ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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ファイル番外:とある警官

 ツウィッタウン、第四地区の雑貨ビルが並ぶ通りには、夜だというのに灯りが絶えていた。

「妙に静かだな」

 遠くに聞こえるサイレン音がなければ、この世の住人が自分だけだと疑ってしまいそうだ。

 そういえば、こちらへ向かう途中に擦れ違いざまにパトカーや消防車などが多く見られたが近くで事件でもあったのだろうか……。

 警戒しながら夜道を歩く男は、警察官の制服を身に着けており、まだ汚れが殆どない綺麗なものであり、彼が配属されて日が浅いことを想像するのは難しくない。

 

 

 

 

 事の始まりは普段なら無線だけで済ませてくる上司から、珍しくオフィスに呼び出しを受けたことだった。

 いつも偉そうにデスクにふんぞり返る姿とは打って変わり、どこか怯えたように震えて、額には珠のような汗が浮かばせていた小太りの中年男の姿が記憶に新しい。

 同時に、それを見て噴き出しそうになったことも思い出し、その場で口角が自然に上がってしまう。

 上司からは早い話、指定の時刻にとある場所に向かってほしいとことで、要するに言伝を行うものが欲しいということだった。

 なんでも、本来頼む予定の者がいたが急遽来れなくなったとのことなのだが、それが新人に回されてくるものなのか……上司の様子から見ても只事ではないというのは明らかである。

 こちらが思案に耽っていると、座っている中年男がデスクの上置いていたそれをこちら側に滑らせてきた。

 それは指定の場所が書かれたメモ書きと、盛り上がった茶封筒。

 答えを聞くこともなく、上司は早口でいくつかの注意事項らしきものを捲し立てた。

 ・その茶封筒の中は好きに使ってもいい

 ・相手には決して失礼のないように

 ・当然、今回のことは他言無用

 ・挨拶は決して欠かさないように

 

 という風に他にもいくつか言われたが、大したことはないだろうと踏んでいる。

 ここまで来れば汚職の片棒を担いだのだと思うが、やはりそれでは引っかかってしまい、釈然とはしない。

 あの怯えた様子は汚職などというよりも、脅迫などの類ではないかと頭を過るが、とにかく今は時刻に従って行動することを優先させた。

 

 一見無人に見えても、キチンと人がいた痕跡は残っており、それもいなくなってからそう長くない時間と想像できた。

 窓から覗ける範囲で見ても、荒らされたというよりは急いで荷造りしたような印象を受ける。

 それも何かから逃げるように。

「……」

 自分が思っている以上にことは重大なのではないか?

 わざわざ、住民が逃げ出すようなことがここで起きていることなのだろう……。

 男の歩みは早足になっていた。

 一刻もその住所へと向かうために。

 

 

 

 結果として目的の場所にはたどり着いたとは思う。

 しかし、目の前に広がるのは廃墟であり、ほとんど焼け落ちた残骸ばかりが広がっていた。

 付近には安全を配慮して用意されたであろうフェンスを跨いで辺りを見てみるも、それらしいものはない。

 指定された場所を間違えたか……?

 立ち尽くす警官は再び辺りを見渡すも、他にそれらしいものがないか探す。

 だが、指定された場所は間違いなく合っていた。

 脳内で疑問符が反復する。

 騙された、所謂ドッキリなのか──むしろ、ここまでくるとそれが濃厚であった。

 深い溜息と共に、住所の書かれたメモ書きをクシャリと握りつぶすと、瓦礫の中に頬り込もうと振りかぶる。

 

「いやぁ、感心しないなぁ」

 その声は背後から聞こえた。

 思わず振り向きざまに腰に提げていたホルスターから拳銃を引き抜いて、構える。

 西部劇のカウボーイに憧れて磨いた早抜きは意外な形で役にたった瞬間であった。

 しかし、警官は視線の先には奇妙なものが映るそれを見て、思わずたじろぐ。

 縦縞のスーツに身を包んで、包帯で頭を覆い、白い布地に黒い目の模様が不規則に六つある人物がフェンスに腰掛けていた。

 その人物の視線は警官には向けられておらずに、手元の透明の容器にある。

 中身は薄茶色の液体の下に沈殿する黒い球体があり、その人物は鼻唄混じりにストローを刺し込んでいるところであった。

「う、動くな!」

 実弾が入った凶器を人に向けるのは当然初めてで、自分の指に人の命が乗る可能性があるということを警官は自覚していた。

 だが、それに反してその奇怪な人物は気にした様子はなく、手元のドリンクを楽しもうとしている。

「止まってあげたいのは山々なんですが、折角買ってきたんだからすぐに楽しみたいというの欲が優っているのですまないが待っていてくれ」

 声音からして人物は男であるのは間違いなかった。

 それも不審者を通り越して、狂人染みたことを言っている。

「命とタピオカミルクティー、どっちが大切なんだ!?」

 最終通告とばかりに声を振り絞るも、男は我関さずという様子である。

「某は何もしていないのだから、凶器を振り回しているそちらに非があると考えはないので?」

 もぞもぞと、男が包帯の位置を調整する。

 そして、その男の言葉に警官も冷静さを僅かに取り戻し、緊張の糸を和らげるために生唾を一度呑み込んで、銃口を下げた。

「理解ある人物で良かったよ、あのまま行けば恐らく君は死んでいただろうからね」 

 乾杯、と容器を掲げる男はそのままストローを咥えた。

 さり気無く、恐ろしいことを言われたことに冷や汗が流れるも、気の抜けるようなズゾゾゾゾゾッ、という音のせいで何とも言えない顔になる。

「んー、不味くはないが正直並ぶほどじゃないな……」

 そう言いながら再び彼はストローを吸い上げる。

 それが数分間続いた。

 

 

「おおっと、本日オフということに気を抜いて、某としたことが大切なことを忘れていた ! 某の名前はアイザック=スタンスターン!! 以後お見知りおき」

 挨拶をした本人からすれば大切なことであったとしても、警官の中で変質者の名前が更新されただけであった。

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