ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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ファイル、??? 【夜会】

 その建物は明らかに古かった。

 壁には(ひび)が入り、蔦が絡まっている教会のような建造物だ。

 しかし、長い間放置されているわけでもないようで庭先には手を加えられており、管理は行き届いているようにも見える。

 古びた木製の扉を開ければ、石造りの空間が広がっており、長椅子が左右に十二列に並べられて配置されていた。

 中央には青紫の絨毯が最前列の先に配置された教壇まで続いており、その近くには古びた長方形の木箱が横たわっている。

 その背後を彩るステンドグラスに月光が差し込み、その装飾に描かれた女性の姿と、傍らにいる奇怪な生物を照らしていた。

 その講堂内には人影が二つ。

「良い加減にしてほしいものだな」

 心底ウンザリしたような男の声。

 その風貌は汚れ一つない純白な背広に、金髪の髪を靡かせている整った顔。 しかし、その右半分には醜く爛れた老人の面が填められており、腰には禍々しい鎖の束がぶら下がっていた。

「私も貴様らのようなやつらと顔を合わせるのはこれが最後であってほしいものだ」

 それを返す女の声は蛇蝎(だかつ)の如くに嫌うようなものであるが、その主は見当たらない。

「まったく”喧嘩する仲は畜生も腹を下す”とはよく言ったものであり、(それがし)も納得と疑問を浮かばずにはいられない」

 その人物は縦縞のスーツを着て、首から上は白い包帯に覆われ、その生地には不規則な六つの目が描かれていた。

「……君のその(ことわざ)は相変わらず下品だな」

「しかも間違えているぞ」

「なんと!? 先日、夜母(やぼ)様にお話してしまったいうのにか!?」

 一人その場で崩れ落ちるようにオイオイと泣き出す男、アイザック=スタンスターン。

「本当に馬鹿ばかりだな」

「それは君自身も入っていると思っていいのか?」

「殺すぞ、糞魔羅野郎」

 荒げた声の主は姿はないが、気配は確かに存在した。 

 青年がアイザックに近寄り、片膝をついて視線を落とす。

 片手を泣きわめく男の肩に置いて、優しく語り掛けた。

「……君こそ、いい加減泣き止め。 夜母(やも)様はそんなことは気になさらない。 あの方は大いなる野生の……我々の未来の希望なのだ」

「は? 何言ってんのか某よくわからないのですがそれは」

 キョトンとした声音のアイザックに、青年は続けて話す。

「いいかい、夜母(やも)様はこれより先の人類を導いてくれるお方なんだ。 そんな方が君みたいな下賤(げせん)なプランクトン風情の言葉なんて気にするわけなだろう?」

「あれ、慰めてもらうどころか、さり気無く(それがし)馬鹿にされてない? というかこの人頭大丈夫?」

「安心しろ、貴様も似たようなものだ」

 辛辣な女の声が講堂内で響いた。

 

 

そうしばらくして、残りのメンバーも集まり速やかに"夜会"が始まった。

「それで本日の議題だが……ん、どうした、”右小指”?」

 教壇の前に立ち、集まった者たちを青年──"右人差し指"の【アインツェフ】の視線は右最前列の椅子に座る少女を捉えている。

「いえ、あの"右薬指"さんの顔があらぬ方向を向いているのですが……」

 申し訳ないように小さく手を挙げていた彼女の視線を辿れば、左最前列に項垂れるような姿勢で腰掛けるアイザックの姿が映る。

 身体は正面を向いているが、目が描かれた顔の向きが天井を眺めていると不気味な状態であるが。

「…………」

「心配することはない。 どうせ、死んではないからな」

「はあ……」

 呆気に取れながらも少女は意識を会議に戻す。

「”右親指”……”沈黙の御人”は欠席か」

 アインツェフはその場に出席している自身を含めた、四人……正確には三人と一つを把握。

「まあ、彼は"右小指"が新規メンバーになって……いや、指輪が欠けているから正式ではないか……それでも就任式には出席しているから文句はないつもりだ」

「……私としてはこの夜会に無粋な姿で出席する君に不満があるのだが”右中指”?」

「おい、言葉には気を付けろ、”右人差し指”。 これは私にとっては正装なのだ」

 声の主は相変わらずに見当たらない。

 代わりに教壇近くに配置されていた長方形の木箱が壁に立てかけられていた。

「どこの世界に木箱に入ってくるものを正装と捉える文化があるのだ」

 そうこの場に集いし者……物。

 木箱の正体は"右中指"の【ラランフェイ】であった。

「我々、夜母(よぼ)の一派は貴様らのような者たちに素肌を見せるのは好まないの知っているだろうに。それにこれは棺だ。 ただの木箱などでは断じてない!」

「……戒律や認識の差でこうなるとは誰が予想しようか」

「……棺なんだ、あれ」

 ラランフェイが拾わない程度の音量で呟く二人。

 ゴホンと咳払いを一つして、アインツェフが続ける。

「それで本日の議題だが……今後の方針について、だ」

「いつも通りに各自派閥の傾向に則ったものではいけないのか?」

 ラランフェイの疑問を少女が首を横に振る。

「やはり、最近の怪人や別組織の動きも気になりますし、そろそろの動くべき時が来たということでしょう」

「鋭いな。 流石、古参派の夜母(よるのはは)の一派に選ばれた時期指徒(しと)というだけはある」

 アインツェフは淡々と言葉を紡ぎ、自身の意見を述べる。

「私個人としても、動くべき時が来たと思う。 "左手"の者共は随分前から派手にやってはいたこともあって、我々は比較的に穏便に済ませてきたが、教祖の号令が掛かるというこの時こそ我らが────」

「く、くく」

 笑い声、にも聞こえなくはない音。

 それは顔の向きが百八十度、反対へと向けられていたアイザックから聞こえていた。

「教……祖? 随分と、おかしいことを言う」

「……文句でもあるのか?」

 俯いていた影が立ち上がる。

 顔へ巻かれていた包帯の向きは歪んではいるが六つの目はアインツェフを捉えていた。

「我々は一体いつから、教祖"様"の命令で動くようになったのだ?」

「……少なくとも教団の発展に関しては功績者に他あるまい」

「そのせいか、訳も分からぬ俗物共が新たな派閥を作り、我らが神聖なる存在を穢す結果になっていたとしてもか?」

「おい、それくらいにしておけ。 少なくとも私たちに組織としての決定権はない。 所詮は”指”止まりだからな」

 ラランフェイの言葉でアイザックも口を閉ざした。

「今宵、参加していない”右親指”も恐らくは教祖の命で動いているのだろう」

「……どんな手を使ったかは知らんがやはり奴は糞蛞蝓以下の存在であることには違いない」

「まあ、あの馬鹿もこの組織に入っているだけあって色々と覚悟と考えはあるだろうさ」

「…………」

 教壇から身を離して、背後のステンドグラスを見上げるアインツェフ。

 揺れる鎖の音が寂しげに響いて、彼は片膝をついて両手を組んだ。

「どうか、大いなる夜母(やも)様……我々をお導きください」

 それに続くように各々が祈りを捧げる。

 

 

「そう……我々、指徒は夜母(やぼ)様にこそ忠誠を誓う存在。 断じて、狂信者に捧げる者ではない」

 アイザックの誓いと祈りが講堂内に木霊していった。

 

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