Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第四話

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――止まりなさい、そこの少年!」

 

 

「・・・ロキ・ファミリア、か。何のようだ?」

 

 

 

 

 コンパスの差か、直にレフィーヤはハインの下へと追いついた。その語気は荒く、目の前の子どもを警戒しているのが見て取れる。出てきた当初はまさかと思っていたが今は半ば確信していた。目の前の少年が下手人だと。

 

 

 

「用なら分かってる筈です。ベートさんに何したのか、少し話を聞かせてもらえませんか」

 

 

「ああ、人が死にかけた様子をせせら笑ったあの犬畜生の事か。そういえば店を出てから妙に騒がしかったが」

 

 

「・・・それについてはごめんなさい、不快な思いをさせて。ただ、白を切るのは止めてください。関係ないというのなら、なぜあなたがベートさんの魔力を纏っているのですか?」

 

 

 

 そう、これが彼女が確信した理由だ。追い付く前、遠くから見えたハインはまるでオーケストラの指揮者のように腕を振り回しており、姿が少年でなければ完全に酔っぱらいの奇行だった。誤って酒でも飲まされたのかと訝しんでいたが、魔法に天性の勘がある彼女は気づいてしまった。彼の体からベート・ローガの魔力、厳密に言えばより生命に近い生気とでもいうべきものが感じ取れたのだ。

 

 

 

 

「・・緑の髪の女も気付いた風だったが、エルフは皆そうなのか?それはともかく、動機については今更語るまでもないし、人のステイタスに干渉するのはルール違反じゃないのか?」

 

 

「お認めになるのですね。ええ、不用意な干渉はご法度、ですが何事も限度があります。あなたの様な無名の冒険者が、レベル5のベートさんを誰にも悟らせずに昏倒させた。信じられないことですが、事実である以上見過ごすことなど到底出来ません」

 

 

 

 見てくれは痩せた小柄の子供、アイズの様な人を惹きつける魅力も持たず、幹部達の様な強者の風格もまるでない。にも拘らずレベル3の自分を怯ませるプレッシャーを放っていることに苛立ちを感じながらも、務めて冷静に告げる。

 

 

 

 彼女が危険を顧みず頑なに迫るのは、勿論好奇心などでは無い。あの場にはフィン、リヴェリア、ガレスといったロキ・ファミリア最大戦力が勢揃いしていた。にも拘らず凶行を突き止めれたのは偶然外を見ていた自分だけだ。つまり、有ってはならない事だがレフィーヤの敬愛するアイズ・ヴァレンシュタインが狙いだったとしても、自分達が防ぐ事は不可能だったのだ。故に、彼女は何が何でもこの絡繰りを暴こうと躍起になっていた。

 

 

 

「何の話だ?俺はそちらが良く分からない与太話を盾に、土足で踏み込んで来ようとするアンタを牽制しただけだ。生気とやらを立証する手段があるならともかく、今先程その口が言った通り、駆け出し冒険者がレベル5を潰す等土台不可能だ。傍から見れば無茶苦茶も良い所だぞ?・・・他に話が無いならこれで失礼する。誰かさんの所為で飛び出していった、大事な相方を探さなきゃならないんでな」

 

 

 

 興味が失せたとばかりに背を向けるハインを見てレフィーアは焦りを募らせる。彼女から見れば間違いなくこの少年は黒だが、全て状況証拠でしかなく無理やり押し留めるには弱い。かといって明日改めて探し出したとしても、その時までこの気配が残っているとは限らない。どうやったかは知らないが、食事のように消化されてしまえばもうどうしようもない。

 

 

 何とか理由を作らないと、もしかしたら自分が居ないことに誰かが気付いてここに来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を掴むためにも一旦冷静になろうと深呼吸をした時だった。彼女は気付いてしまった、先程から自分を震わせるこの圧力を醸し出しているのは、目の前にいる凡庸そうな男ではないということに。

 

 

 

 では一体何処から・・・?そう思うのは生き物として当然だ、そしてそれを探るために死線を彷徨わせることも。―――――故に彼女が『ソレ』を見つけてしまうのもある意味必然だと言える。

 

 

 

 

 時刻は深夜、『神の恩恵』を受ける冒険者でもなければまず目が効かなくなるほど濃い闇夜。その黒と同化する様に、『ソレ』は少年の後ろで鎮座していた。蝙蝠の如き翼、芋虫や蛇を想起させる胴体、狂気と知性を混同させるという矛盾を平然と成す双眼。【一枚翅のクサリヘビ】忌まわしき狩人が彼女を睥睨していた。

 

 

 

 

 ―――知らない、コンナオゾマシイバケモノナンテ・・・シラナイッ!

 

 レフィーヤはその稀有なスキルと才能から、自身のレベル以上の強敵に挑むのは決して珍しいことではない。しかし彼女は本能的に察知する、今目の前にいるのはそんなモンスター達と比べるのも烏滸がましいほどの化物である、と。

 

 

 

「殺される・・・・殺される?あ・・いや、駄目まだ死ねないッ!死にたくないッ!!何とかしなきゃ、何とか・・・殺さなきゃ。殺すコロスころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころ―――」

 

 

 

 あまりの悍ましさに耐えきれず、彼女はもっとも原始的な感情に身を委ねた。即ち――――殺られる前に殺るというシンプルな答えに。狂気に呑まれようとも身に沁み込ませた一連の動作に陰りはない。寧ろ無駄をそぎ落とした獣の如き本能が最適化された動きを実現する。

 

 

彼女が切ったカードは勿論自身が持つ最強の魔法。多くの人が眠るこの時間、しかも街のど真ん中でそれを開放すればどれ程の被害が出るかなど、最早彼女には認識できない。当然その被害の中に、相対する化物とその主も含まれる。しかし化物は動くことなどせず泰然としている。

 

 

 

―――妨害などするはずが無い。怪物は通り名に相応しい、獲物が罠にかかる瞬間を眺める狩人の喜悦に没頭しているのだから。

 

 

 

常に袖に隠している仕込み魔杖を展開し、魔力と精神力を注ぎ込む。そのまま詠唱を開始しようとしたその時、まるで餌を見つけて群がる蟲の様に『ナニカ』が自身に入り込み、魔力に反応するかの如く水脹れとなり激痛を齎す。その目を覆いたくなる凄惨さと苦痛に金切り声をあげようとした瞬間―――後ろからの衝撃に意識を手放した。

 

 

 

 

「・・・凄いな、ここまで近づかれても気付かなかった。最近の女給は隠密も嗜むんだな」

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 闇に紛れてレフィーヤに接近したのは、『豊穣の女主人』のウェイトレスであるリュー・リオンだった。彼女もハインの呟きとベートの異変の関連性を疑ったが有り得ないと切り捨てた。しかし突然誰にも告げず店を飛び出していく姿を見て胸騒ぎを感じ、追いかけてきたのだ。

 

 

遠目からだったために『狩人』が分からなかった彼女は、突然全開で魔力を回し始めたレフィーヤに驚愕し、何とか止めようと首に手刀を打ち込んだのである。ハインの方も、二人続けて発狂されては敵わないので既に『狩人』は退散させていた。

 

 

 

「―――状況が良く分かりませんが、知らない方が良いのでしょうね。それで、彼女の処遇について如何お考えですか?」

 

 

「・・・・・話が早くて結構だが、その物騒な面持ちはやめてくれ。心配しなくても取って喰いはしない、面倒事は御免だ。まあ、後始末だけはさせてもらうが」

 

 

 

 そう言って無造作に近づくハインに身構えるが、さっきも敵意もない彼にリューはどうして良いか困惑してしまう。ハインはそんなこと知るかとばかりに無視してレフィーヤの前まで来ると、数秒何か呟きさっさと離れてしまう。

 

 

 

「一体何をしたのですか?」

 

 

「俺に関する記憶を曖昧にさせてもらった。有る事無い事騒がれるなら本当に口を塞がないといけなくなるからな。後はアンタが口裏合わせてくれるなら問題ない」

 

 

「・・・わかりました。彼女は酔いが回って飛び出したのを私が保護しました。記憶が朧気なのは同僚の話から耳を遠ざけるために、許容範囲以上に呑んでしまったから。これで良いでしょうか?」

 

 

「上出来だ。分かってると思うがくれぐれも―――」

 

 

「ご心配は無用です、他人の懐を漁る等店の信用に係わりますから。今夜の事は食器の汚れと一緒に流します。それではこれで失礼します。クラネルさんにも謝罪と、もしまた来て頂けるなら精一杯サービスさせて頂くと伝えてください」

 

 

 そう言ってリューは、レフィーヤを担いでその場を後にした。予想外の顛末に毒気を抜かれながら、ハインは本来の目的を思い出して頭を抱えた。

 

 

 

「・・・・・いかん、完全にベルを見失った。何処行ったんだアイツ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハイン

 

 

 

 

―――街中を彷徨う事数時間、もう朝日が見え出す頃になってようやくベルと再会した。広場の噴水にもたれかかるように倒れていたが、まさかダンジョンに潜っていたとは。碌に準備もせず夜中に訪れたら追い返されると思い除外したのは失敗だったな。もう少し詰め所はまじめに仕事をすべきだろう。

 

 

 

 そんなことは置いといて、またもや血塗れになっているベルに『治癒の呪文』を掛けておく。こんな有様だとヘスティア神が卒倒しそうだからな。一段落してから肩を貸してやり、ホームへとゆっくり歩くことにする。辛うじて意識があるのか、一応自分でも歩いてくれるが支えきれずによろめいてしまう。今更自分の体をとやかく言わんが、線の細いベルすら持て余す我が身の貧相さに頭が痛い。

 

 

 

「――――ハイン、僕・・・悔しいんだ。嗤われても言い返せるほどのことが出来ていない自分に、大した苦労もせずにあの人と並ぼうとした浅はかさが、ダンジョンでも酒場でも逃げることしかできなかった自分が・・・・情けない」

 

 

 

 ゆっくり揺さぶられてるうちに目を覚ましたのか、耳元で憔悴しきった呟きが聞こえてきた。奮起してるうちは忘れられたが、落ち着いたら辛さが戻って来たらしい。やれやれ、反省するのは結構だが、お前はその前にもっとやる事があるだろうに。

 

 

「・・・本当に情けない奴なら『まだ自分は駆け出しだ』って言い訳してるさ。自分の殻にこもっていじけてる奴もそうだ。けどお前はわき目も振らずに出来ることをしようとした。強くはないかもしれんが、お前は十分格好良いよ」

 

 

 

 我ながららしくない台詞だが、言った途端嗚咽が聞こえてきたので無駄じゃなかったのだろう。ヘスティア神に聞いたが、ファミリアに入る前も入った後も、相談する相手もおらず一人でやりくりしてきたらしい。それじゃ自信なんて湧いてこないし、今日みたいなことがあれば卑屈にもなる。今までの自分を否定するなんて、こいつにはしてほしくない。

 

 

 

 一頻り泣いた後、『迷惑ばかりかけてごめん』などと言い出したからこう返してやる。

――――同じファミリアでそんな他人行儀を言うな、と。するとハトが豆鉄砲喰らったみたいに目を見開いて大声を上げやがる。耳元で騒ぐな!あと体重をかけてくるな、潰れる!!

 

 

 

 ひどい耳鳴りに抗議しようと思ったが、さっきと打って変わった満面の笑顔につられて苦笑してしまう。・・・そういえば、自分から笑ったのもずいぶん久しぶりだったな。

 

 

 

 こうして俺は、晴れてヘスティア・ファミリアの一員となった。面倒事は起きてからにするが、とりあえず奢ると嘯いて奢らせた白兎への取立てから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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