黒服たちから逃げるために路地裏へ身を隠した二人は息を切らしながら現状の整理をすることにした。
「クライアント様よ、これからどうするんだ?」
「お前が出ていって犠牲になれ」
「わぁお、名案。 ワイのも聞いとくか?」
ゴミ箱の影から外を伺う二人は声は小さいながら孕む殺意が飛び交う。
「……真面目な話。 今回は数が多いな」
べネットの舌打ち。 御景もまた舌打ち。
「二人仲良く捕まるってのも嫌だし、この中年と仲良いと思われるのも嫌だしな」
「なんだ、喧嘩してぇのか?」
御景はべネットを無視して、策を練ること数秒。
「真面目な話。 陽動作戦で行くのありかもな」
結局、長期戦こそ不利なのだ、なら速攻で勝負を決めるのが吉とも考えた。
「……そりゃあ、いいけど作戦は?」
「ワイは家に帰って、アンタが走るか、アンタが走ったら、ワイはホームインするかだな」
期待した俺が馬鹿だったよ、と御景を見ることなく返す。
「それか、二人同時に真逆の方向に走り出すとかどうだ?」
単純だが要は少しでも黒服を分散させることは可能だろう。
「捕まったらどうするんだ?」
当然の疑問に探偵は答えた。
「恨みっこなしで。 このまま二人とも捕まるのは癪だしな。 あと、アンタこういうギャンブル要素好きそうだし」
その答えに満足したのか、べネットがニタリと笑みを浮かべる。
「いいぜぇ、ならやってやろうじゃねぇか」
作戦は決まったあとはタイミングを合わせるだけだ──
「ワイの腕時計を30秒にセット。 それと同時に走り出す。 OK?」
「お前が『右』で、俺が『左』だな。 OK?」
「OK、じゃあ息整えろよ、恨みっこなしだ」
「……お前との時間楽しかったぜ」
「……ワイもだよ」
それを言うと二人は呼吸を整える。 全身の筋肉を緊張させる。 そう、ここで失敗すれば意味がなくなるのだ。
3秒前、目の前に意識を向ける。
2秒前、自分が進むべきルートを脳内に描く。
1秒前、足の筋肉に力を注ぐ。
0。 アラームがなると同時に二人は路地裏から飛び出した。
その走り出し、加速は目を見張るものがあるものだが欠点があった。
二人とも『同じ』方向へ走り出したことだ。
「はぁ!?」
並走する二人は驚愕の声が上がる。
「お前なんで、こっち来るんだよ!?」
「アンタこそなんで、『右』に来てたんだよ!?」
「はぁ? こっちは左だろうが!?」
悲しいことに二人には認識の差があった。
御景は相手から見た方向。 べネットは自分から見た方向。
ベタではあるが致命的なミスだ。
「もういい、このまま走り抜けるぞ!!」
「言われなくても!!」
幸いにも二人が選んだほうは黒服たちが少ないルートであったために遭遇することなく、無事駅前に到着。
交通機関を利用する人の波に乗じて、コインロッカー前にもついた。
「……それで……どのロッカーなんだ?」
「…………【269】だ」
ぜえぜえと肩で息をする男がロッカーを漁るとは何とも不審者ではあるが、気にしてられない。
べネットが懐から鍵を取りだし、お目当てのロッカーを開ける。
鍵の開閉音と開かれる瞬間、緊張が走ったが予想外のものがあった。
中にあったのはUSBカードと思わしきものと、メモが一つ。
メモにはまた【269】の数字とどこかのロゴのようなものが刻まれ、住所が記されていた。
「おい、これがお目当てのものか?」
「いや、そんなはずねえ……」
御景の問いにべネットも反応に困っている様子だった。
「まあ、少なくとも手掛かりはある。 事務所に戻って調べればいいだろう」
あぁ、と生返事のべネットを置いて歩きだす御景にも引っ掛かるものはあった。
「あの住所とロゴって確か……」
御景にとっても退けない状態となっていた。
「ターゲット、第一クリア。 どうしますか?」
様子を見ていた黒服の一人が誰かに連絡を取っていた。
連絡先である上司の指示を待つ。
「……はっ……はっ、ではそのように……失礼します」
通話先に見えないはずなのに御辞儀をペコペコしながら切るあたり彼の社畜精神が窺えた。
ふう、と一息着くとそのまま次の連絡先へプッシュ。
「ああ、俺だ……作戦は次に移行だ。 ああ、泳がせることにするらしい……皆今日は解散でいい。 俺は駅前にいるから頼む……ああ、それじゃ」
黒服も人間なのだ。 特にスーツ姿で追いかけっこは疲れるものだし、陽射しが強いと熱を持ってしょうがない。 中には熱中症で倒れるものもいる。
しかし、だからこそ仕事上がりの酒が染みるというものだ。
だから、お疲れ様──黒服。
最後は余計ってハッキリわかんだね