Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第十九話

 

 

 

 

 

 ――――今更何を格好つけてるの?自分が追い詰めた相手を取られるのが惜しくなった?

 

 

「(違う、そんなことどうだって良い!)」

 

 

 ―――女の子に何度も助けられるのが格好悪い?今日だけで何度小人族(パルゥム)に命を救われてるのかしら?散々命をかけさせておいて、『剣姫』だと嫌なの?

 

 

「(そんなもの関係ない!認めるさ、僕は仲間を、女の子を冒険に巻き込んでおきながら犠牲になるまで戦えもしない最低の男だって。だからこそ、そんな僕が誰かに任せる(冒険しない)訳にはいかないんだ!)」

 

 

 ―――お友達(家族)のことは良いの?貴方はそのために此処へ来たんでしょう?

 

 

「(…そうだ、僕があいつに無策で斬りかかったのもそれが切欠だ。だからアイズさんが来たなら相手を任せてハインを探す方か、図々しくてもアイズさんに協力してもらった方が絶対に正しい。けどもしそれをしたらきっと僕は、心のどこかで決着を付けられなかったことをハインの所為にしてしまう。そんな恥知らずなこと絶対しないって言いきれない位、僕は今の僕自身を信じられない!!)」

 

 

 ――――ッ!そう、決意は固いのね。……頑張ってね。

 

 

 

 

 

「ああ…良いッ!何て美しい魂の輝き!!本当に、なんて素晴らしいのかしらこの子は」

 

 

 「神の力」をさらに行使し、映像だけでなくその向こうに居るベルへとコンタクトすらとったフレイヤ。勿論御法度中の御法度なのだが、惚れた男の窮地に彼女がそんな些事を気にする筈もなく説得を試みた。結果は失敗に終わったものの、一層輝き始めたその魂の色に彼女は恍惚とした表情を浮かべる。

 

 

「それにしても…『僕自身を信じられない(・・・・・・・・・・)』ですって?あれだけ直向きに冒険するあの子が?………気になるわね。オッタル、さっきのお願いは撤回するわ。その代わり『混沌』の坊やを保護して頂戴。今死なれたらあの子の魂の疵になるわ」

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

「――――おいおい、何がどうなってやがる。あの時のトマト野郎がミノタウロスをここまで傷めつけやがったのか?」

 

 

 再び始まった戦いを見守るアイズとリリだったが、後ろから聞こえた声に振り向くとロキ・ファミリアの面々が追い付いてきていた。しかし別れた時と大分異なる格好にアイズは訝しむ。ベートは本人こそ元気だがあちこちボロボロで、ティオネはティオナに担がれたまま微動だにせず、リヴェリアの表情にも陰りがある。唯一変わらないのは完全に復調したフィン位だ。

 

 

 

「―――ッ!皆、その怪我は?」

 

 

「あ?かすり傷に決まってんだろ。気色の悪いモンスターが出やがったからな、そっちも足止め喰らったんだろ?フィンから聞いた」

 

 

「皆が奮闘してくれたから犠牲者は出ていない。ただ、ティオネが腕をやられた。幸い徐々に直ってきているから、この分だと半日以内に元に戻る筈だ」

 

 

「そう、良かった」

 

 

 後遺症が出るような被害はないと聞き、取り敢えず安堵するアイズ。自分たちが遭遇した敵は単純な実力なら手強い、とは言えないステイタスだったが、それを遥かに上回るほど危険な技能を持った相手だった。仲間が苦戦したということは間違いなくあれと関連のあるモンスターな筈であり、特にティオネの負傷を見て表情にこそ出ないが心配していたのである。

 

 

「それよりもミノタウロスの傷、あの白い子が付けたの!?アイズじゃなくて?」

 

 

「馬鹿か、アイズなら一太刀で終いだ。適度に弱らせてから呉れてやるなんて器用なことできるかよ。小人族以外に雑魚が見当たらねえ所見ると、十中八九あのトマト野郎の仕業だ。……たかが一か月そこらで、どんな手品使いやがった?」

 

 

 ベートの呟きを聞き咎めた他の面々は、アイズが加えた補足に驚きを隠せなかった。冒険者登録を済ませたばかりの新人が、たかが一か月でミノタウロスとサシで戦い、ここまで奮戦してみせているのだという。普通なら生きているだけで奇跡と言えるのだから、はっきり言って異常どころの騒ぎではない。

 

 

「で、でも、あんな状態じゃいつ死んでもおかしくないよ!助けてあげないと―――」

 

 

「やめとけ。もし心が折れてんのなら、とっととこっちに逃げ込んでる。あれでまだやろうってことは、よっぽど腹括ってんだろ?つーか、勝てる勝負を横取るなんざダセエだけだろ」

 

 

 ティオナはベートの言葉に噛みつこうとするが、最後の一言に目を丸くし、再び戦いへと目を向ける。冒険者の方は正しく満身創痍と言った有様で、鎧は全損し、折れた肋骨が刺さったのか呼吸は不規則、さらに喀血も起こしている。動きに精彩さが掛けているのではなく、寧ろどうしてあれで動けるのか不思議な有様だ。対してミノタウロスは腕と目を潰されているが、それ以外は特に負傷は無い。強いて言えばそれだけの損傷にも拘らず妙にフラフラな所か。

 

 

 どう見ても勝ち目は無いように思えるが、ベートは戦い、特に勝敗に関して適当なことは言わない。それを知っているからティオナはどうして良いか分からなくなってしまう。

 

 

「そうだね、僕も彼に勝ちの目は有ると思う。僕らが世話を焼くとしたら戦いの後さ、今は目の前の冒険を見届けさせてもらおう。リヴェリア、治療の用意だけ頼む」

 

 

 

 

 

 そうこうしている内に、戦いは佳境に入る。もう大剣での攻撃は無意味と判断したミノタウロスが、最終手段である四つん這いでの突撃態勢に入ったのである。左腕が使えず大降りになる、だけが理由ではない。目に投擲されたバゼラートが眼球だけでなく、それより向こうの三半規管にまで及んでいたのだ。被害はそれほどではないが、剣を振ろうとすると振り回されてしまい、当たる物も当らなくなってしまう。間違いなく万全のベルならとうに仕留めているだろう。

 

 

 そしてベルもまた、限界が迫っていた。敵の動きの杜撰さに救われたのと、日ごろから疲弊してから効率よく動く訓練を(強制的に)してきたので捌き切れていたが、いよいよ出血量と肋骨の怪我が動きに支障をきたしている。この一手で決められなければもう後は無いだろう。

 

 

 それから数秒と経たずミノタウロスは突貫する。多少の回避は調整が利き、受け止めるのは不可能。仮に角を捌いても、強靭な顎と蹄は避けきれない。必勝を確信したミノタウロスに対し、ベルは此処まで一度も使わなかった、最後の奥の手を切る。

 

 

 

 

「―――『ファイアボルト』ッ!!!

 

 

 突然敵の掌から放たれた火球が直撃する。しかも目の傷口と剥き身の神経を炙るかのように。予想外の反撃に、ミノタウロスはたまらず軸線をずらしてしまい、さらに地に着くかどうかの足元にも続けて火球を放たれ、平衡感覚の狂いも相まって転倒してしまう。

 

 

 痛みに慄くミノタウロスだが、先程と違い目的までは見失っていない。転ばされこそしたが、既に加速は最大まで着いており、このまま滑りながらでも少年の矮躯に一突き入れることが出来る。勢いを殺さんと続けて三発火球が撃ち込まれるが、そんなものでは止まらない。

 

 

 土煙で視界を塞がれながら、目的の場所に辿り着いたミノタウロスは全身全霊を掛けて首を振り切り、角で眼前を一閃する。ところが、その必死の一撃は空を切る。まさか、動けるはずが…と混乱するミノタウロスに、突然背中に感じた重みと痛みが襲う。

 

 

 ベル・クラネルにもう動く力はない。それは間違っていなかった、しかしベルはミノタウロスへファイアボルトをぶつけるとともに、最後の一発を自分の真下へと打ち込み、その爆風で自らを真上に吹き飛ばしたのだ。全身を火傷塗れにしながらも彼は見事ミノタウロスの無防備な背に着地し、首筋へと深くナイフを突き立てる。

 

 

「(目測が少しずれた!このままじゃ…)ファイアボルト!ファイアボルト!!ファイアボルトオォッ!!!

 

 

 無我夢中のまま、息が続く限り魔法を行使し続けるベル。まるで体の一部かの様に掌ではなくナイフの刃先から炎が迸り、体内から燃え上っていくミノタウロス。魔力など眼中になく叫び続けるベルは、突然肩に置かれた手によって現実に引き戻される。

 

 

 

「―――もう十分。終わったよベル君、凄く頑張ったね」

 

 

 振り向けば、今まで見たこともない笑顔を浮かべた憧れの人がいた。そして正面に目を戻せば、そこにはドロップ品と思わしき角と、魔石が転がっているだけだった。ようやく状況を飲み込めたベルは、そのまま暗転する意識に身を任せて気絶する。

 

 

「本当に、格好良かったよ」

 

 

 崩れ落ちる彼を抱きとめたアイズは、そう言って心の底から労うのであった。

 

 

 

 




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