ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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ベネット視点での2-1です。


ファイル、2-1(-)

 

 

俺は夢を見ていた。

 それがなんで分かるのか……もう何度も見た光景で、その夢も何度目か忘れちまったくらいにだ。

 

 

 蒸気パイプで囲まれた地下室で俺は『奴』と対峙する。

「娘を放せ!」

 俺の手には『奴』の娘と、銃が握られている。

 不意を突いて、『奴』の片腕を撃ち抜いてやったがナイフ片手に出てきやがった。。

 安易な挑発をペラペラと喋り続ける姿が何とも女々しく思えたが……。

 胸の奥で何かがくすぶっているのを感じた。

「……どうした、怖いのか?」

 その言葉を聞いて……俺は──

 

 

 そこで夢は覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝の目覚めはお世辞にもいいとは言えない。

 深酒したせいか頭は勿論、床で寝てたせいか背中も痛い。

 傍で寝ていたファットマンと黒服のいびきの合唱でどうにかなりそうだった。

 倒れていたコップに水差しから水を注いで飲むと幾分か気分はマシになる。

 そして、何故か腹部に鈍痛。

 感覚的には酒に酔って喧嘩した時に似ている……しかし、何時だ?

 辺りを見渡すが、ファットマンや黒服たちにその形跡は見られない……。

 俺が一方的にKOされたってことか?

 候補が何人か脳内に閃き、その最有力候補がいないことに気付く。

「あの野郎……どこ行きやがった」

 俺は重い足取りで部屋を出た……この部屋に響く合唱団から逃げたいってのもあったが、きっと他にも理由がある。

 だが、頭痛が考えるのを阻害。

 生まれて数少なく二日酔いに感謝した瞬間だった。

 

 

 

 部屋を出た俺は取りあえずロビーへ向かうことにしたが、廊下の途中で黒服に呼び止められる。

 なんでも、俺が来たら渡すようにと言われた茶封筒。

 中身は御景が引き受けた仕事の案件らしく、出来れば内密で見て欲しいとのこと。

 それと、肝心の探偵野郎は昨晩のうちに家に帰ったらしい。

 俺は確かに受け取ったと合図をしてその場を後にする。

 外は随分とご機嫌な天気で、歩道には人が、車道には車が波を形成。

 変わらない都会の風景がそこにはあった。

 俺は躊躇うことなく、波に流れる。

 進路方向を最寄りのタクシー乗り場で合わせ、あとは歩調を合わせるだけだ。

 思考を半ば放棄した歩みの波が止まる。

 視線を上げれば、横断歩道手前の信号は赤。

 目の前を車の川が流れて行く。

「いやぁ、それにしてもツイていないなぁ」

 声は右隣から。 流し目で確認すると、だらしなくスーツを着込んだ白髪交じりの初老の男が整った髭を指先で弄りながら話していた。

 「……そもそも貴方が寝坊しなければこうはならないのでは?」

 相手はその隣に立つ東洋人。 年齢は中年で、七三分けに黒縁眼鏡。 ビシッと糊の張ったスーツを着ている。

「そんなことは言ってもね、オブライエン君! 私、ここのところ徹夜続けで大変だったんだよ!?」

 喚く男に、東洋人はキッパリ両断。

「知りません、元はといえば教授が勝手に始めたことでしょう? それと私は【尾武雷 焔】ですので」

「いやいや、改名しなよ『オタケミカヅチ ホムラ』とかより、みんなオブライエンのほうが親しみあるって」

 はあ、と深い溜息には侮蔑と呆れ。

 そんなこと露知らずと教授が続ける。

「ああ、それと今日は私、知人に会いに行くから気を付けてね」

「……本当にお一人で?」

 勿論、と肯定には絶対の意思。

「オブライエン君は心配性だなぁ……ジュウゲツ君やロォグ君たちを見習いなよ」

「……他のはともかくあの獣臭い奴は勘弁です」

「そこら辺は本人の意思を尊重するよ……まあ、あっちには娘もいるし、大丈夫さ」

 そこで中年の顔に安堵の色が見えると、同時に信号は緑に変わる。

「確かに……あの姉妹がいるなら……大丈夫ですね」

「でしょ? とりあえず、私は明日には戻るし、留守の間は頼んだよ」

 対岸へ渡ると、俺とは別方向へ歩いていく二人組。 人混みの喧騒さはすぐにその声も気配も呑み込んでいった。

 

 

 

 

 ある程度の記憶を頼りに俺は御景のマンションの特徴なんかを運転手に告げると、わかったらしくそのまま走り出した。

 しばらくすると、見覚えのある風景に差し掛かり、タクシーを降りる。

 歩いて行くとそこら一角だけ取り残されたように古びたマンションが見えてきた。

 名前はコーポ『たそがれ』。 覚えやすい名前と見た目だ。

 アイツの部屋があったのは四階で、エレベーターもないから仕方なく階段で向かう。

 四階へ辿り着くと、通路には中年の女が立っていた。

 そいつは俺に気付いてくると問い詰められる。

「アンタ、ここの探偵と知り合いかい!?」

 今にも胸倉を掴んできそうな勢いに気圧される。

「お、おう……一応な」

「ふぅうん」

 まるで、品定めするかのように見てくる婆の視線。

「まあ、アンタでいいや。 じゃあ、ハイこれ」

 そう言って渡してきたのは、コンビニ袋と鍵だ。

「あん? なんだよ、これ」

「ああ、悪かったね……アタシはココの大家をやってる【大谷】ってもんだよ……実はそこの探偵──御景に家賃を一週間以内に払わないと追い出すって言っちまってね……今回が初めてじゃないんだけど、アタシもカッとなってつい、ね?」

 頬を掻きながら、恥ずかしいそうに言ってくる姿は婆じゃなきゃ良かったなと思う。

「それでアイツ、どうせ飯もろくに食ってないんじゃないかって……思ってさ」

 手渡されたコンビニ袋にはおにぎりやサンドイッチなどが入っている。

「まあ、アンタも用事があったんだろ? ここは一つ頼むよ……ね?」

 確かに一理あるので、了承すると、鍵は閉ってたら開けて、中を確認してくれとのことだ。

 確認って聞いても大谷はそのまま去って行く。

「おいおい、まさか俺に死体発見者にするつもりか?」

 だとしたら、とんでもねえクソ婆じゃねえか!?

「ま、アイツがそんなタマじゃねえってわかってんだろうがな」

 ドアを捻っても開かないので、貰った鍵で開錠。

 鍵がなくてもピッキングで開けるつもりだったので問題ないが、手間が省けて良かったとは思う。

 ドアを開けても人の気配がまるでないことから既に留守ということは把握。

 俺は靴を脱いで上がると、カーテンの引かれた居間のソファーに座り込んだ。

 大谷から預かった袋から遠慮なくサンドイッチの包みを取り出し、開封。

 これは腐らせるよりはマシという判断だ。

 一切れ口に頬張ると、俺は茶封筒の存在を思い出し、懐から取り出す。

 サンドイッチを口に咥えたまま、封を破るといくつかの書類と写真らしきものが数枚。

 書類には詳しいことは御景に伝えていることと、狂咲への連作先が記されていた。

 興味ない俺は写真に意識を向ける。

 パサついた卵サンドは口の水分を奪うのを無視しながら、見た写真はどうやら監視カメラのものらしい。

 遮光カーテンで遮られた光源では難しいと判断した俺は窓際に向かい、カーテンを払いのけ日光を取り入れる。

 注視した写真はどうやら、強盗の一部始終を録ったものらしいが、ある場所を見て俺の意識は全てそこに集中した。

 それは強盗の実行犯と思われる人物で……それは────

 

 

 俺は無意識的に流しへ走る。

 流しに胃の中の物を吐き出した、不幸にも先程食べた卵サンドがそのまま放出。

 ある程度吐いた後も、強烈な嘔吐感に襲われ、呼吸も安定せず、珠の汗が全身から噴き出した。

 限りある理性の鎖が状況の整理と最善の手を導き出す。

 俺は同封されていた資料から、情報を目で追い、携帯に入力。

 耳に当てた端末からコール音。

 六回目のコール音に差し掛かった頃に相手が出た。

「ふぁい、もしもし──」

「狂咲か!?」

 相手は昨日会った大手企業の若社長で、仕事の依頼主でもある。

「どったの? なんか、お宝でも見つけたの?」

 寝ぼけた声が演技ではなく、寝起きによるものだと理解は出来るが、俺にそこまで配慮する余裕はない。

「こ、この写真の男はどこにいる!?」

「写真……ああ、君には写真を送ったんだったね」

「それで、知ってるのか!?」

 沈黙。

「──いや、知らない」

 俺は舌打ちするが、おかげで僅かに冷静になった思考が働くそもそも詳細を知っていたらこんなまどろこっしい真似はしないだろうと推測。

「……え、もしかして……トレジャーハンターさんはそれが誰か知ってるのかい?」

 通話先の質問に答えるか迷った……だが、俺は肯定した。

「……ああ……コイツは、この男の名前は【ジョン・メイトリクス】。 階級は大佐。 元特殊部隊『コマンド―』の隊長だった男だ。 そして───」

 

 

 否定することは俺自身が許してくれなかった。

 

 

「────俺が殺した男だ」

 

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