ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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 ここは地下に位置する数あるバーの一つ。 名は『紅蓮獄』という。

 既に夜は更け、店の活気もそこそこ。

 男女のカップルに友人とやって来た者たち、何故か二人組が多く見られる中でカウンターに座る人物は一人であった。

 その格好は肌の露出を一切許さないと言わんばかりの恰好で、奇妙ながらも空間とは謎の一体感を生み出している。

「おや、貴公が一人とは珍しいな」

 声の方を見てみれば、これまたこの場には似合わない西洋の羽根つき帽子を目深く被り、首から下も同様に派手な衣装を身につけ両脚にはゴテゴテした無骨なブーツが嵌められている。

 帽子の下から覗かせる顔は整っており、その上で全身外套で纏う姿を見れば、まるで古きお伽噺の騎士とでもいうような雰囲気……もしくは、イキ過ぎたコスプレイヤーに見えるだろう。

「……いえいえぇ、先程まで友人がいたんですがぁ、急用が出来たらしくってねぇ。 貴方も一人とは珍しいですね────”爪先”さん」

 湯気の出る珈琲にふうふうと息を吹きかけていた人物、如愚侘手記狩はそう言ってカップを啜る。

「む、作法がなっていないのではないか?」

「生憎ぅ、これが私なりの作法なのですよぉ」

 そうか、と反論することなく如愚侘の出鱈目に流される騎士は隣に座り、ウェイターに注文。

「店主、私には熱く、いや、適温、そう冷たい紅茶をホットで頼む」

 ウェイターは一瞬動きを止めたが、すぐに行動を再開。

「…………紅茶の、ホットですね?」

「ああ、適温に冷ましたホットだ」

 かしこまりました、とそう言った店員の表情は何故か疲れ果てていたが、騎士は気にしないし、如愚侘も助け舟を出す気はない。

「それで、何故私が一人と思ったのだ、記者殿」

 品が出るまで、騎士は話を振ることにした。

「そうですねぇ、……勘、ですかねぇ?」

「そうか」

 会話もそこで終わり、店内のガヤ声などが嫌に響く。

「それでぇ、本日はどんなご用件でぇ?」

 何故か、今度はたまらなくなった如愚侘が話を振ることにした。

「……使命から外されて、暇を貰った」

「つまり、クビ……と」

「いや、そこまでは……そこまではないと思うが……代わりに今はラライアンとボルカスが請け負っている」

 しんみりとした空気が流れる中、品が運ばれてきた。

「こちらがご注文の品でございます」

 そうウェイターが運んできたのは、JAPANESE湯呑であった。

「ご苦労だ、店主」

 そう言って何の躊躇いなく湯呑を引っ手繰ると、ごっごっと中身を飲み干す。

「うむ、苦いな! やはり、所詮は葉を一度は乾燥させ、再び湯につけて戻すという飲料だけのことはある。 味覚を残した私でなければ気付かなかったな」

 緑茶と紅茶。 まったく違う品を持って来られたのに文句を言わず受け入れる。

 その様子にウェイターの目が死んでいたし、隣の如愚侘も自分の珈琲を相手にするのが忙しいようだった。

「それで知人が通っているという店を探していたところに、貴公がいたのだ」

「はぁ……」

 如愚侘は空のカップを置いて、立ち上がろうとするが隣の騎士がそれを袖を引っ張ることで阻止。

「まあ、待つのだ。 ほら、何か一品奢るからもう少し私と一緒に居てくれ! な?」

「いや、こっちも暇じゃな────暇じゃないんですよぉ!」

「頼む、最近シナンナも、ザガザエル、テスも相手してくれなくなったんだ! これでは私は寂しさで死んでしまう、このサダナーン様が頼んでいるんだぞ!?」

 泣きついてくる騎士に困る如愚侘。

 視線を上げれば、肩を竦めるウェイターが見えていた。

 

 

 

「やはり、持つべきものは友だな」

 うんうんと、独り頷くサダナーンはお替わりの紅茶:真を飲んでいた。

 奢るとのことで記者は同じく紅茶(真)を頂いている。

「うむ、同じ紅茶でもこうも味わいが変わると侮っていたな」

 そりゃ、そうだろうと言いたい空気を堪えつつ、長く続きそうな会話を選ぶ。

「そういえばぁ、最近の使命って何なんですか?」

「ふむ、それは多くが神父によって与えられるものだが、ここいらは暗殺が主だな」

 その解答に見られるはずのない表情をグッと堪える如愚侘。

「まあ、私はその一つに失敗し、現在は処罰保留中と訳なんだが……聞いてくれ! そもそもターゲット一人ならまだなんとか───ああ、この半身が無くなる覚悟でなら殺せる範囲だったんだ! それが────」

 わなわなと震えるサダナーン。

「あの忌々しい槍使いめ!! あと一歩、否、あと半歩というところまで来ていたのだ!! それを邪魔しよって!!」

「……それで今の状況に陥った原因だということでぇ?」

「当然! もし、次の機会があれば首だけになろうとも使命は果たす所存」

「次があれば、の話ですよねぇ?」

 グッと言葉に詰まる騎士を他所に如愚侘は紅茶を飲む。

 その時だ、ピタリと空気が変わったと思えば、右手で耳を抑えサダナーンは急に叫びだした。

「ああ、私だ───ほう、わかった。 やはり、私の力が───何? 一番近かったから、だと!? ええい! それが使命であるならつべこべ言ってられるか!!」

 そこまで言い終わると、ガタリと席を立つ。

「すまんな記者殿、どうやらボルカスがやられたようだ……まったく中年相手とはいえ油断するからこうなるのだ……それで私はこれから現場で奴の様子を見てくることになったので失礼する」

 一礼したかと思えば、店内では風が舞い上がり、そのまま店場違いな騎士は消えた。

 【爪先のサダナーン】。

 本当に嵐のような人物だと記録した如愚侘にウェイターが声を掛ける。

「あの……お代は?」

「…………いくらでしょうか───あ、いくらでしょうかぁ?」

 

 

 

 更けた夜でも、やがて朝が来る。

 それは誰でも当て嵌まることなのだろうか?

 

 

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