加速していく緋弾のアリア   作:あんじ

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忙しい。あぁ、忙しい


13話:甘い蜜は罠なのか

東京湾を眺め黄昏ていると、いつの間にかレインボーブリッジが名の通り虹色に点灯していた。

流石に腹が減ったし、これだけの時間が経っていればWWⅠ(第1回我が家での戦争)も終戦しているだろう。

 

「キンちゃんのバカ―ッ!」

 

男子寮の部屋の前までくると、すれ違うように白雪さんは部屋から走って出て行ってしまう。律儀に出た時に一礼していたが。

部屋の中を覗けば赤面してまるでセメントでやられたようにカチンコチンなアリアと、白雪さんを止めようとしていたのかこちらに手を伸ばすキンジが見えた。

 

「白雪さんがあんなに怒ってるの初めて見たぞ。何やらかしたんだ?」

「……何もしてねぇよ」

 

そんなそっぽ向いて、変な間があってもうそれは何かあったと言っているのと同意義だろう。まあ状況から見て、あらかた恋愛絡みでひと山あったのだろう。もしかしたら手を繋いだら子供ができるとか、子供はコウノトリが運んでくるとか。

まぁ、だがそんなのはどうでも良い。問題はこの部屋だ。私物は置いては無かったのは幸いだが、家具はもうボロボロ。棚は崩れ、机は足が折れた上にそもそも天板が粉々。窓ガラスも割れ、まさに戦争の後のような有様だ。

唯一無事なダイニングテーブルの埃を払って、椅子が安全な事を確認してとりあえず座る。そう、俺の目的は別に部屋の様子を見に来たのが主じゃない。

 

「さーて、夕飯なに食う?」

「もうピザでも頼もうぜ。俺は疲れた」

「じゃ、ドミノでいいな」

 

扉も壊れ窓ガラスも割れたとても風通りの良い部屋にピザがLサイズ3枚届く頃にはアリアもぎこちなく動き出した。

配達員は一応チャイムを鳴らしてくれたが、こんな地雷源が爆発した後みたいな所に届けてもらって悪い事をしたと思う。

 

 

△△△

 

あれから数日、アリアは図書館へと通いつめていた。仕舞いには俺の元へやって来ると事実確認という体で子供の作り方を聞いて来るという暴挙を成す。どうやらキスで子供ができると思っていたらしく、呆れてしまった。ホームズ家の情操教育はどうなっているのだろうか。せめて一般的なことは教えておいて欲しいものだ。

そんな俺は冷静になったアリアからクレカを渡され、家具を買ってくるように言われ、まず家電量販店を訪れていた。

 

「えぇっと、後はテーブルとソファーね。棚とPC用のデスクもか」

 

この際に新品のPCとテレビも買おうとキンジと話していた所だ。どうせ型遅れで買い替えが必要だったパソコンだったので、壊れてくれて助かった。テレビもいい加減チューナー無しの液晶テレビにしたかった所だ。

当の本人であるキンジは何やらアリアと特訓があるらしく頭をぶっ叩かれる為に練習に励んでいるらしい。

家電量販店なら秋葉原だろうと来ていたが、どこも価格競争の為に様々なサービスを展開していて悩みどころだ。とりあえずうちの場合直ぐに破損するので保険が長く効く所を優先したい。

そんなこんなで悩みながらヤマ電で一通り注文して、明日にでも届くように速達で宅配を頼み平日なのに人混みが多い電気街のストリートを歩く。

 

「う〜ん、う〜ん?」

 

すると、こんなところには珍しく天然の銀髪を腰近くまで伸ばした少女がしゃがんでディスプレイを眺めていた。さすがにこんな場所では目立っており人混みの中でも少し避けられるようになっている。

横に立って見てみれば中はコスプレの衣装を取り扱っているお店らしく、キャラクター物から秋葉原(ここ)では鉄板のメイド服まで置いてあるのが伺える。どうやら彼女はこのメイド服を見て何やら唸っていたようだ。

 

「あー、キャ、Can I help you?」

「ん?No,I'm fine.というか大丈夫、日本語は話せるよ」

「そうなのか、助かった。何かお悩みで?お金のこと以外なら力になれるかもしれない」

 

こういうのはクセだ。俺の父さんと道端で困っている人は放っておかなかった。母さんも同様に。小さい頃からそうしろと教えられてきたし、それが当たり前だったから、こういう時に咄嗟に手を差し伸べてしまう。別に悪いことじゃないんだが、こういう事をする事でよく厄介事に巻き込まれているのは確かだ。

 

「あぁ、実は観光で来ててね。せっかくだから秋葉原でメイド服を買ってみたいと思ったんだが、いつも買い物は自分でしないからどれが良いのか分からなくてね」

「なるほど。まぁ、多少の心得はあるから助言できると思うよ」

「本当か!?それは助かる」

 

昔は、今ここにはいない理子(ヤツ)に連れられよく来ていた。それに、父や母に連れられ知り合いにいる著名オタクの人のサイン会などに来ており意外と慣れ親しんだ場所でもある。

ここ最近の秋葉原、特に電気街はPCだったり無線機だったりを主にしているお店が多かったが、徐々に一括りになっていたオタクが細分化され電子機器は裏路地に、メインストリートにはアニメやアイドル、メイド喫茶などの店舗が並ぶようになってきた。

その流れを汲んで、ここ最近はコスプレ衣装や道具など被服を扱うお店も増えてきている。ここは立地的にも、店舗の規模的にもそれなりの業績がある店だろう。

彼女の手を引き入店すると、そこには既にコーディネートされた服から布やボタンなど自由にカスタマイズできるような物まで置いておりまさに専門店、オタクの為の店といった感じだ。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

店の雰囲気とは裏腹に、モデルもビックリな理想的なモデル体型の女性が1人カウンターに佇んでおり他に店員が居ないことから彼女が責任者なのだろう。美人でモデル体型で経営も上手くいっている。天は彼女に二物も三物も与えているようだ。

 

「ふふっ、まるで夢の国だ」

 

だが残念、俺の隣にはそんなモデル体型の女性とは負けず劣らずの少女が日本人には無い天然の銀髪という武器を持っている。視線を集めるのも仕方の無いというものだ。

 

「あぁ……これも良いがあれも良い。いや、こっちも捨てがたい」

「……優柔不断だな」

「視野が広くて思慮深いと言い換えてくれ。私も恋焦がれる乙女なのだから」

 

小さな子供のように目を輝かせ、店内のメイド服を漁り試着し、小道具なども見ていたら気付けばかなりの時間が過ぎていた。プチファッションショーも幕を閉じる頃には辺りの店も閉店の準備を始め、ここも閉店の時間だと言われる。彼女も流石にお気に入りの一着を決めて会計を済ませていたので、外に出て解散の流れとなった。

 

「良い1日をありがとう。これも何かの縁だ、良ければ名前を教えてくれないか?」

「俺か?俺は泊 英志(とまり えいじ)。日本の高校生だ」

「──泊か。Merci(メルシー)、トマリ。キミに出会えた運命に感謝するよ」

「そこまでか?まぁ、メイド服含め喜んで貰えて何よりだよ。えーっと……」

 

武偵が気を付け無ければならないもの、それは金と女と毒だと言われている。金に溺れる者や金に釣られ危ない橋を渡る者は長くは生きられない。毒はもちろん、食べ物や飲み物、触れる物に塗布され、最悪の場合は死に至る。

そして女。これが最も気付きにくい、感覚のない罠だ。別になんて事ない出会いが実は仕組まれていたり、惚れた女が原因で腕が鈍ったり正常な判断ができなくなる。

甘い蜜で誘われ、気付いた時にはもう手遅れ。ハニートラップとは怖いものだ。

 

「ロランス。シャーリー・ロランスだ」

 

暗闇の中でも映える銀髪が春の風に吹かれてなびく。綺麗なものだと眺めていた。だが俺はこの時、知らぬまに蜜の中へと誘い込まれていたのだった。

 




先週だけで合計3万文字ほどレポートを書いてたりしたら小説すら書く暇がありませんでした。8月になったら少し頻度は上がると思います(希望的観測)。

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