「なぁキンジ、俺はお前の事を誤解してたようだ」
すっかり夕陽も沈み、光は外からではなく天井から煌々としている。部屋には俺、キンジ、そして件の少女である神崎という珍妙な組み合わせが成り立っていた。ソファにどっかりと座りアンヨを組んでいる神崎に、床で正座をしているキンジ、そしてそれに目線を合わせるようにしゃがむ俺、なんて感じで3人ともリビングに集まっている。
「いや、あれは誤解っていうか、その」
「すっかり白雪の事があるから女は作らないものだと思ってたがロリコンでSMプレイなんてマニアックに染まっていたなんて」
「殺すぞ英志」
なんて茶番を繰り返しているとコーヒーを飲んでいた神崎がカップを置いてこちらにやってきた。俺の後ろをとるような位置に来ると、画家がするように指でL字を作りカメラのフレームに写すようにして俺を見ていた。
「アンタがあのエイジなの?」
「"あの"とは何の事か知らないが、俺が泊 英志だ」
「そう、アンタが。ちょうど良いわ、アンタもキンジと一緒にパーティーに入りなさい。その超人と言わしめた力を思う存分発揮して欲しいし」
いきなりなんなんだとも思ったが、この言葉に俺も思わず反応してしまう。そもそもどこで超人と言わしめたのか身に覚えが無いし、まず大前提に何故俺なのかが分からない。少なくとも万年Eランクの俺を入れる必要性を感じない。
「なぁ神崎、その超人ってなんなんだ?俺は凡人だし、そんなのになった覚えは無いぞ」
「hum?家庭の事情ってやつかしら?ま、良いわ。悪いことを聞いたわね、忘れてもらって良いわ」
「えっ?あ、はぁ……?」
凄くもやもやする、上手く誤魔化されたという感じだ。多分何を聞いてもはぐらかされるだろうし、この娘の感じだと自分で調べれば?というスタンスに思われるのでそもそも教えてくれなさそうだ。
そんな風に俺が頭の中をもやもやさせている中でも、神崎は待つという事をせず続けざまに喋る。
「それと、アリアで良いわ。で、私のパーティーに入るの?入らないの?」
まず、パーティーは文字通り武偵が何人かで組むというものだ。しかし
俺だったらそんな奴に自分の命は預けられないから、速攻で話を無かった事にするだろう。
「保留だ。そもそも俺は
「……そうなの。じゃあキンジもそれで良い?」
そう、俺はキンジと違い戦闘に置いては並の警官程度しか無いのだ。武偵では下の上が良いところだ。だからこそ、この決断は間違ってない。
そう思い俺達が振り返ると、そこに既にキンジの姿は無かった。あるのは身代わりのクッションだった。
背中から何故かとても熱いオーラを感じるが気にしないのが1番なのだろう。俺は後ろを向くことなく一言「外で飯食ってくるわ」と伝えその場から逃げ出したのであった。
△△△
次の日、俺はとある依頼の成果を確認しに秋葉原へと来ていた。とあるメイド喫茶の端っこの席、そこにゴスロリ風に改造された制服を着た少女からの報告をもらいに来たのだ。
「それで理子、仮面ライダーって単語で何か分かったか?」
「うーん、それがねぇイマイチなんだよね。理子的に満足しない結果かな」
理子が対面の席で大盛りのパフェを頬張りながら報告をしてくれる。自分だけの力ではどうにも手に入らない"仮面ライダー"という言葉。ネットで検索をかけても過去に記事があった痕跡はあるのだが見つからない。それで自分よりも詳しい人間に依頼をした。報酬は友達価格としてこのメイド喫茶の会計を俺が持つという事にした。
「衛生省関連と天空寺、そして警察と色々あるみたいなんだけどねぇ。どこもセキュリティが強くて単語ずつしか拾えなかったの」
「構わない。俺の依頼は調べてくれであって突き止めてくれじゃないからな」
「んじゃ、言うね。残ってるキーワードの中では特状課、グローバルフリーズ、ロイミュードがヒット数が多い。それ以外は政府絡みもあるせいか随分少ないみたい」
特状課──あのベルトさんとシフトカーとトライドロンを送り、謎の靴に武偵弾を俺に与えた組織。そしてそれが警察繋がりであることまで把握出来ている。やはり仮面ライダーに関係していたようだ。
そしてロイミュードだ。ベルトさんの口ぶり的に過去に仮面ライダーとしてなにかあったようだったが封印したと言っていたから敵対していたと考えて良い。
「グローバルフリーズも関わってくるか。きな臭くなってきたな」
「でもエーくんなんでこんな事を急に?いつもなら"考えるのはやめた"って言ってほったらかしにするじゃん」
言われてみれば、だ。少し前の俺なら確実に思考を放棄していた。今回はなぜ執着するのか?それは多分妙な胸騒ぎがするからであろう。虫の知らせなんて言葉があるが、いわば勘だ。武偵の勘というやつが体を、思考を動かしていた。
「まぁ、そんなエーくん久しぶりだから楽しみだけどね」
「何がだ?」
「何でもないのだよ。そんじゃ、会計頼んだぞい!理子りんはかわい子ちゃん達とにゃんにゃんしてくるのだ」
そう言い残してメイド達の群れへとつくっ込んで行った。
俺は伝票の金額分だけ置いて店から出ていく。まだ時間があるため寄り道でもと思ったが、そうはいかないらしい。何故かと聞かれれば電車で来たはずなのに店の目の前のところに停車している
△△△
「なんだ、ベルトさん。俺に何か用があるのか?」
車内を見ればいつもの定位置に付けられたベルトさんがおり、助手席のシートには見覚えのあるものが置いてあった。
『キミに渡すものがあってね。これをはめておくんだ』
「これは……送られてきた物の中にあったやつ」
2ヶ月前、このトライドロンなどと一緒に送られてきた中の1つだった。使い方が分からず仕方なく家に放置していたが、それを持ってきたのだ。
『これはシフトブレスとという。
「……、」
仮面ライダー、それはつい先日ベルトさん、イリナさんから宣告された"俺がなるべくしてなる超人"だ。そう、いつからか決められていた運命とでも言うべきものだ。
つまりベルトさんは近々その時が来るだろうという事を予想しているのだ。もう敵は近いと。
『君はもう日常には戻れない。それは仮面ライダーになるからじゃない。君と、君の周りの人々の運命が合わさった結果だ』
「俺と、俺の人間関係が引き寄せた運命だっていうのか、ベルトさんは」
『Exactly.去年の春先にあった遠山キンジ、そして先日の神崎・H・アリアこの2人と出会ったのが特に大きい。私が感じるに、彼らは共にこの時代において特異点だ』
キンジとの出会い、確かにそれは俺の中にあったものを大きく変えた。神崎との出会い、確かに大きく変わったとも言えるだろう。男子寮なのに女子の住人が1人増えた。
だがしかし、
「まぁいいや、考えるのはやめた」
いつの間にか使っていた口癖、これを聞くと母さんが複雑な顔をしていた。嬉しそうなのに仏頂面で怒るのだ。
そんな母さんも今ここにはいない。放っておいても誰も怒りやしないだろう。いても喋るベルトくらいだ。
「じゃあ俺は寄るところがあるから、ベルトさんは先に帰ってて良いぜ」
『……そうか。気を付けるんだぞ、エイジ』
何故だかベルトさんも声は嬉しそうなのに顔はしょんぼりというか少し怒り気味だった。