Side ハイン
――――さて、無事ベルを主神に送り届けた後、ベルは改めて強くなりたいという決意表明を、俺も改めてヘスティア・ファミリア入団を伝えた。この日を新たなスタート地点として、一歩ずつ全員で進んでいこう。
その後、無事『改宗』を済ませたのだが、ヘスティアが一休みする前にどうしても済ませておきたいと呼び止めた。それはステイタスの更新だった。今までは主神でなかったため仕方ないのだが、頻繁に更新しているベルに対し、これまで一度も更新できなかったことを凄く心配していたのだという。命に関わることなのに不謹慎かもしれないが、誰かに心配されるのも久しぶり過ぎる感覚でどうにも落ち着かないな。
そういう訳でさっそく更新したのだが、終わった途端凄い形相で組みつかれた。まさかベルの様にヘンテコなステイタスなのかと聞いたが、そこは聞いた話的にもう気にしないとのことだ。否定しない所が不安でしかないが、とりあえず眉の皺の原因を尋ねたところ―――。
「ハイン君、キミ確か自分のスキルについては前の神から大体の事は聞いてるって言ってたよね?ちょっとボクにも教えてほしいんだけど?」
―――とのことだった。はて?ステイタスは『神聖文字』で書かれているのだから、詳細や使用感はともかく、概要は眷属に聞くまでも無い筈だが。そう聞いてみると、手近にあった紙とペンでステイタスを書き殴って寄越してきた。ご丁寧に公用語で書いてくれてるのは助かるが、相当ご立腹のようだ。何々・・・・?
ハイン・グレイズ
Lv.1
力 :I5
耐久:I1
器用:I43
敏捷:I70
魔力:S999
・・・・何だこれ?魔力の値カンストしてるんだがこれ絶対詐欺だろ?じゃあなんですぐガス欠になるんだよ。魔力の質は高いが量が少ないとかか?それとも呪文が片端から超高燃費なのか、訳が分からんが未だこれはヘスティアの言うとおり流せる。所詮数字なんて飾りだ。ただ―――。
【呪詛】
『クルーシュチャの残滓』
・常時発動型
・『神話技能』への対抗対象がハインではなく■■■■■■■■となるため、地上全ての存在は彼の呪文を跳ね除けることが出来ない。
・「――――例え誰の玩具になろうが、コレの魂は僕の物」
【スキル】
『
・「読んで字の如し、さ。考えるな。感じろ!」
【魔法】
『神話技能』
・「ルルブ読めカス」
――――どれ一つとして説明になってねえ。【呪詛】だけ真面そうに見えるが肝心の『神話技能』が酷すぎて何の役にも立たない。明らかに読む神を苛立たせる為だけに書いただろこれ。まあ、万一ステイタスを除かれてもこれを見て絡んでくる物好きもいないだろうし、そういう意味では便利かもしれんな。
それはさて置き、説明しろと言われても詳しいことは俺も良く知らないんだよな。ステイタスとか初めて見たし。とはいえ、変に不安の種を増やすのも悪いからわかっている限りで説明することにする。
『黒貌械扉』はベルと会うまで散々使っていた、怪物を召喚・使役するスキルだ。自分の肉体を門と楔として意のままに操る。欠点としては、俺が退散させるかその怪物自身が死なない限り消えず、もし退散する前に俺が意識を失えば、意識が戻るまであいつらを縛る枷がなくなってしまう点だ。滅多なことは無いだろうが、万一の時は間違いなくベルが犠牲になってしまうから今は常用したくないんだよな。
『神話技能』は厳密には魔法じゃないと思うんだが、便宜的に魔法扱いになっているのかな?ヘスティアに分かりやすく言うなら、攻撃・防御・補助にそれぞれ使い分けられる魔法、と言えれば良いんだがこれも欠点がキツイ。レベルが低い所為か直にガス欠を起こすんだよな。普通にダンジョンに潜るだけなら問題ないが、この前みたいに想定外の事が起こると途端に足を引っ張るのがネックだ。
「・・・・はあ、ボクの子供たちはどうしてこう、慎ましさと無縁なのかな。まあ良いや、キミの言うとおり、こんな読み手を苛立たせる『神聖文字』じゃプライドの高い神は興味を持つ前に機嫌を損ねるだろうからある意味安心かな。ただし、君のその力がとても希少であることは間違いないんだから、くれぐれも派手にやらかしちゃ駄目だからね!」
・・・その点に関しては若干手遅れな気もするが、至って正論なのでしっかり聞いておくことにする。このスキルと魔法が無ければ冒険者という名の役立たずでしかないから使わないわけにはいかないが、あの邪神が寄越した物に何のデメリットもないとは思えないしな。
「―――確かに、ダンジョンから帰るときもクタクタって訳じゃないけど余裕はなさそうだもんね。あ、そういえばハインはいつも無手だけど武器は使わないの?杖があるだけで結構変わると思うけど・・・」
杖かあ、一度だけ見立ててもらったことはあるけど意外と重たかったんだよなアレ。精神力は多少改善されるかもしれんが、今度は体力が持つかが不安になるな。
「うーん、ステイタスの方もまったく力関係が伸びてないもんね。オラリオの武器って『神の恩恵』が念頭にある分どれも結構重いから、ハインが持てる武器の方が少ないんじゃないかな?・・・あれ、神様どうしたんですか?」
・・・思い切り泣いてから遠慮がなくなったな、ベルの奴。しれっと漏れた毒は見ない振りすることにして、さっきから静かだと思っていたヘスティアは何やらぶつぶつと呟いていた。普段騒がしい人にこうされると何だか怖いな。
「・・・魔力の補助・・ベル君の背を押す為にも・・・・よしッ!二人とも、今夜から2,3日留守にするけど、かまわないかな?」
Side out
―――翌日、二人は朝早くから『豊穣の女主人』へ顔を出していた。理由は誘ってくれたシルに何も言わず飛び出してしまったことを、ベルが謝罪したいと言ったためだ。ハインはそれに付き合って入口にもたれかかっていたのだが、二人の人影が見えたので居住まいを正して向き直った。
「あっちの白い坊やを連れてきてくれてありがとうよ!シルが随分気にしてたからさ」
「・・・いや、此処に顔を出したいと言い出したのはあいつだ。俺はそのおまけだ」
「そうなのかい?でもちょうど良かったよ。アタシはアンタに用事があったからね」
その言葉を聞いて、隣りに佇むウェイトレス、リュー・リオンの方へと目線を向ける。どう見ても唯者じゃない女将と昨日の証人がいれば話題など一つしかない。
「ちょっと待ちな、この子はチクリなんてしやしないよ。こう見えても顔が広いからさ、昨日の件を探ろうとしてたアタシを止めてくれただけだよ。それに、別に用件はそっちじゃないしね」
「・・・それで用事っていうのは?」
「せっかちな子だねえ、あっちはシルに捕まってもう少し掛りそうだから、そうカリカリしなさんな。会ったばかりの坊やにこう言うのも変な話だけど、随分生き急いでる風に見えたから、ちょいと老婆心が疼いてね。・・・あの場でアタシ以外にも異変に気づいたのは3人いた。しかも全員、一声で仲間が残らず信じて動くような大物ばかりさ。幾ら腕に自信があるったって、あそこで動いたのはちょいと軽率だったんじゃないかい?」
「まったくもってその通りだ。どれだけ犬畜生が不愉快だったとしても、最大派閥のロキ・ファミリアに楯突くなんて他殺志願も良い所だ。・・・だが、力と侮蔑に塗り潰されるを良しとするのは、家畜の生き様だ。俺にとっては『死ぬ』より無価値だ、そんなもん」
「・・・『無価値』ときたかい。他の奴が同じこと言ったなら喝を入れてやったところだが、アンタは冗談抜きで言ってるね。どんな修羅場見て来たらそんな風に思えるのか、もうちょい神様にはしっかり働いて欲しいもんだね。あんたみたいなちっさいのにばかり辛酸を舐めさせてさ」
そう言って額を撫でながら天を仰ぐが、一転してお日様のような笑顔を向けてハインの頭を撫で始めた。突然の代わり様にリューもハインもきょとんとしていた。
「今日顔を拝めてよかったよ。昨日よりずっと良い表情になってるじゃないか。何がきっかけなのかは知らないけど、そいつはアンタが手放しちゃいけないものだよ、しっかり握りしめときな!」
そう言って笑うミアの言葉があまりピンと来ないのか、訝しげにこちらを見ていたがようやくベルが戻ってきたので揃って店を後にした。はにかみながら『いってきます』というベルを苦笑しながら、姿が見えなくなるまで見送っていた。
「やれやれ、随分変わった組み合わせだねえ。ありゃ苦労しそうだ」
「そうですか?お二人とも仲がよさそうでしたが」
「それは心配してないさ、どっちも良い子だ。けどね、あのちっこい方はあまりにも『持ってなさ過ぎる』よ。だから敬われるより妬まれるし、畏れられるより僻まれる。それに比べて白い坊やは人に好かれる子だ、あれに実力が伴えば女はほっとかないよ。本当に対照的な二人さ、妙な事になんなきゃ良いけどね。リュー、アンタは熱心に見てたけどどうだった?」
「・・・特には。私には報復についてとやかく言う資格はありませんから。ただ・・・・・とても『かなしい』人だなとは思います」
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