Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第十八話

 

 

 

 

 

 ――――第9階層

 

 

 

 

「――――ぐあッ!?ガッ、ゲホ。~~~~ッ!!?」

 

 

『ブ、ブフォ……、ウ゛ゥン…』

 

 

 

 ロキ・ファミリアが死闘を演じていたころ、ベル・クラネルもまた神々の善意(悪意)によって齎された『試練』に直面し、その命を燃やしていた。しかし、今のベルは片目を抑えながら(・・・・・・・・)倒れ伏しており、対するミノタウロスもまた左目と左腕を潰された状態(・・・・・・・・・・・・)でベルを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――時間は少し遡る。そもそも、彼やリリルカは今日ダンジョンに潜る予定ではなかった。昨晩唐突に家を出たまま帰らないハインの行方を捜して、朝の10時ごろまで街中を練り歩いていたのだ。普段立ち寄るところは粗方まわり、万策尽きた頃駄目元でバベルに立ち寄ったベルは、背に大剣を背負った巌のような威圧感を放つ猪人(ボアズ)にそれらしい人物をダンジョンで見たと教えてもらったのである。

 

 

 何故態々一人で、しかも夜中にこんな所へ来たのかは不明だが他に当てもないのでヘスティアに話を通し、二人でダンジョンに潜ることにした。人を探しながらあちこち回り道したこともあり、進行速度はゆっくりであったが特にトラブルもなく9階層まで足を運ぶことが出来た。

 

 

 ところが、だ。もうすぐ10階層への入り口と言うところで、ベルにとって忘れられない唸り声が聞こえてくる。驚きながら音の方を凝視すると、そこに居たのは一体のミノタウロス。リリルカは即座に逃走を進言したが、ベルは動けないでいた。いや、動けないはずだった、が正しい。―――彼がミノタウロスの獲物の大剣に付着した大量の血を見るまでは。

 

 

 いや、まさか。そんな筈はない、彼は強い怪物を幾つも使役しているし自分より余程肝が据わっている。そう自分に言い聞かせても、いつかの必死で逃げるしかなかったあの日が想起され否定する気持ちを否定していく。あの剣に付着している血のどれかが友であり家族でもある少年のものかもしれない、そう思ったベルの胸中から湧き上った感情は――――

 

 

 

 

―――――安堵(・・)だった。

 

 

 

(ふ、ふざけるな!何を考えているんだ僕はッ!?ハインに万一があって何が嬉しいんだよ!!?)

 

 

 ベルは知っている。時折物騒な言葉が出てくることはあるが、ハインと言う少年はとても家族思いな人物だということを。『豊饒の女主人』で何も言い返せず飛び出した自分を、『強くはないかもしれんが、格好良い』と言ってくれた相手の危機にこんな感情を抱いた自分自身が許せず、ベルは自分自身への怒りで頭を沸騰させてしまい単身ミノタウロスへと突撃する。

 

 

 突然大声を上げながら突貫していくベルに驚愕するリリであったが、驚いているのは眼前のミノタウロスも同様だった。まさか自分より劣る獲物が追い詰められたわけでもないのに決死行に打って出たのだから無理もない。面食らったミノタウロスはベルの予想外の敏捷に対応しきれず、大剣の一撃を躱され脇腹を深く切りつけられてしまう。

 

 

 まさかの先制攻撃を制したベルであったが、この一撃は完全に悪手であった。もし彼が万全の心構えであったなら、この千載一遇の機会で確実に急所か(機動力)を削いだだろう。少なくともアイズはそう教えてきた。しかし何も考えず目についた箇所をただ切りつけたために、重傷であるが致命傷には程遠い。そしてその事実がミノタウロスを本気にさせてしまった。

 

 

 もうこの怪物は目の前の少年を『取るに足らない獲物』とは見ておらず『屠るべき敵』と認識している。そこらのミノタウロスなら痛みに激昂して手玉にとれたかもしれないが、この個体は態々オッタルが手ほどきを加えた『疑似強化種』ともいうべき存在。感情に任せて振うリーチの短いナイフなど当たりはしない。

 

 

 突然攻撃が当たらなくなった状況に焦れるベルだったが、突然感じた浮遊感でようやく頭に上った血が降りてきた。浮遊感の原因はミノタウロスが放った『足払い』、それも唯力任せに足を振ったのではなく、武術に基づいた綺麗な一閃はベルの視覚外から足を刈り取ったのだ。

 

 

 何故自分が敵の真ん前で倒れているのか、混乱が収まったころには既に敵は両手を高々と掲げ今にも獲物を振り下ろさんとしていた。

 

 

「あ―――――ッ」

 

 

 振り抜かれた一撃、恐らく一秒にも満たない時間の筈が、やけに遅く感じられる。茫然と見ていることしかできないままベルは、そのまま―――――

 

 

 

 

 

「―――ベル様あ!!」

 

 

 ――――殺されること無く、間一髪飛び込んで来たリリに救われることとなった。ただし、勿論無傷で済む筈もなく。

 

 

「―――ッ!リリッ!!?」

 

 

 飛び込んだ拍子に切りつけられてしまい、頭から血を流し意識を失ってしまった。まさか、と抱き寄せればしっかり息をしており、気絶しただけだと分かり僅かに安心する。これは斬撃の大部分を巨大なリュックが受けてくれたからであり、頭の出血も巻き上がった岩片に当たったことによるものだ。もしほんの少しでも遅れていればリリは真っ二つになっていたことだろう。

 

 

「(何をやってるんだ僕は!!自分に憤るのもこいつに怒りをぶつけるのも、仲間を危険に晒してすることじゃないだろッ!!)」

 

 

 即座にミノタウロスへと飛び込んでいくベル。ミノタウロスはまた奇襲かと迎撃するが、ベルに攻撃の意思はない。相手の勇み足を誘って右の一撃を躱し、すれ違う様に通り抜けていく。相手は予想通りリリには見向きもせずこちらへと猛追してくる。今のミノタウロスにとって優先すべきは唯一の敵であるベルの排除であり、死に損ないの始末など眼中にない。

 

 

「(とりあえずはこれで良い。リリは何時目が覚めるか分からない、助けなんて期待するだけ無駄だ。なら僕がすべきは……、こいつを倒せないまでも、これ以上先に進めなくなる傷を負わせることッ!!)」

 

 

ようやく頭の冷えたベルは思考する。持久戦は間違いなく綻びが出る、何時リリが目覚めどのくらい時間を稼げばよいか分かるのであればともかく、そもそも敏捷を活かした速攻戦を得意とする自分に即興で出来るとは思えない。ならば自分に出来ることは、追ってこれなくする、または追ってきても対応できるよう腕・足・若しくは視覚のどれかを潰すこと。

 

 

 再び示し合ったように間合いを詰める一人と一匹。しかし先程と違い今度はミノタウロスが空振りを繰り返すこととなる。これはベルの動きが洗練されたことだけでなく、ミノタウロスの腰が引けているのが原因である。なんせ出会い頭に、最も筋肉が集まっている腹筋を容易く切り裂かれたのだ、ベルの右腕に握られているヘスティアナイフには過剰に警戒し常に間合いギリギリでしか攻撃したくても出来ないでいた。

 

 

 ミノタウロスの視線がヘスティアナイフに集中していることを察したベルは賭けに出る。なんと頼みの綱であるナイフをミノタウロスの足元へと投擲したのだ、とても足に当たる軌道ではなくその手前に突き刺さったのだが、つい過剰に反応してしまいミノタウロスは後先考えず大きく回避してしまう。

 

 

 そのことに気付いた時には既にベルは間合いの内側へと入り込んでおり、ミノタウロスは左のバゼラートを防ぐべく大剣を裏手に持ち盾にする。敵は最大級の脅威を手放しており、この隙に終わらせるべく左腕によるカウンターを狙って拳を握る。

 

 

 ―――しかし怪物は知らない。確かにヘスティアナイフは最大級の脅威であるが、もう一振りもまた必殺に足る『呪い』が掛けられていることを。

 

 

 受け止める、若しくは圧し折る筈だったバゼラートは大剣の防御など存在しないかのようにすり抜け(・・・・)、とうとう獲物が届く間合いへと詰め寄られる。このままでは斬られる、そう告げる本能に従いミノタウロスは荷物になる大剣を手放し、形振り構わず後ろへ仰け反り間合いから逃れようとする。

 

 

 その反応の速さにベルは歯噛みする。元々体格に差があり過ぎるため、相手の一歩に追いつくのにこちらは二歩要する。このままでは届かないと判断したベルは、咄嗟に裏手で持ったバゼラートを手放すと体を反転させ、右腕で掴むとそのまま脳天へと投擲する。既に無理やり仰け反っていたミノタウロスに回避する術はなく、咄嗟に首をひねることで逸らす事こそできたものの、その一投は見事ミノタウロスの左目へと突き刺さった。

 

 

『――ッ!!?ブ、ウ゛オ゛オ゛オ゛オォァアアッ!!!!』

 

 

 目とは視覚と痛覚の集合地帯である。撫でるだけでも絶叫モノであり刃物が突き立とうものならどうするか?当然頭が真っ白になり、唯只管その部位を抑えることだろう。モンスターとて例外ではなく、しかしそれは眼前の敵に、急所である腕の関節部を差し出すことに他ならない。

 

 

 ここに来て初めての有効打に浮かれることなく、ベルは突き立ったナイフを引き抜くと迅速に間合いを詰め、目の前に曝された左腕の関節へとナイフを突き立て、敵の反射運動に合わせて思い切り捩じり回す。まるでバターを抉るように抵抗なくナイフは踊り、ミノタウロスの左腕は完全に破壊された。隻眼の為間合いの調整が利かず、しかも片手で振う大剣など隙だらけであり、これで逃走を行う条件は完璧に整った。

 

 

 視界をずらせば、既にリリは起きていたらしく、自分と同じことを考えているのかようやく見えてきた生存の希望に喜色を浮かべていた。

 

 

 

 ベルは間違いなく奮戦した。それは誰もが認めることだろう、しかし彼は詰めが甘かった。いや、格上との戦いで神経を張りつめ続けた彼が、理想的な状況に持ち込めたのだから仕方がないのかもしれない。普段の彼なら完全に間合いから離れた後で先程の行動をしただろう。

 

 

 痛みにもがき苦しんでいたミノタウロスであったが、突然右腕で目に刺さったバゼラートを引き抜くとアイスでも齧るかのように噛み砕き、そのままベル目掛けて吹き付けたのだ。予想外の反撃とリリへ注意を逸らしていたことが仇となり、『呪い』の詰まった破片はお返しとばかりにベルの右目へと飛び込んでいった。

 

 

 まるで鏡合せの様にベルは右目を押さえて動けなくなり、助走をつけて振り抜かれた右腕の殴打を躱せる筈もなく直撃してしまう。兎鎧(ピョンキチ)などという気の抜ける名前の鎧と、やはりずれが生じている故に僅かに狙いが逸れていなければ間違いなく死んでいただろう。当然直ぐに起き上がることなど出来ず肉体と目から来る痛みに、ベルはのた打ち回ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――こうして話は冒頭へと繋がる。リリは吹き飛ばされたベルの傍へと駆け寄り、持っているポーションを無理やり飲ませるとベルに肩を貸しこの場から離れようとする。しかし、満身創痍ながら足は健在なミノタウロスは大剣を回収すると、ゆっくりとだが確実にこちらへ近づいてきた。

 

 

 この場でベルを見捨てれば確実に逃げることが出来る。もし彼に出会っていなければ一瞬すら迷わず実行していただろう考えを、しかしリリは鼻で嗤って切り捨てる。自分は全てを彼に捧げると誓ったのだ、もし一人で生き恥を晒す位ならここで笑って死んでやる。そんな悲壮な覚悟を携え、ベルの『逃げろ』という叫びを黙殺し続ける。

 

 

 着実に近づいてくる死の足音。いっそ意識を手放してしまえばどれだけ楽になれるか、それでもリリは最後の最後まであきらめずに歩み続ける。そしてその献身は―――――。

 

 

 

「……もう大丈夫、頑張ったね」

 

 

 ――――見事、アイズ・ヴァレンシュタインの到着まで時間を稼ぎ切ったのだ。

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

「――――流石にこれで幕引き、ね。少し残念だけど仕方ないわ」

 

 

 ――――『バベル』の最上階、禁じられている「神の力」の使用を平然と行い、女神フレイヤはベル・クラネルの戦いを鑑賞していた。

 

 

「それにしても、随分楽しませてもらったわ。ご褒美は何が良いかしら?あの子はもっと強くなる、寧ろ決着がつかなかったのは好都合ね。雪辱への奮起は間違いなく彼の魂を磨く極上の砥石になる。―――オッタル、『剣姫』を退けてその子(ミノタウロス)を回収して頂戴。やり方は貴方に任せ……え?まさか………その体で続ける気!!?」

 

 

珍しく本心から驚く彼女の視線の先には、先ほどの弱りきった少年とは別人かと思うほど覇気を滾らせ、『剣姫』を押しのけるベル・クラネル(冒険する者)の姿があった。

 

 

 

 

 




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