Q.オラリオでいあいあするのは間違ってるか?   作:章介

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第七話

 

 

 

 

 

 

 

「――――はあ、どこに連れてかれたんだろうハイン。神様ももう三日になるのに帰ってこないし。ま、まさかハインの予想通りの顛末になってるんじゃ・・・!」

 

 

 

 

 ―――ホームに一人残されていた少年、ベルは百面相しながら街中を歩いていた。親しいものが見れば、うなだれる兎耳が幻視出来たかもしれない。

 

 

三日前の晩、突然非常に申し訳なさそうな表情でホームに訪れた人物にハインが連れて行かれた。別に強制されたわけではないが、相手は何の接点も無い筈のガネーシャ・ファミリア、しかもその団長だったのだ。しかも要件はお互いの神様がハインに用が出来たのでその迎えとのこと。

 

 

ホームにいたのがベルだけなら特に何も思わなかったが、ハインが去り際に『考えうる最悪の展開』を並べるだけ並べて行ってしまった。結局杞憂だったのだが、報連相が途絶えた状況のベルは、一人頭を抱えていた。

 

 

 

「待つニャーッ!そこの・・・・暗雲背負った白髪頭!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かと縁がある『豊穣の女主人』のウェイトレス、シル・フローヴァに財布を届けるのを頼まれたベルは、気分転換も兼ねて快諾することにした。

 

 

 

「――『怪物祭』か。もしかしてハインへの用事ってそれかな?でも、神様は何で戻ってこないんだろう。神様なら一緒にはしゃぎ回ろう、て言いだしそうなのに」

 

 

 

 しかし、その時に興味深い情報を得た。今日オラリオで大々的に開かれているお祭りは『怪物祭』とよばれ、ガネーシャ・ファミリアが主催しているという。もしかしたら二人もそこに居るかもしれないと辺りを付けたベルは、駆け足で人ごみの中に紛れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:闘技場近くの広間

 

 

 

 

「――――ああ、そういう事だったんですね。良かったあ、誰も帰ってこないから本当に何か事件に巻き込まれたかと思いましたよ」

 

 

「ごめんよベル君。まさかあの後一度もハイン君が帰ってないとは思わなくて。でもよく考えれば、祭りまで時間が無いから忙しくないわけないのにね。ああもう、自分の迂闊さでベル君を心配させるなんてボクのバカ!」

 

 

「まあまあ、こうして神様に会えたんですから。それでこれからどうします?ハインの出番って何時ごろなんですか?」

 

 

「それがボクにも聞かされてなくてさ。ハイン君に聞いても『付け焼刃なんて見せたくない。ヘスティアの趣味じゃないなら屋台巡りの方がずっと面白いぞ』だってさ」

 

 

 

 ―――実はこの文言とは別に『今なら誰にも憚ることなく二人きりでデート出来るぞ』の一言があり、それにまんまと食いついてしまったのだが。そんなことを知る筈もないベルは、ヘスティアと一緒に、シル探しも兼ねて屋台を巡っていく。二人揃って色々お子様で初心なため、見ている側が微笑ましくなるような有様だ。もしこの場にハインが居れば、きっとブラックコーヒーをがぶ飲みしていたかもしれない。しかし―――――。

 

 

 

 

 

『キギャアアアァアッ!!』

 

 

 

 

――――無粋な女神の介入によって、賑やかな屋台通りは戦場へと変貌した・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――数十分前

 

場所:闘技場 

 

 

 

 

 

『―――さて、続いての演目はこちら!痩せ身と侮ってはなりません。彼は世にも珍しい『魔法使い』の調教師です!ご存知の通り逃げ場のないこの闘技場、魔物との一対一の共演では魔法は十分にその力を発揮できません。しかしその常識を覆すのがこの少年!彼は我らのファミリアの一員ではなく、あのガネーシャ様が直々に今日出演を依頼した人材なのです!!さあ、彼が前評判の通り我々を魅せてくれるのか、将又その瀟洒な衣装を土に汚してしまうのか、皆様鷹揚の御見物を!!』

 

 

 

 司会進行役が観客を煽り続ける中、次なる演者が姿を現した。銀糸による意匠がなされたフロッグコートにシルクハット、痩せ身を均整に見せる厚手のベストに仮面舞踏会を思わせるマスク、それから全身を覆い隠してしまいそうな赤色のマントを身に纏った、これから舞踏会にでも繰り出せそうな出で立ちである。

 

 

 

 対する彼の相棒は、遠目から見れば唯の馬に見えるモンスター。ただし普通と違うのは、何倍も大きな体躯に点に掲げるように聳え立つ額の角が付いていることだろうか。そう、世間一般には『ユニコーン』と呼ばれるモンスターである。

 

 

 

 ガネーシャの合図とともに檻が開き、待ちくたびれたとばかりにすぐさまユニコーンが少年へと疾走する。対する少年は微動だにせず、観客は数瞬後の結末に息を飲む。

 

 

 今まさに角が突き立てられる、そう誰もが思った瞬間に少年はマントを前方へ広げ、紙一重でひらりと躱してしまった。その結末に解せないとばかりにユニコーンは憤り、二度、三度と突進を繰り返し、時には自慢の角をサーベルの如く振り翳すが、悉く演武の様に優雅に躱されてしまう。

 

 

 怪物を前に武器も持たず、これだけ余裕を持って往なしてしまう様は初めてであり、観客は喝采を上げる。何より彼らを熱くさせる理由は、これだけの猛攻を受けながら、一目で上物とわかる衣装に埃すら付けさせていないからだ。

 

 

 

 ――――本当は『神話技能』を使ったインチキなのだが、知らない人間からは相当の武芸にでも見えてるのかな、などと舞台の主役であり馬子にも衣装な状態のハインは一人ごち、舞台の死角に控えるスタッフに視線を向ける。

 

 

 

「(・・・『掴みは上々。後は準備ができ次第一気に終わらせろ』、ね。了解っと、それにしても慣れない事はするもんじゃないな。田舎者に舞なんざ無縁だってのに)」

 

 

 

 余裕綽々だと観客から思われているが、実際のところかなり一杯一杯であり、特に脳がオーバーヒートを起こしかけていた。

 

ハインが『怪物祭』の会場に連れてこられて直、ガネーシャが寄越したアドバイザーに演目のプランを相談することになった。ハインのプランでは、マントか何かで魔法の要である右腕を隠し、観客から紙一重でかわしているように見せて注意を引く。そうすることで必殺の呪文に必要な時間を稼ぎつつ場を盛り上げる。準備が整えば一気に片を付けて度肝を抜く、というものだ。

 

 

 実際にその場で実演してみせ問題ないことを証明したのだが、その時スタッフから待ったがかかった。確かにこれならよほどのトラブルがあっても対応できるだろうが、傍から見れば運動神経皆無な痩せた子供がドタバタとモンスターから逃げ惑っているようにしか見えない、と。

 

 

 ・・・そこから始まった有無を言わせない猛特訓が、ハインが一度もホームに戻れなかった理由だったりする。どう足掻いても付け焼刃にしかならないが、そこは派手なマントで姿を可能な限り隠して誤魔化す。見た目は衣装やシークレットブーツで整え、相手の動きに合わせて見栄えのする体の動かし方を覚える。実質二日しか残ってなかったため、冗談じゃなく缶詰にされたのである。

 

 

 

 つまり、今ハインは『敵の動きを注意深く観察する』+『マントを隠れ蓑に「被害を逸らす」を発動する』+『付け焼刃ですぐ記憶から飛びそうな体捌きを適宜行う』を全て同時に行いながら更にフィニッシュの呪文を声に出さずに詠唱しているのである。普段後衛しかしないモヤシにはきつ過ぎる苦行であるが、それももうお終いである。

 

 

 

 

 一向に状況が動かないことに焦れたユニコーンが、その体躯を空中へと勢い良く持ち上げ、頭上から重力を味方につけて落下してきたのである。先ほどから何故か『当たっているはずが躱されていると』いう理解不能な事態になっているが、目の前の獲物は体を翻すばかりで、僅かな移動からも足は決して速くない。ならば自分の蹄や体で踏みつぶせば回避の仕様が無い、と獣ながら思考した訳だ。・・・それがフィナーレへ向けて思考誘導されているとも知らずに。

 

 

 

 相変わらず逃げることなくその場に佇むハインを目にして、気の弱い観客などは悲鳴を上げる。落下速度的にもう回避は間に合わず、見た目からして膂力があるとは思えない。だが彼らは失念している。正体はどうあれ彼は『魔法使い』としてこの場に呼ばれているということを。

 

 

 ―――ユニコーンが勝利を確信した瞬間、それは起こった。それまでの落下速度をはるかに上回る速さで、まるで薙ぎ払われるように逆方向へと吹き飛ばされたのだ。実は彼が『力』のステイタスに秀でた冒険家では無い事は、だらりと下したままの状態の両腕からも明白だ。指一本動かさずに自分を退けた事実に困惑しながら立ち上がったユニコーンが目にしたのは、文字通り火の粉の海であった。

 

 

 会場の至る所に設置されている燭台、カンテラから、まるでウィルオ・ウィスプの様に独りでに火が抜けだして宙を舞う。百の火の玉が優雅に宙を舞うその幻想的ともおどろおどろしいとも取れる光景に目を奪われていると、やがて火がハインの手元へと集まり一つの巨大な火炎へと姿を変えた。それが次の瞬間にはユニコーンへと飛来し更に大きな火柱を上げる。数秒で火は消えたものの、ユニコーンは既に満身創痍だった。

 

 

 

 もう不要だとばかりにマントを投げ捨て、ゆっくりとユニコーンへと歩いていくハイン。その姿を恐れて後ずさるも、円形の闘技場に逃げ場など無く直に壁際に追い詰められる。そのままの状態でハインが何事か呟くと、糸の切れた人形のように跪き頭を垂れる。それを認めユニコーンへと跨り、それを待って体を起こした後に拳を空へと振り上げる。―――途端、会場が爆発したように喝采を上げる。

 

 

 

 これまでの立ち回りもそうだが、馬に跨るという最も無防備を晒す行為の最中でも反抗の兆しが無いことに観客は拍手を送った。ハインはそのまま会場をゆっくり一回りしてから舞台袖へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 ―――自分の出番を終え、舞台袖で一息ついていた所にとんでもないニュースが入る。モンスターが檻を抜け出し脱走した、と。監視が全員魂を抜かれた腑抜けにされ、折も丁寧に鍵を外していた所から外部の人間による犯行の可能性が高い。

 

 

 

 至急手の空いている冒険者は脱走したモンスターを始末するよう要請が行き渡る。今頃ギルド経由で他のファミリアにも同じ要請が回っていることだろう。ハインもこれを承諾し、北へと急行する。

 

 

 

「・・・何が狙いかは知らんが、せっかく新米冒険者が手を出せないモンスターにありつけるんだ。精々馳走にあずかるとするか。ベルは・・・アイツはトラブルが向こうから飛んでくる体質だからな。多分何かしら巻き込まれてるだろうなあ。『保険』を用意しておいて正解だったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:ダイダロス通り

 

 

 

 

 

 ―――闘技場から逃げ出したモンスター『シルバーバック』から命からがら逃げだすベルとヘスティア。明らかにレベル1の冒険者では相手にならない怪物に、一度は自分の命を捨て石に主神を逃がそうとするが、そんな選択をヘスティアが受け入れるはずが無く結局二人で逃げ続けていた。

 

 

 そんな彼らの唯一の希望、それが『憧憬一途』と『ヘスティア・ナイフ』だ。例え一度は無様に敗れようとも、格上の相手への時間稼ぎはその捨て身の覚悟も相まって必ずステイタスを向上させているはずだ。そしてヘスティアが目が飛び出そうな金額を対価に手に入れたナイフ。これは神匠と謳われたヘファイストスが手ずから鍛えた逸品であり、深層のモンスターでもないあいつ程度に後れを取る鈍ら等では無い。

 

 

 しかしこの二つを活路にするのに致命的に足りないものがある。そう、時間だ。相手は鼻が聞き機動力も高いゴリラのようなモンスターであり、加えて迷路の如きダイダロス通りで土地勘もない二人では容易に撒くことなどできない。このままでは追いつかれ二人ともやられてしまう、現にモンスターの手がすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 ―――しかしシルバーバックの手が逃げる二人に掛りかけた瞬間、突如頭上から一筋の閃光が飛来し、それが怪物の腕の傍の地面へ衝突した途端、怪物も直ぐ傍に居たベルたちも、共に対照に吹き飛ばされてしまった。すわ何事かと二人が立ち上がった時、目の前に『ソレ』は居た。

 

 

 

 ―――薄赤色の甲殻、無数の突起のような頭部に鉤爪状の手足を持ったソレは、蝙蝠の様な羽根をはばたかせながら、二人とモンスターの間に降り立った。

 

 

 

「ヒイッ!?な・なな何だいこいつは!ま、まさか新手かいベル君!!?」

 

 

「お、落ち着いて下さい神様!この怪物は見たことがあります。多分ハインが使役しているモンスターだった筈です」

 

 

「そうなのかい!?てことは援軍、こいつを送ってくるってことはハイン君も無事なんだね!・・・まあ、あんまり心配はしてなかったけども」

 

 

「ですよね。僕たちよりよっぽど強いし周りにガネーシャ・ファミリアの人達も居ますからね。・・と、そんなこと言ってる場合じゃなかった!言葉で命令してたってことは多分通じるよね?すみません!君はこいつを倒せますか!!」

 

 

 

 突然の事態に軽く混乱していたがすぐ持ち直し、ベルは目の前の『ミ=ゴ』へ質問を投げかける。ミ=ゴは振り向くことはせず頭部を左右へ振って返事をする。シルバーバックは吹き飛ばされて怒りを露にしているが、突然の乱入者に警戒し様子を窺っている。しかし、このままじゃすぐに痺れを切らして再び突撃してくるだろう。

 

 

 

「な、なら時間を稼いでもらうことは出来ませんか?僕たちならあいつを倒せるかもしれない方法があるんです。けど、それには少し時間が掛って――――」

 

 

 

 みなまで言わせず、ミ=ゴは両の鉤爪を左右に開き、まるで我が身を盾にするように仁王立ち(?)をする。それを了承と捉えると、二人は一刻も早くステイタスを更新すべく走り出す。

 

 

 

 ・・・そうして姿が辛うじて見えるかというところまで来ると、突然頭に直接響くような鈴に似た声が聞こえた。

 

 

 

『――ジカンカセギハカマワナイガ、ベツニアレヲタオシテシマッテモカマワンノダロウ?』

 

 

「怪物さん・・・///」

 

 

「ちょっとベル君!?あのセリフに憧れちゃ駄目だッ!ボクの中の何かが『それは死ぬぞ』って訴えてるから!!」

 

 

 

 

 ・・・・そうして最後まで締まらないまま、二人はすぐに発見されないだろう場所へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 




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