豪華に飾られた階段を降りていくと、1階にあたる部分は飲食を楽しむ為に作られており、テーブルを設けられている場所や、酒を飲む人向けにバーカウンターも作られていた。
そして、
「
すると、彼女はネタばらしと言わんばかりに化けの皮を自ら剥がし始めた。纏まっていた髪は解かれて、ふわりと甘い香りが漂う。皮膚にくっついていた仮面は剥がされると、そこにはやはり元凶である理子がいた。
俺にウィンクをすると、改めてキンジとアリアに向き合う。まるで俺は敵ではないと、そう目配せをされた。
「理子、なんでお前がここに……!」
「キーくん、トリックのタネ明かしには早すぎるよ?そんなに早漏さんだとアリアも満足してくれないよ」
明らかな煽りにキンジも顔を険しくなり、アリアも眉間をピクピクさせている。ブチ切れ一歩手前を、ミッションへの遂行を理性にギリギリ留まっている感じだ。
それを見て、理子は満足したのか悠長に語りだした。
「アタマとかカラダで戦う才能ってさ、けっこー遺伝するもんなんだよね。武偵高にもお前たちみたいに遺伝した天才ってのがけっこういる。でもね、お前達──特にお前の一族は格別だよ、オルメス」
「……ッ!」
それに対してアリアが反応している事から、アリアと理子は昔から因縁のある家柄だと言うことだ。
それに、アリアはイギリス出身。理子は今俺たちが来た時に「Bon Soir」と言った。これはフランス語でこんばんわ。理子はフランスに原点があると見て間違いない。そしてアリアのミドルネームは"H"。これが示すのは──
「繋がった……!脳細胞がトップギアだぜ!まさか理子が俺の家族ぐるみで敵だったとはな」
「くふっ、さすがエーくん。でも、惜しいね。エーくんは理子の過去については分かっても、
理子は立ち上がるとスカートの端を摘むと優雅に、煌びやかに、淑やかに、お辞儀をする。
「お初お目にかかります、
これには、オルメスと言われ正体に勘づいていたアリアも驚いていた。まさか身近にそんな大怪盗の子孫が潜んでいるとは思わないはずだ。
キンジもこの発言には驚愕している。無理もないはずだ。何せ1年からずっと同じクラスにいたクラスメイトが、実はかの大怪盗アルセーヌ・リュパンの子孫だったなんて言われても頭が追いつかない。歴史の教科書に載る偉人の子孫が同級生なんて言われて、はいそうですかとはいかない。
「でも、家の奴らは理子の事を"理子"とは呼んでくれなかった。お母様が付けてくれたこの可愛い名前を。呼び方がおかしいんだよ」
「おかしい?」
徐々に声音が高くて甘いものから、鋭利で狡猾さを潜ませた威圧的な低いものへと変わっているく。立ち上がった理子は今まで隠していた感情を露にしていく。
「4世、4世、4世さまぁ〜って。どいつもこいつもさぁ、仕舞いには使用人までそう呼ぶようになったよ。ひっどいよね」
「そ、それがどうしたっていうのよ。
その言葉が理子の逆鱗に触れた。嘆きを演じていた理子は、キンジとアリアにむかって明確な殺意を向け、叫びをあげる。
「悪いに決まってんだろ!あたしは数字か!?ただのDNAかよ!?違う!
「だからさぁ」と理子は静かに、決して怒りに身を任せずに次の言葉を吐き出す。
「だから、お前を倒して"リュパンの曾孫"ってのを否定する。曾お祖父さまを超えて、100年の因縁に決着をつけて、あたしは
「なるほどな、お前はその決着をつけにここに来たって訳か。じゃあ俺がお呼ばれした訳を聞いても良いか?」
すると、直ぐに今までみたいなかわい子ぶりっ子な理子に戻って、俺へ今まで通りの笑顔を向ける。
敵であるアリアとキンジに背を向けて、余裕の笑を浮かべて指を鳴らす。そして、そこには何も無いはずの場所に、今までの現場でよく見たバイラルコアがバーカウンターには乗っていた。
指パッチンと共に
「エーくんはね、イ・ウーに連れていこうと思って。あそこにいれば
「理子、父さんは今仕事で忙しいんだ。お前のおままごとに付き合うはずがねぇだろ。バカにするのもいい加減にしろよ」
「くふっ、怖いなぁ。でもね、理子はエーくんには嘘つかないよ。それに多分、エーくんは今後理子と同じ想いをするはずだから。その前に理子と、理子達と一緒に行こ?まぁ、何をするにしてもベルトの無いエーくんは怖くないから力尽くでも連れてくけど」
変化した怪人は理子と同じ声で笑うと、リュパンが使っていたとされるワルサーP38の形を模したサイコガンの様な手をこちらに向け、こちらの行動を制限してくる。
「待ってくれよ、オルメスって、イ・ウーってなんだよ。本当にお前が"武偵殺し"だったのかよ!」
「そんなのただのお遊びだよ。本命はオルメス4世、お前を超えたと証明するために、100年前の勝負に決着をつけてあたしが勝つ。だから、
理子の口調は普段のものでありながら、見たことの無いくらい計算し尽くされた発言が飛び出てくる。確かに理子はAランクの武偵だが、それは彼女の情報収集能力のみが飛び抜けているが為に付けられたもので、他はからっきしだと誰もが思っていた。むしろ探偵科なんかよりCVRみたいな色仕掛けを専門にしたらSランクだろうなんて言われていた。
だが、それら全てが演技であり、計算し尽くされたものだったのだ。誰よりも計算高く、理知的で、それでいて欲深かった。
「でも、意外だったよ。計算して腕時計まで狂わせてバスまでジャックしたのに、くっつかなかったなんてね、キーくん意外と薄情なんだ。
「理子、お前ッ!」
今度はキンジが激情に駆られる。それもそのはずだ。キンジは兄である遠山金一武偵を失ったことにより、激しく傷ついた。そして、なにより世間が兄の行動を責め、その兄をとても慕っていたキンジは傷を抉られた。それは今でもまだ治ってない。昔のキンジは、昼行灯の極みみたいな奴じゃなかった。
そんなキンジを壊したのは紛れもなく兄の死だ。そして、理子はその浦賀沖の事件について自分が犯人だと言った。これは挑発なんてレベルじゃない。今のキンジにおける最大のウィークポイントに違いない。
「あれ〜、パートナーがお怒りだよ?一緒に戦ってあげなよ。あっ、そうだ。そう言えばね、キンジのお兄さんあたしの恋人なの」
「キンジ、これは挑発よ。落ち着きなさい!」
尊敬する兄に対して、キンジは煽り耐性がとてつもなく低い。これは生前でも変わらない。その想いが仇となった。キンジは勢いに任せてベレッタのトリガーに指をかける。
「これが落ち着いてられるかよ!」
だがトリガーが引かれる直前、飛行機が荒れた天候に揺さぶられ照準にズレが生じた。そして、躊躇いが生まれたその瞬間、逆に理子が構えていたワルサーから発砲される。その弾は真っ直ぐと飛んでいき、理子に向けられていたベレッタの銃口に吸い込まれた。
「ノンノン、今のキンジじゃ戦闘の役にたたない。オルメスの相棒は戦うバディじゃないの。パンピーの視点からヒントを与えて、オルメスの能力を引き出す。それがお前の役割だよ」
キンジのベレッタが壊れ、武装無しが2人になった瞬間にアリアが動いた。ガバメント2丁を構えて突撃していく。アリアはキンジを庇うように前に入って、それを見てキンジも近くのソファの裏へと隠れる。
この動きに、怪人態となった理子擬きは少し反応してしまう。俺もその隙を見逃しはしなかった。口径がデカく、銃身が長い分取り回しが悪い。それにここで大きく振るえば理子すら巻き込む確率が出てくる。それ故に発砲せずに、追いかけてくるしか無くなる。
「キンジ、上手くやれよ!」
「エ、エイジ!?どこに行くんだよ!」
今来た道を折り返すように戻っていく。アリアが言うには地下に当たる部分に乗客の荷物や、輸送に使われる貨物が乗っているらしい。特に個人間で行われた取引で扱われる高級品なんかはこういった便で扱われると言っていた。そして、そこに向かう為には最後尾にある直通の階段まで行くしかない。
「着いてこいよ、怪人」
怪人は腕にあたる銃身部分を引きずるようにしてこちらへと迫ってくる。多分、かなりのパワーと、俊敏性を持っていると思われる。だが通路は狭く、ぴょんぴょんと飛び跳ねることは難しい。また横幅を考えれば腕を振り回す訳にはいかず、ただひたすらに追いかけてくる。
足にいくらバネがあろうと、目的を遂げるにはここで暴れ回ることは出来ず、理子の言い方からして殺すことも出来ない。普段なら重加速現象を引き起こす事で止めらるかもしれないが、俺もキンジ達もシフトカーがいるため引っ掛かりはしない。威力を出すために重くなっている腕ではずっと持ち上げることも出来ない。だから、あいつは引きずって追いかけることしか出来ない。そして、その速度じゃ俺には追いつけない。
「マックスフレア、本当にここでいいんだよな」
「~♪」
クラクションを景気良く鳴らすという事は目的地はここで間違いない。置いてあるのは、絵画やツボなどを送る時によく見た中サイズの木箱だ。何故か自発的にガタガタ揺れているし、ちょうど手でも開けられるくらいには金具が緩んでいた。
開けてみればチップタイプの緩衝材の中からもごもご声が聞こえてくる。まさかと思い、手を突っ込むんで、無理矢理引っ張り出すとそこにはまさかのベルトさんとシフトブレス、そしてタイプスピードのシフトカーがいた。
『やぁ、エイジ。私の予測が正しければそろそろ困っているのではないかと思ってね』
「ったく、あんたスゲーよベルトさん。ちょうど怪人に襲われててね、その予測通りだよ」
『ふむ、そちらは予測していなかった。しかし、君が峰理子の事を警戒していたように私も君の周辺を警戒していてね。常にマックスフレアを君の周りを見張らせていた。そしたら案の定、君は攫われてしまった。全く、君には困ったものだよ』
「はいはい、愚痴はここまででにしてくれよ。お客さんがお待ちだ」
貨物室まで降りてきた怪人は広い場所に出て、俺がベルトさんを手にしているのを見るやいなや左手の銃手を持ち上げて、こちらに向ける。相手はやる気満々といった感じだ。
「ベルトさん、調整は終わってるんだよな」
『勿論だとも。イリナと私で最終調整を終わらせてきた。これからは存分にその力を示したまえ。そしてロイミュード達へと知らせるんだ。仮面ライダーが帰ってきたのだとね』
「その為にもまずコイツを倒して、理子を救う」
『まだそんなに甘いことを言っているのか。彼女はキミを襲ったんだぞ』
「分かってるよ。でもな、アイツ一瞬寂しそうな目をしてたんだよ。あれは、父さんの話をしてる時の母さんと同じ目をしてたんだ。だから、ただ逮捕するんじゃない。ちゃんと助けてやらないと。じゃないと、理子はこれ以上に道を踏み外しちまう」
ロイミュードはこちらの事情など考慮はしない。ゆっくりとこちらに照準を合わせて、トリガーに指をかける。コイツの目的は1つだけ。俺を殺さずに無力化して、理子の元へ連れ帰ること。
だが、俺にとって相手はただの敵だ。理子本人ならまだしも、コイツは理子を欲望を学び、ピックアップし、コピーした存在に過ぎない。
『やはり、君は仮面ライダーたる心を持っているよ。行こうか、エイジ。Start Your Engine!』
「変身!」
進化態となったロイミュードの名前はシーフです。デザイン的には眼帯とバンダナを付けたRPGによくいるタイプのシーフ(盗賊等)をイメージしてください。左手がワルサーP38みたいな見た目をしたサイコガンです。肘付近にマガジンみたいなものも付いています。弾数は一応無限……なはず
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