ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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ファイル1‐10

 しばらくして、電車は停車。

 アナウンスは目的地のイエダ村であることを教えてくれた。

「……」

 私たち二人に遅れて、隣のカップルも立ち上がった。

 どうやら同じ駅で降りるらしく、私たちの後に続く。

 そのまま、車掌に切符を見せて降りるところに来たところで、前を歩くアイザック殿から声が掛かる。

「レディファーストだ」

 なんの意味もないが、彼なりの戒律だの拘りなどがあるのだろうと、思考を停止させて、私は車両を降りた。

 次に降りてきたのはどうやらカップルの女性で、男性の後ろを歩いていたはずの彼女が先に降りたということは彼も謎の拘りでも持ち合わせているのだろうか?

 その次はカップルの片割れであった。

「もー、遅いぞー!」

 僅か十数秒ほどの別れでもこれとは、中々なものなのではないか?

 いや、私の基準ではそうでも世間ではむしろ普通なのか?

 腕をブンブンと振り回して、文句を言う彼女に片手を上げて制止する男性。

「大袈裟だ、それに公然の前で大声も出すな」

 彼女は注意には反応を示さずに、そのまま彼の右腕に抱き着いた。

「こんな田舎に人を連れてきておいてさぁ~、それはないよねぇ」

 豊満な二つの山が腕に合わせて形を変える。

 私は思わずゴクリと息を呑んでいた。

 衣服の上からでもわかる大きさはきっと男性には毒であるというのは容易に想像がつき、私は無意識かすら定かではないが、掌が自身の胸部に伸びているのに気付く。

 あるはずの場所に感触がない。

 目の前の山と比べて空振る我が両手を見下ろしていると、前から視線を感じる。

 私の視線と彼女の視線が交差。

 その視線が徐々に下へ向かい、その表情が勝ち誇ったものになった。

 その時に私の表情が平静を保てていたかはわからない。

 いったーい! という声が遠くに行きかけた私の意識を戻した。

「ちょっと! ナニするのさ!?」

 わざとらしく両手で頭頂部を摩る女性が抗議するのは先程まで抱き着いていた男。

「無いのはお前の常識と品性だ。 特に同性に対するものがだ」

 男性はこちらを見て、頭を下げる。

 地団駄を踏みながら何やら抗議するがそれを相手することなく、男はやれやれと頭を振りながら、溜息を吐く。

 そのまま、彼女の手を引いてカップルは駅から出て行った。

 何か置いてきぼりされたような空気が包む中で、ようやくアイザック殿が下車する。

「おまたせした……ん? どうかしたのか、サイシャ殿?」

 こちらの気配を察したのだろうという問いに私は言葉を濁した。

「……それより随分と遅かったですね」

「ああ、それはだね……っと」

 懐から一冊の本を取り出す。

「某としたことが愛読本を忘れてしまうとは、危ない所だったよ」

「はぁ?」

 もしかして……。

「もしかして、先程のレディ・ファーストって」

 拳を作って、自身の頭にコツンと叩くアイザック。

「てへぺろ」

 私の拳が彼の腹部を抉った。

 

 

──────────────

 

 

 駅から出ると目の前には平和的な田園風景と、空から降り注ぐ日差しが出迎えてくれた。

「相変わらず……というには些か早急であるか」

 辺りを見渡すアイザックには、どこかまだ不機嫌なサイシャ。

 時刻は昼過ぎ頃で太陽はまだ高く、立っているだけで少女の顔には汗が噴き出していた。

 そんな中で、スーツで決めているアイザックの顔は涼しいものであり、しばらくして遠くへ向けていた視線を隣のサイシャへと戻した。

「恐らくだが、我々が向かうべき場所はあちらだ」

 そう言って指を差したのは舗装された車道である。

 他にも道が二つあるが、どうも迷わずに済みそうであった。

「ところでサイシャ殿」

 どこか優し気な声音。

 彼女にはそれが嫌な予感でしかないことがすぐに分かった。

「どうしましたか?」

「某はどうしても外せない用があるので、ここは一度解散して自由行動とは如何かな?」

 サイシャは意外にまともな提案に虚を衝かれた。

「どうかな? 指徒しての活動は明日からで本日はあくまで移動時間だ。 それに某は折角の休日を潰されているわけで、そこ踏まえて少しは融通を利かせていただいても構うまいな?」

 そこで少し思考した後にサイシャは、それを肯定した。

「ええ、構わないと思いますよ。 私も貴方を拘束する気はありませんし、それ以上に出来ないと思うので……宿泊場所で合流するということでよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないとも。 それでは挨拶だ。 では、また会う時まで御機嫌ようサイシャ殿」

 恒例の挨拶を済ませると、くるりと少女に背を向けて歩き出した。

 サイシャも示された舗装道路を進路に捉えて歩き出す。

 ここまで来れば何の変哲もないだろうが、敢えて奇妙な点を挙げるとすれば、スーツ姿の男が向こうのが荒れた山道であるということだろうか……。

 

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