夜が迫るツウィッタウンの街を女が歩く。
長い金髪と整った顔立ち、そして女性にしては長身と雑誌から抜き出てきたような雰囲気の女である。
ただ、服装には違和感があった。
首から下に体型が分からないほど大きく纏った純白の外套が靡けば、赤い模様が覗かせ、足元の最高級の革靴はテラテラと濡れたような光沢に街の光を宿していた。
しかし、この街では奇妙な信仰家か、コスプレイヤー程度にも見えるその姿は誰の目も引いていない。
薄く開かれた女の青く氷のような瞳が、街を眺めた。
夜の街角を軋るタイヤの音と怒鳴り声。
交通事故になりかけた乗用車同士の運転手が窓から怒声で声を上げている。
「この街は良い街ですね」
女の爽やかな声音がそう呟き、ですが、と続いた。
「もっといい街にする必要があります」
心底楽しそうに女の声は弾ませながら、女は人並みの中を歩いて行く。
颯爽と進んでいく姿は自信に満ちていた。
彼女が進むと、道を行く人々が減っていき、路地を曲がると、人通りは完全に消えていた。
両側にビルが並ぶが、商店などは存在せず、街灯が明減するばかりの薄暗い通りが広がっている。
街路に通りかかった歩行者たちも、慌てて来た道を引き返し、車すら女が進む通りを迂回していく。
この通りだけ他の喧騒から隔絶されていた。
女は無人の通りの中央を進む。
革靴がアスファルトの上で止まり、左を向いた。
前方には灰色のビルが立ち、五階立ての建造物の足下は周囲を拒絶するかのように壁に囲まれ、正面には大層な門まで設置されている。
威圧するような鋼鉄の門扉の右手には【ラーハノッシ興業 第6支社】という控えめな看板があった。
門の左右に置かれた簡易椅子には、それぞれ男が座っている。
左には遮光眼鏡の男が座し、手斧を刺青が描かれた右手で器用に回転させていた。
右には禿頭の男が座り、鞘に入っている短刀を脇に置いている。
間に挟んだ机に広げて、札遊びをしていた二人組の手が止まった。
二人の視線は門の前方、道路に立つ奇妙な女を眺める。
ブカブカの外套に包まれて、全貌は分からないが、顔立ちや佇まいから漂う優雅さや優美さは荒涼した街並みに反していた。
優雅な女は門扉へ歩みを進めると、門番二人の視線が険しさを増していく。
即座に禿頭の男が立ちあがり、短刀を構え、遮光眼鏡の男は手斧を肩に担いでいた。
「お嬢さん、なんか用か?」
禿頭の男は敵意寸前の声音で続けた。
「観光客なら知らねえかもしれねえが、このビルは観光地じゃねえ。 ラーハノッシ一家の支社でこえぇお兄さんたちがいるんだぜ」
「それか”売り”がやりたいんなら、他あたりな」
遮光眼鏡の男が腰を浮かして続ける。
「悪いことは言わない。 回れ右して帰るんだ」
女はその歩みを止めない。
「テメエ、どこの組織のもんだ!」
「刺客?」
外套の女は端正な顔に苦笑を浮かべる。
「そのような無粋な職に就くわけありませんよ」
広げた女の手は無手。
翻った外套の下には白の基調に赤黒い模様が並ぶ服装で、革靴の表面も濡れていた。
それらの正体は変色した返り血であった。
女は両腰に提げていた金属棒を瞬く間に連結させると、それらは身の丈ほどになる。
怒声と共に禿頭の男は、敵意に切り替えて突進。
それに続くように遮光眼鏡の男も斧を振りかぶって走り出す。
その様子を見て、女の端正な顔に収まる唇が歪む。
背中に棒を回し、軽い金属音。
眼前に男たちの姿が迫っても女は態度を変えなかった。
瞬間。
その間を突風が薙ぎ、轟音が鳴り響いたかとと思えば、迫っていた二つの影は全部で五つに分かたれ、地面に転がる。
男たちは何が起こったかわからないまま、絶命した。
路面に転がる男たちだった肉塊と、上から下へ振り抜いた体勢になっていた女の手には握られた金属棒の先には、血と肉片と脂肪に塗れながらも、輝きを失わない白銀の半月が生え、アスファルトを砕いていた。
顔に付着した血を右の掌で拭い、大鎌を振るい血糊を飛ばす。
鎌の刃に反射して映る自身の口元が、人工の光の下であっても、歪んだ半月の笑みになっていることにどこか女は満足気になっていた。
得物を構え直し、表情をいつもの優雅さに戻していく。
「それでは……」
後ろに何か布を引き摺るような音と気配が聞こえるも彼女は振り替えることなく、続ける。
「さあ、始めるとしましょう」
通りを爆音と悲鳴が吹き荒れた。