかはこれで決定することになった………。

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 ―――――同時刻。

 

 

 

 ベート達の戦場からほど近くの場所。無数の破壊痕からも熾烈な戦いがあったことが窺える。戦場に並び立っている2人、フィン・ディムナとアイズ・ヴァレンシュタインは無傷のまま眼前の敵を睨みつけている。

 

 

 対する正体不明の影は、大量にいた配下と思われるモンスターをすべて失い壁際に背を付け二人に退路を断たれている。傍から見れば完全に追い詰められているように見えるだろう。

 

 

「……まいったね。避けられたり外したことは幾らでもあるけど、当たる筈の軌道で当たらない、なんてのは初めての経験だ。一体どういう絡繰りだ?」

 

 

 ―――しかし、険しい表情をしているのは追い詰めているはずの二人の方だった。二人が敵に仕掛けた斬撃・刺突は既に述べ200を超える。例え彼らの到達最下層である『58階層』のモンスターであっても生き残れないであろうそれらを、眼前の影は無傷で凌ぎ切ったのである。

 

 

 そして、彼らが未だ敵を排除できていないもう一つの理由が『魔法が使えない』という事態だ。直接攻撃では埒が開かないと判断したアイズが、代名詞ともいうべき魔法『エアリアル』を使おうとした時、突然千切れるかと思うほどの激痛を指から感じたフィンによって止められたのである。

 

 

「もうここに釘づけにされて10分は経ってる。フィン、打開策はないの?このままじゃベル君が―――」

 

 

「落ち着くんだアイズ。焦って何とかなる相手じゃない」

 

 

「でも―――」

 

 

「手が無いなんて言ってない。僕を誰だと思ってるんだい?君たちの団長は、唯馬鹿みたいに槍を振ってた訳じゃない」

 

 

 そう言うとアイズになにやら耳打ちをする。対する黒い影――――もとい、ハイン・グレイズもまた余裕とは到底言えない状態でいた。5分と経たずに召喚していたシャンタク鳥やら星の精を瞬殺され、残る5分弱ずっと即死不可避の連撃に曝されていたのだ。寿命が縮むどころじゃない状況に流石に疲労困憊していた。

 

 

 当初の予定では神話生物を一掃すべく放たれる魔法に対して、あらかじめ設置した『破壊』の呪文でカウンターを見舞い、足並みが乱れたところを『幽体の剃刀』か『アザトースの呪詛』で撃破しようと考えていた。

 

 

 ところが、魔法を詠唱する前から何故かフィン・ディムナに察知され、しかもこれまた正体不明の感覚で星の精が一矢報いることも出来ずに全滅させられたことで一気に窮地に立たされた。何故見ることはおろか気配を感じることすら出来ないはずの星の精の大群を一発も外さず串刺しに出来たのかは理解に苦しむところだが、これが原因で反撃の機会を持てないでいた。

 

 

 現在の彼は、『召喚』と『破壊』と『ある呪文』以外の魔法を並行して使用することが出来ない。なので攻撃に移るということは、生命線である『被害を逸らす』を一瞬でも消すことに他ならず、次の瞬間には間違いなく屍をさらす事になるだろう。

 

 

 はてさていったいどうすれば、などと思案する暇もなくフィン達は再び攻勢に出る。やっていることは先程と変わらない息の合った刺突のコンビネーションであるが、変わったのは密度である。先程と段違いの濃度、一秒に一体どれだけ突いているのかという刺突の壁にさらされ、ハインは完全に視界を封じられる。当たりこそしないが、すぐ傍で明らかにレイピアの破砕音じゃないだろと思う轟音で聴覚も利かない。

 

 

 

 

 ―――それ故に彼は気付かなかった。目の前のラッシュが二人掛りではなく、さらにギアを上げたアイズ一人で行われているのだということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――『ガキンッ!!』――――

 

 

『―――ッ!!?』

 

 

「…思った通りだ。どうやら君は、その腕らしき物が向いてる方向しか防げないみたいだね」

 

 

 突然背後からした衝突音に驚愕するハイン。フィンはこの数分で感じた疑念、①何故追い詰められる前に自分から壁に寄りかかり退路を捨てたのか?②まるで差し出す様に突き出す右腕はなんなのか? から、背後からの攻撃は防げないのではないかと当たりを付けた。

 

 

 そこで、二人掛りで攻撃を仕掛けることで視界を封じるとともに、後ろの壁を破壊してギリギリ一人潜り込めるスペースを無理やり捻出したのである。頃合を見計らい、全力で攻撃するアイズを囮に背後へ回り、狭さの都合で捨てた槍の代わりにサブウェポンの剣で突きを放ったのだ。

 

 

 完全に予想外の奇襲であったが、驚いたのはフィンもまた同様であった。全力で放った突きが途中で見えない『ナニカ』とぶつかり仕留め損ねたのだから。とはいえその顔に焦りはない。相手の動きはフィンから見れば明らかに鈍く、左腕でも『アレ』が出来るかはともかく、まるで彼の動きに付いて来れていない。加えて、かなり不安定な体制での一撃にも拘らず『ナニカ』は既にヒビが入っている。フィンは焦ることなく、碌に身動きできない間合いなど関係あるかとばかりに突きを3発撃ちこみ、あっけなく障害は壊れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

『「―――――獲ったッ!」』

 

 

 

 ―――それは、フィンとハインが同時に言った言葉だった。障害物――『ナーク・ティトの障壁』を打ち破ったフィンの剣は、一直線にハインの心臓目掛けて突き進んでいった。ところが、あと少しと言うところで、突然フィンの視界が180度反転した。頭上から地面が降ってきたことでようやく自分が崩れ落ちたのだと理解した。

 

 

 レベル6の中でも相当の使い手であるフィンを仕留めたものの正体――――それは『ヘルメス・トリスメギストスの毒塵』である。ハインにとって障壁は最後の命綱であると同時に最後の切り札でもある。

 

 

 この毒は、成分そのものは至って普通の何の毒性もない物質なのだが冒涜的な知識と技術により、地球生命体以外にはきわめて有害な存在へと造りかえられているのである。勿論フィンは地球上の生き物であるが、彼に刻まれた『神の恩恵』は別である。毒塵はその恩恵に強烈に反応し、命にこそ別状はないが深刻な機能不全に陥ってしまった。

 

 

 最大の脅威の片割れを倒したハインであったが、彼もまた無傷とはいかなかった。身体の何もかもが機能停止し倒れることしかできなかったはずの(フィン)は、あろうことか反転する視界の中からハインへと剣を投擲し、彼の太腿を貫いてみせたのだ。『耐異常』か何かで毒の効果を遅らせたのだとしても、尋常な業ではない。

 

 

 

「―――――『目覚めよ(テンペスト)』」

 

 

 目の前で崩れ落ちたフィンを見た瞬間、アイズの中で何かが切れた。全身が沸騰するような激情のままに、彼女は止められていた魔法の使用を断行する。

 

 

 ―――その瞬間、右半身を焼き尽くすような激痛と、水脹れの様な水泡が浮かび上がる。普通の人間、況してや見目麗しい女性ならば、絶叫を上げ正気を失うような光景と痛みに到底耐えられないことだろう。しかし、アイズは嘗て『人形姫』『戦姫』などと渾名されたこともある人物であり、今更痛みで動きを止めるような可愛らしい神経はしていない。加えて自らの容姿に欠片も頓着しない彼女は、剣先に映る自身の半身に等目も呉れず必殺の一撃を謳い上げる。

 

 

 

「―――リル・ラファーガ!!」

 

 

 フィンを巻き込まないよう、天井を蹴り頭上から叩き付ける様に繰り出される一撃を、ハインは変わらず『被害を逸らす』で受け流そうとする。

 

 

 ―――瞬間、突き出していた彼の右腕は小枝の様に圧し折れる。『リル・ラファーガ』は『エアリアル』の風を纏って放つ刺突技、当然正面から来る攻撃はこれまで通り無効にできるが、彼女の纏う風は障害物など歯牙にもかけない『暴風』なのだ。通り過ぎた端から出鱈目に荒れ狂う風は、ハインの細腕を横合いから叩き折った。

 

 

 彼女の激情に呼応する様にハインを飲み込んだ一撃は、そのまま地面を食い破り、ダンジョンに巨大な風穴を穿っていった。一瞬懐を漁るような仕草を見せたが、黒い影に覆われているためにアイズの目には何も映らなかった……。

 

 

 

 

 敵を撃退し、全身から吐き出すように息を着いたアイズは、直ぐにフィンの元へと駆け寄った。幸い彼女が目を向けた時には彼も体を起こし、壁にもたれかかっていた。

 

 

「フィンッ!」

 

 

「―――大丈夫、まだ少し辛いけど動けないほどじゃない。持続性はないようだけど、耐異常を貫通する毒があるなんてね」

 

 

 まだ顔色は悪いが、苦笑を浮かべながら返事をするフィンに、アイズも安堵の溜息を吐く。そんな彼女に懐からエリクサーを取り出し押し付ける。

 

 

「さ、僕の事は良いからそれを飲んで早く行った方が良い。大丈夫、親指の疼きは消えた、もう心配はいらないよ」

 

 

「…ごめんフィン、先に行くね」

 

 

 そう言って一瞥した後、アイズは一目散に奥へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「………痛い。右腕と左脚は捥げて、内臓もグチャグチャ。今すぐ死にそうなくらい痛い」

 

 

 大穴によって積み上げられた瓦礫の山、その天辺にハインは転がっていた。咄嗟に取り出した『ヘスティアのアゾット剣』が無ければ即死は免れなかっただろうが、それでも致命傷は避けられなかったのだが。

 

 

 既に右腕が使い物にならなくなり、下手に剣をみせれば身元が特定されかねない中、ハインがとった行動は、アゾット剣の魔力が尽きるまで自身に『治癒』の呪文をかけ続けることだった。自分が切り刻まれながら再生させ、治した傍から再び切り刻まれていく…そんな想像を絶する痛みと悍ましい光景を淡々と処理しながら彼は此処まで落ちてきたのだ。

 

 

 

 ――――クス、クスクスクス。

 

 

「―――遅いぞ。手足はそこらに転がって…ああ、持ってきてくれたのか、助かる」

 

 

『―――――ッ!』

 

 

 意識が朦朧としながら辛うじて耐えていると、でっぷりと太った星の精と、いつものミ=ゴさんが駆け付けてきた(ちなみにこのミ=ゴは戦闘用の個体じゃない為ずっと影から様子を窺っていた)。ミ=ゴは発掘した手足を手早く接合し、その間にハインは星の精へ『アザトースの呪詛』をかける。勿論星の精自身に作用させるのではなく、星の精がティオネから奪ったものをさらに奪う、という使い方をしたのである。万が一神話生物の精神を取り込んだりしたら間違いなく拒絶反応で精神崩壊してしまうだろう。

 

 

「…流石最大派閥の幹部、素晴らしい『恩恵』の質だ。後は柄の宝石を使って、と」

 

 

 自らより遥かに優れた力で欠損を補い、さらにアゾット剣の柄にあるヘスティアがくれた宝石の魔力を使って『治癒』の魔法をかける。その結果、まだまだボロボロではあるが、動けても可笑しくはない程度には修復することが出来た。

 

 

「さて、それじゃ行くか。ベルの奴も迎えに行ってやらないと。………これで『レベルアップ』出来なかったら恨むぞ、ナイア」

 

 

 

 

 

 




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