人にとって順序は別かもしれないが、ワイ的に邪魔をされると許せないことは3つある。
一つ、書類作成中
二つ、瞑想中
三つ、睡眠中
特に三つ目はアラームより前だと許せなくなる。
何せ人間の三大欲求なのだからしょうがないとは思うし、察しては欲しい。
だから、意味もない起こし方をした目の前の男にはとてつもない殺意が沸くのもしょうがないはずなのだ。
「なんだよ、俺の顔になにか付いてるか?」
別に理由があって出来るだけ優しく起こされるのは構わないのだが、借金取りばりのノックやチャイム連打は今の事情的にも勘違いする人がいるかもしれない。
いや、殆ど入居者がいないからその心配もなかったな。
「朝っぱらから何の用だ?」
ワイは目覚めきれてない状態を解消するために珈琲をいれようしていた。
「朝ってもう昼前だぞ? あ、俺にも珈琲頼むぜ」
近くにある毒でも盛ってやろうかと思ったがあえて塩だけで済ましておいた。
ほらよ、とカップを間違えないようにべネットに珈琲を渡すと、自分の分を飲んだ。
「おう、すまえねぇな」
礼を言うものの珈琲には手は付けずに話し出した彼に内心舌打ちしつつ、話を聞くことにした。
「昨日のことに関しては改めて礼を言うぜ、あの医者が言うにはお前の応急措置が良かったらしい」
「あとは見つけるのが比較的早かったってことと、お前が自分で止血しようと試みたのもあるな」
自分のカップを傾けながら昨晩の状況を思い出す。
「それで? アンタのようなやつ人がお礼をいうだけのために訪れるとは考えられないのだが?」
その追及にべネットは肩を竦めると、やっぱりそうなるか? と呟いた。
「でも、まあ、なんだ……感謝をしてるのは本当なんだぜ?」
ワイはその言葉が嘘ではないことはすぐにわかった。
「疑ってないはないから、本題に入れ」
「おう、実はある組織から狙われててよ」
「いきなり過ぎる」
「数ヶ月前に俺はある男に──」
「長そうだな」
「……ある日、ある男にある物を、ある組織に渡されるように言われたある」
「なるほど」
確かにわかりやすい。
「お前、俺で遊んでないか?」
「そんなことないある。 情報というのは的確に手短に第三者に伝えることが重要あるよ」
べネットの額の血管ががピクピク動くが気にせず話を進める。
「それで、物を渡すはずの組織とは別の組織に命を狙われてると?」
「まあ、そんなところだな」
その軽い返事にはまるで命を軽い何かと勘違いさせるかもしれない。
だが、ワイを含めたやつらにもそういうのはゴロゴロいるものだ。
「それで昨日は組織の刺客とやらにやられたのか?」
「いや、それが違うんだよ、あの手の奴らって普通は群れで行動するから撒いたら分かるんだけどよ、昨日の奴はなんというか──TSUZIGI?」
辻斬り? 突拍子もない単語に反応に困るが昨日の状況を思い出した。
「なんで、辻斬りだったんだ?」
「いや、通り魔とかってより、そんなイメージあったんだよ。 得物はKATANAだったしよ、あれだけの腕前なら殺し損ねるなんてあるかね?」
刀を使い、新月の人通りが少ない場所による犯行。
「あー、少し待ってくれ」
昨日読んでいた、胡散臭い記事を机の上に広げる。
「……あったな」
文字の海を指で追いかけて数秒後にそれらしい単語に辿り着く。
【怪人、辻斬り】
「名前まんまじゃねえか!?」
べネットのもっともらしい突っ込みには同意するが、襲われた状況や何やらを照らし合わせるとこれが合致するのだ。
「組織じゃない奴から襲われ、早期発見で助かること不幸なのか幸運なのか、改めてわからんなアンタって人は……」
「うるせぇ」
とりあえず、確証もない都市伝説と思いきやこれは今後役に立つ資料になるこもしれないな……。
「まあ、少しはHOTしたぜ、コーヒーは少し冷めてるけどよ」
ようやく珈琲に手を伸ばしたべネットを見て何かを忘れていることに気づく。
数秒後、中年男の口に含まれた茶色の液体が机の上の記事に撒き散らされるまで忘れられていた塩入り珈琲の存在。
互いが目の前の惨状に沈黙。
そして、最初に出た言葉は同時だった。
「何やってんだ、テメェ!?」
二人の怒声が重なりあった瞬間に時刻は昼を回っていた。