加速していく緋弾のアリア   作:あんじ

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第11話:やるべき事とは何なのか

近づいてきている台風と進路を共にしジャンボ機も日本本土へと向かっていく。先程大きな爆発音が2回し、2回目に関しては大きく機体が揺れていた。

 

「キンジ、あたしはセスナみたいな小型機は運転できてもこんなジャンボ機なんてなんとか飛ばせるくらいよ。着陸なんて到底無理よ」

 

そう珍しく弱音を吐くのはアリアだ。まぁ実際小型機しか操縦したことない人にジャンボ機の操縦を頼んだところで無茶ぶりにも程がある。

だがそういう時こそ俺の、このヒステリアスモードの出番だろう。コックピットの端に置いてあった衛星電話を使ってとある人物への連絡を試みる。

 

「変な番号から済まない。俺だ、キンジだ」

〈キ、キンジ!?お前何処にいるんだよ!エイジもいなくなっちまったし、アリアの乗ってる飛行機がジャックされるしでこっちはてんやわんやだぞ!〉

 

電話の相手は車輌科(ロジ)の武藤剛気だ。轢き殺してやるを口癖に基本的に乗り物はなんでも運転できる大の運転好きな悪友だ。そんな奴に電話したのはこのジャンボ機を運転するため。そしてこの飛行機の事のを考えれば余り時間は無いとみて良い。さすがに爆発音2回はどこかしらに支障をきたしていてもおかしくはない。

 

「俺はその現場にいるよ。エイジもアリアも一緒だ」

〈は?〉

「悪いが今は冗談に付き合ってる暇もなくてね。手短に現状を教えて欲しい」

 

そう言うと武藤も「お、おう」と困惑気味だが様々な指示を飛ばしてくる。

そしてさらにここへ通信が割り込まれてくる。通信元はもちろん離陸地点の羽田空港の管制室からだ。

 

〈AMA600便、聞こえているか?こちら羽田コントロール。現状はどうなっている?〉

「こちら600便、機長と副機長が意識不明の重体だ。事件解決に動いていた武偵2名で操縦を代替している。機体に関しては犯人による工作により何からがあったが、こちらからでは確認が取れて……いや、確認が取れそうだ」

 

言葉を区切ると、背中には走ってきたのか少し息の上がっているエイジがたっていた。少しすす臭く、制服が汚れている事からあの爆発音はやはり理子によるものなのだろう。

 

「で、どうなっている?」

「犯人は機体の側面部に穴を開けて逃亡。最初から追わせない算段だったのか直ぐに塞がれた。そんでこれは残念なニュースだが、内側のエンジン2機がミサイルによって破壊された」

「と、言うわけだが?」

〈AMA600便、安心して欲しい。その機体──B73-350は最新技術の結晶だ。エンジン2機でも問題なく飛べるし、どんな悪天候でも条件は変わらない〉

 

そうこちらを落ち着かせるためか分からないがそれは朗報だろう。このまま行けばなんとか羽田への着陸ができるだろう。そうなってくると問題はどうやって着陸させるかだ。正直、やり方が分かったからと言ってそれを完璧にこなすにはあまりにも条件が悪すぎる。

まず天候だが、台風接近により雨風が凄い。こうなるとタイヤは滑るし機体は左右に揺れる。場合によってはタッチアップになる事も考えられる。

さらには時間だ。搭乗した時間は夕刻の日が傾き始めた頃だったが今では外は真っ暗。こんな状況ではいくらライトで照らされていても地面との距離を計りにくい。距離を間違えれば結果としてこちらもタッチアップすることになる。

そんな中、このベルトさんとやらは何かが気になったのか武藤に質問を投げかけた。

 

『……ゴウキと言ったかね?1ついいかな』

〈えっ、俺か?誰か知らないがどうしたんだ?〉

『この画面にあるfuelと書かれた数値、そのTotalが減っている。今540が535になった』

〈クソッタレが、そりゃ燃料漏れだ。しかもその勢いだとかなりの量のな。そうなるとざっとだが、15分持てば良い方だろう〉

 

この場にいる誰もが息を呑んだ。何せ自分自身この状況ならなんとかなるだろうと楽観視をしていた。ヒステリアスモードの今なら状況次第ではあるが着陸だけならなんとかなるだろうと、そう思っていた。数回タッチアップをしてもロンドンへ行くための分の燃料を積んでいるのだからそれなりにはあったはずだ。

 

〈AMA600便、こちらは滑走路の管理のため一時的に通信ができなくなる。何かあった際はエマージェンシーコールで知らせてくれ〉

 

これにさらに息を呑む。管制室からの声音が変わった。何かしらの進展があったということだろう。緊迫した場面で半オクターブも無いくらいの少しだが声音が高くなっていたが、今の少しの間で別の緊張に変わった。諦めや悔しさなど今後の状況に対する心配と言った方が正しいのかもしれない。そういったものが声から感じとることができた。

どちらにせよ自動操縦は切られ、復帰の見込みは無いとなるとその技術を知識だけでも持っている人間が必要になってくるだろう。

 

「武藤、今車輌科で暇をしてる飛行機に詳しい奴はどれくらいいる?出来れば操縦方法について詳しいやつが良い」

〈なんでだ?〉

「察してはいると思うが自動操縦は切られていて戻りそうにもない。となると着陸が難しくなってくる。勘でできるほど甘い代物でもないしな。時間が無い、何人同時でも良い。できるか?」

〈何人同時って……〉

「できるんだよ、今の俺なら。時間が無い、頼めるか?」

〈あぁ、分かった。あと管制室に頼んで同型機のパイロットを呼べ。彼らならより実践的なこともわかっているはずだ〉

 

武藤の指示に従って管制室へとエマージェンシーを送って、着陸方法の説明を求めると向こうもこちらの声は聞こえていたのか準備を始めていた。おかげですぐさまにマニュアル的な事から実際の感覚的なことを端から端まで吸収していく。

だが、ここで思わぬ客を迎えることとなってしまう。

 

〈AMA600便、こちらは防衛省航空管理局だ。羽田空港への着陸は許可できない。現在、羽田空港はエマージェンシーコールで自衛隊による封鎖が行われている。もう間もなく誘導機が見えてくるはずだ、そちらの指示に従ってくれ〉

〈ふざけんなよ!こちとら燃料漏れであと10分も飛べねぇんだぞ!代替着陸(ダイバード)なんてどこにもねぇんだよ!〉

〈どこの誰かは知らないが、こちらは防衛大臣の命令だ〉

 

そう一方的に通信を寄越すと直ぐに切れてしまう。多分向こうも聞いてはいるがこちらからの抗議は認めないという意思表示だ。

そして言葉通りすぐさま雲の向こうに自衛隊の航空機、F-15Jが併走しているのが見えてきた。

 

〈聞こえているな?ここから海上へ出て千葉方面へと向かう。安全な着陸まで誘導する〉

 

これに従おうとするアリアの手を静止する。このまま着いていけば良くて海上での不時着、最悪墜落を迫られるだろう。海上は台風で荒れている今、そうなっては救える命も救えなくなってしまう。そんなのは絶対に無しだ。

 

「どうするつもりよ。少なくとも羽田には行けないわよ。成田も無理ね」

「向こうがその気ならこっちも人質を取ろう」

「でも都内には他に滑走路は無いわよ。それにどうこう悩んでる時間もないし」

「なぁ武藤、滑走路にはどれくらいの距離が必要になる?」

 

そう聞くと武藤もPCを眺めているのかカタカタと音が聞こえ、少し待つと回答が返ってきた。

 

〈まぁ今のその機体なら2450mは必要だな〉

「風速は分かるか?今の場所ので構わない」

 

するとこの通信を聞いていたのかレキの声が聞こえてきた。

 

〈私の体感では5分前に南南東の風、風速41.02mになります〉

「じゃあ武藤、風速41mに向かっていく着陸すると滑走路はどれくらいになる?」

〈……2050か。いや、この天候じゃあもう少し必要だな〉

「ギリギリか」

 

この発言にアリアとエイジが首を傾げる。通信機越しだが武藤も困惑しているのが伝わってくる。それもそうだろう、何せこれは正確な数値を今知っている場所で計算したからだ。この数値が最初か、導き出されていればそいつは世界一の天才ってやつだろう。

 

〈どこに着陸するつもりだ?〉

「武偵高の人工浮島(メガフロート)の形を覚えてるか?南北2km、東西500mの長方形だ。対角線を使えば2051mまでは取れる」

〈お、おい!まさか"学園島"に突っ込むつもりか!?〉

「安心しろ、空き地島の方だよ。レインボーブリッジを挟んで向かい側にあるだろ?」

 

これには全員が総じて唖然としていた。それもそうだろう、誰も人工浮島(メガフロート)の数値なんて覚えてやしないし、それを使おうなんて思いもしない。

これにはさすがに聞いていた防衛省もお怒りだ。

 

〈おい、AMA600便!そんなことは認められないぞ!そもそも今回の場合──〈あー、あー。んん、マイクテスト、マイクテスト〉〉

 

だが、ここに聞いたことの無い第三者の声が聞こててきた。それもこの場の空気に似合わない少し軽い感じの声だ。

 

〈えっ、もう聞こえてる?あらそうですか。こちら警視庁、本願寺警視監です。泊ちゃん、聞こえてる〜?〉

 

通信に割り込んできたのはとんでもない人物だった。

 

 

 

△△△

 

 

 

「本願寺のおじさん……!?」

〈おっ、聞こえてますねぇ。良かった、良かった〉

「で、でもなんで」

〈いや〜、泊ちゃんお困りだって言うじゃない。私としてもここで大勢の命を見捨てるわけにはいきませんしねぇ、ならばここは私の出番でしょう。遠山くんだったかな?そのまま着陸を許可します。なーに、大丈夫。そのうちお上も黙りますから安心してください〉

 

通信に割り込んできたのは奇しくも頼りになる人物、警視庁における名実共にNo.2の本願寺のおじさんだった。両親にとってとても親しい間柄らしく、小さい頃からよく相手をしてもらっていた。そんな俺にとって最大のコネクションとも言える人物がコンタクトを取ってきたのだ、驚きを隠せない。

そして何よりもおじさんの言う事が少し意味深に聞こえてくる。これはいつもの事だが、武偵校に行くと決めた時もだがおじさんからの連絡で「大丈夫ですよ、君を落とすことなんてありませんからね。私もそうさせませんよ」なんて言うもんだから裏でなにかあったのではないかと今でも勘ぐってるほどだ。

 

〈泊ちゃん、今日はついてますよ。なにせ運勢"最高"、ラッキーカラーは赤!着陸の失敗は無いでしょう!あっ、ここまで?じゃ、泊ちゃん後で待ってますよ〜〉

 

嵐のように過ぎ去っていった。だが悲しいかな、外の嵐は過ぎ去ってくれてはなかった。

そんなこんなしていると、本当に防衛省からの横割は無くなり一か八かの賭けに出る場面になっていた。

地面は濡れ、都会の明かりってのが余計に空き地島の暗さを強調していた。正直、このままだと着陸すら難しい程に見えず、ただの暗い東京湾に突っ込みかねない。

 

「さて、用意は良いかい?」

「良いも何も、あたしにはどうにも出来ないじゃない」

「確かに。俺にもどうこうできないぞ」

 

持ってあと5分、いや3分強と言ったところか。元々理子があれこれしたせいで低くなっていた高度はビルと同じくらいまで下がってきており、機体も着陸準備に入らざるを得なくなっている。

 

〈誘導灯も無しに着陸は無理だぞ。しかも豪雨で視界は最悪、オマケに暴風ときてる。それに加えて手動着陸なんてとてもじゃないが〉

「悪いな、武藤。俺はアリアと心中するつもりは無いんだ」

「べー、だ!絶対にあんたとなんかゴメンよ!」

「俺を忘れてない?まぁ、俺も死にたかないけど武藤の言う通り誘導灯無しの夜間着陸なんてどんな凄腕でも無理だぞ」

 

会話に省かれて若干の疎外感を覚えながらも、武藤が言うことに理解を示す。実際、遠目で見ても空き地島の輪郭すら見えないのだから無謀にも程がある。

 

〈それにこの路面じゃあ2050じゃ止まれないぞ!〉

「そこはなんとかするよ。じゃあな武藤、当機は着陸準備に入る」

〈あっ、おい待て!待てよ、キン〉

 

会話の途中でも遠慮なく通信を切る。ここからはガチで一発勝負の神経を使う繊細な作業に入る。ここでよく聞く「当機はまもなく──」といった音声が流れていく。こんな場面なのにキンジは少し笑っていた。

今までもあったことにはあったが、キンジはこうした緊迫した場面になると少し笑みがこぼれる事があった。本人曰く無意識らしいが、こうした場面に出くわすと、どうしてもやってやろうという気が強くなるのか笑みが出てしまうらしい。

そして往々にしてこういった場面でこの笑みを見た俺にも試練が降り掛かってくるのだ。

 

「なぁ、エイジ」

「分かってる。どうせ最後の賭けに俺を使いたいんだろ?」

「さすが、相部屋(パートナー)なだけはあるな。頼めるか?」

「ったく、卑怯だよな。俺達の使命は市民を守ること。ここで出なきゃヒーローじゃない」

 

キンジはこう言いたいのだ。路面が雨で滑るこの中、2050で止まることはほぼ不可能だろう。だが、どうにかしてそれを止める術を思いついた。しかし、それだけでは100%にはならない。だから俺が、いや仮面ライダーとして俺がその最後の締めをしてくれということだ。

幸いにも理子の開けた穴から外へと飛び出す事ができる。そして、俺がやるべきことはその機体を逆方向へと押し返すこと。この機体はもう逆噴射(バックファイヤー)できない。その代わりを俺で担おうとしているのだ。

正直、これはバス以上に無理難題だ。完全にアジャストしていなかったとはいえバスを持ち上げるのにも一苦労した。そんな俺ではジャンボ機なんか不可能に近いだろう。しかも俺は最後、最悪の場合を考えての賭けだ。やらなくても良いかもしれない。

けど、ここでやらなければこの着陸の成否に関わらず俺は後悔するだろう。救えるものを救わなかった。できることをやらなかった。そして何よりも正義の味方(ヒーロー)としての責務を無視したことをだ。俺は自分の肩に乗る重いものを無視できるほど楽観的な人間ではなかったということだ。

 

『無理だ、と言ってもやるのだろうなキミは』

「もちろん」

『ならば止めはしない。だが約束してくれ、決してその身体を捨てるようなことはしないでくれたまえ。そうしてしまうと、今以上の人が苦しむことになるだろう』

 

そう、俺は仮面ライダーとしてロイミュードを倒すという使命がある。だからこそ今ここで力尽きるわけにはいかないし、ロイミュードを発端としたこの事件でこれ以上被害を増やすわけにもいかないのだ。

 

「時間だ、いけるか?」

 

そう背中から声が聞こえてくる。頼んだキンジとしてもこんな賭けをするのは業腹だろう。こいつのためにもこの賭けには勝たないといけない。

 

「待ちなさい。まだあたしからの提案の答え、してないわよ」

「帰ってきてからじゃダメか?」

「ダメね、何せ答えはノーだもの。あたしのパーティーに入れてあげない。入れて欲しかったらちゃんと帰ってきなさい」

 

そうアリアも鼓舞をしてくれる。まぁアリアの組むパーティーに入りたいかと聞かれれば答えはすぐには出ないが、今後生活していく中でアリアを敵に回すのは勘弁願いたいところだ。何としてでも帰ってこなければならない。

 

「今走り出してこの大勢の命を救えるのなら……!考えるのはやめた!いくぞ、ベルトさん!」

『OK! Start Your Engine!』

「変身!」

 

赤い鎧を身にまとい、気合を入れる。とりあえず蹴りを入れて理子の爆破によって再び穴を開ける。準備運動のように少し屈んで片膝を伸ばす。

父さんがよくやっていたポーズ、そして先代のドライブが使っていた決めゼリフを放つ。ここが正念場だと、そう意識を切り替える。

 

「ひとっ走り、付き合えよ!」

 

勢いよく穴から飛び出していく。高さはビルの10階程度だろうか、そこから飛び降りていくと眼下には何も見えない真っ暗な東京湾が待っていた。

しかし、そんな暗闇から唐突に光が現れた。よく見れば海にはボートとマグライトを搭載したモーターボートが一台止まっていた。そして空き地島の方に点々と誘導灯に似せたライトや、生徒がライトを振って待っていた。

 

『キミは良い仲間を持ったね』

「そうみたいだな」

 

飛行機よりも早く着地して、降りてくる飛行機を待ち構える。手順としては簡単で、降りてきたタイヤを全力で止めるだけ。こんな機体にもなると高さ的にも大きさ的にもタイヤ以外で地面に触れながら触れる場所など他にない。

 

『SP,SP,SP ,SPEED!』

「うおおおおお!」

 

地面に足をくい込ませながらとてつもなく重く、速いタイヤを無理やりに押し込む。近くで誘導灯代わりに立っていた数人もこの姿を見て「なんだあれ」や「何やってるんだ!」などと聞こえてくる。だが誰がなんと言おうとここで止めなければもはや終わり、この感じだと滑り落ちていくのが目に見える。

 

「ベルトさん、何か手は無いのか!?」

『無理は承知だが、手は打ってみよう!Come on,スピンミキサー!』

 

重いクラクションと共に飛行機の中から高速で飛んできたのはトラックミキサだった。シフトカーが来たということはこれを使えという意味なのだろう。

一旦片手を話して直ぐにシフトブレスへスピンミキサーを差し込み、そして一気に必殺技へと持ち込む。

 

『ヒッサツ、フルスロットル!ミキサー!』

 

そして放たれたコンクリートの球が飛んでいき、タイヤを徐々に固めていく。接地面と垂直になるようや直角三角形を築いていき、タイヤの大きさと比較して小さめの、縁石のような形にしていく。

回転するタイヤを止めるには逆ベクトルの力を加えるか、もしくは接地面方向への大きな力で摩擦を無理矢理に止める2択がある。だが現状後者をするにはパワーと大きさ不足だ。となれば止まるモーションに入っている飛行機の手助けという感じで前者を選択した。

車輪止めの形を作り、自分自身という楔を使って止めようって算段らしい。

 

「止まれ、止まれ、止まれぇぇぇぇ!!!」

 

何十トン、何百トンを止めるにはさすがに身体への負荷がデカすぎて限界だ。持ってあと数秒、そして滑走路の限界もあと100m弱。身体の所々でミシミシと嫌な音が聞こえ、バチバチと漏電気味にスーツの限界も知らせていた。

あと10m、ここで限界が訪れる。身体は限界を迎え、スーツの方も内部の破損率が6割を超えた。スーツは解除され、最後のひと踏ん張りと入れた力で弾かれ、逆にぶっ飛ばされてしまう。

10mなんて軽く超えて飛ばされていく中、飛行機は際に設置されていた風力発電機を起点に滑りを上手く使い旋回していく。滑走路の端と平行になるように飛行機は止まり、そして俺は海へと投げ出されていった。

 

「ップハァ!……これにて一件落着ってか?」

『そう思いたい所だがね。さて、どのようにして陸へ戻ろうか』

「みんなの所に戻りたいがさすがに急に海からじゃあな。説明も難しいし」

 

ここからは済んだ話だが、キンジとアリアにさえ忘れられた俺は台風の中の東京湾を漂い続けることとなる。助けられたのはベルトさんがシフトカーを伝い呼んだイリナさんが迎えに来た約1時間後の話であった。

 

 

 

 

△△△

 

 

 

 

あれから数日、キンジはジャックされた飛行機を無事着陸させたヒーローとして忙しない日々を送っていた。当のアリアも母の冤罪が証明され公判が伸びたとのことでまだ日本に居座っていた。というか俺たちの部屋に入り浸っている。

まぁそもそもアリアの母さんが捕まっていたことも初めて知った俺は、そんな些細なことを気にはしていなかった。そして、アリアもご機嫌なのか好物のももまんを頬張りながら読書にふけていた。と言ってもファッション誌だが。

 

「そんなに機嫌が良いとは何かあったのか?」

「ふふん、キンジが決心してくれからね。それにエイジ、あんたもよ。これでようやく2人。イ・ウーに立ち向かうにはまだまだ必要よ」

 

後に聞いた話だが、キンジはアリアが帰国するのを食い止め、なんならそこから屋上からのダイブを決めたらしい。そして「正義の味方は無理だが、アリアの味方くらいにはなれる」と宣言した。それがアリアにとってはとても嬉しいことだったらしい。

そうした余韻に酔いしれる中、お騒がせなキンジがドタバタと帰ってきた。

 

「ヒエッ」

 

そんなことを口にしたかと思うと、カタカタという下駄のような音と一緒に玄関のドアが切り裂かれた。もう一度言おう。ドアが切り裂かれたのだ。

ドアが斬られ、土埃が舞い、その中から勢いよく刀が飛び出してくる。土埃が払われると、その中からは鬼の形相をした大和撫子が刀を振り上げていた。

 

「天誅ぅ──ッ!」

 

そうして、この部屋に新たな爆弾が舞い込んできたのであった。

 




長くなりましたがこれにて一章は終わり!エタってたら10話書くのに1年半近くかかりました。次からはもっと早くしたいですね。
さて、次話からはあの大和撫子が登場します。はてさてどんなヤベー奴になるのか楽しみです。あと、物語の本筋には関わってきませんが本願寺さんは時々出てくる予定です。


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