ベネットとファットマンは黒服たちの活躍によって取り押さえられ部屋から退出。
静まり返った部屋にはワイと定二の二人だけとなっていた。
「それで何を言おうとしたんだ?」
ワイの切り出しに若社長は咳払いと共に話し出す。
「ボクからの条件は君たち──正確にはトレジャーハンター君に注目している間にボクのコレクションの一つが盗まれてさ」
「それを取り返せと?」
肩を竦めて、席から立ち上がると棚にある資料ファイルを持ってきた。
「君たちに取り返してもらいたいのはこれ」
ファイルが机に広げられ、指が示した場所を渋々読み上げる。
「何々……【狂気のキャッツアイ】?」
「詳細はカッツ合いでお願い。 さて、やってもらいたいけどどうする?」
俺は裏を探るように質問を返す。
「対象に関しては了解したが、その時の状況や犯人の手がかりがないわけじゃないよな?」
もちろん、と懐から取り出した携帯端末を操作すると画面をワイに見せる。
若干乱れた映像は監視カメラによるものだろう。
アングルは上からのもので角に突き当たる廊下を映し、最新の赤外線カメラは暗闇であるはずの世界でも映像を成立させている。
しかし、数秒後……時刻にして真夜中を過ぎたあたりに動きがあった。
丁度死角から現れた2人の警備員らしき影。
間隔の短い発砲音と閃光が暗闇を照らすのはサブマシンガンの射撃によるものだ。
しかし、ズドンという轟音と共に1人の頭が消し飛ぶ。
生き残ったほうは慌てて弾倉を入れ替えようとするが上手くいかず取り落とす。
そこで見えなかったものが現れた。
黒い革のジャケットを羽織っていても分かる筋肉隆々の男で髪は角刈りで顔にはサングラスを掛けている。
右に抱えているのは恐らく、定二の言うコレクションなのだろう。
左手に持っていたソードオフショットガンを投げ捨てると、そのままを警備員の首掴んだ。
壁に押さえつけられた警備員は足が宙に浮く状態でバタバタと振るい、サブマシンガンを床に落とし、両手で開こうと抵抗するも万力のように強固なそれには無駄となる。
その様子を不思議そうに見ていた男は次の瞬間、警備員の首をへし折った。
二つの亡骸には目を向けず、そのままサブマシンガンの弾倉を拾い、ぎこちない動きで装填。
銃口はこちらに──カメラに向けられまま発砲。
そこで映像は途切れていた。
「それで……この男に心当たりは?」
端末をしまう定二は考える素振りを見せるがそれも一瞬で終わり。
「ないね、というか逆に多いから違う意味では心当たりはあるけどね」
ニコニコそれを言う辺り本当にそうなのだろうと溜息で返すワイに期待の目で返答を待つ定二の手にはいつも間にか持ち出したかわからない拳銃が握られている。
「オーケー。 とりあえずそれを下ろしてくれ。 ワイがその程度で死ぬなんて思ってないだろうが、痛いのは嫌なんだ」
「じゃあ、受けてくれるかい?」
答えは決まってはいるが、ワイは改めて質問を返す。
「それはワイだけの条件か? それとも──」
「無論、トレジャーハンター君とセットさ」
黒い笑みは何を含んでいるのか計れないが、揺れた銃口が代わりに真剣さを教えてくれる。
「わかった。 最低限の資料と準備はしてくれるんだろう?」
「うん、資料は後日送るし、支援も構わないよ、結果さえ残してくれればね。 失敗すれば……わかってるよね?」
右人差し指で自らの首を横切るジェスチャー。
「ちなみにそのコレクションがこの町を出ている可能性は?」
「それはない」
一瞬だが真顔で答えた定二に違和感を覚えるが。
「そうか、ならやるよ」
深入りはしない、以前の依頼でそれは経験しているのでワイはこの依頼──ではなく契約執行に集中する。
「頼んだよ。 この筋肉もりもりのマッチョな変態さんを倒してちょうだい」
はいはい、と流して部屋から退出。
部屋を出て早速立っている黒服が案内をしてくれるようで、黙ってそれに従う。
改めて見ると廊下の内装も少し変わって見えて表現に困るが万人受けはしないだろうなと評価。
そう考えていると目的の場所に到着。
室内には酒気を漂わせるベネットと潰れたファットマンと顔を赤くした社長秘書BBがいた。
傍には黒服が何人か立っているが気にせずワイはベネットの腕を引く。
「ほら、仕事だ。 行くぞ酔っぱらい!」
「おいおい、仕事は終わったはずだろ! 俺らは騙されてたんだからなぁ!」
若干、呂律の回らない口調で話す中年に舌打ち。
「まあまあ、お酒も入ってます今晩くらいはここで泊まって頂いても構いませんよ?」
「お、BBちゃん! 太っ腹!!」
「太ってませんよぉ!」
と秘書の一撃がベネット鳩尾を抉ると、悶絶することなく中年は意識を失う。
ああ、これはいい一撃だなと音で判断したワイは後は任せて部屋から出た。
施設から出るとワイは夜の街を歩き、帰路に着く。
以前もこんなことがあったなと既視感を覚えたがちょうどベネットを病院へ連れて行ったあの晩と重ねた。
「ひとりはなれたつもりなんだが、またコンビ、か」
ワイの独り言も街の喧騒が呑み込んでしまう。
きっと、誰かの声もそうやって消えて行くのだろうか。