Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第三話

 

 

 

 

 

 ―――ハインが街中に帰ってきたとき、ちょうど説教とシャワーを終え血相を変えて戻ってきたベルと再会した。【剣姫】の事で頭がいっぱいになっていたが、自分の冒険者担当であるエイナ女史との会話で落ち着き、置いてきたことを思い出したようだ。

 

 

 

 まだ付き合いが浅いはずなのに何故かこのやり取りに慣れてきだしたことに頭を抱えながら、次外食する時に奢らせることで手打ちにした。もう少し落ち着いてくれたらなあ、とぼんやり考えながらホームへと帰りついた。

 

 

 

 

 ホームへと帰宅し、主神であるヘスティアがバイト先から持ち帰った大量のじゃが丸君とハインが買って帰ったサラダを平らげた後、ハインは借りている一室で読書をしていた。未だ入団していない身でステイタスの更新といったプライベートを除くのはマナー違反であるし、ヘスティアの非常にわかりやすいベルへの好意に空気を読んだ結果である。そろそろ寝るかと片づけを始めた時、ノックの音と共に件のヘスティアが顔を覗かせた。

 

 

 

「・・・まだ起きてるかい?夜遅くにごめんよ、ちょっとベル君のことで相談したくて」

 

 

 

 深刻そうな顔で今にも話を切り出しそうな彼女を一旦制止する。人目を避けるような声音からも緊急を要する案件だとわかる。それを会って一週間と経たない自分に打ち明けるのは不用心が過ぎないかと。しかしヘスティアの返事は、『君は打算で人を売ったりしないだろう?だからつい・・・』というものだった。思い直せばファミリアの事情に巻き込んで良いものかと表情を暗くするヘスティアだったが、ハインの方は興味深そうに彼女を見ていた。

 

 

 

 彼女の判断はまさしく正鵠を射ていた。ハインにとって自己の利益のために他人を差し出すことは、かつて我が身可愛さに自分と家族を貶めた連中と同列に堕ちることであり、死んでも有り得ない選択だ。だが彼らにその辺りの話はしていない。せいぜい邪神との馴れ初めと田舎から飛び出してきたことだけだ。良く見ているものだとヘスティアへの評価を上方修正しながら、興味が湧いたハインは詳細を聞くことにした。

 

 

 

 

 内容はベルに発現したスキル『憧憬一途』についてだ。このスキルは自らの憧れなどの思いを糧に飛躍的に成長するというレアスキルであり、彼女は咄嗟にこのことを本人に隠したのだという。ベルはあの通り今時珍しいくらい純朴な青年なので、適当に成長期だとでも言っておけば真に受けて誤魔化せるだろう。

 

 

 隠した理由は大きく分けて2つ。一つは、スキルを認知することがベルの成長を歪めてしまう可能性だ。きっかけがヴァレン某というのは心底納得いかないが、今まであやふやな目標に向かって千鳥足で進んでいた我が子がようやっと情熱を燃やして突き進むことが出来る。そのことは素直に感謝しているし全力で背中を押してあげたいが、これからベルが血反吐を吐いて積み上げた成果が、全て偶々得られたスキルのお陰なんじゃないか?そんな疑念に苛まれた時あの子が耐えられると断言できないのだ。自分ではなくスキルを拠り所にしては育つものも育たないと考えたのだ。

 

 

 

 もう一つは、悪意ある神々の干渉を恐れたからだ。苔の一念岩をも通す、自らの信念に準じれば不可能さえ可能にする。まさしく神話や伝承に伝わる英雄のようなスキルであり、間違いなく連中の目に留まる。英雄が神の心を射止めた存在だというのなら、それに被るベル・クラネルは彼らの好みドストライクな男となった訳だ。とても弱小ファミリアが何とかできる問題じゃない。である以上隠し通すしか守る手段が無いのだ。

 

 

 

 そういった訳で行動したのだが、ヘスティア自身開店休業状態が長く、ファミリアの長としての経験など碌にない。そして何より世界の中心でその愛を叫べるほど溺愛しているベルに対して嘘をついたのが非常に心苦しく、自分の考えに自信を持てなかったためにハインに相談を持ちかけたという。

 

 

 

ハインは自分も彼女の意見には全面的に賛成であると背中を押し、可能な限りベルの行動にはフォローを入れると約束した。先ほどと打って変わり表情を明るくしたヘスティアは何度も感謝を伝え自室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side ハイン

 

 

 

 

 ヘスティア神が自室に帰ったことを確認し、ベッドの上へと転がり込む。尤も、残念ながら先程の話で眠気が吹き飛んだわけだが。

 

 

 

 彼女はスキル『憧憬一途』とやらを伝承の英雄のようだと言ったが同意見だ。それと同時に強い違和感を感じる。『思いがひとを強くする』と言えば聞こえの良いスキルだが、穿った視点で見れば『煩わしい過程や下積みを省略して結果に手を伸ばす』スキルともいえる。ベルの思いから発現したというが、あれだけ英雄譚に憧れるあいつが『物語に書けない様な』スキルを望むのだろうか?

 

 

 他にも疑念がある、このスキルに置かれた目線が人間よりも神寄りなんだ。人より何倍も早く成長するなんて、現実で見せられたら嫉妬より恐怖を感じるよ。魔法にしろスキルにしろ、代用が一切効かない能力は実はあんまり無い。けどこのスキルには同類となるスキルは報告されていない。そんな長所、なんて遥かに飛び越える『異分子』を人は望まない。

 

 

 

人間の意志から神の視点のスキルが発現する?有るのかそんなこと?そういえば英雄と言えば、多くの共通点に『血』があるな。ヘラクレス・アキレウス・カルナ・オリオン・クーフーリン。他にもジークフリートは邪竜ファフニールの血を浴びて不死性を得たとか聞いたこともあるな。まさかひょっとして・・・・・・いや、情報が少なすぎる。これ以上は妄想の域を出ないな。

 

 

 

 どうせ明日からは一層気合を入れたベルに引きずり回されるんだ。早い内に寝ておこう。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――翌日、案の定早朝からベルに起こされた(一人で冒険したら、公衆の面前で口移しでじゃが丸君食わせるとヘスティアに脅された)ハインは、今日も今日とてダンジョンに来ていた。想像通り気合の入ったベルだが、入れどころを間違えたのか時折作画崩壊した顔面になっていたが、面倒なのでスルーすることにした。流石にウェアウルフの集団に囲まれながら、それでも鼻の下を伸ばしていた時はイラッとしてしまったが。

 

 

 

「(・・・そういえば、ミノタウルスと追いかけっこして敏捷が上がったとか言ってたから今度ムンビさんと耐久鬼ごっこさせてみるか?双方『全力で』がんばってくれそうだし)

 

 

 

 後ろにいる仲間が脳内で自分を絶望させる訓練プログラムを組んでいるとは露知らず、ベルは顔を紅潮させながら妄想の中のアイズ・ヴァレンシュタインに胸を馳せながら突貫していった。

 

 

 

 

 

 それから時間が過ぎ、辺りが夕焼けに染まったころに二人は地上へと帰ってきた。手早く換金を済ませた後、ベルがオラリオで評判の酒場『豊穣の女主人』で食事をする約束を思い出したので、先日の奢りの約束も兼ねて二人で訪れることにした。

 

 

 

「―――昼の弁当は此処の女給さんのだったか。俺が詰所で手続してる間に随分親しくなったんだな?」

 

 

「いやいや誤解だからね!?お腹を鳴らせた僕を哀れんでくれただけで・・・」

 

 

「(初対面の人間に弁当をくれてやる女給さんねえ・・・)ま、こうしてしっかり売り上げに貢献してるんだから大した集客能力だが――――」

 

 

「――『ドンッ!』はいお待ち!それからこいつもね。今日のおススメだよッ!!」

 

 

 

 注文が届くまでの間、ベルをからかいながら時間を潰していたが、目の前に出された山盛りのパスタ、さらに『本日のおすすめ』らしい魚の揚げ物に揃って目を丸くしてしまう。

 

 

 

「ちょッ!?こ、こっちは頼んでないんですけど」

 

 

「はははッ!若いのに遠慮しなさんな!!」

 

 

 

 想定外の出費に青ざめるベル。ハインが宿代替わりと言ってダンジョン潜りを手伝うようになってから、ヘスティア・ファミリアの財政はかなり改善された。単純に人手が倍になったこともあり、この位の贅沢はさして問題ではない。しかし一度染みついた貧乏性はそうそう消えることはない。元凶ともいえるシル・フローヴァをジト目で見るが、あざとさにやられて直に話題を変えられてしまう。

 

 

 

 ハインもまた別の意味で顔を青くしていた。自他ともに認めるモヤシである彼は、その矮躯相応の慎ましい胃袋しか所持しておらず、この量はどう見てもキャパオーバーである。出来るだけ残すことはしたくないため、どうやってベルに押し付けるかに頭をフル回転させていた。

 

 

 

 

 そんな楽しい(?)食事を進めていく中、とある団体客が入ってきたことで店内が騒然となる。『豊穣の女主人』のお得意様である『ロキ・ファミリア』が遠征の打ち上げに訪れたのである。

 

 

 そんな集団から目敏く【剣姫】を見つけたベルは、顔を真っ赤にしながらも視線が釘付けとなる。あれだけ見られていれば気づきそうなものだが、非戦闘時においてはセクハラ以外には非常に緩い彼女は気づくことなく着席していく。

 

 

 そうこうしている内に宴会が開催される。無駄に腕の立つ酔っ払いに絡まれても難儀だと考えるハインは席を立とうと促すが、アイズに心奪われているベルには聞こえていなかった。

 

 

 

「―――なあアイズッ!そろそろ聞かせてやれよ。帰る途中で見つけたトマト野郎共の話をよッ!!」

 

 

「・・・ッ!?」

 

「―――ん?」

 

 

 

 ――宴も酣となったころ、酒が悪い方に回っている獣人ベート・ローガが嘲笑を浮かべながらブチ上げる。無様に怯え震える身の程知らずの新米冒険者が汚いミノタウルスの血で染まりながらアイズから逃げ出した話を。近くにその『トマト野郎共』がいることなど知る筈もなく、散々雑魚だのゴミだのと扱下ろしていくベート。しかも相槌を求めるアイズが悉く首肯しない為次第にヒートアップしていった。

 

 

 

「雑魚じゃ釣り合わねえんだよッ!アイズ・ヴァレンシュタインにはな!」

 

 

「――ッ!!」

 

 

 幹部陣が一様に顔を顰めていることさえ気に留めず、捲し立て続けるベートに耐え切れず、とうとうベルは飛び出していってしまった。またしても取り残されたハインは、とりあえずベルに食い逃げの汚名が付く前に勘定を済ませることにした。

 

 

 

「・・・すいません、せっかく来て頂いたのに。もっと早くに私かミア母さんが注意すべきでした」

 

 

「いや、あれは止めても無駄だろう。ご丁寧な対応痛み入る、ただ一つ聞いて良いか?」

 

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 

 

 勘定を担当したウェイトレス、リュー・リオンが謝意を示すが、ハインからの紳士的な対応に胸を撫で下ろす。彼らはシルの誘いで態々きてくれたお客様だから気にしていたのだ。

 

 

・・・しかし、続いて呟かれた言葉に目を見開くこととなった。

 

 

 

 

 

 

「・・・先程の獣人さんの言葉、あれってつまり『自分を雑魚扱いできる人間には何されても良い』って意味ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 「 「 「 !!?」 」 」 」

 

 

 

『ソレ』に気付けたのは3人と1柱だけだった。1柱は僅かに聞こえた、人間が知る筈のない『とある神』の名に秘められた最後の音節から。小人族の団長とドワーフの女将は、自身の持つ百戦錬磨の勘が最大級の警笛を鳴らしたから。エルフの副団長はその類稀な魔法の感性から、卒倒しそうなほどの悍ましい奔流を感じたからである。尤も、一瞬の出来事であったため、誰の仕業かまでは突き止められなかったのだが。

 

 

 

 その他の団員は唯只管目の前の事態に困惑していた。目に余る醜態に我慢の限界だったリヴェリアの命でベートを吊し上げていたのだが、突然何の反応も見せることなく白目をむいて卒倒してしまったのだ。この程度の酒でベートが潰れるはずもなく、気絶するほどの折檻はまだ与えていない。率先して吊るしていたアマゾネスの姉妹は必至で介抱をしていた。

 

 

 

 ――――そんな中、ファミリアの一員であるレフィーヤ・ウィリディスは見てしまっていた。対応させられていたアイズは勿論、ロキファミリア自体の品位まで疑われかねない罵詈雑言を聞いていられず、玄関の方へ目を向けていたからである。窓の向こうから一瞬見えた少年、将又小人族だろうか?その人物がぞっとするほど冷たい目線を向けながら口を動かすと、途端にベートが動かなくなったのだ。

 

 

 

 あんな上級冒険者は聞いたことが無いので何かの間違いかもしれないが、妙に気になってしまった彼女は誰にも告げず件の少年を追いかけることにした。十中八九勘違いなので、変に口走っても場を混乱させるだけだという気遣いは、最悪の形で帰ってくることとなった・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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