少女の話を聞いて御景はとりあえず、何故自分のような私立探偵を頼ったか理解した。
「なるほど。 命は狙われている……それは確かだが、何に狙われているのかは不明、と」
空のカップを突っつきながら探偵は整理する。
「はい、事件が起きてからでないと警察などは相手をしてくれませんし……」
「無理もない。 それにこの町では例え事件が起こっても場合によっては揉み消されるだろうし」
残酷だが、隠しようのない現実を突きつける。
「それで情報を集めようと嗅ぎ回ってはみたものの最近来たばかりでコネもアテもない。 そんな君は手当たり次第聞きまわったりしていたんじゃないか?」
探偵は俯くサイシャの背景を推理。
「まあ、結果としてワイのような事務所に行きついた時点でお察しってところ……どうやって知ったのか差支えなければ教えてもらえるかな?」
いつの間にか普段の口調に戻っていた御景の視線は改めて、少女を観察。
「……知らない、男の人に」
「具体的には?」
口籠る少女は淡々と言葉を吐き出す。
「よく、わかりません……ただ、顔も肌も全身を衣服で隠していたというか……語尾も変な感じで、意識して伸ばすみたいな……変な話し方をしていました」
話し終えてこちらを窺う視線と目が合う。
その特徴だけを聞けば、怪しさ全開でしかない。
だが……。
「ああ……。 恐らく、そいつはワイの知り合いだ」
思い当たる人物の妙に間延びした声が脳内で反響。
「まあ、嘘みたいだがそいつの紹介ならある程度は信用できるし……」
不安そうな少女の瞳。
ここに来るまでに多くの事務所に断られたのは想像出来た。
このツウィッタウンでは、一歩間違えば厄介事しかない。
そんな環境で、正体不明な存在と争うことになるかもしれないなど、藪蛇にもほどがあるのだ。
それにメリットが薄そうな子供の依頼を受けるはずもない。
……余程の物好きか、悪意にまみれた者でもない限り。
「それで、具体的に何をすればいいんだ?」
「……え?」
サイシャの意外そうな声と表情に、御景は肩を竦めた。
「おいおい、依頼を受けて欲しかったんだろ」
「受けてくれるんですか?」
「……
少女の顔に笑顔が浮かぶ。
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうに頭を下げるサイシャ。
「まあ、それとさっき言っていたが依頼料は払えるみたいだからというのもある。 ワイも慈善団体というわけじゃないし」
その言葉を聞いて彼女は置いていたバッグから、一枚の紙切れを取り出した。
「これに必要な額を書いてください」
躊躇いなく渡してきたそれは一枚の小切手だった。
「…………」
「どうかなさいましたか?」
手渡された小切手と、ニコニコと笑う少女の顔を見比べて、胡散臭さが加速していった。
とりあえず、ここの珈琲代くらいは書いておこう。
そう思った御景は面倒な思考を脳の片隅に追いやった。