ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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 翌朝。 結局、部屋の主は帰ってこなかったようだ。

 俺は特に気にした様子もなく、優雅にテレビを見ながら朝食を摘む。

 ワイドショーは昨晩、寂びれた商店街付近の雑貨ビルが崩壊についてを報道。

 現在は立ち入りが規制され、近隣住民にも避難指示が出ているらしい。

 なんでも老朽化によるものと報道されているようだ。

 一瞬、俺の視線が今いる部屋を巡り、このオンボロのマンションの全体像を報道と重ねるが、肩を竦めて思考を止める。

 朝食をインスタントコーヒーで流し、俺は映像を切った。

 片手には茶封筒を握り、俺は部屋を後にする。

 行先も決まっているので、足取りにも迷いはなかった。

 

 

 

 

 大通りに面した西区ビルの一角。

 八階建ての貸しビルの五階に男はいた。

 その部屋の主の娯楽用にか、巨大なモニターが壁に掛けられ、見覚えのある児童向けの映像が映し出されていた。

「よお、久しぶりだな」

 俺は愛用の銃をソファーに座る男の後頭部に押し当てているが、相手は怯んでいる様子でも、慌てているようでもない。

「部下はどうした?」

 日常の一コマのような声音で返ってくる。

「まるで案山子だ。 あんなト―シロ―ばかりよく集めたもんだな」

 俺の言葉に男は違いねえ、と喉で笑う。

 俺も釣られて笑いが漏れた。

 自然と銃口を離すと、男が切り出した。

「それで、この『黒髭』に改めて何の用だ? ベネット」

 映像を切らないまま、顔をこちらに向けられる。

 蓄えられた黒い髭に、ギラリとした目。

 顔には無数の傷があった。

 男の名前は【ハディオ=クラフトフ】。

 有名な海賊、『エドワード・ティーチ』を尊敬して止まないコイツの二つ名はいつしか同じく『黒髭』と呼ばれるようになっている。

「なぁに、用ってことでもねえが……お前がここ最近で『運んだ』奴のことを教えろ」

 その言葉にハディオの太い眉がつりあがる。

「お前、俺に客を売れって言ってんのか?」

「……ま、そうなるな」

 黒髭の再来と呼ばれているが、コイツが海賊モドキのことをしていたのはそれこそ昔で、今は造船企業で一稼ぎしてるようだ。

しかし、たまに小遣い稼ぎで『運び屋』もやっている。

 陸路と空路はクライアントの狂咲が把握してるとなると、俺個人のネットワークで海路のほうを潰すことにした。

 ここいら一帯ではコイツが情報を握っているはずだろうから僅かでも手に入れておきたいのだ。

 渋っているハディオに俺はカードを切ることにした。

「まあ、俺も面倒で仕方ないけどよ、ロックカンパニーが関わってるからな」

 その企業の名前を出すと隠しているようだが、僅かにハディオの気配に変化。

「テメエと、あの大手企業がか?」

 疑いの視線を懐の茶封筒。

 ロックカンパニーのロゴ入りのそれを見て、納得したようだ。

「ちっ……面倒だな」

 実はハディオの会社は最近ロックカンパニーと企業契約をしたことも事前に調べておいたのだ。

 あくまでも揺さぶり程度になればと思っていたが、結構効いているようだ。

「クソが、わかったよ」

 アニメの映像を一旦止め、ハディオは別室に消えると、すぐに戻って来た。

「ほら、これだ」

 一冊のファイルが机の上に投げられる。

「ちなみに、お前の後は三人しか運んでねえからな」

 中身を確認すると、確かに名簿には俺の後に三名分しか更新されていない。

「どんな奴らだったか覚えてるか?」

「……そうだなぁ」

 黒髭の横顔には思考が巡っている。

「一人目の【レッドクイーン】ってのは、名前通り奇抜で真っ赤な服を着た女だな。 明らかに偽名だが、金払いは良かったし、それも絶世の美女って感じで断る理由はなかった。 まあ、船乗りの俺は直感的にやべえって思ったから近づかなかったけどよ」

 再びの思考で間が開く。

「二人目の【ニルス・ペトラー】は褐色肌の男でいつもニコニコしてて、どうにも胡散臭い奴だったなぁ」

 最後の間が一番長かった。

「三人目の【カルガスルガイ】ってのは東洋人……だったか? いや、あの彫りの深さは……」

 また間が空く。

「忘れた。 ほら、同窓会とかで『あれ、お前居たっけ?』ってやついるだろ……そんな感じの顔で特徴もな──いや、片言で話してたな」

「OK、お前の努力は認めてやるよ」

 肩を竦めたハディオは再びアニメ鑑賞に戻ろうとしたが、俺は疑問を一つ聞くことにした。

「しかし、お前ほどの奴が企業一つでそうも態度変わるもんなのか?」

ハディオはこちらを見ることなく話し出す。

「俺も前まではそう思ってぜ? ロックカンパニーってのも名前だけデカいとこで手を組むまでもないってな。 しかし、あの爺さんから若社長に変わってからその印象も改めたぜ。 あの若い奴は話してみたら意外に話が分かる奴でな、気付いたら契約することになってたんだ」

 当時を思い出すように声には楽しそうなものだったが徐々にトーンが落ちて行く。

「だけどよ、あの若社長は前の爺さんとは違った意味での怖さを覚えたんだ。 あれは本物だぜ?」

 一部界隈では恐怖の対象である男の目には畏怖。

 俺も自然と唾を呑み込み、喉を隆起させる。

「とりあえず、今のロックカンパニーは味方のうちは点数稼ぎも大切なんだよ。 ああ、あの類と如何に敵に回さないかが重要だからな」

 恐らく、個人ではなく一企業の長としての判断もあるのだろう。

「そうか、テメエも苦労してだな」

「まあな……。 そういえば、お前は『お宝』どうだったんだ?」

 グッ。 と痛いところを突かれ、返答に困る。

「……まあまあ、だな」

「…………あー」

 ハディオが何やら察したような声を出す。

「頑張れよ」

 男の憐みの声が余計に辛くした。

 

 

 

 

 

 

 俺は目的も果たしたことで、ビルを後にする。

 退室する時に、クライアントに協力したことを伝えるように再三ハディオに言い渡されたのも思い出し端末で手に入れた情報と状況をメールで狂咲に送りつけ、街を歩き出した。

 少なくとも海路ではあの亡霊……いや、メイトリクス『らしき』奴は移動していない。

 陸路も空路もないなら、奴はこの街にまだいるとことだろう。

 捜査は確実に前に進んでいた。

「こりゃ、俺が探偵に転職するのも近いか?」

 今頃、何しているかわからない某探偵を思い浮かべ、俺はそう呟いた。

 

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