「それで、ナッチーの学生時代はどんな感じだったんだ?」
フランクリンの昼食も兼ねて滞在が決定したファミレスで
対面に座っていたメルティは俺の隣に来て、兼掘とフランクリンは対面で並んで座っている。
「俺の? 普通だよ、どこにでもいる真面目なやつ」
「えー、嘘だぁ。 アンタが真面目ならオレとか超が付く真面目じゃん」
ケラケラと喉で笑う兼掘の横で、フランクリンはフンっと鼻で笑う。
「俺はワルだったぜ! それもそこそこのな」
そういうのは自慢することではないと思うが、まあ言わせておけばいいだろう。
「マ? オレお前のダチ辞めるわ、つかメルティちゃんに近づくなよ」
「だぁあ、お前のその口調の方がよっぽど悪影響だわ! 将来そんな話方したら絶対ベネットに殺されるぞ!?」
「んなこと言われてもすぐには直せねえというか、ベネットさんに殺されるならある意味本望だしな?」
「お前ら、子供の前でそういう単語出す方がいけねえと思うが」
俺の一言で二人が言葉を詰まらせるとは中々に笑えるが、メルティからすれば面白いとは言えない状況だろう。
「いいんです、私だって何が良くないか、悪いかくらい選んで学べると思ってますし、気にせず話してください」
小学上級生でここまでの考えもしているとなるとこれもまた怖さもある。
「逆に私が知らないお父さんのお話が聞けると嬉しいかも、なんて思ったりもしちゃったり……」
複雑な環境が垣間見れた気もしたが、誰も触れずに自然と会話弾ませていった。
俺は何度も聞かされた兼掘によるベネットに関する武勇伝、恐らく誇張もあり。
フランクリンは某事務所に関わった際のエピソードをチラホラと。
メルティは最近の近況について、勉強に関してや学友の関係。
俺は……殆ど振られた話を返していくだけだった。
「そういえば、お前らの言っていた力って結局どんなやつなんだ?」
話すネタが無くなりかけた時、唐突なフランクリンの問いに俺は唸った。
「口では説明しずらいな。 何せ、俺たちにも説明は付かない部分が多い」
兼掘が引き継ぐ形で続ける。
「それはあるよなぁ、単純なものから複雑なものまでその力が発動するまでの条件みたいなものがあったりするしなぁ」
こんな話を堂々としていいのかって?
気にする必要はない。
例え聞かれたところで信じる者はそういないし、この街ではこういう話をする奴は結構いるというのを俺は知っている。
「少し前まで俺だってにわかに信じられんかったが、実物が目の前に居るんじゃなぁ」
そう言うとフランクリンは冷えたフライドポテトの束を口に放り込んだ。
「まあ、こんなのあったって碌なことにはならんがな」
俺の言葉にメルティと兼掘の表情に、一瞬影が落ちる。
「ああ、それと安心してくれよ、このことは誰にも話してねえし、話すつもりもねえ…………どうせこんな厨二病染みた話なんて誰も信じねえだろうし」
奴はボソボソになったポテトを頬張りながらダイエットコーラを流し込んだ。
「あー、そういえば思い出したんだが、みんなは”キミナミ”の最新刊読んだ?」
気まずい空気の中、急な話題転換。
「んだよ急に、まあ読んでるけど」
「私も読んでます、サイガ先生が描く世界観って大好きです」
兼掘が話題に挙げたのは通称”キミナミ”と呼ばれている漫画作品のことだ。
正式名称は『君の涙は宝石のように』で、作者は【
あまりよく知らないが、特異体質の少女と普通の少年の出会いを始まりとし、少女を狙う謎の組織との対決を描いた物語だ。
タイトルにあるように宝石を題材にした魅力的なキャラクターが多く、よくは知らないが個人的に推しているのは準ヒロインに位置する『ペリドット』だが、巷では緑髪ということで負けヒロイン……として扱いを受けている。
ヒロインキャラとしての登場は五番目だが、それはあくまで登場順であってレギュラー枠としてならばほぼ序盤で確定しているし、登場回数も下手をすればメインヒロインの『真珠』より多い可能性もありえる。
”キミナミ”についてはよく知らないが、とにかく巷での推しの扱いには業を煮やしている俺であった。
「話もいいけど、キャラデザとか設定が普通に良いからなぁ。 女の子から大きいお友達層までカバー出来てるのも凄いよなぁ」
「だなぁ、斎賀センセー様様ってやつだな。 ちなみに俺はラピス推しな」
ラピスは正式には『ラピス・ラズリ』というキャラクターで登場順は六番目で登場数的には準レギュラーというところだが、彼女はヒロインの中でも重い過去を持つクールキャラ……なのだが一度でも心を開けばあっという間にデレデレになるタイプの
一部の二次創作では彼女を題材にしたいい意味での二コマ即堕ちで溢れているとか、いないとか……よく知らないが。
「はぇー流石フランクリン、良いセンスしてんね。 オレは断然リリィちゃんだけど」
リリィは『金剛リリィ』のことで準ヒロインの一人でもある。
金剛とあるようにダイヤモンドを象徴としているキャラで色々と根強い人気があり、キャラの濃さや安定した活躍などもあり人気投票でも常に上位に居座っている。
ちなみにペリドットは常に最下位か、ブービーを争いにいるが……これは彼女に魅力がないのではなく、他のキャラが強すぎるだけなのだ。
「やっぱり、お前は王道をいくか」
「私は……」
流れでメルティも推しを言う流れになるが、何故か言葉を止めた。
「あー、確かメルティちゃん推しってカイトだっけ?」
「いいじゃん、カッコいいよね……ほら、見た目とか」
顔を見合わせて、うんうんと頷く男二人。
カイトこと、『シャッタカイト』は黙っていればイケメンの男装の美女……なのだが、喋ったり行動しようとすると裏目に出るという残念属性を持っている。
設定的には相当に強いはず何に最近ではその設定はどこへやら、噛ませ犬と成り果てているなど、ネタキャラ扱いされることも多い。
その見た目で惚れた人も、実態を見れば離れていくものも少なくないが逆に、私が護ってあげないと……庇護欲を擽られたり、ギャップ萌えするという界隈も存在するらしい。まあ、よく知らないが。
ちなみに、彼女の名前から”キミナミ”にわかファンへの蔑称として『シッタカイト』と呼ばれているそうだ。
「んで、ナッチーの推しって誰よ?」
やはりか。
だが、俺の回答など決まっていた。
「兼掘、前置きはいいから早く本題へ移れ」
なにやらニヤニヤしている兼掘を急かすと、バッグから何かを取り出す。
「実はちょいと訳あって、こんなのが手に入りましてよぉ」
それは”キミナミ”の最新刊を含めた四冊だ。
「おいおい、見るからに何の変哲でもねえ単行本広げてどうするんだ? ファン同士これ順番に読んでいこうってやつか」
「まぁまぁ、とりあえずこれでも読んでみろよ」
ニヤニヤと笑いながら、フランクリンに一冊を押し付け、メルティにも一冊渡す。
「特装版ってわけでもねえし、いったいなんだって──ふぁ!!??」
頁を捲って思わず声を出した巨漢に、店内の視線が向けられる。
隣を見れば、本を開いたままメルティは固まっていた。
俺はその開いてある箇所を覗き見ると、表紙を開いて現る白紙の見返しに何やら書かれているのが見える。
「お前……これって」
汗が頬を伝う。
「御察しの通り」
兼掘は今日一番のニヤニヤした顔と共に単行本を一冊手渡してきた。
内心震える手を押さえてそれを受け取った。
思った通り見返しの場所には、黒いペンで斎賀鱗央の名前と、俺の名前が刻まれている。
「本人の直筆サインだ。 オレのこの目でしっかりと見たからな、安心しろ」
自身の分のサインを見せながら、奴はそう言った。