人間のペットやってます   作:きゅーけつぎいいい!

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血を吸う化け物

 

 

 

 

柊シノアは未だかつて無いくらい困惑していた。

 

 

 

 

柊家に生まれて、幼い頃から英才教育を受けてきたからだろうか。シノアは年の割に達観していて何事にも冷静に取り掛かれる人間だと、自己評価していた。

今回の任務で初めて分隊長という大役を任されて、加えて隊員はもれなく全員問題児というお墨付きだけど、任されたからにはしっかりやり遂げようとそう思っていた。プレッシャーには感じてなかったし、自分なら出来るという自信もそれなりにあった。

 

 

──だけど、それはあくまで隊員が人間の場合である。

 

 

「・・・すみません、中佐。おっしゃっている意味が、よく分からないのですが」

 

 

鉄格子越しににこやかに笑う美しい化け物と、横で腕を組む上司を見比べてシノアは絞り出すようにそう呟いた。

 

数分前、この薄暗い地下に半ば強引にシノアを連れてきた上司は枷で壁に縫い付けられた吸血鬼を親指で指して、無駄にいい笑顔で言ったのだ。

 

『コイツ、仲間にするぞ』、と。

 

 

上司──一瀬グレンが何を考えているのか、何をしようとしているのか、それが分からないのは昔からなので気にする必要はない。しかしそれを除いたとしても、目の前の状況はシノアを困惑させるには充分過ぎた。

 

まばらに配置された沢山の軍人。ただでさえ不気味な地下の中でも一際危ない雰囲気を漂わせている牢獄。

 

頑丈な鉄格子は一本一本に鬼呪の力が練り込まれているようで、触れるとぴり、と痺れる。人間のシノアでこれなのだから、吸血鬼が触れたらひとたまりもないだろう。恐らく吸血鬼の手足にはめられた枷は、もっと強い呪いがかけられている。見ているだけで、ゾワゾワと背筋が泡立った。

面倒事に巻き込まれた事を察して、シノアは思わず顔を顰める。

 

「──仲間に、すると、そう言いましたか?・・・私の目には、彼が吸血鬼に見えるのですが」

 

「おう。正真正銘、吸血鬼だ」

 

「・・・・・・・・・ついに頭わきました?」

 

あまりにもハッキリと肯定されて、シノアは上司が正気か疑ってしまう。

だって、日本帝鬼軍は、月鬼ノ組は、吸血鬼を倒す軍だ。だというのに、その吸血鬼を連れていく?正気だとは思えなかった。

確かに、目の前にいる吸血鬼は瞳の色と尖った耳を除けば、ただ異常に容姿の整った青年に見える。だけど彼は実際に吸血鬼で。いかに柔和な笑顔でも、無害そうに見えても、吸血鬼なのだ。血を吸う化け物なのだ。

 

「中枢は本気なんですか?」

 

「本気も本気。お偉い柊様が何年もこの吸血鬼を飼って、コイツは使えると判断したんだ。責任は上層部がとるだろ」

 

「責任だけとられても、連れていくのが私の隊ならもしもの場合、被害が出るのも私の隊なんですが」

 

百歩譲ってこの吸血鬼を仲間にするのは分かったけれど、それをシノアの隊が引き受けるのは理解が出来なかった。新人ばかりのシノアの隊にこれ以上厄介事の種を増やすなんて、それはもう捨駒も同然だ。

 

無理、絶対無理、と首を横にふるシノアを見てグレンがため息をついた時、今まで黙りこくっていた吸血鬼が口を挟んだ。

 

「大丈夫。俺は君たちに危害を加える気はないよ。仲良くしよう」

 

にこにこと屈託なく笑う吸血鬼に毒気を抜かれて、シノアは肩を落とした。

そもそもシノアの考えがどうであれ、それが軍の意見であるならばシノアが反対出来るはずもない。従う以外に道は残っていないのだ。

 

「ま、そういうわけだ。上手く手綱を握れよ」

 

動揺しているシノアが珍しいからか、グレンはそう言ってニヤリと意地悪く笑った。

 

 

 

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