ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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これから二部:事務所活動編へと移ります。

よろしくお願いします。

設立編終了から、時間は経過しています。


第二部 活動編
ファイル番外:私の職場


 最近の俺の朝は早い。

 いや、親っさんの所で下宿してた頃も早かったけど、最近はよく眠れないのだ。

 なんというか、朝が来るのが早いと感じてしまう。

 欠伸を噛み殺して、着替えを終わらせるとキッチンへ向かい、簡単な朝食の準備を行う。

 トースターで食パンを焼きながら、フライパンで卵を焼いていく。

 程よく焼けた目玉焼きを、茶色に焦げ目がついた食パンに乗せる。

 それを皿に盛りつけ、コップに注いだ牛乳と共に机へ置く。

 我ながら手抜き満載の食事に苦笑しながら、テレビを点けるとニュースが流れていた。

 内容は、最近起こっている怪奇事件に関するものだ。

「…………」

 特に代わり映えのしないそれを聞き流しながら、食パンを齧る。

 そういえば、この間の仕事ってどうなったんだ?

 俺は脳内で先日のやり取り回想をしながら、食事を終わらせた。

 

 

 

 

 出勤する為に部屋を出て、少し気温が寒くなってと実感。

 季節は秋を迎えようとしていた。

 もう少し厚着がよかったか? いや、それでも午後からは暑くなるだろうしな……。

 朝のヒンヤリとした空気の中、俺は職場へ向かう。

 職場はここから歩いて、20分程で軽い食後の運動と思い、今日は歩くことにした。

 辺りは住宅街ということもあり、朝は学生なんかの通学路とも重なる。

 信号待ちの時に対面の歩道を歩く、女子小学生が目に映った。

 彼女は小学校高等部でその綺麗な黒髪と、日本人には異質に映える青い目をしている。

 そんな俺の視線に気づいたのか、笑いながらこちらに手を振って来たので振り返しておく。

 そのまま彼女は学友であろう少女たち共に道を歩いて行った。

 信号も青に変わり、俺は歩道を渡っていく……。

 

 

 

 

 

 あと、少しで職場に着くというところで子供の泣き声が聞こえた。

 そちらを見れば、少年の持っていた風船が木に引っかかってしまったようだ。

 母親は代わりの風船を買ってあげると提案しているようだが、子供は頑なにあの風船がいいと泣いているようだった。

 何でも、今日オープンした店の店頭先で貰ったようなのだが、子供がひっきりなしに「殺される! 風船を無くしたら殺される!」と叫んでる辺りただ事ではないと感じた。

 木を見て登れないこともないと判断。

 親子に声を掛けようとした時に、一陣の風が通り過ぎる。

 その時には、上下青ジャージを着た女性が跳んでいた。

 おおよそ、4、5メートルはあろう高さにある枝に引っかかった風船を難なく掴むと、それを少年へ手渡す。

 先程までジョギングをしていたのか、その整った顔には汗を浮かべ、長い白銀の髪は一本に結われている。

「ははは、泣くな、少年! これで殺されることはないのだろう!!」

 辺りに響かせるように演技がかった物言いをする人物は俺が知っている中で一人しかいなかった。

「私が誰かって? 通りすがりの真田さんだ! 真実の真に、田んぼの田で、真田だ!」

 少し引き気味の親子の前で高笑いをする彼女に見つからないように俺はその場を後にする。

 

 

 

「ジョッシュか、おはようさん」

 職場に付いて声を掛けてきたのは職員の一、獣月六調さんだ。

 全体的な白髪に揉み上げ辺りは黒色の髪で染まっており、着ている半袖は白地に黒の稲妻が走っているような服装だ。

「おはようございます、先生たちはいらっしゃらいないんですか?」

 事務所内を見渡して、他には誰にもいないことを指摘。

「あぁ、ミ―ちゃんたちは裏手で組手でもやってんじゃない? 変なところでマメだよなぁ」

 そう言いながら彼は呑気にソファーに寝ころびながら、手塚治虫のどろろを読んでいる。

「あぁ、そう言えば真田さんと、メルティちゃんとも会いましたよ」

「雅と会うとはツイてねえが、メルティで相殺か」

 そう雑談をしながら、持ってきた荷物を適当に置いて、俺は取りあえず、掃除から取り掛かることにした。

 

 

 

 しばらくすると、事務所のドアが開く音。

「ぬわぁあああん、疲れたもぉん!」

 そう言って、入って来たのは先程見かけた女性……真田雅さんだ。

「おお! おはよう助手殿! 早速だが麦酒は冷えてるか?」

「冷えてても飲んだらダメですよ?」

「??? 当然だろ? 私は適度に冷えている麦茶のホットを所望する!!」

「……はいはい」

 俺は可能な限り要望に近いものを用意する。

「いや、毎回思うけどよ、お前って結局その注文治せないのか? お蔭でお前と外食する度に店員から睨まれるし、ムッコロスフェイスされるんだけど?」

 獣月さんの指摘に首を傾げる真田さん。

「何故だ? 私は要望をしているだけだが?」

 本当に不思議そうに言うものだから、獣月さんも何かを察したようだ。

「はい、これでいいですか?」

 正直、適当に用意した麦茶だが、彼女はそれを美味しそうに飲む。

「うん、美味い! 流石だ助手殿! 可能なら私の伴侶にでもしたいくらいだぞ!」

 麦茶くらいで美人にそう言ってもらえると、悪い気はしない。

「騙されるなよジョッシュ。 そいつそういうこと平気で言うからな。 てか、下手するとセクハラだぞ」

「むむむ、聞き捨てならんな。 私がいつそんなセクシャルハラスメントを働いた?」

「無神経に下ネタ発言したせいでこの間の茶の間凍らせた奴がなに言ってんだか」

 ……そうだった、この人見た目と中身が半比例していたことを思い出した。

「そんなことあったか? なぁ、助手殿?」

「とりあえず、シャワーで汗でも流してきたらどうです?」

 助け船は無視することにした。

「そうだな、少々気持ち悪かったところだ。 お言葉に甘えて使わせてもらおう!」

 そう言って彼女はその場を後にする。

 ため息混じりに掃除を再開しようとすると、視線に気づく。

「獣月さん、どうかしました?」

「いや、お前も成長してんだなって」

「はい?」

 それ以上は何も言わず、彼はまた読書に戻る。

 その言葉の意味を自分の中で探してみるも、見つからなかった。

 

 

「あれはやはり俺の方が上だった」

「なんだまだ起ききれてねえのか? あれはワイの勝ちだ」

 再び、事務所の戸が開かれると、喧嘩をしながら二人組の男が入って来た。

「あ、先生、ベネットさん! おはようございます!」

 青年は御景さん、中年男性はベネットさんで二人でこの事務所を営んでいる。

「おい、助手聞いてくれよ! コイツ負けを認めねえんだ!」

「はっ! テメエの泣き言なんて聞かせる必要ねえだろ」

「なんだと!?」

 二人が取っ組み合いになりそうになる。

「おいおい、んなことより二人ともシャワーでも浴びて頭冷やせよ」

 獣月さんの言葉で二人はしょうがねえな、と一旦離れる。

 次にどちらが先に入るか、ジャンケンを始める辺りを見て本当は仲良いんじゃないかなって思う。

「っしゃぁあ!」

 どうやらベネットさんが勝ったみたいで、喜ぶ彼と舌打ちする御景さん。

「んじゃ、俺はプロだからな、お先に失礼するぜ探偵様よ」

「うっせぇな、早く行け! つか、プロってなんのだよ!?」

 あれ、っていうか今って確か……。

 次の瞬間、ベネットさんが脱衣所を仕切る扉ごと吹き飛ばされてきた。

 同時に御景さんも巻き込んで二人は壁に激突する。

「あらら、こりゃラッキースケベとならず、か」

 対して、反応も薄く漫画読み続ける獣月さんはきっと確信犯だろう。

「ふむ、叫ぶ暇がなかったがこれが王道の展開なのだろう?」

 バスタオルを巻いて出てきた真田さんは一人うんうんと納得する。

 俺はそういう知識はないが、少なくとも風呂場で出くわして壁に激突する勢いで蹴る人はそういないと思う。

 少なくとも白目向いて倒れる二人と、吹き飛んだ扉を見て俺は仕事が増えたと肩を落とした。

 

 

 

 

「お前なぁ! どこをどうしたら、あんな勢いで蹴るんだよ! 死ぬよ、なぁ俺らじゃない人だったら死んでたぞ?」

 目を覚まして汗を流した二人の説教を真田さんは聞き流す。

「てか、ビィ! お前もお前だ。 どうして、コイツ入ってるの知っててあの提案したよ!?」

 ビィ……二人は獣月さんをそう呼ぶ傾向がある。

「さぁな、少なくとも俺は提案しただけだぜ? 確認しないお前らも悪いだろ」

「そうだよ」

 それに便乗するような発言の真田さん。

「ってか、ベネットいいのか?」

「あん? 何がだよ?」

「お前、事故でも女の覗きしたことになるだろ? それをあの子が聞いたらどうなる?」

 あの子……ベネットさんには実は娘さんがいる。

「ははは、流石にコイツがそんな脅しに乗るわけ───」

 御景さんが笑いながら隣を見ると、ベネットさんは土下座をしていた。

「真田さん、いえ、真田様! すいませんでした!!」

 そう、強面なこの人も弱みはあるのだ。

「ははは、よいよい! それより少し火照った身体には冷たく適温の牛乳が欲しくなるなぁ」

 ははぁ! とキッチンへ走るベネットさんは急いで準備をする。

 先程まで立場が逆転である。

「ん? 探偵殿は何もしないのか?」

「いや、ワイは何も見てないし、むしろ被害者な」

「そうであったか、なら、ここで見るか?」

 遠慮する、と懐からココアシガレットを取り出すも中身が残り少ないことに気付いたようで、一本咥えるとくしゃりと箱を潰す。

「しゃあない……買い出し行くか」

「じゃあ、俺も行きますよ」

 俺は御景さんに同行を志願。

「お、じゃあポテチ買って来てくれよ」

「私は午後の紅茶だ」

「俺はアイス饅頭だ、抹茶な」

 各々が要望を言いだすのを見て苦笑。

「あのなぁ、一応ワイはここの所長なんだが?」

「うっせ、なら給料をもう少し寄こせ」

 ソファーから顔を出した獣月さんの言葉に、反応に困る御景さんはそれ以上は言わず、事務所を後にした。

 

 

「はあ、ワイの選択は間違えてたのか?」

 階段を降りながららしくない愚痴をこぼす御景さん。

「いや、そんなことはないと思いますよ」

 俺の言葉は気休めかもしれないが本心でもある。

「あの時、ロックカンパニーとの契約を蹴らなければワイらはもう少し良い生活出来たんだがな」

「でも、それだと今の事務所もなかったんですよね」

「ああ、たぶんな」

「だったら、俺はその選択は間違いなんかじゃないと思いますよ?」

「…………そうか」

 彼はそういうと、俺より先を歩いた。

「お前、成長したな」

「え……ありがとう、ございます?」

 本日二回目の言葉に俺は困惑。

 嬉しい反面、疑問が頭を反復する。

「あ、ジョッシュさん!」

 思考の霧を晴らしたのは、聞き覚えある声。

 その姿は今朝見かけた小学生、メルティ=ジョーンズ……ベネットさんの娘さんだ。

「あれ、学校はどうしたんだい?」

「今日は昼前で下校なんですよ、なんでも最近の事件で職員会議があるって」

 なるほど、こんな所まで影響してるのか……

「それで、ジョッシュさんは今暇なんですか?」

「いや、俺は今先生と買い物で」

 ワザとらしく咳払いする御景さん。

「ああ、いらしたんですか探偵さん」

「ああ、いたぞ。 君のその狭い視野じゃ見れないようだがな」

「…………」

「…………」

 どういう訳か、二人はあまり仲が良くない。

「今なら事務所にみんないるから先に帰っててくれるかい?」

「え、お父さんいるんですか!?」

 もちろん、と伝えると踵を返して彼女は走り出した。

 一度こちらへ振り返ると、ぺこりとお辞儀をして、再び疾走。

 見た目は大人びても中身は年相応であるようで少し微笑ましく思えた。

「…………おとうさん、ね」

「本当に意外ですよ、ベネットさんが結婚なさってただなんて」

「……そうだな」

 

 

 それから買い出しを終え、事務所に戻るとどういう訳か勘違いをしたメルティちゃんとベネットさんで一悶着起きたらしい。

 依頼がない日でも何かが起きる……それがこの”ミカベネ”探偵事務所、俺の職場である。

 

 

 

 

 

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