加速していく緋弾のアリア   作:あんじ

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第二章:砕け散る氷炎(コントラディクション)
第12話:喪失感をなぜ抱くのか


キンジの悲鳴と共に扉が切り裂かれると、そこには鬼がいた。正確には鬼のような険しい顔をした白雪が立っていた。それもポン刀を構えてだ。これには思わず俺も困惑してしまう。

 

「ど、どうしたんだ白雪……さん」

 

何故間が空いたかと聞かれれば、鬼神に睨まれたからとだけ答えておこう。

 

「泊くん、少しどいてくれる?そこの女を斬れないから」

「ヒエッ……」

 

蛇に睨まれた蛙、星伽白雪に睨まれた俺、同意義の言葉だ。さすが歴史ある家で鍛えられた女性なだけありその視線にも立ち振る舞いに殺気が込められている。迂闊に動こうものなら叩き切ると言わんばかりだ。

どうやら白雪さんの目的は俺やキンジではなくアリアに向いていたようで、まぁそれもそのはず。白雪さんはキンジの幼馴染であり、傍から見て分かることだが惚れているだろう。最後の部分は憶測だが、任務でいない時や白雪自身が忙しい時以外はほぼ毎日やってきては炊事洗濯を終わらせて作り置きまで用意していくほどの通い妻っぷりを発揮している。これで惚れていなければ、武偵校に通いながら知り合いのた世話をただで焼きたいというこのキテレツ学校には大変珍しい奇っ怪な変人という事になる。

 

「キンちゃん、どうして電話出てくれなかったの?忙しかったなら、メールの返信は?私、すっごい怖い思いして、心配して送ったんだよ?」

「えっ、電話?メール?……あっ」

「ヒエッ……」

 

覗いてみれば留守電に切り替わる度に30秒おきで電話をかけており、それだけで履歴が埋まっていた。ざっと計算しても3時間ほど電話をしていた事になる。更にはびっしりと埋められたメールが、これでもかと送られてきていた。ほぼ同じ文章が約500件も容量限界まで送られてきている。もはや一種のホラーだ。

 

「キンちゃんを誑かす女は殺します!」

「いや、ダメだろ」

「じゃあアリアを殺して私も死にます!」

「もっとダメじゃないか!?」

 

言わば彼女は大変なまでの過保護であり、そして何よりも想像を遥かに超えるヤンデレなのである。2人で夕飯に食べるものを考えていたら()()やってきた白雪さんが()()キンジの食べたい物を作って行ったのだ。屋上という他に誰もいない空間ではなしていたはずのこの会話を聞かれていたのだと察したとき、何よりも恐ろしかったのを覚えている。理子の姿をしたロイミュードに薬で寝かされた時より恐怖を感じた。

 

「なんなよ、あんた!エイジ、どっかに追いやりなさい!じゃないと風穴!」

「いや、俺には難しいというか、ちょっと。……キンジ、頼んだ!」

「知らねぇよ」

 

示し合わせたかのように俺は最速で切り裂かれた扉へ、キンジはため息と共にベランダへと向かった。外出用のサンダルで全力ダッシュしていくが、キンジの方へ意識が向いてくれいるお陰で紛争地帯を問題無く抜けることが出来た。東京湾しかないベランダへ向かったキンジへは祈りを捧げておく、南無三。

部屋の中から地団駄とアニメ声による「風穴!」が聞こえた気がするが、俺は何も見ていないし聞いていない。触らぬ神に祟りなし、触らぬアリアに弾丸なしだ。

部屋を出てどこへ行こうかと悩んでいると、このあと俺に用事があるらしく腰に巻いていたベルトさんから声がかかる。

 

『ちょうど良い。エイジ、私とドライブピットへと向かおう』

「ピット?トライドロンの整備する施設ってことか?そんなの何処にあるんだよ」

『着いてきたまえ』

「まぁ、ベルト付けてるの俺だから着いていくとか関係ないけどな」

 

後ろから聞こえてくる音から現実逃避をしつつ、ベルトさんに案内されていくと、男子寮の部屋からまず階段を降りてちょうど俺とキンジの住む部屋の真下にあたる部屋へと導かれた。鍵は何故か家と同じもので開くのは不思議でならないが、まずここは武偵校の男子寮だと言うことを忘れてはならない。

部屋の作りは一緒で2段ベッドあり、他に2部屋ほどある3LDKなはずなのだが、入ってすぐ隣の部屋を開けると中には何故か地下へ繋がる階段が見えていた。

 

「秘密基地……」

『Exactly.ここは君と、私達と、そしてトライドロンのためのベースキャンプ。だからドライブピットだ』

 

入り口にあるスイッチで電気をつけて降りていくと、そこにはトライドロンを中心にした広々とした空間があった。少しばかりのPCや周辺機器、そしてハシゴを登って2階というかキャットウォークがあるまさに秘密基地が広がっている。幼少期、誰もが一度は夢見た秘密基地が今目の前に現れた。

 

『ここでは私の整備やトライドロン、そしてシフトカー達も整備を行う。ちなみに、今のところは君の周りだとイリナしか知らない』

「いつの間にこんなの作ってたんだ?工事してる音なんて聞こえなかったぞ」

『半年前だ。元々シェルターとして使われる予定だったらしいが予算の関係で放棄されたみたいだ。そこに入口を作って機材を運んできただけで、全てシフトカー達とイリナのお陰さ』

 

よく見ればそこら辺に見たことの無いシフトカーもある。俺のもとにいるのはマックスフレア、ファンキースパイク、ミッドナイトシャドウとシフトスピードの4つだ。見たことの無いのに寄っていくと逃げていってしまう。

そんな中で唯一、今目の前にいて微動だにせず止まっている奴がいた。黄色の、ダンプカーに近い感じのシフトカーだ。

 

『彼の名前はランブルダンプ。この地下への道を掘り進めてくれた功労者の一人だ』

「へぇ〜!やっぱりダンプって言うだけあってパワーもありそうだな」

 

俺の言葉に反応するようにランブルダンプから今までのシフトカー達とは違う重い重低音なクラクションが聞こえてくる。ベルトさんも言っていたが、彼かには彼ら個人の意思というものもあるらしく今回は喜んでもらえたと思っても良いのだろうか?まぁそこら辺はまだ付き合いの浅い俺には分からないことだらけだ。

 

『ダンプも君を気に入ったようだ。乗りこなしてみろと言っているよ』

「おぉ〜それはすごいね、私でも懐いて貰うのに時間かかったのに。でも残念、シフトスピードだとダンプのパワーを乗りこなせないよ」

 

声と共にドアから現れたのは先程話にも出ていた鑑識科(レピア)のイリナ先輩だった。つい先日まで知らなかったが、実は3年生の実力者だったりする凄い人で、この学校にしては優秀な人だったりする。

先程のベルトさんの話にもあったようにドライブピットは男子寮の下にあり、入口の扉は男子寮に繋がっているはずだ。

 

「どこから入ってきたんです?ここ、男子寮ですよね?」

「ん?あぁ、ここは男子寮だよ。ただ、ここの土地の所有権は警視庁が持ってるんだよ。ここ、元々警官志望の為の寮だったからね。今でも周りは警官関係者が多く配属されてるんだよ。現に君とか。そして、ここは男子寮ではあるが周りの生徒からすると倉庫だと思われているんだよ。何せ私がここまで色んなものを運び入れてたからね。さてと、それでなぜ私は君のもとを訪ねたと思う?」

 

出会ってからそう長い付き合いではないが、この人はどこか自慢げなのだが今はいつにも増してどや顔になっていた。しかもアリアと比べてもそう大差ないまな板を突き出しながら腰に手を当てている。

 

「いや、何も聞かされてないん──」

「──なんと!ドライブの新しい姿へのアジャストが終了した!その名も仮面ライダードライブ タイプワイルドだ!」

 

がさごそとポケットから取り出されたシフトカーは黒を基調としたマッシブなカラーリングとデザインをしていて、まさにワイルドさが際立つ4WDがその手に乗せられていた。

新フォームと聞いてウキウキしたが、出てきたのがパワータイプだとは思わなかった。ドライブは車をモチーフにした部分がほぼだからF1マシンなんかを想像していたが、4WDでしかもオフロードカーを彷彿とさせるデザインをしている。まさにパワーのある車だ。これなら飛行機でも止められるんじゃないだろうか。もっと早く欲しかったな、これ。

 

「で、これ今変身してみても良いのか、ベルトさん?」

『Off course.やってみたまえ』

「んじゃ、失礼して」

 

シフトワイルドを変形させシフトブレスへと差し込む。いつものように使おうとするが、何故か反応せず全くをもって動きもしない。

パワータイプなだけに変身にもパワーが必要なのかと体重をかけてみたりもするが反応する気配は微塵も感じられない。

 

「イリナさん、これ壊れてるんじゃない?」

『そうでは無いんだよ、エイジ。シフトワイルドに変身する為に必要なもの。それは情熱(パッション)だ』

「ぱ、パッション!?」

『そう、パッションだ。今のキミは何かを精力的に、情熱的に行おうという意思が見えない。あのハイジャック事件以降どこか心ここに在らずといった状態だ』

「……、」

 

自分では今まで通りの日常が帰ってきていると思っていた。理子がいなくなっただけで、他の人からしてみればただいないだけかもしれないが俺にとってはそうじゃない。

一瞬でもあんな顔をする程思い詰めていた彼女の"何か"に気が付いてやれなかった。一時期パートナーを組み、クラスも学科も一緒。日常生活であってもそれなりに関係はあった。短くない時間を過ごした。だが、俺は探偵の端くれでありながら何も察知できなかった。

喪失感と表現すれば良いだろうか。別に勉学等に身が入らない訳では無い。けど、どこかふとした瞬間にあの顔がフラッシュバックして後悔や自責の念が沸いてくる。

 

『感情というものだ。切り替えろというのは難しいのは分かっている。だが、キミは必要以上に背負い過ぎるクセがある。割り切る事も大切だ。()()考えるのをやめるんだ。キミの口癖だろう』

 

タイプワイルドを渡すしたイリナさんは研究があるからとそそくさと帰ってしまう。

かくいう俺もベルトさんを置いて、壊れたままのジャンボジェットを眺めるように黄昏れていた。




就活と卒論と単位という悪魔に追われ何もできない日々を送っています。なるべくモチベを上げて更新を早くしたいなぁと思っているので頑張ってみます。
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