ミカベネ物語  ツウィッタウン事件簿   作:ミ景

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 あの黒服との追いかけっこから翌日の朝。

 二人は改めて、状況を把握すべく一度事務所に集まった。

 ベネットはガムを咀嚼しているようだが、御景は気にせず話を切り出す。

「昨日、どっかの誰かさんの言うこと信じて駅前まで走ったあの時間は何だったんですかねぇ」

「うるせえな、俺だってあれは誤算だったんだよ」

 皮肉に負けないとでも言うようにクチャクチャと相変わらずの咀嚼音をさせながら文句を垂れ流す中年の男を無視し、探偵は机の上にあるものを見やる。

 それは小型のデータ記録媒体と住所の書かれたメモ。 

 そして、メモに入ったロゴと謎の三桁の数字【269】。

 コインロッカーに入っていたものはたったこれだけ。 

「……さぁて、どうするか」

 頭の後ろに腕を組みながら、思考に耽るまったく手掛かりがないわけでもないがこれが罠でもないという保証はない。

 それよりも、ロッカーに辿り着いて以降からまるで黒服たちの姿を見かけなくなったことに違和感。

 というよりもあれほど執拗に追ってきた奴らが急に姿を現れなくなったのだ、感じるなというのが無理な話でもあるが。

「それで? お前はどうするんだ?」

 ベネットの問いに御景は手に取ったUSBを観察しながら、答えた。

「もちろん、やるさ」

 USBも持ったまま拳を握る。 その結んだ手の力は無意識に強くなっていった。

 

 

 話し合った結果、やはりこの住所を先に当たることにしたのだが……

 書かれていた住所は確かに実在はしていた。

 そこは【ロックキャットバンク】。 このツウィッタウンでも指折りで知られる銀行だ。

 別名、【虎の門】とも呼ばれている厳重なセキュリティーで知られる場所。

「慌てるな、まだここって確定したわけじゃ───」

 自身に言い聞かせ視線を動かした御景が言葉を止める。 気になって視線を追ったベネットは納得。

 手がかりとして見ていたロゴが銀行名の隣にデカデカと描かれていたからだ。

 思わず、項垂れる御景。

「……これなんて無理難題?」

「いや、銀行だろ? 忍び込めば……」

 軽く提案をするベネットを探偵は制す。

「無理だ、以前依頼でここのセキュリティーシステムに関して知る機会があったんだが──」

 ブルリッと思い出して身震いする探偵を見て察し。

「とりあえず、少しは進展した……そう捉えるしかねえだろ?」

 まあな、と返すと残り一つの手がかりであるUSBを調べるために二人はその場をあとにする。

 

 

 生憎、現在は事務所にパソコンがないため休憩も兼ねて二人はインターネットカフェに入っていた。

 ある程度手慣れた手つきで次々とデータを引き出していく探偵を他所に後ろの席で鼻唄混じりにナイフの手入れをするベネット。

 しかし、ある地点でピタッと御景の手が止まる。

 液晶画面に映し出されたのは入力する空欄と、要約すると『パスワードを入力してください』という文字の羅列。

 無論、ある程度こうなるのは予想は出来ていたし当然である。

「おい、ベネット! アンタに依頼した奴ってどんなのだ?」

 んー、と間延びした呑気な声音。

「どんなって言ってもな……あれだ、用心深い」

「そんな分りきったことじゃなくてだな、もっと個人的なのだ」

 少し考え込むが、彼はハッキリと答えた。

「わからん!」とそうキッパリ言いきられたら返す言葉は思い浮かばなかった。

「急に頼まれたし、お互い急いでたってのもあってだなぁ。 そいつ顔を隠してて良く覚えてねえんだ」

 ベネットの回想を流して、頭を抱える御景。

 経験からすればこの手のパスワードには回数が決まっている。

 そう、失敗が出来る回数がだ。 それもこの厳重さからすれば、一回でアウトなんてのも驚かない。

 恐らく、ベネットに依頼したのも足が付かないことを考えてかもしれないのだ。

「……やっぱり、プロに頼むしかない、か」

 しかし、御景は悩んだ。 彼の脳裏に思い浮かんだ人物とは少しだけ複雑な大人の事情というか、なんというのか。

 一言では言い合わらせない関係なのだ。

「ん? プロの俺を呼んだか?」

「お前じゃねえ、座ってろ」

 

 結局、殆ど前に進めず、二人はまた移動することにした。

 次なる場所は住宅街。 目的のアパートは事務所といい勝負のボロ──味わいを感じさせる。

 その前まで来ると探偵のいつも張り付いている営業スマイルが余計酷くなるのをベネットは見てとった。

「これから行くやつってどんな奴なんだ?」

 インターネットカフェでのお返しとは言わないがベネットの質問に御景は言葉を濁す。

「あー、あれだ。 昔の依頼での付き合い」

 ピクピクと頬が引き攣るのを見て察してそれ以上は追及しなかった。

 その人物が住んでるのは三階で、ドアにぶら提げてあるアヒルのプレートが印象的だ。

「ここか?」

 ベネットが聞くと、御景は言葉は発さず首を縦に振る。

 確認すると彼はドアスコープの死角に身を潜めた。

 咳ばらいを一つすると、呼び鈴を押す。

 少し待って返事がないため、ノックをしながら呼びかける。

「ファット───いや、フランクリン? "俺だ"、御景だ! 悪いが手を貸してほしいんだ」

 そうして、呼びかけること数分後、ドアの前で人の気配とガチャガチャと金属音が聞こえた。

 しかし、扉が開かないことに不審に思った御景はそっとドアノブに手を掛ける。

 扉は────開いた。 そのままゆっくり部屋に踏み入り、進んでいくとリビングに到着。

 悪臭と汚さで袖で鼻を覆う。 仕切られたカーテンと散乱するスナック菓子の袋や麦酒の空き缶。

 ゴミ屋敷とも呼べるその中でも異常に見えたのは中央に位置する巨大な液晶テレビの姿。

 画面には可愛らしい女の子が変身して戦う魔法少女もののアニメが映されていた。

「あ、このシリーズまだ続いていたのか……」

 少し懐かしい気持ちからか場違いの発言に気が緩む。

 その一瞬、何かが後ろに迫る気配を感じた。

 まるで熊のような巨躯をした黒人の男が得物を振りかざし、襲い掛かって来る。

 間一髪のところでそれを躱すが、すぐさま横薙ぎでぶん回された次の一撃も身を低めて回避。

 その一撃は壁に掛けてあった写真立てを見事に粉砕。

「がぁああああ!!」

 獣のような叫びで再び大きく振り上げたところで───静止。

 急に全身の力が抜けたようにこちらに倒れてきた巨漢から慌てて逃げる。

 ドスンッとアパート全体を揺らすんじゃないかという振動が足から伝わった。

「ったく、世話の焼ける探偵だぜ」

 巨漢の背後にいたベネットの右手にはどこから持ってきたのか、角材が握られていた。

「あ、ああ……感謝する」

「……素直に言われるのも調子狂うな。 ところでそいつが例の?」

 ベネットがつま先で巨漢を小突きながら聞く。

「そうだ、【フランクリン】……巷では【ファットマン】で通ってた有名な男だ」

 当の本人はノビているが、二人はこの男に頼るしかないと理解はしていたのだった。

 

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