加速していく緋弾のアリア   作:あんじ

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エタっててすまん……


第4話:何故変身するのは俺なのか

寄るところがあるなんて言ったがそれは離れるための方便で、実際は寄る場所どころかやる事すら無い。目的もなく秋葉原をブラブラとしていると、裏路地で古い雑誌を取り扱う店を見つけた。

こういった過去の紙媒体の資料は図書館等で手に入るが、それらは基本そこを管理する者達の影響を受けて密かに改稿された物が入れられたりすることが多い。それに対して、個人事業でこういった物を取り扱っている店というのは規制に強い。何せ管理するのは商人で、お上では無い。だがその分権力には弱く、よく店ごと潰されるている。

『仮面ライダー』という自分を、いつの間にか超人に仕立て上げていた存在も、ここでなら見つかるかもしれない。特にグローバルフリーズ関連の記事は憶測が飛び交い、当時の警察関連の組織により圧力で改稿させられたという話が後を絶たない。その為1日買う日が遅れただけで内容がまるで大違いという事が当時は起きていたのだ。

 

「さてと、経費で落ちるだろうか?」

 

物珍しい古本を見つけ舞い上がった俺は、財布が許す限りの雑誌を買い集め結果、ベルトさんを呼びつけトライドロンで帰ることになるのだった。

その帰りに神崎……ではなくアリアとキンジがゲーセンで何やら騒ぎ立てているのを見つけたが、折角の本を面倒事に巻き込まれ後に回すことになるの躊躇い声をかけないでおいた。まぁ神崎のあの感じを見るに秘密の一つや二つ握っておいた方が良いだろう。

 

 

 

△△△

 

それから数日が経った週末の朝、俺は物の見事に遅刻をしていた。読書に耽ようとしている中で騒ぎが起こる。主に騒ぎの原因はアリアの戦妹(アミカ)なのだが、その度にキンジや俺に義務のように報告と相談があるので、来る日も来る日もアリアが家に来ては暴れて帰っていった。お陰で2人が散らかした部屋を綺麗にするのに時間を費やしてしまい肝心の読書が夜中に食い込み、連日連夜寝ずに過ごしていた。

そのツケが週末に訪れてしまい、普段乗ってるバスの時間に乗り遅れる事がほぼ確定していた。

 

「生憎の天気だな」

『春先は台風が多くなるものだ、仕方ない』

「ベルトさんにはそんなに関係の無い話だけどな」

『そういう訳でもないぞ。そもそも──』

 

ベルトさんが自分の事についてベラベラと長話を始めたのを聞き流し、怒涛の1週間を振り返っていた。

そもそも我が家にアリアがやってきたのは、あの場から逃げたキンジが1度だけ自由履修という形で強襲科(アサルト)に戻るという事を観念して決めた為だ。元々強襲科のアリアが付き添う…と言えば体は良いが監視するように常に横におり、そのまま家までついて来るのだ。読書をしようとしている俺からすればとんだ迷惑なのだが、客人をぞんざいに扱うわけにもいかずほぼ毎日のように到来していた。

 

『だから部品は雨風に常に晒して良いという訳ではないのだよ。っと、エイジそろそろ時間の様だ。早くしないと次のバスに遅れてしまう』

「そんな時間か。10分置きとは言えキンジも起こしてくれれば良いものを」

 

そんな愚痴を吐いていると、その傍から張本人より電話がかかってきた。キンジがメールではなく電話という事は急ぎか何かなのだろうと思い手に取ると、思った以上に緊迫した声で喋り始めた。

 

〈エイジか?今どこにいる?〉

「家だが?」

〈悲報だが、アリア絡みで事件だ。お前にもアリアから出張るように伝えとけと言われた。なんだっけか、トライドロンで来い?だったか何か言ってた。位置情報は通信科(コネクト)と繋いでくれ。1度切るぞ〉

 

ほぼ一方的に喋られ圧倒されていたが、ふと思考が我に返る。その他諸々の準備を投げ捨てて急いでトライドロンへと向かう。もちろんベルトさんは着いてきた。その上シフトブレスとシフトカーの絶対装着を言い渡される。

言われた通りに通信科に繋げると直ぐにアリアにも繋がった。

 

「それで、事件の概要は?」

〈バスジャックよ、それも前回と同様UZIを装備したのが追従してる。でも、今回は車よ。それに合わせてアンタはトライドロンで来なさい。あれなら負けず劣らずカーチェイスができるわ〉

「そういう事なら、分かった」

 

 

トライドロンは見た目通り普通の車ではない。速度的にはスポーツカーと良い勝負ができるくらいは出るし、装甲も9mm程度なら同じ場所に何発も受けない限りは穴は空きそうに無いほど薄く硬い。

ある意味で非戦闘職の探偵科(インケスタ)には持ってこいの乗り物だ。

 

「それで今回のメンバーは?」

〈探知してから時間が無かったからアンタとキンジ含めて4人。Sランク3人集まれば上等ね〉

「OK、それで俺はどこかに寄った方が良いか?」

〈急いで現地に向かいなさい。こっちはキンジが着き次第ヘリで向かうわ〉

 

そう言うと一時的に通信を切られ、それと同時にトライドロンのナビにジャックされたと思われるバスの位置情報が表示されるようになったり。

事の顛末を聞いていたベルトさんは終始難しい顔をしていたが、何を悩もうと、やる事は簡単だ。キンジとアリアがバスをジャック犯から解放するまで追いかけて被害を抑える事、そして彼らのバックアップ。

トライドロンに勢いよく乗り込んで、イグニッションキーを回すと心地よいエンジンの揺れが眠っている体を起こしてくれる。

 

「ベルトさん、ナビゲート頼めるか?」

『alright.捕まっていたまえ、エイジ。フルスロットルだ』

 

そういうと、まだ踏んでいないマクセルが押し込まれて普段とは違う少し荒れた運転で目的のバスへの追走(チェイス)を始めた。

台風の影響で荒れた空模様の中、赤色の車が早く駆け抜けていく。その傍らヘリからの通信は途絶えることなく聞こえていた。既にキンジ達はバスへのラペリングを成功し、車内へ突入・爆弾の撤去にかかっていた。トライドロンも少し先にバスを捉えており、出来るだけの安全を確保しつつ距離を縮めていく。

 

「ベルトさん、後ろ!」

『……ッ!ヤツらも本気か!』

 

バス、トライドロンに続きそれらを追いかけるようにルノーのオープンカーがUZIを搭載し、更には何か奇妙な装置を載せて猛スピードでこちらに近づいてきている。紛うことなき武偵殺しだ。

そしてこのベルトさんの反応、何かに気付いた様子だ。声音から焦りがうかがえる。

 

〈ちょっとキンジ!何やってんあんた!ヘルメットはどうしたの!〉

〈運転手が怪我したんで、武藤と交代させた。その武藤に貸した〉

「バカ!アホ!キンジ!もうすぐ後ろに武偵殺しがいるんだぞ!」

 

その直後だった。一瞬、たった一瞬でUZIはトライドロン後ろを抜けたかと思うと並走し、前へ躍り出た。そして躊躇することなく発砲したのだ。

その弾は一直線にキンジの方へと向かっていく。あれは普段のキンジだ。たまに見せる別の一面をもつキンジもいるが、今はそれじゃない。

それと同時に映像がゆっくりになる。トライドロン(じぶん)とキンジとアリア、そして前を走る車とそこから放たれた弾だけがこの法則を無視して元の速度で動く。

バチッと音をたて、弾は襲いかかった。キンジにではなく、それを庇うように飛んだアリアにだ。

そして俺には聞こえた。ゆっくりだが、タイヤのブレーキを踏む音がだ。この爆弾は止まったら負け(ハリーアップ)。つまりあと少しの後、このバスは爆発する。

そして、それはこのトライドロンにいるベルトさんにも聞こえていたらしく──

 

『決断の時が来たようだ、エイジ』

「……どういうことか聞いても良いか?」

『今、君の友人たちは死を目前にしている。そしてここは重加速の中、助けは無い。そう、君という超人(仮面ライダー)を除いては』

 

いつになくベルトさんの声は真剣だ。今、この瞬間にもバスは爆発し武藤は愚かキンジや神崎、サポートに来ているヘリすら巻き込んで爆発する。

だが、俺が決断すればそれは回避できるとベルトさんは言っているのだ。そしてそれは泊 英志(オレ)の運命だとも。

 

「どうすれば良い?俺はどうすればキンジや神崎を救える?どうすれば俺は仮面ライダーになれる?」

 

万年Eランクの俺は言わば落ちこぼれ。それを恥だと思うことはせず、気楽に、気の向くままに生きてきた。しかしキンジ出会い、俺の心は変わった。なんて世の中は理不尽なのだと。なぜ俺は人を救えるほどの力がないのだと。なぜ努力しなかったのかと悔やんだ。だから励んだ、挑んだ、抗った。でも俺は底辺だった。

そんな俺でもさし伸ばせる手があるのなら掴むべきだ。何も言わずさし伸ばしてくれたキンジのように。

 

『エイジ、ワタシを連れて外に出よう!』

 

俺は言われた通りトライドロンを降りて止まる世界に立つ。そしてベルトさんを腰にあてる。するとベルトは勝手に巻かれる。ベルトさんはどこか懐かしむような様子だ。

 

『ベルトの右手にあるキーを捻りたまえ』

「これ?」

『それだ!Start your engine!』

 

言われた通り巻いたベルトの右手にあるキーを捻ると、変身の準備が出来たのを合図するように待機音が鳴る。

そして左手のブレスに赤いシフトカーを刺して倒す。

 

「変身!」

 

倒したシフトカーを戻すと、身体に装甲が展開されていく。まさにハリウッドなんかで見るスーパーヒーローだ。

 

『Drive!Type・SPEED!』

 

メインカラーは赤で、車を模したようなデザインをしている。背格好は普段とそう変わらず、手足の感覚もそう変わらない。

そう自己分析をしていると、後ろのトライドロンから射出されたタイヤが俺目掛けて飛んできていた。一瞬理解出来ず静止してしまい、タイヤがぶつかったかのように思えた。が、何故かタイヤは(たすき)状になり俺の体に装着されていた。

 

『狼狽えるな、エイジ。トライドロンは仮面ライダー(ドライブ)のサポートカーなのだよ』

「そういうのは先に言っておいてくれ、ベルトさん」

 

重加速の中、今動いているのは俺、そしてキンジとアリア、そして元凶の武偵殺しだ。

キンジはアリアの処置でそれどころではなく、アリアは弾が頭を掠めて意識が無い。早くちゃんとした措置をしないと頭だけにどうなるか分からない。

それに対し武偵殺しは悠々と、俺を観察するようにこちらをじっくりと眺めていた。

俺は気合いを入れるように自分の頬を叩き、まず武偵殺しと向き合う。

 

「なぁベルトさん、前任者はさ、こうやって敵と対峙する時なんか決めゼリフとか無かったのか?」

『……あぁ、あるとも。彼はいつもこう言ったのさ──』

 

姿勢を低くして、昔父さんが競って遊んでくれる時によくしていたポーズをする。これは父さんが本気の時にだけ見せてくれたとっておきだ。

だからこそ、今俺の目指すべき場所にいる、父さんを模倣する。俺も本気だ。

 

「──ひとっ走り、付き合えよ!」




「」会話文
『』ベルトさん
〈〉通信機器越し

って感じです

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