加速していく緋弾のアリア   作:あんじ

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オンライン講義が終わり、課題が終わったと思ったら今度は就活が始まりました。
遅くなりましたが、第7話です。どうぞ


第7話:疑惑は深まるばかりなのか

 気だるげな睡眠から起きたら俺は、病院で着ていた患者用の服から防弾仕様のスーツへと着替えさせられていた。そのうえ、見たこともないくらい豪華で広々としたワンルームの客室、というかこの耳栓みたいな現象的に飛行機の一室に入れられていた。

扉のロックは電子錠で物理的には開けられず位置は上空数千m、完全な密室になっていた。犯人はもちろん理子だろう。俺が意識を失う前に俺へ何かをしてきたのはさすがに覚えている。

 

「さて、どうしたものか」

 

 手にあるのはシフトカーのマックスフレアのみ。ベルトさんは自宅の男子寮。あとは防刃のネクタイだけだ。これしか無いため、どうにもすることはできない。ではGPSで場所を確認して、場合によっては外に飛び出てみるかとも考えてみたが、外は晴天や星空満点の夜空ではなく、雷と突風、更には斥候の如く先行している豪雨を伴った積乱雲の真っ只中。確かに予報では数日中に台風が本土にも上陸なんて言っていたが、このタイミングとはまた最悪だ。

 

『キンジ!?アンタこんなところで何してんのよ!』

『残業だよ。部屋、入るぞ』

『ちょ、ちょっと待ちなさい!』

 

 そんな聞き覚えのある声と名前が聞こえてくる。何ともまあ用意周到なことだ。隣の壁を挟んで向こうの部屋には奇しくもイギリスへ帰ろうとしていたアリアと、何故かその便に乗っているキンジだ。会話を聞くにアリアも予想をしていなかったようだ。それにしては声が少し上ずってる気もするが。

 

まぁもし、もしを過程するならば理子ならやりかねない状況でもある。いや、むしろこういった形で自分を追い込むと考えたら理子らしい手口だろう。1年の頃、彼女と仕事を何度かしたが、あいつは長期休暇の学生の様に締切ギリギリにならないと本気を出さないタイプだ。

 

 武偵高では喋れないタイミングでも意思疎通を計るためまばたき(アイ・モールス)を教える。その前段階として、モールス信号そのものを教える。特に強襲科(アサルト)通信科(コネクト)では状況次第では生死に関わるため徹底的に叩き込まれる。

キンジはともかく、アリアならば気付いてくれるだろう。じゃなきゃ俺は多分イギリスに不法入国となって、武偵としても人間としても終わりだ。母さんに向ける顔が無い。

 

何度かSOSの信号通りに壁を殴ってみるが、中々反応が無い。なんなら外でなる雷が音を打ち消し、更にはそれを怖がるアリアの為にテレビをつける仕舞いだ。そんなに音を沢山鳴らされては、防音気味のこの壁から音を響かせることは出来ない。

 

「~♪」

「どうした、マックスフレア」

 

そう困っているとマックスフレアが意思疎通を計るように俺と共に連れてこられていた報告書の上にやってくる。そして自らの役割を果たさんと、全力で燃え始めてそれは可燃物質である紙をあっという間に燃やし尽くす。するとだ、探知機が煙を察知して部屋のロックを解除する。内部からは開けられないように細工されていたが、システムそのものを弄ってる暇は無かったらしい。もしくは、一つの部屋だけ弄るのは無理だったかだ。

 

まぁ、とにかく無事に密室から脱出する事が出来た俺は、タバコと同じ要領で靴でボヤを消して外に出てみる。すると、外はスーツやドレスで身を飾った人がうろちょろとしていた。

外装や部屋を見るに、俺はこの飛行機を知っている。暇すぎて流していたテレビでやっていた空飛ぶリゾートなんて呼ばれていた超豪華旅客機だ。イギリスの貴族だということは聞いていたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。

だが、そんな高貴な場所には似合わない音と臭いと、殺気が向けられる。弾は俺の頬を掠めると誰にも当たらずに壁へと吸い込まれていく。

 

「エーくん、こっちだよ」

 

振り向けばこっちに銃口を向けたキャビンアテンダントの姿があった。それを見た乗客達は悲鳴をあげてちりじりに逃げていく。それでも彼女は動かず、俺も理子しっかりと見据えていた。

 

「どうした……って、エイジ!?」

 

そんな騒ぎを聞きつけて後ろの部屋からはキンジとアリアが飛び出してくる。さっきまで雷を怖がっていたアリアはどこに行ったと言わんばかりに素早い行動だ。

 

「こんなに人が多いと恥ずかしいなぁ。では、Attention Pleaseでやがります」

「ッ!?ガス缶だ、早く部屋に入って、ドアを閉めろ!」

「アリア!」

 

理子から投げられたガスグレネードからは霧のような薄状の煙が蔓延し始め、辺り一帯を包み込んでいく。

キンジは飛び出してきたばかりのアリアをラリアット気味抱きかかえて部屋に転がり混んでいく。俺は堂々と背中を向けて去っていく理子から目を離さずに、後ろへと下がっていきキンジ達と同じ部屋に入ってドアを閉める。

 

どう考えても理子がこの場で俺達を殺すとは思えず、「恥ずかしい」と言っていた。つまり場をリセットして、やり直そうとしていた訳だ。有毒ということは無い。催涙系でも無いとなると、ただの煙幕手榴弾(スモークグレネード)だ。

 

キンジも早々に立ち上がって、手足を動かして動作確認を終えると一息ついてベッドに腰をかけた。抱かれるように部屋へと戻されたアリアは頭から煙を出し、顔を真っ赤にして動作を停止していた。

キンジは俺を見ると、ため息と共に喋り始める。アリアも流石に我に返り、キンジと離れた位置でベッドに腰をかける。俺はそれと対面の壁によりかかかって聞く姿勢をとる。

 

「……やっぱり出たか。アイツが"武偵殺し"だ」

「やっぱりって何よ。キンジ、あんた何で出るの分かってたの!ってか、エイジ!あんたなんでここにいるのよ!」

「あー、いやなんというか……まぁ、事情は後で話すよ。それで、キンジはなんで"武偵殺し"が出ると分かったんだ?」

 

するとキンジは胸ポケットから紙を取り出した。それは1枚の報告書だった。書かれているのはとある法則、"武偵殺し"が行ってきた犯行の一覧だった。

 

バイクジャック、カージャック、そしてシージャック。少し間を開けると、今度はチャリジャックとなる。キンジとアリアが出会い、初めて重加速現象を体験した。

次はバスジャックだ、よく覚えている。初めて仮面ライダードライブへと変身し、ミスをしたキンジを救って、傷付いたアリアを守った。

 

「このシージャック、ここでアイツはある武偵を仕留めた」

 

キンジは苦虫を噛み潰したような顔をすると、少し紙を持つ力を強めた。

 

「そして、これは多分直接対決だった」

「なんでそんな事を言えるのよ」

「お前、このシージャック知らなかっただろ?それに電波の傍受をしてなかったな?」

「う、うん」

「"武偵殺し(アイツ)"は電波を出していなかった。つまり──」

 

キンジは持っていた紙をクシャッと握りつぶすと、感情を吐き出すように告げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。ヤツがその現場にいたからだ。そして、ミッションをこなして法則にリセットが入る。そこからは分かるな?」

 

流石にここまでくれば読める。チャリジャック、バスジャックときて3回目のこのエアジャックで、俺達の誰かを仕留めようとしているのだ。なんならこの飛行機が選ばれた時点で、全員かもしれない。

 

「そこまでは良いわ。で、今度はエイジの番よ。なんであんたは旅客機(ここ)にいるの?」

 

アリアが場を仕切り、俺へと矛先を向けた。というか、こうなってくると俺は怪しいことこの上ないな。アリアは気付かず、キンジはギリギリになって何かの拍子に気付いた。そして俺は病院にいたはずなのに、ここにいる。それも武偵殺し(理子)と最初にあったのも俺だ。

 

「あー、俺は昨日の時点でキンジの持ってきた報告書で別の事に気付いたんだ。1件目も2件目も俺の行動に合わせて動いてる戦力があるってな。だから武偵殺し(アイツ)を追っているアリアの所へ乗り込めば敵の全戦力が出てくるかなーって。ハハ……すいません」

 

報告していくごとにどんどんとキンジとアリアの目線がキツくなっていき、つい謝ってしまった。

理子に俺が襲われたこと、気付いた報告書も理子だった事も伏せて話をする。俺はまだ理子の事を信じていたいし、信じてみたい。ここで犯人だと断定はしたくない。

 

お互いに沈黙が訪れた。そして、これを見計らったかのように機内放送でポーンと音が鳴り始める。これは、誘いだ。俺がキンジ達に知らせようとモールス信号を送ったのを知っていて、わざとモールス信号を使っているに違いない。和文モールス信号で、全員に分かるようにしている辺りが分かりやすい煽りだ。

 

「和文モールス信号なんて、いい煽りね。上等よ、風穴開けてやるわ!」

「俺もお呼ばれな訳だ。ま、武器もなんも無い今の俺が役に立つかは怪しいけどな」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まぁ一緒に行ってやる」

「キンジ、あんた達は着いて来なくていいわ!」

 

決意を胸に立ち上がる。それを鼓舞するかのように雷が鳴り響いた。「キャッ」なんて可愛らしい声も聞こえた気がするが、そこに突っ込むと俺は二度と大地をこの足で踏むことは無くなるからやめておく。

 

「……どうする、アリア?」

「か、勝手にすれば?」

 

ビビり散らしているアリアを先頭に俺達は、1階のバーカウンターにいると宣言した"武偵殺し"の元へと向かうことにした。




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