加速していく緋弾のアリア   作:あんじ

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第6話:甘さとは罪なのか

「ほらよ、鑑識科(レピア)から回ってきた今回の報告書だ」

「ん、サンキュー。で、アリアはどうだった?」

 

武偵殺しによるバスジャック事件翌日、俺の病室に来たのは報告書を手にしたキンジだった。のだが、なんだか目線が下に向き、少し不機嫌だ。なんならアリアという単語が出た途端に不機嫌度合いが更に上がった気がする。

 

「元気だったよ。うるさいくらいにはな」

「……まぁ、そうか。俺は口を挟まんからな」

 

キンジの返事からなんとなく喧嘩したということが察せる。そんなぶっきらぼうにならなくてもと、思いつつもアリアの思いも何となく分かる。彼女は何かに焦っていたが、それと同じくらいにキンジに期待をしていた。周囲の評価、やはり"いつもとは何か違う時のキンジ"の時を目にしているアリアからすると、あれはアリアの焦る何かにとても必要に感じるのだろう。

 

「それで、エイジはいつ退院なんだ?」

「火曜日だとよ。精密検査と様子見でなんでそんなに入院しなきゃいけねぇんだか」

『無茶をした代償というものだ、我慢したまえ』

 

結局俺はあの後変身を解くと全身激痛に襲われた。というものの事件最中はアドレナリンがドバドバで痛みを打ち消していたのだろう。しかし緊張が解ければそうとはいかない。撃たれた場所はやはり痛いし、トン単位のバスを持ち上げたのなんか筋肉が悲鳴をあげた。

そんな俺は無事救急車に連れられて病院へ行き、即入院だ。アリアもそうらしいが、俺も個室だ。まぁそんなに大きくもない、隔離用とかに使われる部屋だが。

 

「にしても、本当に喋るんだなそのベルト」

「まぁな」

 

病院に着き、目を覚ました俺の元にまず来たのはキンジだった。どうやらアリアが気になり病院にずっといたようで、目が覚めてそんなにしないうちにやってきた。最初は心配ばかりしていたが、俺が無事だということが確認できると、俺が事件中に言ったことを忘れず追求してきのだ。「あれはなんなんだ?」と。

説明には時間を要した。ベットに付いた机に鎮座していたベルトさんも話に加わり、重加速現象について、そしてその原因と対処法。そして、俺も初めて知った今後出てくるであろう脅威について。

 

『ロイミュード……彼らはバイラルコアを媒介に動く重加速を生み出すものだ。全ての元凶と言っていい。バイラルコアが存在する以上、程遠くないうちにロイミュードが現れるだろう。そしてエイジ、君は彼らに対処しなければならないのだよ』

 

その日はそのまま解散となったが、病室の空気は重かった。同室のキンジに黙っていたこと、それ以上にロイミュードのこと、そして何よりも今後に起きうる未来像がかなり効いた。

ロイミュードは必ずしも悪とは限らない。しかし、彼らが存在する以上世界は混乱し、無秩序になりかねない。そして、何よりも過去比類のない規模の災害"グローバルフリーズ"が再発するかもしれない。

 

「……そう言えば、あの件(グローバルフリーズ)について理子が調査するって言ってたよ。月曜日にでも病室へ来るってさ」

「そうか、了解したって伝えておいてくれ」

「あぁ、それくらいだ。俺は帰るよ」

「報告書サンキューな、後で読ませてもらう」

 

面会時間がまもなく終わるとの放送が鳴り、キンジもそれに伴い男子寮の自室に帰る。

俺は病室の窓から1人帰路につくキンジを横目に渡された報告書に目を通していた。まず、犯人が確保していたと思われるホテルの一室について。部屋には証拠らしいものは何1つ残っていなかった。指紋、足跡、頭髪や唾といったものすら。もはやチェックインしていたかさえ怪しいレベルだ。

他にもルノーとUZIは盗品だった。ルノーに関しては数ヶ月前にタンカーによって運ばれていたものが事故とともに失われていたが、そこで無くなったはずのものと断定できたらしい。UZIは型番に購入履歴が無いことから盗難品と断定との事だ。

更にそこには先日俺も巻き込まれた自転車ジャックの件や、過去の事件からの傾向なども書かれていた。

どれもこれもWordで書かれたものだったが、最後の方に明らかに書体の違う別の資料が2種類紛れ込んでいた。

まず1つ目が、鑑識科のイリナさんからでまだドライブ自体完全なアジャストが済んでおらず今回の精密検査でアジャストができるようになるらしい。また、それに伴い一部シフトカーの調整が必要のとの事で持ってくるように書かれていた。

他に、今回ルノーに積まれていた装置の解析を行った所、バイラルコアは既に破壊されているが、この状態を見るに既にロイミュードは完成しているとみて間違いないとのことだ。

2つ目、これは字体的に理子とみて間違いないだろう。書かれていたのは信号機に搭載されているカメラから導き出された、武偵殺しの操っていた機器の経路だ。書かれているのはチャリの時とバスの時の2件。

これらをベルトさんにも見えるように読んでいると、ベルトさんはかなり訝しげに眺めていた。

 

「どうした?そんなに変か?」

『うむ……変だと思わないかね、これを見て』

 

ベルトさんが指していたのは理子の報告書だ。書体が手書きなのかとても見にくいったらありゃしないこと以外特に感じない。

 

『1件目の時、キンジを追いかけていたセグウェイ、これはかなり前から彼の後を追っていた。しかし、接近したのはしばらく後だ。2件目も同様だ。何かを待っていた様に見えないかね?』

「何か……?」

 

ふむ、確かにおかしな事にセグウェイは回り道をしながら常にキンジの死角を走っており、ルノーもキンジが乗り遅れる前から後ろに付けていた。バスをジャックするのならもっと先でできたはずだ。

こう見ていくと、いくつも違和感が湧き上がってくる。これは戦闘中に感じた事だが、2台目は確実に俺が来ること、そして俺がドライブに変身することを前提にしていた様に思える。あの場に俺がいなければ重加速がある時点でキンジとアリアとレキだけでは詰んでていた。

そして1件目、キンジの元へ接近をした時間。この時間、ちょうど俺は警視庁を訪れていた。そして、キンジに近づいき爆弾が音声を発し始めた時、それは俺が建物から出て、カメラに映った時とほぼ同時だ。

この資料はキンジを餌に、俺が釣られたとそう言っているのではないだろうか?

脳内でパズルが組み立てられていく。ピース1つ1つが埋められていき、完成間近まできた。しかし、1箇所、どうしても埋まらない空欄ができた。誰がどうしてそんなことをしたのか──いわゆる動機が分からない。

どうにもここで止まってしまい、エンジンに上手く点火しない錆び付いた車みたいで居心地が悪い。というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、これ以上考えるのを止めている。

 

「考えるのはやめた。これは俺の仕事じゃない」

『……、』

 

ベルトさんが何か目を細めてこちらを見ていたが、ガン無視して俺は夕飯までふて寝をすることにした。

 

 

 

△△△

 

 

 

「やっほーい、エーくん!元気してる?愛しの理子りんが来たぞい」

「あぁ、元気してるよ。だからそんなに騒がないでくれ、ここは病院だ」

 

月曜になり、病院が開くと真っ先に病室にやってきたのはナースではなくフリフリの改造された武偵高の制服を着た同級生の峰理子だった。キンジの言った通り、月曜日にやってきたがまさか学校がある時間帯にやってくるとは思ってもみなかった。

理子はもうすぐ退院だと知ってるのに持ってきた紫色の花を飾り始めた。部屋にはベルトさんはおらず、既に部屋に帰っていった。この部屋にはドライブに変身するためのシフトスピードと、シフトブレスだけ残して物は置いていない。

 

「この花ね、ムスカリって言って4月が最盛期なんだよ。理子好きなんだよね」

「だからって明日退院の人のところに持ってくるか?」

「エーくんは退院祝いでお花欲しい派なのか〜、理子学習!」

 

能天気な理子はお転婆にあどけてみせる。こいつがいると、良くも悪くも空気が和らぐ。一種の才能と言っても過言じゃない。何よりも可愛らしい童顔と、それに見合わぬ身体つきをしており、それが可愛らしヒラヒラした服を着て、甘い匂いを振りまいていれば気も引き締まらない。

 

「んで、なんか分かったのか?」

「えっへん、って言いたかったけど成果はあんまかな」

 

そう言い手渡されたのはどんよりが起きている事を警察や国が知りながらも関与を避けていた事を示す資料だった。

そしてそこには警察上層部で握りつぶされているという、スキャンダルになりうる大きな証拠も記載されている。

 

「全く、何が"あんま"だよ。こんなん扱い困るレベルの成果じゃないか」

「ほんとー?エーくんに褒めて貰えるなんて嬉しいなぁ!」

 

そんな事を言いながら理子はあからさまに大喜びをしてみせる。こういった高めのテンションも空気が和らぐ一端だろう。

 

「そんなに喜ぶ事でもないだろ。俺はEランクでお前はAランクだぞ?」

「そーでもないよ?だってエーくん、たまに凄い頭の回転早い時あるじゃん。理子、カッコイイなーって見てたんだよ?」

 

理子は乙女の表情をして、腰をクネクネとさせ俺に近づいてくる。

 

「エーくんは絶対に分かっても触れなかったりするよね。そうやって人に敏感で謙虚な姿、理子好き」

 

肌と肌が触れ合うまで接近し、ベットに寝そべる俺にまたがるように上に乗り、互いの吐息が感じられるまで近づき、理子はその柔らかい手を俺の首にあてる。

 

「だからね、理子のものにしようかなって」

「り、こッ……!」

 

今まで聞いたことの無い、鋭く低い声……

それと共に触れた首元にチクッとした痛みが走る。そして即座に俺の意思とは関係なく体への力が入らなくなる。さらには意識が徐々に遠くなっていく。

 

「ちょっとだけ、寝んねの時間だよ、エーくん。起きたら、多分分かってくれるから、おやすみ」

 

微笑む理子がかすみ、俺の意識は闇へと落ちていった。




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